血の轍(押見修造の漫画)の最新第42話両岸の感想(ネタバレ含む)と考察。吹石に迫られた静一の選択。静一が選んだのは……?

血の轍 第41話 吹石と静一

第42話 両岸

第41話のおさらい

吹石家から逃げてきた吹石と静一は、立体交差の短いトンネル内で隣り合って座り、雨をやり過ごしていた。

 

とっくに日は落ち、秋の夜の寒さが二人をじわじわと襲う。

 

静一は学校のジャージを着ていたが吹石は文字通り着の身着のまま、薄着で裸足だった。

 

浮かない表情でじっと地面を見つめていた静一だったが、吹石がため息をついたのをきっかけに隣に視線を送る。

 

すると、吹石は寒さで小刻みに震えている。

 

静一はそんな吹石の様子を目の当たりにして、自然にジャージの上着を脱ぎ彼女の肩にかける。

 

静一の上着をとってしまうのを断ろうとした吹石に、静一は、大丈夫、と答える。

 

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吹石は、じゃ、こうしよ、と言って立ち上がると、静一の肩にジャージをかけてその足の間に腰を下ろす。
そして静一の両手を自身の肩に回す。

 

「ああ…あったかい…」

 

静一は吹石の背中と身体を密着させた状態で、彼女がそう呟くのをうっとりとして聞いていた。

 

その後も雨は降り続く。

 

二人はずっと同じ状態でいたが、やがて吹石が泣き始める。

 

「…長部、私のこと…嫌いになった…?」
前を見たまま静一に問う吹石。

 

静一は、そんなことないよ、と吃音交じりに吹石の言葉を否定する。

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それまでずっと同じ姿勢だったが、静一の言葉をきっかけに吹石が後ろを向く。

 

「…長部。」
吹石は涙を流したまま、静一に静かに訴えかける。
「私を連れてって。遠くに…」

 

静一は突然の吹石の言葉に、何も答えられずにじっと彼女を見つめ返していた。

 

しばらく見つめ合う二人。しかしその均衡を破るように突然吹石が静一の唇に口づけをする。

 

静一は吹石にされるがままだった。

 

吹石は積極的に静一と指を絡ませ合う。

 

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静一を求め続けて、吹石はついに静一の手をとってそれを自分の胸にあてていた。
静一の左手は吹石の胸を鷲掴みする。

 

吹石は目をとろんとさせて静一に向き直る。

 

二人の唇は一瞬離れようとしなかった。

 

壁に背中をもたれていた静一は、吹石の圧力に負けるように徐々に背中を下方にずらしていき、ついに完全に地面に寝転がってしまう。

 

吹石は静一を上から見下ろして、興奮した様子で静一に妖しく呼びかける。
「長部…きて…」

 

とろけきった表情の吹石とは逆に、静一は引き攣った表情で彼女を見上げていた。

 

「はやく…」

 

吹石は静一に先を催促する。

 

その時、静一に異変が起こる。
半開きになっていた口が、どんどん大きく開いていくのだった。

 

 

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静一は目と口を開く限界まで広げて吹石を見つめていた。
その両手はまるで猫のように、肘を曲げて小さく縮こまっている。

 

静一の異様に気づき、興奮が冷めた吹石は静一にどうしたのかと問いかける。

 

静一は何も答えない。
縮こまっていた両手は胸元で小刻みに震える。

 

静一は同じ状態で天井を見つめていた。
やがてその開ききった両目が涙で覆われ、すぐに溢れていく。

第41話の詳細は上記リンクをクリックしてくださいね。

 

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第42話 両岸

帰る

短いトンネル内で吹石に迫られ押し倒された静一は、いっぱいに見開いた眼に涙を浮かべ、大口を開けて天井を見つめていた。

 

異様を呈している静一を心配そうに見つめる吹石。

 

やがて吹石は意を決して静一に覆いかぶさっていく。
「大丈夫…大丈夫だから…長部…」

 

吹石に抱き締められる静一。
曲げた腕が小刻みに震えている。

 

突然、静一は吹石の肩を強く掴み、吹石を自分の上からどかして起き上がる。
そして自分の靴を吹石の前に置いて、どうぞ、とジェスチャーする。
「……くっ……はいっ…はいっ……て……くっつ……」
口をぽかんと開けたまま、吃音交じりに吹石に靴を履くように勧める。

 

吹石は静一にどかされ、足を横に投げ出して座ったままの状態で静一を見上げていた。

 

「………」
静一は口を開けたまま吹石を見返していたが、やがて踵を返して歩き出す。

 

 

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「長部!」

 

靴下で歩いていく静一を吹石が呼び止める。
「待って…どこ…行くん?」
泣きそうな表情で訊ねる吹石。

 

静一は吹石に振り向くことなく、ぽつりと答える。
「ごめん…もう…帰る…」

 

「……どうして…? ……私…」

 

静一は吹石の縋るような言葉を目を閉じて聞いていた。

 

「私のせい…? 長部…」
歪む吹石の口元。
その頬を涙が流れていく。

 

静一は吹石を置いて駆け出していた。

 

トンネルを出て、雨の降りしきる中をひた走る。

 

トンネル内には吹石がとり残されるのだった。

 

 

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再会

トンネルから逃げるようにして出てきた静一は、相変わらず降り続く雨の中、交通量の多い橋の歩道をとぼとぼと歩いていた。

 

橋の下では増水した川が流れている。

 

ギイイッ

 

雨の音や川の音、そして通り過ぎる車の音の中、突如それらとは明らかに異なる音が響く。

 

静一の行く先に、自転車を押している人物が見える。
その人物は脇のガードレールに自転車を倒し、真っ直ぐ静一に向かってくる。

 

静一は立ち止まってその人物を見つめていた。

 

小走りに静一に向かって駆け寄って来る人物。それは静子だった。

雨の中、合羽はおろか、傘もさしていない。

 

両手を前に突き出し、顔をくしゃくしゃにして静一に近付いてく静子。
勢いそのまま静一に飛びかかるよう抱きしめていた。
そして静子は息を弾ませたまま、静一の左頬に口づけをする。

 

静一は呆然とした表情で天を見上げ、静子に口づけされるがままだった。

 

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「ごめっ…ごめんね…ママ…ひどい…ひどいことっ…」
静一の背中に回った静子の手、その右手の中指から出た血は静一の白いシャツを汚していく。
「ひどいことして…ごめんねっ…!」

 

「せいちゃんのきもち…っ わかったから…! ママ…わかったから…っ」

 

静一は身動き一つせず、静子の抱擁を受け入れていた。

 

「せいちゃんのこと…ちゃんと…見るから…っ」

 

「せいちゃんは…人間だよね…っ」

 

「ごめん…ごめんね ごめんね ごめんねぇ…っ!」

 

静一は母の悲痛な叫びを受け、口を歪めていく。
そして、ママ、とか細い声で切り出す。
「ごめんなさい…いらないって…言って…」

 

静子は静一から体を離すと、彼の顔に両手をそえて、じっとその顔を見つめる。

 

 

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感想

元鞘に収まる

ついに母と子が再会した。
静子が吹石家を訪れた時から予感はしていたけど、見事な元鞘だ。

 

静一は吹石よりも静子を選択した。
夏休みに自分の部屋で静子に誘導された結果ではない。今度は自分の心の叫びに従った結果だ。

 

もちろん、それが一概に悪いとは言い切れない。
まだ保護者を必要とする中学生という立場で無断で外泊をして、両親を始めとして迷惑をかけた。
両親にとても心配をかけたことを自覚しているならば、静一が泣いて謝罪するのは不自然ではない。
むしろ健全な成長を遂げていると思う。

 

それに吹石と一緒にずっといられるわけではない。
どうせお互いに、親から大目玉を食らうことを覚悟して帰宅しなければならなかった。

 

しょせん中学生の逃避行なんてこんな末路を辿るのが普通だろう。

 

静一も吹石もよくやったんじゃないかな? 大人になればいい思い出になるよ(?)。

 

 

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ただ、別れ際の静一の吹石への対応を見ると心配になるんだよなぁ……。

 

こんな別れ方をした彼らの仲が今後、これまで通り彼氏と彼女として保たれるのかという点はもちろん気になる。
別れ際、静一は吹石が靴を履いていないからと自分の靴を譲る気遣いを見せたことから、少なくとも吹石のことがどうでもよくなったわけではないことはわかる。ここは静一はよくやったと思う。
ただそれでも吹石からしてみれば、なぜ自分を置いていくのかという惨めな思いに襲われるのは免れないだろう。

 

ただ、今は個人的には静一を見放さずに助けようとしてくれた吹石と静一の心の距離が開くことで、静一と静子の関係がどうなっていくかということや、静一自身がおそらく自覚していないであろう母への強い依存体質をどう克服していくかの方が重要かと思う。

 

前回のラストで吹石に迫られ、過剰なまでに怯えて、萎縮してしまっている様子は明らかに異常な反応だった。
あの、まるで静子とのやりとりのなかで見せるような反応は、静一が精神的に追い詰められている様子を表しているのかな?

 

あの時、静一が静子のことを思い出していたような描写は特になかった。
それにもかかわらず吹石から迫られて、まるでアレルギーのように拒否反応を起こしたのは彼自身の問題ではないかというのは前回指摘した。
(その”彼自身の問題”の元凶は静子なんだけど)

 

 

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静一が見せたあの反応は、かなり深刻だと思うんだよなー。
1話からこれまでずっと静一は強いストレスにさらされ続けてきた。
でもその1話以前から静子によってとんでもないマザコンに育て上げられてしまっていたということではないか。
1話の時点では静子からのちょっかいを拒否してたりするんだけど、でも折に触れて静一が静子に送る熱い視線は、彼の心の深い部分が静子によって完全に侵食されていることを感じさせるものだった。

 

静一が彼女よりも母を選ぶような筋金入りのマザコンになった原因は間違いなく静子の育て方によるもの。
だから、静一がマザコンであることに関して、静一自身に罪はない。

 

個人的に、マザコン自体は母を大事にするという意味ではそう悪いことではないと思うが、それも程度問題だと思う。
どこかで母は息子の一人立ちを促してほしいし、子も母の干渉を拒否して、外に関心を向けてほしい。
でも今回の話で、ちょっと前まで少なくとも静一は母の干渉を拒否して、吹石を選ぶという路線に乗りかけていたにもかかわらず、静一は心までも見事に静子の元へ戻ってしまった。

 

心は吹石に残しつつ、しかし母に心配をかけないために帰宅する、という選択はできなかった。

 

 

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結局、静一は自分のことをおかしくしていた元凶を静子だと本能的に自覚し、一時は遠ざけることに成功していたはずだったのに、元鞘に収まってしまったわけだ。

 

元に戻ったどころか、前日の夜以前よりも母と子の間の絆が強まってないかな? これ……。
これで静子から過剰なまでの好意を示されても拒否反応が起こらなくなったなら、以前よりもマザコン具合は深まったとみてよいだろう。

 

再会してすぐ、静一は静子に抱き締められていたが、そのシャツの背中のあたりにべっとりとついた静子の指の血がまるで静子によるマーキングのように見えた。

 

「せいちゃんは…人間だよね…っ」

 

これってさりげなく本音だよなぁ。
感動の再会のどさくさで出たセリフとして、読んでてかなり違和感があった。

 

じゃあ、以前は静一のことを一体なんだと思っていたんだろうね? って話なわけで……。

 

 

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ラストページ、静子は静一からの謝罪を受けて、じっと静一を見据えている。

 

なんだかその表情が静一のことをじっと観察してるように見えた。

 

吹石家に訪ねてきた静子の憔悴した姿が演技だったとは思わないけど、親が子を心配するそれとはちょっと異なる感情がそこにあったのかな。
静子自身、親から愛情を受けて来なかったと言っているけど、今後それがもっと詳しく語られる時に、一体静子がどういう心境で静一と向き合っているのかがきちんとわかるようになるのだろうか。

 

正直、前回くらいから全く調子っぱずれなことばかり書いているような気がしてならない。
それくらい自分には正確なところを読み解くのが難しく感じている。

 

それにここまでずっと読んできたからこそ、静子や静一を異常の一言で切って捨てることに抵抗がある。理解したい。
でも考えれば考えるほど正確なところを掴めなくなっていくような感覚がある……。

 

どうやら次の更新は一号空けて、1月25日らしい。
いい機会だから、それまでにもう一度1巻から読み直すか……。

 

以上、血の轍第42話のネタバレを含む感想と考察でした。

 

第43話に続きます。

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