血の轍 最新第69話修羅場ネタバレを含む感想と考察。怒り心頭の伯母と伯父を前にしても涼しい表情の静子。

血の轍 第7集

第69話 修羅場

第68話のおさらい

教壇からの教師の話は静一にほとんど聞こえていなかった。

静一は頭の中でしげるや伯母のことを思い返していた。
(ひとごろし親子!)
伯母は激しく自分と、そして静子を詰っている。

それに対し静一は、ゆるせない、とボソボソと呟き続けるのみ。

(ゆるせないなら、なにしてくれるん?)
静一が思い出したのが頬杖をつき、余裕の表情の静子だった。

次に思い浮かんだのは静子が手錠をかけられて警察官に連行されようとしている場面だった。
(バイバーイ。静ちゃん。)
静子は冷たい視線を静一に向ける。
(なんにもできないんべ。やっぱりパパと一緒。やくたたず。)

静一は泣きそうになりながら、必死に静子の言葉を否定する。
「……ちがう…ちがう ちがう」

 

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ホームルームが終わり、クラスメートたちが挨拶をしている際も、静一は椅子に座ったままだった。

周りの様子からようやくホームルームが終わったことを知った静一は、おもむろに立ち上がる。

学校からの帰りの道、静一は真っ白な世界を歩いていた。
「どうにかしないと はやく」
同じフレーズをブツブツと繰り返しながら家に向かう。
「どうにか…」

家の敷地に車が停まっていることに気付いた静一は急いで玄関の扉を開けて、居間に駆け込む。

散らかった居間には一郎と静子、テーブルを挟んだ対面に伯母夫婦が座っている。

伯母は静一の存在など歯牙にもかけず、睨みつけるようにして真正面の静子を見ていた。
静子も同様に伯母を見つめ返す。

 

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一郎は静一に2階に行っているようにと呼びかけようとするが、静一はそれを無視して伯母を威嚇する。
「出てけ!! 出てけよ!!!」

しかし伯母の表情は一切変わらず、静子を睨み続けている。

やめて静一、と静一を静止したのは静子だった。
静子は伯母から一切視線を外さず、静一に呼びかける。
「もう、いいから。」

「しげるを、しげるを突き落としたの? 静子さん。答えて。」

静子は伯母からの核心を突く質問を受けても、落ち着き払っていた。

一郎が、そんなことあり得ない、と静子を庇って割って入るが、伯父がそれを諫める。

 

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「答えて。」
有無を言わせぬ迫力で静子に答えを迫る伯母。

静子の反応を、静一は息を呑んで見守っていた。

やがて静子は落ち着き払った表情のままあっさり答える。
「そうだよ。」

静一は静子の自供を、まるで自分が溶けていくかのように感じながら聞いていた。

「私が落としたん。」

 

第68話の詳細は上記リンクをクリックしてくださいね。

 

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第69話 修羅場

伯母の怒り

伯母と伯父を前にあっさりと自らの罪を自白した静子。

「言ったんね。」
伯母は静子を見据えたまま確認するように呟く。

一郎は戸惑っていた。
冗談だいな? と力ない笑顔を作って静子に問いかける。

静子は何も答えない。
自身の罪を認めたにもかかわらず、その表情はどこか誇らしげですらあった。

「静一…静一はあの時…一緒にいたんだいな? 違うよな?」
一郎は何も答えない静子から質問の相手を静一に変える。
「ママが…そんなことするはずないやいな…?」

静一は今にも泣きそうな表情で一郎をじっと見返していた。
涙が溢れそうになりながら、座っている静子に視線を移す。

 

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そこには微笑を浮かべて、泰然とした態度を全く崩さない静子がいた。

「…………」
口を開くが言葉が出てこない静一の様子を、一郎はじっと見つめていた。

「一郎。」
イラついた様子の伯母が口を開く。
「冗談のわけないんべに。本人が薄情してるんべにが!」
歯を剥き出しにして、怒りを露にする伯母。
「しゃあしゃあと…私達に…嘘ついてたんね…!」

静子は視線を伏せ気味にして伯母からの罵声をすました表情で聞き流していた。
「何考えていたん!? ずっと! 腹ん中で!! 笑ってたん!? そりゃあ見舞いなんか来ないやいね!?」

静一は呆然と伯母を見つめていた。

 

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土下座強要

「そりゃあ子供もどえらいね!! ははっ!! ああ気持ち悪い!! 頭おかしいわ!!」
伯母の勢いがいくらか弱まる。
「それを…私は…心配…心配…なんかして…」

泣き始める伯母を一郎、静一は呆然と、静子はすました表情で見つめる。

「…最初っから…最初に会った時から…気持ち悪かった…!」
伯母は絞り出すように言ったかと思うと、再び怒りのボルテージを上げていく。
「仏壇に線香の一本もあげなかったいね! 何かっちゃあ『ごめんなさい』『すいません』ばっかり言って!!」
静子は伯母と目を合わせないようにわずかに視線を下に向けて、黙って伯母の心の叫びを聞いていた。
「いっつもすみっこで暗い顔して座って!! 静一にべたーってくっついてじとーって見て!!」

 

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なぜしげるがこんな目に合わなければならない、と静子に詰め寄っていく伯母を、静一は立ち尽くしたまま見ているしかできなかった。
伯母はすました表情を一向に変えない静子に怒り心頭となっていた。
「なんなんその顔は!? その態度は!! おい!!」

バンッ

沈黙を守っていた伯父が両手でテーブルを思いっきり叩いて立ち上がる。

ビクつく静一。

「…おい。」
伯父は静子を見下ろしながら続ける。
「謝れ。土下座しろ。おまえら全員だよ。」

呆然と伯父を見つめる静一と一郎。
静子は相変わらず冷静なままだった。

伯母は怒りの表情を浮かべたまま伯父に対する静子たちの反応を見ていた。

 

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「警察に行きましょう」

「おい!! 聞いてるんかい!!」
いくら凄んだところで一向に静子の表情に一切の罪悪感も感じ取れないことに業を煮やした伯父は、大きな足音を立てて静子の元に近寄ろうとする。
「この…」

「完治さん…! 違うよ落ち着いてよ!!」
静子を庇うように完治の前に立ち塞がる一郎。
「違うって…!」

完治に殴られ倒れる一郎。
静一はその光景を信じられない様子で見つめていた。

「おい!!」
完治に髪を掴み上げられ、静子は顔を歪ませる。

静一は弾かれたようにテーブルを踏み切ると、完治に飛び掛かって腕に思いっきり噛みつく。

 

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「あいだッ」
痛がる伯父。

しかしすぐさま伯母が静一の背後から腕に手を回して羽交い絞めにして完治から引きはがす。

「…く…いっいっいっいっいっいっいやっ…いやっいやっやっやっやっやっ」
静一は伯母に体の自由を奪われたまま、完治による静子への暴力を止めようと必死に、ほぼ意味を成さない言葉を繰り返していた。
「やめっやめっやめっやめっやめっやめっああぐ…ふがあがぐあおあ」

完治は掴んでいた静子の髪を床まで下ろし、静子に無理やり土下座の態勢をとらせる。
「オラッ!! 謝れ!!」

伯母に羽交い絞めにされたままの静一は、涙を浮かべて母の窮地を見ているしかなかった。
「謝れ!! 謝れ!!」

違う…、と呆然と呟く一郎。

静子は土下座の姿勢のまま、全く動揺することなく完治と伯母に申し出る。
「警察に、行きましょう。」

 

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感想

堂々としている静子

口先だけの謝罪はしない、か……。

多分、静子は全然悪いとは思っていないんだろうな。
ある意味潔い? 全く動揺していないし、完全に腹が決まっているのを感じる。
というかこの状況に対する静子の心境は「してやったり」なのかもしれないな。

これまでの物語の中で静子のセリフを追っていくと、その理由は不明だが、どうやら静子にとって伯母夫婦を含めて親類縁者が気に入らなかったのはほぼ間違いない。
しげるに関してもあの山で静一を危険な目に合わせていたし、崖から落とした結果入院する羽目になってもざまあみろといったところか。
仮にしげるが命を落としていたとしても、そこまで静子の心境に違いはなかった気がする。

さらに自分もしげるの件で警察に連行されることで強制的に現在の環境から逃げ出すことができる。これは静子にとってメリットであるようだ。

 

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静子にとって、これは望む展開だったのだろう。
ラストの伯父に強制的に土下座させられている静子の表情から、この後自分に降りかかるであろうペナルティに対する覚悟が完全に決まっているように感じる。

……しかし、ここまで腹が座っているのに日常生活において我慢を重ねなければならなかったのか。

伯母夫婦に向かって一言、「あなた方が嫌いです。もう付き合いません」、一郎には「もうこの生活に耐えられません」とでも伝えていればこんなことにはならなかったのではないか。

静子にとってはそれよりもしげるをつき落とす、つまり他者を傷つけたり、警察に捕まる方が心理的な負担が少なかったということなのか。

 

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発想がサイコパス的なんだよなあ……。
これは生来のものなのだろうか。それとも父や母との関係の中で徐々に育まれていったのだろうか。

ただ、自分を取り巻く環境、もしくはその一部に不満を抱いていて、それでもその関係を維持し続けようとして疲弊している人は決して少なくないと思う。

そういう意味では、静子の気持ちが全くわからないと切り捨てて良いのかとも思う。

静子のとった方法は最悪の下策であり、決して模倣することなどあってはならない。
しかし個人的には、自分の置かれた環境から逃げようとした末に彼女が陥ってしまった現在の状況にほんの少し、ほんの一掬いではあるけど同情の余地はあるのではないかと感じている……。
でもこれはあくまで、1話からずっと静子のことを見てきたからなのか?
まあ、約70話読んできても彼女が何を考えているのか肝心なところはわからないんだけど……。

 

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ガチギレ夫婦

怖いな~。
人生でこうやって他者から本気の怒りをぶつけられたことなんて何回もない。
それに数少ない経験にも、もはや記憶にもやがかかってしまっているくらいなんだけど、でも自分が怒りを向けられた時のことを思い出しかけてぞわっとなった。

ガチギレの描写上手すぎでしょ……。
自分の経験から近いと思ったのは、店頭販売員として働いていた時に店に怒鳴り込んできたクレーマーかな。
詳しい内容は忘れたけど、間違いなく店側が悪かったから平謝りだった。クレーム入れている人は自分が完全に正しく、相手が悪いと思っているわけで(実際その通りなんだけど)、そういう時は全く容赦がないんだよね……。まあ自分が悪かったわけではなかったから内心では運が悪いな、と思ってやり過ごしていたんだけど、それでもこの状況がいつ終わるんだ、どう終わらせるんだという絶望感はあった……。
もし自分が原因だったらどうなっていただろう。そう思うと背筋が凍る。

 

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でも静子は怒り狂う伯母を前にして泰然としていた……。
静子が完全に悪いのにこの態度というのは、何を考えているか不気味というのと同時に、そのブレない姿勢にちょっと憧れすら感じる。
何回か書いているけど、腹が座ってると思う。

しかしそんな静子の様子に、これまでずっと静観していた伯父もキれた。
伯母も怖かったけど、穏やかだった人が怒りを露にするとより一層恐怖を感じる……。
実際、止めに入った一郎を容赦なく殴り飛ばした。

伯父の「全員土下座しろ」といったり、無理やり頭を下げさせたりする様子には、自分が過去に遭遇したクレーマーを思い出して「うーん」となってしまったが、大切な一人息子をひどい目に合わせた張本人が全く悪びれずに自分の罪を告白するのを目の当たりにすればこうなるのも当然といえば当然か……。

キレていたとはいえ、伯父は噛みついてきた静一には手を出さなかった。実は理性はあるんだよな……。

タイトル通り、まさに修羅場だった。

 

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長部家はどうなる?

ひょっとしたら静子は今更警察に行ったところで警察は自分を罪に問えないと踏んでいるのだろうか。

被害者の証言と本人の自白だけで罪って確定するのかな? 物証とか第三者の証言とかは必要じゃないの? 物証はないし、第三者の証言も静一だから静子が落としたと正直には言わないんじゃないかな……。

もし静子に自分が助かる算段があって伯母夫婦に警察へ行くことを申し出ているならスゲーな……。度胸はあるし頭脳もあるってこと?

まあ、実際は静子に自分が助かる算段があるということはないだろう。
この環境から逃げ出せるなら自分がどうなってもいいというある種の捨て鉢な気持ちがあるからこその、この落ち着き様なのだと思う。

伯母が言った仏壇に線香をやらなかったって……何か仏教以外の宗教に入っているのかな?
まあこれまで描写がなかったし、それはないだろうけど……。

 

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しかし静子は自分の望み通りになって良いかもしれないけど、一郎と静一はたまったもんじゃないな。

一郎は最初から最後まで静子がなぜそんなことをしたのか全くわからないままだろうし、静一は静子を救えるのは自分だけだと考えて必死に静子に寄り添おうとしていた。

一郎も静一も完全に静子に振り回されている。
そして当の静子はおそらく被害者意識の塊……。

何とも救いようのない状況だな……。
一郎と静一は今後どうするのだろう。とりあえず引っ越しは間違いないか?

次回は伯母夫婦の車で警察に連行かな? 今回と同様に衝撃的な内容になりそう……。

以上、血の轍第69話のネタバレを含む感想と考察でした。

第70話に続きます。

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