血の轍 最新第61話半熟ネタバレを含む感想と考察。恋人同士のような関係の静子と静一。

第61話 半熟

第60話のおさらい

他の乗客がいないバスに乗り、静子と静一は帰路についていた。

静一は隣の静子が黙って窓の外を見ているのを見て、目を伏せる。

しかし静子は窓の方を向いたまま、実は伯母にしげるを突き落としたとウソを告白しようと思ったと静一に切り出す。

しかし静一が自分の代わりに伯母にあんなこと言うから、と静子が言ったところで、静一はか細い声でごめんなさいと謝罪する。

しかし、どうして謝るん? と静子は静一の方に向き直る。

静子は静一に、静一はパパとは違うと言って謝罪する。そしてママの気持ちを言ってくれてありがとうと感謝の意を伝えるのだった。

静子は涙を流して、笑顔を浮かべていた。

二人は自然に向き合い、抱きしめ合うのだった。

 

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伯母のところに静子と静一を迎えに行っていた一郎は車で帰宅し、家に入ると居間から灯りと楽しげな笑い声が漏れていることに気付く。

伯母から、すでに二人が帰ったと説明を受けていた一郎は、伯母の様子がおかしかったのはどういうわけだと言いながら居間に向かう。

しかし、居間の光景に言葉を失う。

まるで恋人の様に、静子が静一に食事を食べさせていた。

静一は何一つ疑問に感じた様子もなく、満足そうに食事を頬張っている。

 

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そしてまた笑いあう二人の様子を、一郎は今の入り口に立って呆然と見つめていた。

しかし、すぐに、おい、と声をかける。

それでようやく静子と静一は一郎の方に視線を向ける。
二人の表情からは、直前までの笑顔は完全に消えていた。

「ああ…パパのぶんないから。外に飲みにでも行ったら?」

思わぬ静子からの一言に、一郎は愕然とするばかりだった。
そして静子のかたわらでやはり静子と同様に自分を見つめる静一の、濁った視線に気づき、それまで呆然としていたのが苦々しい表情に変わる。
「何なんなん? それ…」

一郎から問われても、静子と静一の表情は一切変わらない。

 

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「もう…やだよ。オレはもう、やだよこんな家!!」
耐えきれなくなったように、一郎はドタドタと元来た玄関の方へと去っていく。

しかし静子と静一は全く一郎のことを気にしていなかった。

それどころか静子は、出てったよ、と楽しそうに笑いだす。
「バッカじゃねぇん? あいつ!」

楽しそうな静子に同調して、静一も笑っていた。
「ハハハッ 出てったね。」

そう言って、静子は静一に身体を寄せる。

ゴミが散乱して汚れ切った居間で、静一は静子は笑い続けていた。

第60話の詳細は上記リンクをクリックしてくださいね。

 

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第61話 半熟

幸せな朝の時間

静子に起こされ、目を覚ます静一。

静子は右手を静一の額にそっと乗せている。
「静ちゃん。おはよう。」
静子は目を細める。

静子は、おはよう、と返した静一の首に手をまわし、ぐっと顔を寄せる。
「あー! かわいい!」
お互いの顔を間近にしながら、決して視線を離すことなく静子は静一に呼びかける。
「せーいちゃん。朝はん何食べる?」

何でもいいよ? という静子に対して、静一はうっとりと静子を見つめながら、肉まんでいい、と答える。

「んもー!」
静子はぎゅっと静一を抱きしめる。

静一は静子を引き剥がそうとせず、母から立ち上る芳香に陶然としていた。

静子は目玉焼きを提案し、黄身の固さを問う。

 

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「……やわらかいん……」

「うふっ。」
笑みを浮かべながら静一の頬に、ぷに、と人差し指の先を埋める静子。
「わかった。」

ごちゃごちゃに散らかった居間で、静子はお茶碗のご飯の上に乗せた半熟の目玉焼きの黄身を潰す。

静一が食べている様子をじっと見つめていた静子が問いかける。
「おいしーい?」

「うん。」
穏やかに答える静一。

静子から勧められるままに、しらすぼしをご飯に乗せる。

二人は穏やかな笑みを浮かべて見つめしばし合う。

「このままずーっと、2人っきりで行こうね。ずーーーっと……」

口角を引き上げて、笑みで返事をする静一。

 

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猫の死体

ざわつく教室。

吹石は静一の方を全く気にする様子も無く、前の席の女の子と会話をしている。

静一はトイレに来ていた。
用を済ませて洗面台で手を洗う。

そしてふと顔を上げ、鏡に映った自分の顔を見つめる。

自分の笑顔をチェックするように、ゆっくりと笑みを浮かべる静一。

「オイーー!!」
突然静一の両肩に手を置き、背後から現れたのは小倉だった。
「なーに鏡見つめて笑ってるん!? ナルシストかよ!」

小倉の背後にいる連れの二人の内の一人が言う。
「なあ オレらが長部の髪セットしてやるんべ!」

おーいいね! と小倉。

「ホラ! じっとしてろよ!」
静一の頭に手を伸ばす。

 

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静一の髪を横分けにしていく小倉たち。

「あっ いいねー!」

「もっと立たせろ立たせろ!」

静一は抵抗しない。ただ呆然とした表情で鏡を見ていた。

「水でぬらせ ほら!」

「よし! おまえ左側な!」

静一の頭が水にぬれていく。
しずくが額を滴り落ちる。

「ダハハハ いい感じで立ってきたで!」

「ナイス! あっ せっけん使えばいいんじゃねぇん!?」

楽しそうに笑う小倉。
「おー最高! めっちゃいい! 長部 かっこいいぞ!」

 

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静一は小倉の表情が、自分に対する静子の態度を過保護だと揶揄った時のしげるの表情と重なって見えていた。

「ばん!」
指で銃の形を作って撃つ真似をする静一。

しげるは顔から血を流し、虚ろな表情で自らの血で出来た血だまりの中に倒れていた。
その姿は、顔はしげるだが、それ以外は猫という異形の生物だった。

しげるの隣には、同じく血を流し倒れている伯母。
伯母も顔以外は猫だった。

その後ろにも猫の胴体で顔は人間という異形の生物の死体が続く。

一郎、伯父、小倉たち、祖父、祖母……。

死体はまだまだ遥か後方まで続いている。

小倉たちの手により逆立てられた髪。

それを鏡で見つめている静一の表情は、さきほどよりも引き攣り始めていた。

 

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感想

まるで恋人同士の静子と静一

朝、静子が静一を起こすシーンは、ここまでの話の中で何度も描写されてきた。

その中でもダントツのベタベタ具合だ。
付き合い始めの恋人同士でもここまではいかないだろうというレベルでイチャイチャしている……。

お互いに心の底から幸せそうだ。

うん……。なんというか、もうこのままでいいんじゃないか?

静一の今後の人生が心配でしかないが、静一自身はもうこの状態から脱するつもりは一ミリもないようだし、放っておくしかない。

長部家にはもはや干渉する他人がほぼ存在しない状態になっているが、そもそも他所の家庭の内情に誰が口を挟めるだろう?

静子は朝食を作ると言った。何でもいいよ、と。

これは今までの静子とは全く異なる。

 

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これまでは肉まんかあんまんかを選ばせることが多かった。

あまり料理は得意じゃない、もしくは好きではないのかなと思っていた。

しかし今回はオーダーされれば何でも作るのだという。

静子は前回伯母の家で静一に守られて、よほどうれしかったのだろう。

これはおそらく、静子が愛情を最大限発揮した際に見せる態度の一つなのだろう。

静一への接し方は親と子の関係を越え、まるで付き合い始めたばかりの恋人同士だ。

おそらく静子が一郎に求めていたのは前回静一が伯母に静子の気持ちを代弁したようなことだったのだろう。

静子は自分よりも親族の肩を持つ一郎に対して明らかにフラストレーションを抱いていた。
でも結婚したのだから、最初は今回静一に行ったような態度を見せていた時があったのかな……。

しかし次第に自分の期待を裏切り続ける一郎に絶望するようになり、期待すらしなくなったのだろう……。

 

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一郎がおかしいわけではない。
親族が明らかにヤバイ人、おかしい人ではないなら、完全にないがしろすることなど普通は出来ない。

でも静子は一郎に対して、前回静一が行ったような100%味方であることを求めていたのではないか。

一郎が出来なかったことを、息子である静一が実現した。

自分の期待に応えてくれて、完全に自分の味方になってくれて嬉しいと言うことなのかと思った。

吹石家の玄関先で、親に愛されたことがなかったと明言した静子。

愛に飢えているからこそ、おかしなことになっているのか。

それとも、それはひとつのきっかけに過ぎず、元からおかしいのか。

とりあえず静子と静一の蜜月関係は、たとえば警察などの横槍が無い限りはしばらくは盤石っぽい。

静子はまだいいかもしれないけど、まだ成長期にある静一はどうなるんだろう……。

 

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吹石は静一への関心を失ったのか?

唯一、静一をこの静子から救いだしてくれるかもしれなかった吹石は、静一が自ら遠ざけてしまった。
静子に絶対の忠誠を誓うため、静一ははっきりと静子を選んだ。吹石は拒否された。

しかし騒がしい教室の中で、吹石の横顔がクローズアップされる描写があった。

これは、静一は吹石を気にして視線を送っているが、吹石はもう以前の様には静一に積極的に関心を示さないようになったということを表わしているのだろうか?

吹石の反応に関しては、静一にあれほどひどいことを言われた以上、当然と言えば当然。

夏休み明け、始業式の帰りに静一の様子がおかしいことに気付き、さらにそれが静子によるものではないかと直観できるほど静一のことをよく見てくれていた女の子、吹石。

逃げ込んだトンネルではちょっと暴走気味ではあったけど、本当に一心に静一のことを好きでいてくれていたんだよな~。

もし静一がこのまま静子に忠誠を誓い続けて、大人になっても他の女性と付き合うことなく生きていくとする。

そしてふと、自分の置かれた状況、そしてこれまで過ごしてきた人生を、いつまでも静子にベッタリの自分がおかしいのではないかという客観性を持って見つめられるようになった時、果たして中学時代の吹石のことをどう思い出すのだろうか。

 

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静一の身になって想像すると恐ろしい。
過去の自分はなんてもったいないことをしてしまったのか、と激しく後悔し、そして吹石にひどいことをしてしまったと自責の念に駆られるのではないか。

今は静一は静子からの愛を一身に受けられる立場になって大満足だが、いつか目が覚める時は来ると思う……。

でも気づいた時は何もかも遅いんだよなー。

ただ、吹石の横顔から伺えるその表情は、どこか浮かないように見える。
これはひょっとして、まだ静一に未練があるのかもしれないなと感じた。

もし吹石がまだ静一を想っていて、接触の機会を図っているとしたら、今の静一にとっては今はありがた迷惑かもしれないけど、読者である自分は応援する……かな。
まぁ、他にも良い男はいるよと言ってあげたいが、静一はある意味静子に洗脳されている状態ともいえるから助けてあげて欲しい……。でも半分くらいは、もう放っておけよとも思う(笑)。

 

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いや、うーん……。吹石がもし静一への関心を持ち続けているとしたら、好きというより、あんなヒドイ形で振られてしまったからこそ、執着してしまっているのかもしれない。

あんな仕打ちを受けたにも関わらずまだ静一に気持ちが向いているというのは、よっぽど好きか、それとも好きという感情を通り越している。

ただなんにせよ、もし吹石が静一を諦めていないのであれば、静一を今の状態から救える可能性がある。
静子との蜜月関係を楽しんでいる真っ最中の静一にとってみれば、今は吹石に迫られても迷惑なだけかもしれないが、静一の人生を通して見たら彼自身にとってこんなありがたいことはないと思うから……。

吹石がまだ静一を気にしている方が物語が動いて面白いし、ぜひ吹石が静一に接触することを期待したい。

 

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静一の妄想

これまでちょくちょく静一に対してちょっかいを出していた比留間、小倉、酒井の三人組。

そもそもこの三人組は、1話時点ですでに静一をいじめていた。
正確には、静一をよってたかって3人で揶揄うという、明らかないじめの前兆があった。

そのシーンが妙に印象的だったから、今回のトイレでの静一への傍若無人な振る舞いも全く意外ではない。

むしろ1話の時点から読者に、今後静一が彼らからいじめを受けるだろうと危惧させるような描写だった。あれは明らかに狙ってそういう描写にしていたと思う。

今回のトイレ内で三人組に絡まれる静一に、自分の学生時代を重ねてしまう人もいるんだろうな……。暴力には発展しなくても、こういう揶揄いにはその場できちんと対処できないと後から思い出してムカムカしてくるもの。
トラウマとまでは言わないけど、なんだろう……つまりは自尊心を傷つけられるんだな。

 

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こういう仕打ちに対し、あとから想像の中で相手に対して暴力で反撃するといった後ろ暗い妄想に浸っていた人もいたんじゃないだろうか。

しかし次回、静一に関してはひょっとしたらそれが妄想では終わらず、実現させてしまうかもしれない。
そういえば静一には、三人組に揶揄われて、キレて教卓の側面の板を蹴り破った過去があったっけ。

そう考えるとやはり静一はかなりヤバイ状態だろう。
ニヤついた彼らの顔を、自分の事を揶揄ってくるしげるの顔を重ねているのは、伯母の家でしげるや伯母を突き飛ばしたことを考えれば、キレる前兆じゃないのか。

脳内で起こっている妄想も、その内容が怖い。
猫の胴体にしげるの顔という異形の生物に人差し指だけを伸ばして作った銃口で「ばん」と撃つ静一……。

 

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さらにしげるに限らず、自分と静子の中を邪魔したりバカにしたりしてきた人間全ての胴体が猫で、一匹残らず血を流して息絶えている。

この妄想は完全にイカれてる。かなり危険な想像だと思う。
横たわっている顔は人間で胴体は猫の姿の死体の数があまりにも多過ぎる……。一体何人、いや何匹脳内で殺してるんだ……。

自分と母の関係をバカにする奴は許さないということだろうな。

静一はもともと、自分に対する静子の振る舞いが過保護だと揶揄されてイラついていた。
2話でしげるに過保護だと言われた時、静一はそれに対して戸惑ってはいたのものの、怒りを見せずに流していた。

しかし今は静子との結びつきが強くなり、いよいよこの神聖な関係を穢す者が許せなくなったのだろうか……。

教卓を破壊した時と同じで、今の静一には破壊衝動が身体を駆け巡っているのだとすれば……今回破壊するのは何だろう。

次回、静一がどう行動するのか。

以上、血の轍第61話のネタバレを含む感想と考察でした。

第62話に続きます。

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