血の轍 最新第81話あははネタバレを含む感想と考察。互いの気持ちを確認した二人は、精神的に深く繋がる。

血の轍 8巻

第81話 あはは

第80話のおさらい

自分の席に着いた静一の元に、母親が甥っ子を殺したのかと小倉が挑発しにやってくる。

小倉は、吹石さんを静ちゃんと別のクラスにして!! と静子の真似を始めると、自分の席から動かず、黙っていた吹石に、学校に来るなとおまえが言ってやれとけしかける。

そして小倉の静一と静子への侮辱はエスカレートしていき、ついに耐え切れなくなった静一は勢いよく立ち上がって荷物を持って教室の外に出ていくのだった。

校門のあたりで静一を呼び止めたのは吹石だった。
吹石もまた、静一と同じように、自分の荷物を持って外に出ていたのだった。

静一は吹石から視線を逸らし、ごめん僕のせいで、と謝罪する。

そしてもう学校来ないと吃音交じりに告げて、校門の外に歩き出した静一を吹石は再び呼び止める。
そして吹石は私こそ長部のことをわかってあげられなくてごめんと謝罪し、一緒にこんなところ出ようと呼びかけるのだった。

 

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河原にやって来た二人は、川の流れを見つめるながら並んで岩の上に座っている。

どうして僕と一緒にいてくれるのと切り出す静一。
静一は吃音で途切れ途切れになりながら、一緒にいても吹石に迷惑がかかること、そして既に吹石には新しい好きな人がいるんじゃないかと吹石に訊ねる。

その問いに対し吹石は、自分が五歳の時に母が出て行ったことを告白するのだった。
母が私よりどこかの男、そして自分の事が大切だったんだと思うと前置きし、だから、と吹石は続ける。
「私は君を、置いてきたくないんさ。」

わずかに頬を赤らめて、吹石を見つめる静一。

「私……君のそばにいちゃだめ?」
吹石も顔を赤らめながら静一を見つめる。

第80話の詳細は上記リンクをクリックしてくださいね。

 

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第81話 あはは

静一の告白

二人はしばし互いに見つめ合っていた。

静一は川の流れに視線を移すが、吹石はそんな静一を変わらずじっと見つめ続ける。

やがて静一は川を見つめたまま、僕はあの人に殺されたんだとぽつぽつと語りだす。

吹石は一切口を差し挟むことなく静一の話に耳を傾けていた。

三歳の頃に自分が静子の手によって高台から落とされたと告白する静一。
「僕は、目の前で…あの人が、しげちゃんを…いとこを…崖から落とすのを見てた。」

「僕を落としたんとおんなじに…しげちゃんを落とした。」

「でもあの人は嘘ついたん。『私はやってない』って。」

「僕は、自分を守るために、自分が……壊れないように、従った…あの人に。」

「あの人の中に自分をくっつけて、ひとつになって。」

「でも、でも僕は……死んだ僕を、生き返らせたい……」
そう言って静一は涙を流す。静一はいつしか俯くのを止めて、前を向いていた。

私も、と静一の話を引き取る吹石。
静一の視線が吹石に向く。

 

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「本当に二人になりたい」

「私も、生き返りたい。」
そう言って、今度は吹石が自分の母と自分について語り始める。
母は自分を捨てたが、自分は自分の事を「捨てられた子供」だなどと思いたくないと吹石は告白する。
「私は、私のものだから。」

静一は俯きながら話していてる吹石を見つめながら、黙ってその話を聞いていた。

「ごめんね長部。」
静一に視線を向ける吹石。
「私…前…長部を私にくっつけようとしてた…」

「私は…、長部と本当の二人になりたい…」

互いに見つめ合う二人。
二人の沈黙を、川の流れる音が包みこむ。

「…吹石。お母さんを…嫌い?」
そう切り出した静一に、僅かに微笑みながら吹石が答える。
「うん。大嫌い。」

「…………僕も。」
そう答えた静一も、吹石と同じく微笑んでいた。

「……ふふ」

「はは あはは」

「ははは」

 

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おまじない

二人は自然と手を繋ぎ、笑い合っていた。
やがて、もう片方の手で互いに身体を抱き寄せあう。

「吹石…」

「…長部。おまじないを教えてあげようか?」

「……おまじない?」
身体を話して問いかける静一。

まって、と言いながら吹石が鞄から出したのは布の袋だった。
「はい。」
静一にマジックペンと袋を差し出す。
「この袋に、お母さんの顔描いて。」

え? と戸惑いながらも静一は袋とペンを受け取る。

「描いてみて。」

 

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静一は袋とペンをしばし見つめていたが、吹石に言われた通り、静子の顔を思い出しながら袋に似顔絵を描き始める。

「うん。かして。」
描き上がったのを確認した吹石は袋を受け取る。
「反対側に、私のお母さんも描くね。」
静一と同じように自分の母の顔を思い出しながら母親の似顔絵を描く。
「…できた。」
紐を持って、袋を吊るようにして持つ吹石。
「ふふ。じゃあ…」

静一は吹石の行動をじっと見つめている。

「このお母さんを、今から二人で殺すんべ。」
吹石は笑顔で、そう静一に呼びかけるのだった。

 

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感想

抱えた悩みを理解し合うことで得た癒し

二人は互いに、自分の母への強い憎しみを自覚し、それを共有して深く心を繋ぎ合った。

今回は二人の立つ位置にズレはない。
いやー……、吹石があまりにも大人な対応で驚くわ。個人的には特にこの年代は女の子の方が精神年齢は上の傾向があると思うけど、これはあまりにも大人過ぎるでしょ……。

吹石はなぜあのトンネルで静一に拒絶されてしまったのか、その原因を彼女なりに突き留め、きちんと把握し、逃げずにきちんと受け止めた。
自らの行動と相手の反応の理由をここまで冷静に整理して、自分の中で正しく消化できる吹石があまりにも賢過ぎる。
これが出来ない大人なんてこの世に掃いて捨てるほどいる。自分もその一人かもしれない。

ただ、母がいない現実を向き合う過程で、大人にならざるを得なかったという見方もできる。母に捨てられたという事実を前にして、子供らしく無邪気でいるなんてとても無理だと思う……。

少なくとも、これならもう以前のように吹石が一方的に静一に想いを押し付けて、静一が逃げ出す……みたいな痛々しい展開になることはないだろうな。

母への憎しみという負の感情が触媒ではあるけど、これで二人の関係は相当強固になったように思う。

 

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唯一縋っていた母こそが実は最も憎むべき人だったことをつい最近悟ったばかりだった静一にとって、生きることはさぞ苦痛だったことだろう。
何しろ、その気持ちを吐露できる相手すらいなかった。実の父であるはずの一郎にすら言おうか言うまいか逡巡する様子すらなかった。
なぜ静一は一郎に昔、静子に高台から落とされたことを告白しなかったのか。
静子の過去の凶行を新たに知らされて一郎をさらに傷つけることを静一が恐れたか、もしくは一郎が頼りないと感じていたからなのか。

母が犯罪者であることを知られるという厳しい現実を味わったばかりで、周りの何もかもが自分の味方ではないと感じていたであろう静一にとって、吹石の存在はどれほど救われたことか。

 

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静一は精神的に危機的な状況に陥った時に、タイミング良く吹石に救われている。

このまま二人の関係性が続くかどうかはまた別の話になるのかもしれないけど、少なくとも今は二人で乗り切っていこうとするのだろう。

ただ、気になるのは、静一がこの地に留まり続けるのだろうかということだ。
犯罪者となった妻を持つ一郎も、さすがに肩身が狭くなって居辛くなりそうなものだ。

もし他所に引っ越しても、この二人なら大丈夫な気もするが、往々にして物理的距離が離れることで、心理的距離も離れていってしまうもの。
果たしてどうなるのか。

 

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吹石が静一に執着していた理由

しかし、今回の話で、これまで吹石が静一から何度も拒否されているのにそれでも近づいていたその理由が分かったように思う。

中学生くらいの子供は、よほどの事が無い限り一度拒絶されれば、あるいは拒絶されたと勘違いしただけでもその対象から離れてしまってもおかしくない。そのくらい繊細な時期にあると思う。
にもかかわらず、吹石は何度となく静一に近づき、何度となく拒絶、あるいは無視されても静一への想いを絶やさなかった。そんな姿勢が実を結び二人は強く繋がることになるわけだ。
これは吹石が強いというのもあるけど、静一が自分と共通した悩みを抱えていると感じて、互いに分かり合えると予感していたからなのかなと思った。

 

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そもそも何も事件が起こっていなかった第1話の時点で二人は既に仲が良かった。互いに深く分かり合える下地はあったと言える。
当時から、互いの悩み、苦しみが共通していたことは知らなかったとしても、似た感覚があったから惹かれ合っていったという部分もあるのだろうか。

しかし夏休み明けに静一が吃音を発症し、明らかに挙動不審だったその原因が彼の母親にあるのではないかと直観的に見抜いたのは、単に吹石が鋭いというだけではなく、彼女に母親という存在の負の側面を強く感じ取るアンテナのようなものが機能していたからではないか。

 

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夏休みに静一の家を訪ねた際に、静子と直接対面したことがあった。その時に吹石の中で感じるものがあったと考えられる。
当時そのシーンを読んだときは女の勘的な解釈をしていたけど、自分も母によって傷ついていたから静一が母に傷つけられていることを直観できたとする方がしっくりきた。

しかし吹石は、体操着を入れる布の袋に互いの母の顔を書いて、この後一体どうするつもりなのか。やはり、川に流すのかな?

何にせよ、この儀式めいた行動で母に傷つけられた二人の心が少しでも癒されるといいが……。

以上、血の轍第81話のネタバレを含む感想と考察でした。

第82話に続きます。

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