血の轍 最新第88話なんなん?ネタバレを含む感想と考察。静子に対してこれまで抱えてきた気持ちをぶつける。

血の轍 8巻

第87話 なんなん?

第87話のおさらい

静一は森の中から聞こえるはずがない静子の声を聞き、森を恐怖が籠った視線で見つめていた。

静一の背後にいるしげるは、ママだ、と言って不気味な笑みを浮かべる。

静子の声が続けて聞こえてくることに心を乱される静一。

ここだよ、としげるは静一になったかのように静子を呼ぶ。

静一は静子の人影を見て、絶句していた。

自分を呼び続ける声に抗うように、静一は両腕で顔を覆って強く目を閉じる。
「…くるな……だまれ…!」

ママがよんでるよ、としげる。

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静一はこんなのうそだ、幻だと必死に拒否する。
「ママなんて知らない!! どうでもいい!! 僕はもう関係ない!!」

うそつき、としげるが静一に突っ込む。
「ママを頭の中で殺して、逃げられたつもりなん?」

静一は森の方を向き、両腕で顔を覆ったまましげるに訴えかける。
「僕の苦しみが…わかるかよ……っ!!」
両腕を解き勢いよく後ろを振り返ると、そこには静子が立っていた。

驚きのあまり、顔を引き攣らせる静一。

「…静一…何がそんなに、苦しいん?」
無表情で静一を見下ろす静子。

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静一は恐怖で言葉を失っていたが、苦しいよ、と口を開く。
そして言葉を出す度に、怒りと憎しみが言葉に籠り、語気が強くなっていく。
「僕を…!! 僕から僕を奪ったんだ…!! あなたは…!!」

「全部!! あなたの思い通りに生きてきた!!」

感情を剥き出しして訴えかける静一。
しかし静子は表情を変えずに冷たく静一を見下ろしている。

静一の苦しみを訴える言葉は、いつしか叫びへと変わっていた。

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第88話 なんなん?

自分の気持ちを吐き出す

「僕は…なんなん? おもちゃ? 道具? ペット!?」
堰を切ったように目の前の静子に言い募る静一。
「僕はなんなん!? 僕を人間としてちゃんと認めてくれたことあったん!?」

静一は、静子によって自分の心の中までも含めた全てが、静子の思い通りに決められてしまったと訴える。

次に、吹石の手紙を破ったことに関する恨みもぶつける。
吹石との付き合いは心地よく、なぜそれを汚いと言うのか、と怒りを爆発させる。
「僕は汚くない!! おまえのがよっぽど汚い!!」

静一の叫びは絶え間なく続く。

にくまんとあんまんのどちらも食べたくはなかった、いつまでも赤ん坊にするようなキスをするな、口の中に指を入れるな、ペットのように弄ぶな、と怒り、憎しみ、悲しみをごちゃまぜにして叫ぶ静一。

幼稚園でいつも教室まで来たり、いつまでも靴紐を自分で結ばせてくれないから自分だけ結べるようにならなかったこと。
そして友達と遊びたくてもしげるが来るから遊べなかったこと。それも静子が「しげるが来るからダメだ」と言うのではなく、無言で静一に視線を送り、静一から「やっぱり(友達と遊ぶのを)やめとく」と諦めさせることに不満があったと訴える。

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切々と自分の本心を静子に訴える静一

「見るなよ!! 僕を見るな!!」

しげるが静子に姿を変えた直後は、静子の顔は鼻から上しか見えておらず、他は黒一色だった。しかし静一が黒い粘性のある液体で汚れていくのと逆に、静子の身体からは黒が消え去っていた。

「出ていけ…!! 僕の中から…!!」
全身が黒に包まれた静一が叫ぶ。
「出ていけ!! 消えろ!!!」

静子は表情を全く変えることなく、静一に何の感情も籠っていない視線を向けていた。

顔を両掌で顔を覆う。
「そうやって見るくせに……僕を簡単に…突き落とす…殺すんだ…」

「殺すのに……それを無かったことにする…無視する……僕がつらいのを…わかってるのに…僕が見て欲しいところは…見ないんだ……!」

跪き、静子に訴える静一。
「僕を…僕をなんで…よろこんでくれないん?」

「僕が生きるのを…僕の心を…僕がよろこびを感じるのを…なんで…なんで見てくれないん…?」

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静子の反撃

いつしか静子は巨大になり、静一を冷たい目で見下ろしていた。
「なんで…僕が…あなたと一緒に不幸になることしか……よろこんでくれないん……?」

一通り言い切った静一は、自分を抱きしめるように胸の前で腕を組み、黙って顔を伏せていた。

「ひきょうもの。」

静一は今聞こえた言葉の内容に思わず目を見開く。

「私のせいにしないで。」
目の前の静子は、まるで呆れたような口調で、静一にぴしゃりと反論する。
「自分を見なさいよ。」

泥にまみれたかのようにドロドロに汚れた静一は、そう言い切った静子を信じられないような面持ちで見上げる。

相変わらず静子の顔には、表情が無かった。

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感想

静一の心の叫び

前話に引き続き、静一の心の叫び。

これまで静一が溜めに溜めてきた静子への不満、母に真の意味で愛されないやるせなさが、噴火の如き勢いで吐き出されていく。

そもそも自分を人間として認めていない。

吹石と付き合っている自分は決して汚くない。

肉まんもあんまんも食べたくない。

赤子の頃の様にキスをするな。

静一は静子の異常な過保護が自分を殺してきたと、はっきりと自分の思いを静子にぶつけた。

大きなストレスを抱えていることを見てみぬふりをして、ひたすら静子の意に添って生きてきた静一が、ここにきて完全に覚醒したようだ。ここまで自分の内に渦巻く本当の思いを自覚してしまっては、もう以前の状態に戻ることなど出来ない。

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これまで無理矢理抑えつけてきた本心が迸り、溢れ出ているのがわかる。辛く、悲しいセリフがずっと続くんだけど、でもこれまでの静一のことを見てきた一読者として、スッキリしたのも確かだ。この際だから自分の中にある静子への鬱屈した思いを空っぽになるまで言い尽くしてやれと応援してしまった。

しかし静一から吐き出される言葉をずっとサンドバッグのように受け止めていた静子から、思わぬ反撃……。

随分と長くこの夢とも現実ともはっきりとしない状況が続く。

これが夢じゃないとしたらいよいよ静一が発狂してしまった可能性もあるのか……。恐ろしい。

前話では、しげるが静子に変化したことから、これが静一の夢の中か何かで起きていることであり、現実ではないと自分は結論した。
今回もその路線を継承して書いていきたい。

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仮にここのところ続いている話が静一の心の中で起こっている出来事だったとして、夢にも関わらず、静子からこんな反撃を受けてしまうのか……。
ただ言葉を受け止めるためだけに顕現しただけの、静子なんじゃないの?

あれだけ叫んでいた静一の勢いが一気に止まってしまった。

静子が発した短い言葉は、間違いなく静一に効いている。

そしてこれが夢であったなら、静子が発した言葉は、静一が感じていることに他ならない。
静一は静子に対する不満と同時に、静子の像を借りて自分の不甲斐なさにもダメ出しをしようとしているのではないか。

自分自身が厄介な批判者となってしまうことはよくあると思う。少なくとも自分には覚えがある。他者に認められても、自分だけは「これではだめだ」と思ってしまう場面や、そもそも激しい自己批判の末、世に出すことすらしなかった成果物もある。

同じ今回の静子も、つまりは静一の内奥にある自己批判の表れだと自分は解釈した。

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静一は全く救われていない?

静子に自分の思いを吐き出していく内に、だんだん静一の体が黒く汚れていった。

これを素直に解釈するなら、静一は吃音になるほどに限界まで溜めてきた不満やストレスを吐き出したにもかかわらず、実は静一自身は全く救われていないということではないか?

この物語の一読者であり、傍観者に過ぎない自分は静一の叫びを目の当たりにしてスッキリしたと書いた。しかし静一本人はスッキリとするどころか、よりドス黒い思いに囚われてしまっているように思う。
それは結局のところ、不満をぶつけまくっている相手が、大切に思っている実の母親だからという点が要因として決して小さくはないのではないか。

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もしこれが赤の他人であったなら、不満をぶつけて、相手が心を入れ替えれば再び付き合いを継続し、逆に全く聞き入れないなら絶縁するだけで済む。

しかし相手は切っても切れない縁で結ばれた実の母だ。吹石と河原で静子のことを疑似的にやっつけて、静子と別れを告げたと思っていたが、やはり静一は静子のことを心の底から見捨てることなど出来なかった。静子から真の愛情を受けるのを諦められないということではないだろうか。

静子は闇が深い。彼女が自分の過去を語らない限り、読者にとってはどこまでも底が知れない闇を抱えている。その影響は静一にも及び、吃音を発症するほど不満とストレスを溜めるに至ったと思う。

しかし静一もまた、自身にも問題があると感じていたのではないか。

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静一は自身のマザコンを自身の弱点だと自覚している?

結局のところ、静子に反発できず、ただ唯々諾々と彼女のことを受け入れて、いつまでも突き放せなかったのは静一が筋金入りのマザコンだからなのかなと思った。

母親を大切にするのは良いことだけど、ベタベタし過ぎるのはどうなのか。そもそもマザコン気質を静一が身に付けてしまったこと自体も、静子の育て方が影響しているように思うけど……。
ベタベタしてくる静子のことをいつまでも拒否できなかったのは、さすがに静一にも問題があると彼自身が無意識下で自覚していたとしてもおかしくない。

もし、静子がベタベタしてくるからしょうがなく受け入れてあげていたと静一が考えているのだとしたら、それは静子に卑怯だと言われてもやむなしだろう。これが夢であったなら、つまりは静一は自分の問題に向き合っているということなのか?

次回、静子は静一の何を批判するのか。

以上、血の轍第88話のネタバレを含む感想と考察でした。

第89話に続きます。

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