第152話 空き地
第151話のおさらい
静子の死を確認した静一は、彼女の遺体を傍らでじっと見つめていた。
静子は手を胸元で組み、目をうっすらと開けたまま息絶えている。
ふと、静一はカーテンに覆われたガラス戸の外の明るさに気付く。
戸を開けると、霧が生じていた。静一は靴下のまま庭に出ると、そのまま夜の路地を歩き始める。
街灯や月が霧を照らし、より明るく光る。
静一は足を止めて、霧の煙る夜空に向けて翼を開くように両手を左右に伸ばして呟く。
「広い……」
そして再び歩き出した静一は一瞬自分のアパートを振り返ると、今度は一切足を止めることなく霧の中、路地をどこまでも進むのだった。
第152話
今回は前回から一気に場面が変わり、吹石さんの話だった。
夫の運転する車がたまたま吹石さんの実家の近くを通り、懐かしく思った吹石さんの申し出で車を降りて散歩する。終始穏やかで、吹石が感じているであろう郷愁が伝わって来て非常に良かった。
自分も小学校の頃に転校した経験があって、大人になってから昔通っていた学校や住んでいた付近を歩いたことがあったことを思い出す。これほんと楽しいんだよなぁ。昔あった駄菓子屋が廃業していたり、新しい道が舗装されていたり建物が出来ていたりしたんだけど、やはり無くなってしまったものの方が遥かに印象的だった。
そして、吹石さんが幸せそうで良かった。夫が良い人そうだ。
思い出の場所を歩くのは本人は楽しいけど、それ以外の人間にとったらよくわからない新しい土地を歩くだけで特段面白くはない。でもそれにつきあってくれて、尚且つ懐かしそうに歩いている本人に寄り添い、楽しそうにしてくれるのは本当にその人のことが好きじゃないと出来ないと思う。二人のやりとりから、きっと普段から仲が良いんだろうなということが伝わってくる。以前、静一と墓地でばったり会った時、二人の娘さんがいたけど、吹石さんは本当に良い家族を築けたんだな。
でも、静一や一郎、静子のその後の人生を思うと、あまりの落差に何だか切なくなった。人によって人生ってここまで違うものなのか。そんなことは当然のことだと分かっているはずなのにショックを受けてしまったのは、やはり物語の始まりである中学生時代が非常に丁寧に描かれていて、自分が静一や吹石に思い入れがあるからだと思う。
吹石さんは静一のことを思い出しながら道を歩き、長部家まで足を運ぶ。しかし今回の話のタイトル通り、長部家があった土地はすでに草が生い茂った空き地だった。
おそらく一郎が更地にして、土地ごと手放したのだろう。静一が捕まって、静子が家を出て、家族は完全にバラバラになったし、そもそも息子がやってしまったことを考えると、やはりそこにずっと住み続けるのはとても無理だよな……。
思い返してみれば、吹石さんは確かに静一を好きになったし、静一からも好意を返してもらっていた。でも静子の影響で最終的には静一から強く拒絶されている。吹石さんは静一がおかしくなってしまったことの原因が静子であると薄々気付いていて、あとは静一への強い好意も原動力となり、静一の拒絶をものともせずに一緒にいようとした。だからこそあそこまで静一から強い拒絶を受けてしまったとも言えるので、吹石さんにとって静一との思い出は心の傷になっていてもいてもおかしくない。それでも空き地を見て、静一がどこかで生きていればいいなと思えるということは、もう彼女の中では過去の出来事として昇華され、完全に人生の一部として受け入れているということだ。これもまた、自分の過去に苦しみ続けて、自分を捨てた静子の呪縛から逃れられず、決して今を生きることが出来ない静一の人生とは対照的だと思った。
その夜、吹石さんは夢で静一らしき男性の姿を見る。年をとった静一が知らない町に居を構え、一人穏やかに本を読んでいる様子が描かれるが、これが予知夢であって欲しいところだ。静子の死を見届けた後、霧が煙る街へふらふらと裸足で歩いていってしまうという前回の話の締め方からは、その後の彼の生死が全く想像できなかった。でも吹石さんの夢が静一のその後であればいいなと思う。
そして、ついに次で最終回か。一体どういうラストになるのかな……。
寂しいけど、でもどんな風に締めてくれるのか楽しみにしている。
以上、血の轍第152話のネタバレを含む感想と考察でした。
第153話に続きます。
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