第15話 救済
第14話のおさらい
静一と吹石のいる部屋に突如現れた静子。
静一は、急いで手に持っている吹石からもらった手紙を静子の視界から隠す。
静子は吹石に対して表面上は友好的に挨拶する。
静一と二人きりでなくなった吹石は、若干の名残惜しさに囚われつつも、すぐに静一の部屋から出て行く。
吹石が帰った後、静子は静一が吹石からもらった手紙を見せるように要求する。
さも当然の如くプライベートな内容であることは間違いない吹石の手紙を求めて、静一に向かって静子は手を伸ばす。
あまりに自然に要求され、静一は静子に手紙を渡す。
静子はやはり当然のように封を開け、中の文章を読む。
静一に向かって、手紙を見たいかと問う静子は、静一の返事を待つことなく静一の隣に座ってその手紙を読ませる。
そこには、吹石の静一に向けた真っ直ぐな告白の文面が記されていた。
手紙を見つめる静一の右腕に雫が落ちる。
静一が顔を上げると、静子は顔をくしゃくしゃにして大粒の涙を流していた。
静子は静一に向かって何度もそしてシンプルに、この手紙の内容に対する拒絶の意思を告げる。
そして静子は、静一の首に両腕を回したかと思うと、静一に向かって吹石の手紙を捨てて良いかと問いかける。
静一は母の問いに答えるため、ゆっくりと口を開く。
第14話の詳細は上記リンクをクリックしてくださいね。第15話
静一の部屋のベッドの上に静一と静子が並んで座る。
静子は静一と向かい合って首に手を回し、涙に濡れた目で静一の目を真っ直ぐ見据える。
「この手紙、捨てていい?」
吹石から静一に向けて送られたラブレターを破きたいと要求する静子の目をじっと見返す静一。
静一は、自らの首に回された静子の腕に両手を置き、大きく口を開き、静子を覗き込むように見つめる。
驚愕の表情を浮かべて、静子に縋りつくような姿勢の静一に対して、静子はぼうっとした、まるで静一を観察するような眼差しで静一を見返す。
「……お………あっ」
「か……あ…っ!」
口も眼も見開き、震えだした静一の口から切れ切れに苦しそうに声が漏れる。
静子はただ黙って、涙を流した目を真っ直ぐ静一に向け続ける。
「あっぐ…」
静一の両目から大粒の涙が溢れる。
「あ゛…」
「あ゛ううあ゛…ああっあああっ」
静一は静子の顔に胸を埋めるように屈みこんで泣き崩れた。
静子は幼児の様に泣く静一の背中にしっかりと手を回し、静一を抱き締める。
「はっ…」
静一は静子に抱きしめられ泣くのを止める。
ぐっ、と静子が静一を抱き締める手に力が入り、二人は強く密着する。
「あ…」
静一の手は静子の背に回そうか彷徨わせる。
しかし次の瞬間には目を閉じ、ついに静子の背中に両手を回す。
静子は静一を抱き締めたままどっと後ろに倒れ込む。
互いに抱き締め合ったままベッドに横になる二人。
静一は静子に覆いかぶさるようにして胸に顔を埋める。
「静ちゃん。」
間近にある静一の顔に静子が囁く。
「ごめんね。」
静一は閉じていた目を薄く開いた。
そして、ベッドのシーツを握りしめる。
「…まっまっまっまっまっまっ」
「ママ…」
静一は顔を上げ、涙に濡れた目を仰向けになり、目を閉じた静子に向ける。
「どこにも行かないで…」
過保護の枠を完全に逸脱
静子は目を開き、静一を見つめる。
「じゃあ静ちゃん。ママの言うこと聞ける?」
縋りつくような目で静子を見つめる静一は黙って静子の一言一句を待っていた。
「ずっと、ママの言うこと…」
静子は右手を伸ばし、床に落ちていた吹石のラブレターを拾い上げた。
「これ。」
静子がラブレターの文面を静一に見せる。
「一緒に破るんべ。」
母の言葉に泣き止む静一。
「ほら。おいで。」
静子は左手を静一の右から左肩に回し、二人で並んでベッドの上で仰向けになっていた。
静一は左手で、静子は右手でラブレターを掴み、二人で文面を眺めるような姿勢をとる。
「いくよ。」
静子は微かに笑みを浮かべ、左手は静一の頭を抱き寄せる。
「せーの、」
ビッ
ラブレターの真ん中上部がほんの少し破れる。
静一はそれを止める事もせず、ただただ事の成り行きを見ていることしかできない。
ビリッ
次の瞬間、ラブレターが真ん中から一気に裂ける。
静子は真っ二つになったラブレターの右半分を両手でビリビリと破っていく。
ただただ為す術もなくその光景を見ている静一。
ラブレターはバラバラの紙切れになり、静一と静子の上を舞う。
急に静子に左腕で抱き寄せられ、静一は静子とキスをする。
口と口が離れると、静子は静一に笑顔を向ける。
静一もまた笑顔を返す。
感想
当たり前のことだけど、今回の話に関しては特に漫画で読まないとダメな話です。
本当にただ、流れが確認できるだけ。全然面白くない。
漫画読まないとダメ。
静子に、どこにも行かないで、と懇願する見開きや、ラストの方、キスのコマとか、最後の幸せそうな静子と靜一の表情とか、そもそも静一の開いた口のアップの連続が絵がヤバイ。
これぞ漫画の神髄。この演出力と表現力、ヤバすぎでしょう。
もし漫画で読んでないなら絶対に雑誌で、もしくは単行本でチェックすべき。
今回の話ほど下手くそな文章であらすじ書くのが虚しい回はなかった(笑)。
静一が最終的には母への愛情に完全に取り込まれて、自分を好きだと言ってくれている可愛い同級生の存在を心の内からシャットアウトしてしまうまでの恐ろしい過程が全く伝わらない……。
感想と言うと、直前の文章で触れたように、静一が完全に静子に取り込まれてしまったな、ということ。
14歳というのは自我に目覚めて親を疎ましく思うことがある時期だと思う。
静一は吹石の事が好きだ。そして吹石もまた静一の事が好きだと告白した。
14歳にとってそれは天にも昇る気持ちで、普通は母の余計な干渉などノータイムで拒絶する。
しかし静一は母からのキスも、ラブレターをビリビリに破かれるのも受け入れるという有様。
もう、静一は静子から逃れることは出来ないし、そもそも逃れようとも思ってないだろう。
静一が静子の犯行を世間から隠す、庇うことを選択してから静一と静子の結びつきが強くなったと思う。
それがあったから静一は静子の要求を拒否できなかったし、今回のキスに繋がった?
静子がしげるを突き落としてから、静一にとって静子は切実に守るべき対象になったと思う。
しかしほんとどうなっちゃうのこの親子は……。
1話の時点で近親相姦あるかもとかかなり気持ち悪い感想を書いたけど、まさか、ね……。
静一のセリフで気になるところもあった。
「ママ…どこにも行かないで…」
このセリフ。何かおかしいと思った。
吹石からのラブレターを発見した母が破ろうと言って、それを受けて慌てふためく静一の口から出た言葉が「どこにも行かないで」?
なぜ、この流れでこのセリフが出るのかがわからなかった。
ただ単に、自分と母との心の距離が開くのが怖くて、それを端的に表現しただけ? 大した意味はない?
それか、静子は過去に何かの原因で家を出たことがあって、静一にはその時のトラウマでもあるんだろうか。
そもそも人間とは多面体であって、自分が誰かについて知っている所なんて実は一部でしかない。
よく考えてみれば、静子も静一もまだ読者が知らない面があると考えるのが普通だ。当たり前だわ。
思ったよりこの母と息子は危険な関係なのかもしれないな……。
今後、セリフの理由が分かるのかな。それとも大した意味はないのか……。
あとこれは全くの勘違いである可能性が高いけど、気になっていた事。
今回で思ったけど、静一がなんだか吃音っぽくなっているように思える。
静子がしげるを突き落とした後、ちょいちょい静一が吃音っぽくなっているような場面が見受けられるように感じる。
これって、静子のしげるに対する犯行を世間に隠している状況に、静一が精神的にキテるってことなんじゃなかろうか?
13話でも静子と一郎がしげるの病因へ見舞いに家を出たあと、静一は一人ベッドで泣いていた。
昨日の今日だからショックは大きい、というよりむしろより重く感じるのかもしれない。
慌てて喋ろうとして言葉に詰まったりするとこんな感じになることはあるけど、何か静一のその様子が、壮絶な体験をした後なだけにちょっと尋常じゃないというのかな……。
押見先生は元々ご自身が吃音の経験があったり、あと「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」という名作も描いているので吃音の様子をリアルに描けるというのもあって、気になってしまった。
何か、山登りから帰って以来、静一がどんどん壊れていくようでいたたまれない気持ちになる。
静子の静一に対する態度は、もはや一話の頃の過保護な親という枠をとっくに飛び越えている。
2話のラスト、静一の頬にキスをした時にもうこの母子はおかしいと思ったけど、15話でロケットブースターはさらに切り離されたような気がする……(笑)。
どこまで登っていくんだ。
なんだか意味がわからない感想になってきた。あとで直すかもしれないけどとりあえずここまで。
以上、血の轍15話のネタバレを含む感想と考察でした。
第15話収録の血の轍第2集の詳細は以下をクリック。
血の轍第1集の詳細は以下をクリック。
あわせてよみたい
押見修造先生のおすすめ作品や経歴をなるべく詳細にまとめました。
こんにちは。蛇足ですが「どこにも行かないで」の描写のところでこんな解釈もあるんじゃないかな?と思い、勝手ながら述べさせて頂きました……無視して頂いてかまいません
静子がしげるを突き落とした時の前まで、静一は静子を「理想のお母さん」として見ていました。しかし、事件の後に静子の様子が釈変していくのをみて、自分の知っている「理想のお母さん」を取り戻してほしい、どこにも行かないでほしい、と思って伝えた言葉ではないのかな、と解釈しました。 静子に何故そんな事をするのかと聞きたい気持ちと、静子に対する恐怖感、愛情、守らなければならないという責任感、色々な感情が複雑に絡まりあった結果このような言葉にしか表せなかったのではないかと思いました。長々と失礼致しました……。
コメントありがとうございます!
その解釈でスッと入ってきました。素晴らしい。
なにしろ物語の中の時間では、しげるを突き落とした翌日ですからね……。
まだ気持ちを落ち着ける事が出来る段階じゃないですよね。
様々な感情が溢れ出した結果の一言だと思うと悲しい……。
名無しさんの解釈を見て、なるほどなぁと思いました。
「自分の知っている理想的なお母さんにどこにもいかないで欲しい」っていうのは確かにありそう。
本当はお母さんの言いなりになると、余計に暴走させちゃうんだけど、
まだ13歳、しかも男の子にその辺を察するのは難しいですよね…。
私はラブレターを破り捨てる決意をした(自分の好きな相手を切り捨てる怖さゆえの)
「僕はお母さんの共犯になり、好きな女の子のラブレターも破り捨てる。
お母さんのために、ここまでする。だからどうかいなくならないで。」というか、
人間には「コストをかけたものほど、手放すのが怖くなる」という心理から来た、
どこにも行かないでなのかなぁと思いました。
いろいろな意味がこまったどこにもいかないで、なのかも
urarakaさん、コメントありがとうございます!
まず13歳という年齢が絶妙ですよね。
自我がありつつも親に頼らざるを得ない。
思春期真っ盛りで心の振れ幅がデカイ。
不安定の象徴みたいな時期です。
>「僕はお母さんの共犯になり、好きな女の子のラブレターも破り捨てる。お母さんのために、ここまでする。だからどうかいなくならないで。」
>人間には「コストをかけたものほど、手放すのが怖くなる」という心理から来た、どこにも行かないでなのかなぁと思いました。
>いろいろな意味がこまったどこにもいかないで、なのかも
確かにそれもあるかも……!
損切り出来ずにいつまでもダラダラと執着し続ける事で抜けられなくなっていくってことですよね。
すぐに思い浮かんだのはパチンコかなぁ。
人間には多かれ少なかれ、そういうやっかいな性質がありますよね。
最新の29話ではラストで静子の手を払って拒否の意思を示してます。
それも意識的にというより、もはや反射行動して、さながら防衛本能に従っているような感じで。
吹石と付き合うことで、夏に静子に奪われた心の独立を取り戻したのだと思います。
来週の30話が楽しみでなりません。
そろそろ静子が静一の変化の原因である吹石に気付くのではないかと思い、ヒヤヒヤしつつもワクワクしてます(笑)。