血の轍 最新第54話やくそくⅡネタバレを含む感想と考察。静一が選んだのは吹石か静子か。

第54話 やくそくⅡ

第53話のおさらい

静一は夢を見ていた。

夏のあの事件があった日と同じ晴天、崖の近くに置かれたベッド上に静子が腰を掛けている。

無数の蝶が飛ぶベッドの周りには蝶が飛び、座っている静子や、そこで眠るしげるに止まる。

そんな光景を少し離れた場所から見つめる静一の視界には、ベッドの先の崖でしげるを突き落とす静子、落ちていくしげるを救えなかった静子の姿が同時に止まった状態で見えていた。

しげるが顔だけ静一の方を向いていた。
植物状態ではない、確かな意思がその視線が静一を捉える。

ママ、どっちがほんとなの? 本当はどうしたいの? という問いかけに応える者はいない。

やがて、静子がゆっくりと人差し指を立てた右手を静一に向けはじめる。

静子が指した先の静一は全裸で、その股間を白いものがベットリと覆っている。

静一は思わず、みないで、と股間を両手で覆う。

(「静ちゃん ママはね…」)
真剣な表情の静子。
(本当はね……)

 

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夢から覚めた静一。その顔は汗で覆われていた。

居間へと降りていくと静子ではなく一郎が朝食をどうするか訊ねてくることに違和感を抱いた静一は、静子がどうしたのか問いかける。。

それに対し一郎は、静子は具合が悪くて寝ているので、自分が静子の役目をやるのだと笑顔を作る。

学校に行く直前、静一は静子に一言声をかけようと部屋の前に来ていた。

扉の前で一言声をかけるも、返事がないのでそっと扉を開ける静一。

静子は布団の中で、静一に背中を向けて横になっていた。

大丈夫? という静一の問いに静子からの反応は全くない。
静一は行ってきますと言って部屋の扉を閉めようとすると、静ちゃん、と静子が声を発する。

 

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「ママとしたやくそく。おぼえてる?」

その言葉で、あの夜、静子と交わした”やくそく”の内容を思い出す。

(もう…吹石には近寄らない。僕が…いやだから。)

しばしの沈黙の後、はい、と返事をした静一に静子が声をかける。
「いってらっしゃい。」

教室に着いた静一は楽しそうに会話しているクラスメートたちの中、一人、静かに自分の席に座ろうとしていた。

ふと窓際の吹石の席に視線を向ける。
すると、吹石も同じタイミングで静一の方に一瞬振り返り、二人は目が合う。

しかし吹石がすぐに正面に向き直るのを見て、静一は椅子に座ろうとしていた。

椅子を引いた時、机の中に何やら見慣れない紙を発見する。

紙を手に取り、そこに何か文字が書かれているのに気づく静一。

長部へ

それが吹石からの手紙だったことを知り、静一は驚いた表情を浮かべる。

 

第53話の詳細は上記リンクをクリックしてくださいね。

 

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第54話 やくそくⅡ

手紙の内容

チャイムが鳴り、教室を離れた静一は吹石からの手紙を開封する。

その内容は、吹石家を二人で飛び出した夜、自分のせいで静一に迷惑をかけてしまったことを謝罪するのと同時に、静一が靴やジャージを貸してくれたことに感謝する一文から始まっていた。

父から大目玉を食らったが大丈夫であること。誰も邪魔しないところで一緒にいたかっただけなのにどうしてこうなったのかと続き、それでも静一と一緒にいたいと訴える内容が続く。

そして最後は、靴とジャージを返したいから放課後、裏門で待つと結ばれていた。

じっと手紙の文面をみつめる静一。

チャイムが鳴る。

給食の時間。

食器を持って、列に並ぶ静一。

給食をよそう当番の一人は吹石だった。

静一に視線をやる吹石。

列が進み、静一が吹石の前に立つ。
しかし静一は決して吹石と視線を合わせず、食事のみ受け取ろうとする。

そんな静一に吹石はどこか寂しそうな視線を送る。

 

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裏門へ

学校が終わり、静一は一人、校門に向かう。

(やくそくね。)

静一は、静子のその一言を、その顔とともに思い出していた。

吹石からの手紙にあった裏門へは寄らず、校門を出て、真っ直ぐ自宅への道のりを急ぐ。

しかし路地で立ち止まると、静一は踵を返し、学校へ向けて走り出す。

裏門に近づいていくと、紙袋を下げた吹石が立っているのに気づく。

吹石は遠くから駆けてきた静一を笑顔で迎える。
「長部。手紙…読んでくれた?」

お互い向かい合い、目を合わせる二人。

「あ……ん……」

二人の間にぎこちない空気が流れる。

「…あ。」
吹石は静一から外した視線を、手元の紙袋に送る。
「ありがとう。靴とジャージ…貸してくれて。」

静一は何も言わず、吹石から紙袋を受け取る。

「…長部。大丈夫だった? あのあと…」
静一の目をしっかり見つめて問いかける吹石。

 

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残酷な一言

「吹石。」
吹石からの自分を気遣うような態度を吹っ切るように静一が切り出す。
「約束…したんだ。もう吹石には近付かないって。」

伏し目がちな静一とは対照的に、吹石は静一の目を真っ直ぐ見据えながら問いかける。
「約束? 誰と?」

「……………マッ……………………お母さんと。」

吹石は、一向に自分と視線を合わせようとしない静一をじっと見つめていた。

じゃあ、と言って元来た方向へと静一が歩き出す。

「まって!」
その場に立ったまま、静一を呼び止める吹石。
「そんな…どうでもいいがん。おかあさんとの約束なんて。」

「長部の気持ちは? 長部はどうしたいん?」
吹石が静一の背中に問いかける。

 

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静一は吹石に背を向けたまま答える。
「僕が、いやなんだ。」

吹石は呆然と静一の言葉を聞いていた。

「もう…好きじゃないから。吹石のこと。」
そう言って、静一はゆっくりと吹石に振り返る。
「もう飽きた。」

凍り付く吹石。

「もう話さない。じゃあ…」
そして静一は再び自宅への道を歩き出す。

吹石は裏門に立ったまま、遠ざかっていく静一の背中をいつまでも見送っていた。

静一は歩きながら、薄ら笑いを浮かべる。
「やくそく…まもった…」

 

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感想

読んでて辛い

今さらではあるけど、なんて嫌な話なんだろ。読んでて辛い。

負の感情ばかり想起されて気が滅入ってくるんだよね。まあそういう漫画なんだけどさ。
もう十分すぎるくらいわかってるんだけど、でも今回は特にキツイ……。

先が気になるから読んでいるものの、きついんだよなぁ。
吹石はもちろん、母とのやくそくを守ろうとして必死になった末に、つい残酷な一言を繰り出してしまった静一も、あまりにもかわいそうで……。

校門にやってきた静一を迎える吹石の表情がかわいいということすら、今回のラストで読者の胸からじゅわっと一気に湧き出るであろう負の感情を増幅するための触媒でしかない。

校門を出て、裏門に向かわず真っ直ぐ帰路についていた静一が、裏門に駆けて行った時は「お!?」と思ったんだけどな……。
多分、静一が裏門へ行ったのは吹石を吹っ切るためだったのではないか。帰宅して、静子に胸を張って「やくそくを守ったよ」と言えるようにするために、吹石の待っている所へ行ったのだと思う。

ママ、と言おうとするのを止めて、お母さんと言い直したのは吹石に隙を見せないためだろう。
そうして本心を隠し、吹石と決別する意思を固めていた。

 

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こんな良い子にここまで残酷な仕打ちをするとは……。というか、出来るようになってしまうとは……。

つい2、3日前まで吹石>静子だったのが、もう完全に逆転してしまった。

吹石がかわいそうというのはもちろんなんだけど、しかし前述した通り、その原因であり、傍から見たら最低男でしかない静一もまたかわいそうなんだよな……。

”もう飽きた”って……。
これはおそらく母とのやくそくを守るべく必死な静一がギリギリのところで繰り出した言葉であり、彼の心の底からの本心などではないことは明らかなんだけど、でもよりによってここまで的確に吹石を傷つける言葉を投げつけられるものなのか? とも思う。

別に静子にそう言えを指示されたわけではない。だからといって、静一が事前に「こう言おう」と色々と考えたわけでもないと思う。

彼の心の中での静子とのやくそくを守らなくてはという一心と、吹石に対する想いの葛藤の末に勝手に口を突いて出てきた一言、という印象を受けた。

それが上手い事吹石にクリティカルヒットする拒絶の言葉となったという感じ。

 

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心を折られた?

今回も吹石は、最初、静子との約束を理由に自分に近づかないと宣言した静一に粘り強く食い下がった。

普通の女の子だったら既にそう言われた時点で相手の男への興味を失ったり、その救いようのないマザコンぶりに嫌悪感を抱いて自分から見捨てそうなもの。

しかし静一への想いが強く、彼の母や二人の関係性がおかしいのではないかと睨んでいる吹石はそれだけでは諦めない。

以前、静一から拒絶されても、決してめげずに彼に近づいていった時と同じだ。

二人で吹石家から逃げたあの夜の、彼女にとっては失敗した出来事があっても、それで静一と気まずい関係のまま自然消滅することを良しとせず、果敢に元のように関係を修復しようとしている。

強いし、勇気があると思う。好きなんだから当然だろ、と思う人は彼女がまだ中学生だということを忘れてる。
この時期の女の子は、好きな男の子からちょっとでもひどい扱いを受けたらたちまちショックを受けて立ち上がれなくなってしまっても不思議ではないだろう。そんな繊細な時期に吹石が静一を相手に度々見せるタフネスっぷりはすごいと思う。

 

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しかしそんな吹石の心をぽっきりと折る一撃が静一から繰り出された。

「もう飽きた。」

恋愛経験があろうがなかろうが、恋人間ではこれが最低の一言に分類されることはわかるだろう。

よもや、静一がそれを放つとは思わなかったな……。

この最低の一言は静子に言わされているのと同時に、母とのやくそくを守るためにまだ互いに好意を持っている吹石と距離をおかなくてはならないという非常に苦しい葛藤から逃げるための、静一の逃避行動でもあったのではないか。
つまり『もう飽きた』という言葉には静一の意思が乗っていたことになる。
だからこそ、吹石に効いたんだと思う。

あまりにも残酷だ。吹石が最大の被害者であることは間違いないが、言わされた静一にとってもトラウマになるやりとりだっただろう。

 

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静一もまた被害者

今回大きく傷ついたであろう吹石は、しかしこのまま静一と別れてしまっても時間が経てば立ち直れると思う。

しかし静一は違う。
このまま吹石と別れてしまうと、もう彼は静子に絡めとられたままになってしまうだろう。

その後、静一がどんな女性とも付き合えないようになる。モテないから付き合えないのと、母の為に付き合わないというのはまるで違う。となったら恐ろしいことだ。

母の異常なまでの息子への執着に絡めとられて、青春はもちろん、下手すると人生を台無しにするとか……。

年齢を重ねて、ふとそれを自覚した時に果たして静一は静子や、彼女に唯々諾々と従ってしまった過去の自分を許せるのだろうか。

とりあえず吹石には、ヤケになって第1話で会話していた男子と付き合ったりしないでほしい……。
浮かない表情の吹石と、満面の笑みの男子が話しているのを、まだ吹石に想いを残している静一が見つめているだけとかほんとキツイ……。

何故か上手く説明できないけど、押見先生の漫画はこういう生々しい場面が心に来る。

この漫画の第1話を読んだ時に『こういう展開になったら嫌だな』とまず第一に思ったルートが出てきた。

諦めきれない吹石と、静一もまた吹石への想いを抑えきれず、二人の関係が以前より強化される、みたいな展開を期待したい。

以上、血の轍 第54話のネタバレを含む感想と考察でした。

第55話に続きます。

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