血の轍 最新第93話目覚めネタバレを含む感想と考察。しげるを突き落とした静一。これは現実なのか?

血の轍 8巻

第93話 目覚め

第92話のおさらい

「ぼくを…ちゃんところして」

幼い静一にそうせがまれ、静一はその子の両脇に両手を差し入れ、持ち上げる。
「消える……消えようね。」

うん、と笑みを浮かべる幼い静一。
「うん まま」

「…………ママ?」
静一は自分に向けられたその言葉にギョッとする。
「ああ……そうだね…静ちゃん。今後はちゃんと死のう。」

幼い静一は嬉しそうに静一を見つめる。
「ぼくがちゃんとしんだら やっとらくになれるね まま」

うん、と答える静一。
「そうだね……そうだね。」

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「ありがとうね。」
そう声をかけた静一の顔の左半分が、静子の顔に変貌していく。
「ママのために消えようね。」

「うん まま」
幼い静一は期待に満ちた目で左半身が静子に変貌した静一を見つめる。

「ばいばい。」
その瞬間、静一は全裸で、右半身が静一、左半身が静子という歪な状態になっていた。
「ばいばい静ちゃん。」

「せぇーのぉー」
崖から勢いよく幼い静一を投げ落とす。

その瞬間、静一はしげるを高台から突き落としていた。

静一は笑みを浮かべて、悲鳴を上げることなく落ちていくしげるを見つめていた。

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第93話 目覚め

微笑

しげるを思いっきり高台から突き落とす静一。

しげるは宙に投げ出され、完全に身体のコントロールを失っていた。
身体が落下していくにも関わらず、一切悲鳴を上げることなく、しげるはただただ楽しそうに笑っていた。

しげるは四肢を振り乱しながら、急な斜面をたちまち転がり落ちていく。

静一は視界からしげるが消えても、両手を前に突き出したまま呆然として固まっていた。

ゆっくりと手を下げて、一つ、ゆっくりと息を吐く。

そして、微笑を浮かべるのだった。

何事もなかったように、その場から立ち去ろうと歩き始める。

静一は静子の声が聞こえた林の中で立ち止まり、目を閉じる。

雪が降り続ける中、静一はじっと立ち続けていた。

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来訪者

ベッドで目覚める静一。

時計に視線を走らせて、午前10時過ぎと確認した静一はベッドからゆっくりと体を起こし、カーテンをそっと開ける。

外はすっかり晴れていたが、周辺一帯には雪が積もったままだった。

電線に止まった鳥がさえずり、一台の車が目の前の道を静かに走行する。

屋根に積もった雪が解けて、ポタポタと雫が落ちていく。

「…………」
早朝の降雪とはうって変わった、何の変哲もない穏やかな光景を前に、静一は安堵していた。
「なあんだ………ぜんぶ……夢………だったんか……」

そっかぁ……と納得して何気なく視線をベッドの足元に送る。

そこにあったのは、早朝に外に出た際に静一が着た上着だった。

上着は雪が解けた雫でしとどに濡れている。

ピンポーン、と二回インターホンが続けて鳴り、さらに玄関のドアをドンドンと叩く音がする。
「おはようございまーす!」

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感想

現実だった

あまりにも長い悪夢だった。

そして最後に静一が行ったのは、しげるを突き落とすという暴挙……。

ベッドで目覚めて、夢オチかよ……と思ったら、水滴に塗れた上着がある。

やはり現実だったか……。これ一体どうなっちゃうんだよ……。

しげるが一人で早朝に長部家まで徒歩でやってきたこと。静一を高台に連れて来たこと。
どちらも現実離れしていたが、現実だったんだな……。

まだ障害の残る身体で高台から勢いよく突き落とされて、仮に奇跡的に受け身がとれたとしても、強かに体を打ち付けてしまった事は間違いないだろう。
意識があったとしても、まず身動きはとれない。

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そうなると大きな声を上げて助けを呼ぶことも出来ないし、まだ朝4時では人はほとんど出歩いていないから誰かに発見されるとしても日が昇ってからになる。
そもそも落ちた場所が人目に付く場所とは限らないので、その日の内に発見されないことも十分に考えられる。

そして雪が積もるほどの降雪が続いたというのも最悪だ。
積もった雪の上に倒れていては、体温の保持は難しいだろう。
次々にしげるの身体に降り注ぐ雪も、彼の体温を急速に奪っていく。

静一が起きた10時には雪は止んでいたが、日が昇ってもまだ外は銀世界のまま。気温の低さを感じさせる。

とにかく身体にも知的にもいくらかの障害を負ったしげるの状態もそうだが、何より環境がしげるの生存を許すとは思えない。

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夏に静子に突き落とされた時は若々しい生命力で何とか生存できたかもしれないが、今回はその時よりも遥かに生存するには厳しい条件が揃っている。

ようやく一人で歩けるくらいにまで回復したのに、まさか今度は静一に突き落とされるとはは……。

今度こそ、しげるの命は尽きてしまうのではないだろうか。
もし奇跡的に生きていたとしても、意識が戻るとは思えない。

伯母は朝起きて、家にしげるがいないことに気付いて半狂乱状態になったことだろう。

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訪ねてきたのは……

ラストのコマで誰かが長部家を訪ねてきている。
これは伯母が警察に捜査を依頼し、しげるを見つけたのかな……?

そして伯母が警察にしげるが長部家まで歩いてきた可能性を告げたのかもしれない。

長部家から高台までそこまで遠くはないだろう。歩いていける距離にあることは間違いない。

そうなれば、高台付近で発見されるであろうしげるが深夜に一人で長部家に向かった可能性を伯母が思いつくのは自然と言える。
そして、そこから思考の寄り道をすることなく、静子がしげるにしたように、静一がしげるを突き落としたという直観に至るはずだ。

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何しろしげるの家で静一は激高し、伯母を突き飛ばしている。
それに伯母が夫と一緒に長部家に乗り込んだ時も、静一が癇癪を起こした様子を見ている。

これで静一を一瞬たりとも疑わないということは有り得ない。

ラストのコマで長部家を訪ねたのは警察かな?

もし警察がしげるを発見していたなら、そこに事件性がないかどうか確認しなくてはならない。
伯母が静一を怪しんでいるなら確認せざるを得ない。とりあえず話を聞くために長部家を訪ねた……という感じかな。

そしてビンゴなんだよなぁ。この家に犯人いるんだもの。

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連鎖する行動

本当に、前回もタイトル回収だのなんだの書いたけど、気付けば静一は静子と同じ轍を踏んでいる。
犯行に至る前にとれた、自分を救う態度や行動があったんじゃないかと思うんだが……。

こういう形でしか自分を解放できないとしたら、あまりにも不憫だ……。、

静子がしげる、そして幼い静一を落とした時の表情と、今回静一がしげるを落とした時の表情が同じなのが今回一番印象的だった。何しろ見開きで描写しているわけだから、重要な表現でないはずがない。

微笑していた。それは明らかに楽しいと思って浮かべた表情ではない。

表現が難しいが、これでよし、という感じとでもいうのだろうか。
一仕事終えて、すっきりとしている。
かといって決して爽やかな気分になっているのではなく、自分が罪を犯したことは自覚している。
苦しさから逃れることが出来たという安堵感?

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静子も、そして今回の静一も、結局は自身の抱える苦しみから逃れるためにこうせざるを得なかったという印象を受ける。
静一は母が自分の事を必要無い存在だと理解していた。だからそんな自分を消すべく静一は自分を殺そうとした。

しかし高所から投げ落として殺そうとした幼い自分の正体は全くの他者であるしげる……。

もしかしたら静子が突き落とそうとしていたのはしげるではなく、静一のつもりだったのか?

とにかく、行動を起こすための判断基準が完全に狂っている。
静子、そして静一も残念ながら、もはや社会で生活するには危険極まりない存在になっているのではないか。
何しろ、自分の妄想の中で自分を始末しようとしたら他人に手をかけていたということなのだから……。

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自分を大切に出来ない人間は、往々にして他者を傷つける。
しかし自分を大切にすることは、それを当たり前に出来ている人からきちんと教わらないと身に付かない。

それが静子の気質が静一に受け継がれた根本原因なのかなと思った。

だからこれも以前から言及していることだけど、静一がこれ以上ないくらいに精神的に追い詰められていたように、静子もまた静一と似たような経験をしているんじゃないかと思った。

警察に捕まった静子に引き続き、果たして、静一はこれからどうなってしまうのだろう。

静一が警察の追及をかわせるとは思えないんだよな……。
あっさり白状するのか、それとものらりくらりと立ちまわるのか。

しげるが担ぎ込まれた病院で、静子にはどこか捨て鉢なところがありながらも、やってきた刑事の前で堂々と振舞っていた。

静一もまた、警察に対して静子と似たような振る舞いをすることで、この事態を切り抜けてしまうのかもしれない。

以上、血の轍第93話のネタバレを含む感想と考察でした。

第94話に続きます。

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