第151話 霞
第150話のおさらい
目を覚ました静一は、隣の静子に視線を向ける。
静子が仰向けで寝たまま一切動かない。静一は静子の口元に手をやり、呼吸の有無を確認する。
続けて首、手首に触れ、脈を確認。
そして静一は目の前で起こっている現実を認識する。
「死んだ」
呆然と静子を見つめる静一だったが、やがてその表情には笑みが浮かび始める。
「ふっ」
「ははは。」
声を出して笑う静一。一度笑い始めると、勢いは止むことはなかった。
静一は静子の死体の前に座ったまま、楽しそうに、嬉しそうに笑い続ける。
第151話
静子の死を確認した後、窓の外が霧が霞がかっているのに気付き、ふと路地に裸足で出て、宛てもなく彷徨い始める静一。
自宅に戻ることなく、静一はそのまま霧の中へ消えていく。何もかもから解き放たれた静一が、いよいよ、何も先が見えない人生に向けて踏み出していく。そんな風に見えた。
これどうなっちゃうんだろう? このままどこまでも歩いて行ってしまうのか? とても、自宅の周囲を散歩して、普通に帰宅するようには思えない。どこまでも、体力が続く限り歩きそうだ。
今回の話の静一のセリフは、霧で霞がかった住宅街の夜空を見上げての「広い」。そのただ一言のみ。
そう言った後の静一の様子は、静かに目を閉じ、両手を翼のように広げて、まるで森林で深呼吸でもしているようにリラックスしている。そして一瞬だけ自宅の方を振り返り、再び路地を歩き始めるわけだけど、別にそれを手放しで喜んでいるようには見えない。
多分、自分の人生を苛んできた呪縛が無くなった、ついに終わったという解放感を感じていることは間違いないと思う。
だが、静一の心は希望に満ちているようには見えない。これまで鬱屈した生き方しかしてこなかった静一にとって、今後何をすればいいのかという、不安が同居しているためなのかなと思った。
そもそも静一は一郎が亡くなった時点で自分で自分の人生の幕を引こうとしていた。
それが奇跡的なタイミングで、思わぬ形で静子と接点がとれて以来、静一は自ら積極的に死のうとはしなくなったに過ぎない。
静子と接点を持った静一は、交流を続ける中で、台風の夜に静子の過去や彼女がどういう気持ちで生きて来たかを知り、その後、ついに生きる意思を失ってしまった彼女の世話を行うようになった。それは彼女を保護することと同時に、観察することも目的としていたように見える。静一は静子を世話する日々の中で、これまで憎み、そして愛してきた、自分にとってあまりにも大きな存在だった静子がどんどん弱っていく様を見守ってきた。最後には仕事を疎かにしてまで命が尽きようとしていた静子を見守っていたのは、ただ静子を想ってのことではなく、これは静一にとって一種の儀式だったのではないか。静子はただの一人の人間であり、自分が人生をかけて畏怖したりする必要がない人物であると確認するためなのかなと思う。
静子の命が尽きたのを見届けて、静一を苛んできた静子への複雑な想いは消えた。しかしそれで静一の人生は終わりではなく、これから先の見えない中を自分の足で歩いていかなくてはならない。もしくは、棚上げしていたが、自分の人生を終わらせるという決断をもう一度下すのか?
煌々と光を放つ街灯や月の光が霧で光の輪を生じる、幻想的ともいえる景色の中を彷徨う静一。果たして静一は何を選択するのか。
以上、血の轍第151話のネタバレを含む感想と考察でした。
第152話に続きます。
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