第149話 慈雨
第149話のおさらい
第150話
静子と静一はお互いに言いたいことを言い合って、それでもなお笑い合う関係になれた。
静一は彼女との関係において、実は、いつかこんな瞬間が訪れることを心の底で望んでいたのだろうか。
このやりとりを経て、静一は静子に対する愛憎とそこから生じる苦しみから解放されたなら良いのだが……。
今回の話の中で静子が指摘した通り、この静一と静子の対話は静一の脳裏で起こっていることであって、静子自身の言葉ではない。
あくまで、静一による静子の考えや気持ちの解釈がメインで、さらに『こうあって欲しい』という願望が多分にミックスした存在として発生しているのが、前回と今回の話で子供の姿の静一が相対している静子なのだと思う。
しかし、静一の想像上の存在だとしても、妙にリアルな感じがある静子とのやりとりだなぁという印象を受けた。
互いに肚の中で思っていた事を隠すことなくスラスラと言い合い、笑顔で罵倒し合う場面が生じても、二人の関係性にわずかな揺らぎさえ生じていない。これは静一が静子との関係において心の底で望んでいたやりとりということなのかなと思った。
中学生の頃の静一は静子に反発を覚えても、母への愛情からそれをムリヤリ押し殺し、ついには酷い吃音を発症してしまうほどに精神的ダメージを負った。それでもなお、静一は必死にガマンし続けてきた。
さらに、意を決して静子に反抗する姿勢を見せたら、今度は精神が崩壊するほどの反撃を食らってしまい、その挙句、最終的には公衆の面前で絶縁されてしまうという散々な目に遭っている。
その後は成人してひっそりと社会で生きるようになってからも、トラウマとなった静子の存在に恐怖し、憎み続けながらも、そんな静一の心の奥底では静子への愛情がくすぶりつづけていた。
静子と会う気など全く無いのに、静子のことなど憎んでも憎み切れない相手だと思っているはずなのに、それでも彼女のことを考えてしまう。もはや静子の存在は静一にとっては呪いと表現してもおかしくないわけだが、今回の話の中で行われた静子とのやりとりによって、ようやく静一は上手くけじめをつけることができたなら良かったと思う。静一が老いて弱った静子を引き取り、甲斐甲斐しく世話を焼き続けてきたその行動の根底には、もちろん静子への愛情があると思うが、それに加えて、これまで静子に抱いてきた自分自身の複雑な気持ちに整理がつきそうだと期待していたという面もあるのではないだろうか。
果たして本当に静一が静子に対する気持ちに整理をつけることが出来たのかどうかはわからないが、一時は一郎の死を看取って死のうとしていた静一が、しげるを殺めてしまった罪を背負いつつも、自分の人生を生きるようになればと思った。
以上、血の轍第149話のネタバレを含む感想と考察でした。
第150話に続きます。
あわせてよみたい
押見修造先生のおすすめ作品や経歴をなるべく詳細にまとめました。
血の轍第5集の詳細は以下をクリック。
血の轍第4集の詳細は以下をクリック。
血の轍第3集の詳細は以下をクリック。
血の轍第2集の詳細は以下をクリック。
血の轍第1集の詳細は以下をクリック。
コメントを残す