血の轍 最新第59話核心ネタバレを含む感想と考察。しげる落下の原因に迫る伯母。そして静一は豹変する。

第59話 核心

第58話のおさらい

静一は前のめりに倒れていくしげるを床にぶつかる前に背後から身体を抱きかかえる。

しげるは黙って、静一に抱きかかえられ続けていた。

間もなくしげるは顔を上げると、一言呟く。
「おばちゃん…?」

その言葉を受けて、静一の視界に、山登りの日に崖で見た蝶が舞い始めていた。

次の瞬間、静一はそれまで抱きかかえていたしげるの背中を思いっきり床に向けて押す。

床に強かに体を打ち付け、呻き声を上げるしげる。
泣き始めたしげるの元に、台所から伯母が駆けつける。

伯母は静一に、どうしたのか、と強い口調で問いかける。

 

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伯母の質問に静一は全く答えない。
ただ、伯母と同じ台所から出てきた静子を見つめていた。

静子もまた、静一を見返す。

やがて静一は、しげるが自分で転んだとぽつぽつと説明を始める。
そしてすぐに、静一の様子が落ち着いていく。
ひとりで、かってに転んだのだと説明する静一を伯母はじっと見つめていた。
そしてふと、自分が腕に抱いているしげるが右手を動かそうとしていることに気付く。

しげるは静一ではなく静子に向けて右手を突き出し、人差し指をさす。

しげるは明らかに、確固とした意思で何かを必死に訴えていた。

「……しげる?」
伯母はしげるの意図するところを必死で読み取ろうとしていた。
「どうしたん…?」

 

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しげるは静子を指したまま、震える口を開く。

しげるの声は中々出て来ない。しかし伯母は、しげるが必死に伝えようとしているメッセージを受け止めようとしていた。
やがて、それまでしげるを見つめていた伯母が、しげるが指をさし続けている静子へと視線を移していく。

目を見開き、静子をじっと見上げる伯母。

静子は何も言わず、しげると、彼を腕で抱く伯母を見下ろしていた。

見開いた目で静子を見上げつつ、伯母が微かに静子の名を呼ぶ。

それを受けて、静子の口はゆっくりと開く。

第58話の詳細は上記リンクをクリックしてくださいね。

 

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第59話 核心

疑い

静一に突き飛ばされたしげるは、伯母に仰向けに抱き起こされていた。

しげるは台所からやってきた静子を指さしながら呟く。
「かあ…さん…かあさん…」

何が言いたいのか、としげるの言葉を促す伯母。

「おば…ちゃんが…おばちゃんが…僕を…」

しげるを見つめたまま、静子と静一は固まっていた。

「ああ…落とさないで…落とさないで!」

静一はまるで観察しているかのような視線でしげるを見下ろしていた。

「いやだ…いやだ!!」
静子を指さしていたしげるの左手は、今度は自分を守るかのように手の平を静子に向ける。
伯母はさらにしげるにきちんと言うように促す。

 

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しかししげるは目元に左手をあて、うう、とうめき声を上げ続けるのだった。
静子も静一もひと言も発することなく、しげるに視線を集中させる。

「静子さん。」
伯母が静子に話しかける。
「こんなこと。考えたくない。言いたくない。」
伯母は、辛そうな様子のしげるを見つめたまま続ける。
「静子さん。だからそんなことないって。私を怒って。」

静子は呆然と伯母を見下ろしていた。

「静子さん。茶臼山の崖の上で、本当は何があったん?」

伯母の言葉にじっと集中する静一。

「静子さんがしげるを落としたなんてこと、ないやいね?」

静一と静子の時間が停まる。

 

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静一の怒り

呆然としていた静子だったが、徐々にその口が開いていく。

その口は大きく開き、まるで悲鳴を上げんばかりの表情になる静子。

その時、静一が静子と伯母の間に割って入るように立ち、伯母の胸を右手で思いっきり突き押しするのだった。
「だまれ!!」
その表情は怒りと憎しみに歪んでいる。
「ママをバカにするな!!」

伯母は、静一の豹変に言葉を失っていた。

 

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「ママに…ママにつらい思いさせやがって!!」
静一の伯母を詰る言葉は止まらない。
「ママがどんな思いで…おばちゃん達につきあってたと思ってるん!!」
怒りを剥き出しにする静一。
「ずっとイヤだったん!! 毎週毎週遊びに来て!!」

伯母は豹変した静一を驚いた表情で見つめる。

「カホゴカホゴって、バカにして!!」

「しげちゃんは自分で落ちたんだ!! 自業自得だ!! ふざけんな!!」

「だいっきらいだ!! おまえらなんか!!」

 

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静子の涙

伯母は完全に言葉を失っていた。
伯母はしげるの頭を自分の膝の上から床へと静かに移していた。

さきほどまでの静子を見つめる表情とはうって変わり、しげるは虚ろな視線を中空に彷徨わせていた。

まるで噴き出たように一気呵成に伯母への不満を言い切った静一は、呆然とした表情で激しく呼吸する。
その両肩に、背後に立つ静子の両手が置かれる。
それに気付き静一は静子に振り向く。

「お義姉さん…」
静子は顔を歪に変形させ、涙を浮かべていた。
「あんまりです…」
背後から、静一を静かに抱きしめる。
「哀しいです…私……」
そのまま静子は嗚咽を上げ、泣き始める。

 

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自分の顔のすぐ後ろで静子が泣いている。
静子に感応するように、静一の目にも涙が生じていた。

おもむろに立ち上がる伯母。
「静子さん。」
伯母は静子の肩に触れようと右手を伸ばす。

しかし静子はその手を拒否するように、右手でガードする。
「帰ります。」
静一を見つめる。
「行くよ静ちゃん。」

静子は静一の手を取り、足早に伯母の家を出て行く。

静一は最後に一瞬だけ、横目で玄関で見送る伯母の顔を見た。

伯母は眉根を寄せ、神妙な面持ちで静子と静一を見送っていたのだった。

居間に残されたしげるは、虚ろな目をしたまま自分の指を口に入れる。

 

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感想

修羅場

何かすごいことになってきた。
特に静一にドン引き。ここまでするのかと。
静子を守ろうという気持ちが根底にあるにしても、それがあまりに痛々しい形で表現されている。
ただ静子にとって、静一がこうして静子の犯行を強く否定してくれたのは嬉しい……のかな?
うどん屋で見せた、しげるに引導を渡されたいという気持ちも本心のような気がするが……。

今回、伯母があの夏の日、しげるの身に起きたことの真相に気付き始めた。
これは物語のターニングポイントになるだろう。
いくら静一と静子に否定されても、もう伯母の頭の中は二人への疑いで満ちている。
というか、二人の豹変ぶりを目の当たりにしたら、かえって疑いを深めてもおかしくないけど……。

伯母の最後の表情は、まだ、静子の想いを代弁するかのような静一のマシンガンのような言葉に、意気消沈している。しげるのことよりも、今はむしろ、そっちの方が心の中を占める割合が大きいのかもしれない。
でも時間の経過とともにしげるをこんな風にしたかもしれないことが気になって仕方なくなると思う……。

次回以降、伯母の行動が非常に気になる。

 

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あと、しげるはどうか。
静子と静一と一緒にいなければしげるの記憶を刺激しないのかもしれないか、彼が今後、ふとした拍子に事故当時の詳細な状況を証言する可能性もある。

元々、静子と静一の生活は内部から軋み、崩れつつあった。しかしここにきて伯母という外部からの力により粉々に崩壊する可能性が現実味を帯びてきた。

静一にしても静子にしても、今回の伯母を前にした態度には全く余裕がなかった。
もし自分が伯母ならば、今は静一の言葉がショックで頭がいっぱいだったとしても、いずれ二人の態度が追い詰められた人間の態度だったのではないのかと判断するだろう。
特に静子に関しては、例の見る者を不安にする、不自然に歪んだ表情が出た。これは彼女が心の底から追いつめられると出るのか?

 

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これは明らかに異常な表情として描かれているよな……。押見先生は普通の泣き顔描けるはず。それをわざわざこの不安定な表情にしているのは必ず意味がある。

今回のように、伯母が静子の犯行を疑うようになるという状況は、前回の終わり方から予測できたことではある。

いや、考えてみればもっと前から、そもそもしげるが死なずに生きていたという時点で、こういう局面が来るのではないかとは思っていた。

しかし、いざ伯母の口から静子を問い質すシーンを見ると、ここまで物語を追ってきた読者としては「いよいよ来たか」というある種の感慨が湧くのではないだろうか。

 

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伯母

ここから静子と静一、それに吹石が主だったストーリーに、伯母が存在感を発揮するようになってくると思う。

伯母はこれまで、長部家にとってちょっと迷惑な親類、そして事故に遭った息子の回復を健気に信じ続ける母として描かれてきたが、今回の話以降、静子と静一の明確な敵になったと言ってよいだろう。
まだ、実は自分たちが静子と静一から内心は邪険にされていたというショックが大きいようだけど、すぐにしげるの件に心がフォーカスするようになると思う。

警察に相談に行ったり、一郎に静子の様子を訊ねたり、再び静子に直接問い質したりするのではないか。伯母による独自調査はもう避けられないんじゃないかな。

特に一郎からあの夏以降の静子や静一の様子を聞いたなら、いよいよ伯母は静子の犯行に確信を持つようになるのではないか。

静子が一郎に見せた豹変ぶり、静一の吃音……、あの日を境に変わったことがいくつもあるからだ。

一郎自身は、静子がおかしくなっても、静一が吃音に苦しんでいてもそこまで気にしている風ではなかった。しかし静子に疑いを持つようになった伯母であれば二人の身に起きた変化やその時期から、しげるへの犯行との因果関係を直感的に確信するのではないか。

 

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思えば、伯母の印象は、この物語開始当初からどんどん変わっていったなぁ。

登場当初の印象は本人に自覚がないタイプの嫌な感じの親戚で、しげるの事故後は静一と静子への態度がだいぶ軟化して良い人へと印象が変化した。
そして変化した評価がそのまま固定され、実はむしろ後者の評価こそが、世間からの彼女への評価に近いのではないかと少なくとも自分は思うようになった。

いくら世間からの評価は良くても、なんだか好きではないなー、と感じる人が誰でもいるんじゃないかな。

静子は伯母にずけずけと来られるのが嫌だった。でも夫である一郎の姉に対してそれをおくびにも出すことが出来ず、表面上は何でもないようなフリをしていた。それどころか、喜んでいる風さえ装ってしまうことで、よりストレスが蓄積していったのではないか。

 

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この場合、伯母には一切悪気がないのが、人間関係の恐ろしいところだと思う。

おそらく伯母は、静子に対して終始好意的なつもりだったと思う。
過保護云々は愛のあるイジリであり、そこに悪意はなかった。
そしてだからこそ、まさか自分が静子から嫌がられているとは夢にも思っていなかった。
そう信じ切っていたから、静子の自分への態度が演技であることを一切察することが出来なかった。

静子がもう少し演技が下手で、その態度から伯母への嫌悪を少しでも滲ませていたなら、伯母はそれを感じ取って、しげると一緒に静子の元に何度も足を運ばなかったのかもしれない。

静子に、もうちょっと上手に伯母と距離をとる方法がなかったのかな……。

 

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静一にドン引き

しかし今回の静一の行動は全く事前の予測にはなかったわ……。
まさか伯母を突き飛ばすとは……。
前回、無防備なしげるを力いっぱい突き飛ばした時点で、静一の容赦のない攻撃性は静子を苦しめる者全員に向くと考えておくべきだったのだろう。

それにしても、伯母を突き飛ばすだけに留まらず、その後、タガが外れたように伯母を勢いよく詰る様子は衝撃的だったわ。
そこまで言っちゃっていいの? と終始ドン引きだった。
以前、一郎と一緒にしげるの見舞いに来た静一に伯母が終始優しく接していたシーンと、今回の静一の伯母に対するヒドイ仕打ちを対比してしまい、伯母が可哀そうで仕方なかった。
これまで静子が感じていて言えなかったこと、サブタイトル通り、その核心を洗いざらい静一が自分の気持ちものせつつ代弁し切ったという感じだった。

 

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アオリ文にあるように、まさに「覚醒」と呼ぶにふさわしい態度だったように思う。

静子を守るために、ここまで修羅になれるとは……。
前回の静一にも驚いたけど、今回はそれ以上の驚きだった。

確かに静一は吹石の元から逃げて静子と一緒に帰宅したあの夜、静子が一番だと心の底から忠誠を誓ったけど、それは彼の本心からのものだったことを改めて感じる。
吹石を手ひどく振った際にそれはわかっていたことだった。しかしまさか伯母に対してもこんな異常な攻撃性を発揮するほどのものだったとは……。

これまで静子が感じていて言えなかったことを静一が代弁したという感じだった。

静一が健気にも静子を守ろうとしているんだけど、異常性ばかりが目立ってしまう。

今後の静子と静一がどうなっていくか不安だ。

 

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今回の件で二人の絆はより強くなったと思われる。
しかし世間の常識からは順調にズレていっているだろう。

かといって、このまま特に何もなく日々が過ぎていったとして、静子と静一が現在の共依存関係をより深めていくだけだとしたら、それもまたバッドエンドでしかない……。

静子は良いかもしれないけど、静一がもうどうしようもなくなってしまう。
仮に嫁さんをもらっても、優先するのは間違いなく静子だったとしたら、それでまともに家庭が維持できるのかどうか……。

とりあえず、果たして次回以降、伯母はどう動くのか。

以上、血の轍 第59話のネタバレを含む感想と考察でした。

第60話に続きます。

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