血の轍 最新第70話別れネタバレを含む感想と考察。伯母夫婦に連行される静子。静子が唯一謝罪した相手は……。

血の轍 第7集

第70話 別れ

第69話のおさらい

伯母は悪びれもなくしげるをつき落としたと自白した静子に怒りを滾らせていた。

想定外の流れに一郎はただ戸惑っていた。
冗談だいな? と静子に問いかけるも何も答えない。

一郎は続けて、しげるが落ちた際に現場にいた静一にも、静子がそんなことをやるはずがないよなと訊ねる。

しかし静一は口を開くことができない。
泣きそうな表情で一郎をじっと見返すのみ。

 

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静一が静子に視線を移す。
静子は微笑を浮かべて、泰然としていた。

一郎にイラついた伯母は本人が白状した以上、冗談のわけがないと歯を剥いて怒りを露にする。
「しゃあしゃあと…私達に…嘘ついてたんね…!」

静子はそんな自分に対する容赦ない罵声をすました表情で聞き流している。

伯母は泣きながら、静子は最初に会った時から気持ち悪かったと声を絞り出すと再び怒りのボルテージを上げていく。
「仏壇に線香の一本もあげなかったいね! 何かっちゃあ『ごめんなさい』『すいません』ばっかり言って!!」
「いっつもすみっこで暗い顔して座って!! 静一にべたーってくっついてじとーって見て!!」

 

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静子に詰め寄っていく伯母。
静一はその光景を、ただ立ち尽くしたまま見ているしかできなかった。

相変わらずすました表情のままの静子に伯母は怒りを爆発させる。
「なんなんその顔は!? その態度は!! おい!!」

バンッ

ついに、それまでずっと沈黙を守っていた伯父がテーブルを思いっきり叩いて勢いよく立つ。

伯父は静子を見下ろしながら静子だけではなく一郎と静一にまで謝罪と土下座を強要する。

しかし伯父はいくら凄んだところで澄ました表情のままの静子の態度に業を煮やし、ドタドタと足音を立てて静子に近寄っていく。

 

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一郎は静子を庇うように完治の前に立ち塞がる。

しかしすぐさま一郎を殴り倒す完治。

「おい!!」
静子は完治に髪を掴み上げられ、苦痛に顔を歪ませる。

弾かれたようにテーブルを踏み切る静一。
完治に飛び掛かると腕に噛みついて静子を助けようとする。

すぐさま伯母が静一を羽交い絞めにして完治から引きはがす。

 

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静一は体の自由を奪われたまま、完治の静子への暴力を止めようと、ほぼ意味を成さない言葉を繰り返していた。

完治は静子の頭を床まで下ろし、無理やり土下座の態勢をとらせる。
「オラッ!! 謝れ!!」

静一は涙を浮かべてそんな母の姿を見ているしかなかった。
「謝れ!! 謝れ!!」

静子は土下座の姿勢のまま、堂々と完治と伯母に申し出る。
「警察に、行きましょう。」

第69話の詳細は上記リンクをクリックしてくださいね。

 

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第70話 別れ

連行

「警察に、行きましょう。」
完治に頭を押さえられたまま、静子は淡々と訴える。

この期に及んでもまだ謝罪の言葉がないことに憤慨し、静子に自分たちに対して謝るように強く命令する完治。

静一はその悪夢のような光景を、伯母に羽交い絞めにされたまま見つめていた。
土下座の姿勢のままの静子の顔を見ると、静子はカッと目を見開いて暗に謝罪への拒否を示していた。

伯母はゆっくりと静一の羽交い絞めを解き、静子の前に歩み出て片膝を着く。
「もういい…! はやく警察連れてくんべ…! ほら立て!」

 

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静子は完治に両腕を後ろ手に抑えられながら、無理やり立たされる。

虚ろな目で静一を見つめる静子。
静一は立ち尽くし、涙を流しながらただただその光景を見ていることしかできなかった。

「待ってくれ…」
完治に殴られ柱に背を預けたままだった一郎が声を上げる。
「頼む…少しだけ…話させてくれ…! 静子と…二人で…」
一郎は静子を左右から挟んで今から連行しようとしていた伯母夫婦に縋るように頼む。

 

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「………今さら………何を…?」
一郎にゆっくりと振り向く静子。
「離婚して。私はもう、戻らないから。」
そう言い放った静子の表情には悲しみも喜びもない。

一郎は呆然とした表情で、静子の決して覆らない想いの強さを感じ取っていた。
「待ってくれ…俺…俺は…!」
みるみる表情が歪んでいく。

「ハッ ほら!! 行ぐよ!!」
伯母は一郎の情けない姿を見て短く嗤うと、静子の連行を再開する。

 

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謝罪

居間を出て玄関まで続く廊下をドタドタと歩いていく伯母夫婦と静子。

静一は静子の脚に背後から縋りつく。

静子は振り向き、静一の顔を見つめる。
静一は静子を行かせまいと泣きながら足にしがみついていた。
そんな静一を、伯母夫婦はどこか憐れみを以て見ていた。

「……静一。ママはいなくなるから。パパと…二人でがんばって。」

もはや言葉が出ない静一。
静子を見上げたままぶんぶんと頭を横に振る。

静子は静一の顔にそっと触れながら、ごめんね、と切り出す。
「静ちゃんに、嘘つかせて。」
静一の目をじっと見つめる静子。
「もう……嘘つかなくていいから。」

 

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静一は静子の顔を見つめたまま、自分の顔に触れている静子の手を触る。

「ごめんね。」
立ったまま自分の前で跪いている静一をじっと見つめて謝罪する静子。
「たくさん…ひどいことして。たくさん……たくさん……」

静一は静子をただ黙って見上げていた。

「静ちゃんの…好きに…生きてって……」
静子の言葉は続く。
「こんなこと…したくないのにって…なんで…しちゃうんだろうって…」

 

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「もう…私……静ちゃんを…離すから…つかまるの………やめるから……もう…好きにしていいよ。」

「静ちゃんの…好きに…生きてって…私…いなくなる…から…」
静子の目から大粒の涙が溢れていく。
「いいママになれなくて…ごめんね…」

静子の涙は静一の顔に流れ落ちていく。
静一も静子を見上げて泣いていた。

「じゃあね…」
抱きしめ合う静一と静子。

静一の目から次々と涙が零れ落ちていく。

 

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感想

唯一の謝罪相手が静一

伯母夫婦に連行されることは分かっていた。でもこれは辛いな……。

静子には静一にひどいことをしてきたと言う自覚が確りとあったようだ。
てっきり自分が静一をこれ以上ないくらい可愛がっているのだから、静一が自分を同じように守ってくれるのは当然くらいのふてぶてしさがあるかと思ったが……全然違ったようだ。
さすがにそこまで頭がおかしいわけではなかった。

自分は、静子に関しては、少なくとも静一以外には自分が悪いなどとは露とも思っておらず、なんなら思い通りにならない自分以外の全てに対して憎しみを抱いているように感じていた。

 

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現にしげるの両親に対しては罪は認めたものの謝罪は一切していない。
これまでの結婚生活で静子のフラストレーションの元になっていたであろう一郎に関しても、最後までけんもほろろで、相手にすることは一切なかった。
一郎はこの窮地に至ってようやく妻の気持ちを理解したい、そしておそらくこれからも共に寄り添って生きていくことを確認したいといった想いから静子を呼び止めようとしたのだろうが、静子には一郎の気持ちは一切伝わっていない。

しかし静一に関しては全く様相が違った。これはかなり意外に感じたなあ……。
吹石という裏切り要素はあったものの、それ以外は概ね静子の味方であろうと居続けた。
おそらく、本来、静子が一郎に期待していた役割を中学生ながら一生懸命こなした静一に、これまでの感謝も踏まえて謝罪しているのだろう。

 

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そう。この場で謝罪している相手は静一ただ一人だけ。
伯母夫婦はもちろん、形式上はまだ夫であり、これから迷惑をかけるであろう一郎に対しても頑なに謝罪の言葉はない……。

そもそも夫としての期待を果たさなかった一郎に対しては全く謝罪する気はなかったことはわかる。
そして前回に引き続き、しげるという大切な一人息子を危うく殺しかけた罪を、伯母夫婦に謝罪することはついになかった。これも流れ的に最後まで謝罪は無いだろうと予想はしていた。

しかし静子を最後まで慕い、警察には慣れない嘘をついて必死に守ってくれた静一にだけは謝罪した。
心の底から静一の今後の幸せを願い、自分の母親としての不甲斐なさを詫びた。

 

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いっそここで『あなたも一郎と同じ、役立たずだった』とでも静子がクズを演じ切ってみせれば、静一も一時的には深い傷を負いつつも次の人生に踏み出せたかもしれない。

でもこんな別れでは、静一が立ち直れないのではないか……。
一郎と一緒に暮らすにしてもきっと暫くは抜け殻みたいになるだろうし、いつかその心の傷が癒えて明るい人生を送れるとは考え難い。

なんというか本当に色々な意味でやり切れない。

泣きながら静一に謝る静子がキレイなのがまた辛い……。
静一には静子の涙がこれほど美しく見えているということだ。
それだけに今後静一が抱えるであろう、静子不在の喪失感は計り知れないことが想像できる。

 

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静子は何に囚われている?

いいママになれなくてごめんね、は非常に切なかった。

実際、この物語が始まってからの静子のこれまでの歩みは基本的には”いいママ”とは言い難く、その路線のまま悲惨な末路に行き着いた。
でも、じゃあ”いいママ”ってそもそもどういうことなんだ? と思う。

大半の人は精神的に自由にはなれない。
例えば何かと比較されたり、また比較することを繰り返して悦に浸ったり疲弊したりを繰り返したりする。

 

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しかし静子はとりわけそういった傾向が強い気がする。自覚はそれほどないのに気にし過ぎだったり、こだわり過ぎだったりしないか?
上手く表現するのが難しいんだけど、自分が常に何かに囚われていることに気付けず、しかし何故苦しいのか分からないとでもいうのか……。
そうなってしまったのは彼女がこれまで育ってきた環境がヒントなのだろうけど、静子が両親から愛されなかったと感じていることや、中学生の頃から色々と抱えていたであろうことくらいしかわからないんだよなぁ。

例えば静子は静一を幼少期から溺愛していた。それは静子の中の”いいママ”としての振る舞いだったに違いない。
そして、静一が大きくなっても小さい頃と同じように溺愛する姿勢で接することはやめなかった。
これは静子自身が”いいママ”像に囚われていたことを表す振る舞いの一つではないか。

 

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これまでの静子による静一への仕打ちは、静子自身がやりたくないと思っていたのにやってしまっていたと本人からの告白があった。
詳しくないからわからないんだけど、これって何かの典型的な症状だったりするのかな?
特別な症状というより、人間の習性のようにも感じる。

たとえばダイエットしている人が食べないようにしようと思えば思うほど食べてしまうのと近いのかな?(多分違うと思うけど……^^;)

90年代初頭はすでに人の心に注目が集まっていた頃だったように思う。
静子にそういった知識に長けた先生との良い出会いがあって、自分の状態に正確に気づければ救われると思いたいが……。

ついに静一が恐れていた事態が現実のもととなってしまった。
果たしてこれから静一は、そして静子はどうなるのか。

以上、血の轍第70話のネタバレを含む感想と考察でした。

第71話に続きます。

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