第154話 突破口
目次
第153話 臆病のおさらい
エマの一歩も退かない説得
儀祭の間に到着したエマとレイは、部屋の奥でしゃがんでいるノーマンたちの姿を見つける。
それに気づいたノーマンは二人が無事に戻って来たことを喜ぶも、既に鬼や鬼の統治者たちを全て殺し合わせ、殺害したと二人に告げるのだった。
部屋の床を埋めつくす鬼の死骸の中に、子供用の小さな仮面を見つけてエマの表情が一気に強張る。
ノーマンに”約束”が結べたこと、食用児全員で人間の世界へ逃げられることを告げるエマ。
「もう戦わなくていいんだよ ね 今からでも”絶滅”なんてやめよう」
しかし、もう遅い、とノーマン。
何千年と続いた王政だったが、もうそれを率いる鬼は全て殺してしまったので、今後鬼の統治は不可能。
つまり和平はありえないと淡々と続ける。
「イヴェルクは僕が殺した」
エマとレイは言葉を失っていた。
ノーマンは、これを鬼の社会に入った致命的な亀裂だとして、鬼の絶滅まであと一息であり、後戻りは出来ないと主張するのだった。
「絶滅しかないんだよエマ 邪魔をしないで」
「やだ」
さきほどとは打って変わって強気になるエマ。
エマは戦わなくてもいいのに殺戮や戦争を行う意味がわからない、絶滅は嫌で、ノーマンを殺戮者にするのはもっと嫌だとノーマンに対抗するように主張する。
そして、遅すぎることはない、と、もっと別の方法を無理をしてでも探すことを提案するのだった。
エマは、喋ろうとするノーマンの言葉に被せるようにして、もうノーマンに自分を殺させない、ノーマンを一人で行かせないと決めたのだと自分の気持ちを伝える。
「……何の話? 僕はどこにも行かないって言ったよね」
「ノーマンは嘘吐きだからね 信用できない!」
エマの言葉を選ばないストレートな言葉に衝撃を受けるシスロとヴィンセント。
そう何度も騙されない、全てお見通しだとムキになるエマ。
そして以前、ノーマンに辛くないのかと聞いた時のことを思い出しながら、ノーマンがあの時言い返さなかったが、本当は辛いのだろうとノーマンに呼びかける。
しかし頭がいいから確実な道を選択して、優しいから他の皆の分まで背負っているだけだと続ける。
「絶滅させたいなんて思ってない 殺戮したいなんて思ってない」
そしてエマはノーマンに、自分にまで嘘をつくなと言って、全てを話すように促すのだった。
「何を隠してるの? 何に怯えてるの?」
「怯える?」
そんなバカなという表情でノーマンが短く問い返す。
「私には今のノーマン 怖くて震えてる小さな子供に見える」
自覚
ノーマンはエマの言葉で確かにずっと怖かったと自覚する。
ラムダで一人、出荷に怯えつつ、得体の知れない薬や実験を受け続けていた。
しかしそんな境遇にあっても、ノーマンはもう一度エマやレイ、そしてみんなに会うのだという希望を絶やすことなく懸命に生きていたのだった。
実験を受け続けて、突然、原因不明の嘔吐に苦しむこともあったが、ノーマンは希望のために手段を選ばずに生き延びた。
(僕は強い 大丈夫)
ラムダから脱出し、各地の農園を潰したり鬼を殺したりする日々が続く。
(大丈夫 お前は勝てる 闘える)
そして今日に至る。
(あと少し)
「来ないで」
近付いて来ようとするエマに手の平を向けるノーマン。
「ここまで来たんだ 引き返すつもりはない」
「いやだ」
エマは即答する。
「今度は絶対行かせない!!」
そう言うと、ノーマンに向けて駆け寄っていく。
(ああ 僕は怖い)
(鬼が怖い 人間の世界(知らない世界)が怖い)
(僕の甘さゆえにエマやレイや皆が殺されるのが怖い)
(怖い)
エマはノーマンの手をとってノーマンを見つめる。
助けて
ノーマンは、自分がエマの言う通り、怖いからこそ確実な道を選び、全てを一人で背負っているのだと自覚するのだった。
「ノーマンは誰より強くて優しいけど同じくらい臆病で傲慢だ!!」
そしてもう一人ではない、私たちを信じて、とエマはあらゆる苦しみを自分たちに分けて欲しい、背負わせて欲しいとノーマンに懸命に呼びかける。
カッコつけんな、抱えんな、とレイ。
「全部吐き出せ!」
「守ってくれなくていい 私はノーマンの隣を歩きたい!!」
レイは、たとえ結果がどうなろうとも、家族で兄弟で親友のノーマンが苦しむ未来を望んでいないと言って、ノーマンに問いかける。
「なぁお前は? どうしたい? どう”したい”んだノーマン」
自分はもう後戻りできないところにいる、とノーマンは俯く。
「エマ達の隣を歩くなんてできないんだ」
そしてノーマンは、自分がここまで来るのに何をしてきたのかを二人は知らないと、自分と二人の間にある溝を感じていた。
「知ってるよ」
まるで自分の心を読んでいるかのようなエマの言葉にはっとするノーマン。
エマとレイは、ノーマンたちが行った城下への毒の散布やムジカ達の殺害指令、地下での実験のことなど全てを知った上で話していると言った上で、明るく前向きな態度で続ける。
「遅いなんてことはない 全部一緒に何とかしよう!!」
それがノーマンの本心なら弱くてもいいとエマは畳みかけるようにノーマンを説得する。
「一緒に生きよう! ノーマン!! 今度こそ!!」
エマとレイは揃ってノーマンに手を伸べる。
それまでのノーマンの心象風景は何もかもが滅茶苦茶に破壊された荒地の中でフードを被って俯き、たった一人で歩くというものだった。
しかし次の瞬間、ノーマンは二人の説得に応じるように、フードをとって二人に抱き着いていた。
(ああ 生きたい)
(生きたい 生きたい 僕は)
(エマやレイと一緒に)
「でも…やっぱり無理なんだ」
床に崩れ落ちるノーマン。
「僕らは…もう長くは生きられない…生きられない」
その言葉にはっとするヴィンセントたち。
「……けて」
微かな声のあと、はっきりと言い直すノーマン。
「助けて」
その目から涙が零れる。
「エマ…レイ」
第153話 臆病の振り返り感想
薬物の影響か
やはり実験の影響で、ノーマンを含めたラムダの実験体たちの命は長くはないということなのか。
ラムダは効率的に食用児を得ようとする実験施設だった。
例えば、ノーマンや4人の側近たち以外のラムダ兵が皆一様に太っているのは、鬼が可食部を増やそうとしていたことを示している。
その副作用として、実験体は鬼とまともに戦えるくらいの超人的な能力を得た。
だがそれは本人たちが望んだことではない。
ノーマンが女王の指示によりラムダに入れられたのと同じく、シスロ、バーバラ、ヴィンセント、ザジや、今はラムダ兵として鬼と戦っている食用児も、否応なく実験体としての運命を強いられたのだ。
ノーマンを中心にラムダから逃げた実験体たちが鬼の絶滅という目的でまとまっていたのは、そもそもまとまらないと鬼の世界で生き残れないのと、鬼への恐怖、そして復讐心、あと、実験の影響により間もなく死ぬことが分かっていたから、ある種の捨て鉢になった結果でもあるんだと思う。
エマとレイは、ついにノーマンの本音を引き出した。
ノーマンの「生きたい」というシンプルな望みは叶えられるのだろうか。
今回、ノーマンの回想でノーマンが薬物を投与されていたことが明らかになった。
当初は病気の可能性も疑っていたが、おそらくはヴィンセントたちと同様に、ラムダでの薬物実験による副作用がノーマンの命を奪おうとしているようだ。
果たして、この状態のノーマンを救えるのか?
何か別の薬を飲めばOKという話ではないだろう……。
これは身体機能に限らず何にでも言えることだが、壊すことより治す(直す、あるいは作る)方がどれだけ大変かということ。
長く生きられないということは生命活動のために重要な器官が冒されているということだ。
そもそも化学的に害された身体機能を取り戻す術などあるのだろうか。
医学に詳しくないからわからないけど、日本の高度経済成長期の負の側面として誰もが習うであろう公害による患者を治すことは、現代の医療でも出来ていない。
普通に考えれば手遅れじゃないかな……。
打開策
しかしエマたちのいる世界には、まだ残された術があるんじゃないかな。
まず一番に試すとすれば、鬼の首領に会い、何とか出来ないか相談してみるとか。
ラムダの実験体となった全食用児の健康を取り戻して欲しいと頼んだらなんとかならないかな……。
鬼の首領は、彼が生きている世界と同様に、その存在自体の次元もまたエマや鬼たちと違う。
異なる次元で生きているのもそもそもおかしいし、世界の行き来を統制するとか、冷静に考えればとんでもないことを実現している。
ユリウスから代償を取り立てたりするその様などを総合すると、首領の力は神に近いように思う。
ノーマンたちの身体を治すことに対して、果たしてどんな代償を要求されるか分からないけど、一度相談してみる価値はあるんじゃないかな……。
もう首領のところへの行き方は分かっているわけだし……。
あとこれは超大穴だが、実はムジカの邪血の力が鬼のみならず人間にも良い作用をもたらすとかないかな……。
邪血の力は鬼を人肉食なしでも形質を保てるようにできるという、この物語におけるチートの存在だ。
そのインパクトは鬼の首領の力に近い。
鬼の形質を保つという効力しかないならノーマンたちには何の意味もない。
しかし邪血の力は、例えばその力を得た生命本来の能力を取り戻す効力があるならノーマンたちに有効に働くだろう。
そもそも人間と鬼とは異なる存在なわけで、普通に考えれば鬼の血が人間に良い作用をもたらすことは期待できない。
もし邪血の力が人間にも有効だったなら、ノーマンたちは殺そうとしてたムジカに命を救われるのか。
こういう話の流れは個人的に結構好きだったりする。
それでめでたしめでたしになるのではなく、さらに別の敵が出現したら面白いなぁ。
例えば人間の世界が、鬼とエマたち食用児を滅ぼそうとするとか。
一気に絶望的な話になるが、この先どうなるんだろうというハラハラ感は加速すること間違いなしだろう。
王都編が最終章の扱いみたいだけど、エマたちと鬼が組んでラートリー家が先導する人間の世界と戦うルートに突入しないかな~。
妄想が捗ったところで次回に期待。
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第154話 突破口
本心の告白
「一緒に生きよう 今度こそ!!」
ノーマンはエマとレイに抱き着いて二人の言葉を身を以て受け入れる。
しかし、自分たちはラムダの投薬により長くは生きられないと告白するのだった。
「助けてエマ…レイ…」
その告白に驚いていたのはエマとレイではなく、むしろヴィンセントたちだった。
ヴィンセントたちは、ノーマンは自分達とは違って特別なサンプルであり、実験体として投薬を受けていたなどとは夢にも思っていなかった。
しかしノーマンは、それは嘘だと答える。
確かにノーマンはラムダでヴィンセントたちとは別の場所に隔離されていた。しかしヴィンセントたちと同様の投薬実験は受けており、発作はレベル4まで進行していると告げるのだった。
ノーマンはその理由を、頼れるボスであろうとしたためだと答える。
そして、これまで騙していたことを謝罪するのだった。
これで全部吐いたか? と言うレイの問いかけに、うん、と答えるノーマン。
そしてさらにレイから、本心からしたいことは? と聞かれたノーマンは、殺さずに済むならもう誰も殺したくないと答える。
ノーマンのしたいことが、絶滅をやめる、城下に毒を撒いたことの始末をつける、ラムダ出身者たちの命を救うことを諦めない、の3つだと理解したレイが答える。
「わかった任せろ 助けてやる」
そしてノーマンから本心からしたいことを聞きだしたエマとレイはそれらを一緒に解決すると誓うのだった。
反応
「ふざけるな」
やりとりを聞いていたヴィンセントは怒りを滲ませていた。
「今更何なのだ…!」
自分たちの命よりも鬼の絶滅こそが救済であり、新しい世界を創るのだとヴィンセント。
「後には退かぬと言ったじゃないかボス…!」
ノーマンは何も言えなかった。
ヴィンセントは、絶滅計画をやめるのみならず、逆に自分たちを阻むのかとその怒りはさらに高まっていく。
「私はやめんぞ絶対に!! たとえあんたがやめても阻んでも私は――」
「もういいだろヴィンセント」
シスロがヴィンセントを諫める。
「もう十分だろ」
シスロはノーマンの苦しみや本当の気持ちに実は薄々だが気付いていたと告白する。
しかしノーマンに能力があり、優しいことを知っているのをいいことに、全てを背負わせてしまった。
そして、ノーマンもまた一人の人間であるはずなのに、鬼への復讐の道具として利用してしまったと続けるのだった。
バーバラはシスロの言葉を神妙な表情で聞いていた。
シスロは、ノーマンの好きにしていい、絶滅やめるならやめようと笑う。
「復讐よりも俺はボスが大事だ 俺はあんたについていくよ ボス」
シスロの意見に同意するバーバラとザジ。
ヴィンセントは納得しきれない表情で、しかし反論はせずに歯噛みするのだった。
希望
エマはノーマンに、ラムダの発作のことはドンとギルダから事前に聞いていたと切り出す。
ラムダの実験体全員に投薬され、その全員に発作が起こっているという話にドンとギルダは違和感を覚えていた。
「じゃあ…アダムは?」
「……え?」
その言葉に、ノーマンは唖然としていた。
「アダムには発作が起きていない」
エマは、実験体として投薬を受けていたアダムが2年前にラムダを出たにもかかわらず、それ以来まだ一度も症状が起きていないのだと説明する。
発作には個人差がある。よってまだ発作が起きていないだけでは? というシスロ。
だがヴィンセントはラムダを離れて何の処置もなしに一度も発作に襲われていないことに驚愕していた。
ノーマンもまたヴィンセントと同じように驚く。
そしてアダムだけが薬害も発作も起きていないことが何を意味しているのかに気付いていた。
ドンとギルダはすでにこの件を調べるようにアジトのアンナたちに知らせを送っていた。
エマはアダムを調べることで、ラムダの実験体たちを救う突破口があると結論するのだった。
不意
しかし王兵の大群がアジトを探しているので、のんびりしているわけにはいかないとレイ。
レイから、2日前の朝に見たあの兵はノーマンが追い払ったものだろうと聞いたノーマンは思考を巡らせる。
レイは、アジトが王兵の大群にみつかったら元も子もないと最悪の事態を指摘するのだった。
「早く王都を出てアジトに戻った方がいい」
城下の混乱も何とかしてだけど、とエマ。
「ハッ…しかしどうやって?」
城下の民衆にも、王や五摂家、ギーランたちの血肉に関してもすでに毒で汚染されていると笑うヴィンセント。
「大丈夫!」
即答するエマ。
ドンとギルダがムジカ、ソンジュと共に城下の被害を抑えていると続ける。
ドンとギルダが邪血を発見し、城下に来ていることにノーマンとシスロは驚いていた。
エマはノーマンに、自分とレイは王都の残って城下の毒に対処し、ノーマンたちはすぐに引き返してアジトを守ることを提案する。
その提案を受け入れるノーマン。
シスロは女王の爪により重傷を負ったバーバラを心配していた。
バーバラは苦しそうにしながらも、強気を崩さない。
「ラムダをナメるなよ 意地でもくたばるもんか…!!」
早速ノーマンは今後の指示を側近たちに対して行う。
鬼の絶滅計画を止めることに納得しきれない様子を見せつつも、ヴィンセントはノーマンから脱出経路の確保を指示を了承するのだった。
「でも…なんでバレたんだ王都の兵…」
バーバラの呟きにノーマンが応じる。
「それは恐らく――」
次の瞬間、ノーマンの背後に死んだはずの女王が立っていた。
(え)
背に妙な気配を感じるノーマン。
しかし女王はノーマンの不意を突いて襲い掛かる。
「ボスー!」
食われようとしているノーマンを守ろうとシスロが駆け寄る。
第154話 突破口の感想
女王の逆襲
色々と希望が見えてきたと思ったらこの展開!
女王の身体が動いたのは、筋肉の反射とかじゃないよな……。
やはりこれは、生きていたということなのか。
弱点部位の目の破壊は鬼を殺すんじゃなかったのか?
まさか女王が特別な個体ということもないと思うけど。
これでノーマンが死ぬなんて展開はカンベンしてほしい。
トラウマもいいとこ。
この一撃目はかわすと思う。
でもこの女王との戦いで誰かが犠牲になりそうな感じがする。
今回の話の流れだとシスロかな……。
シスロ良い奴過ぎる。でもフラグっぽいんだよな~。
最後のページでノーマンに駆け寄ろうとしているのはシスロだし、一撃目は彼が代わりに受けるんじゃないだろうか。
もしそうなったらヴィンセントがノーマンに反旗翻して、鬼の絶滅を推し進めそう。
いつも冷静なヴィンセントが、実は最も鬼への復讐に執着していたとは……。
女王が生きていたといっても、致命傷を受けていていずれ死ぬのか?
もし普通に生き延びることができるのだとしたら、鬼の社会を統治できる存在は生き残っていたことになるわけだけど……。
ただ女王は顔を半分失って、正気を失っているように思う。
女王の身体を動かしているのは本能ではないか。
特にノーマンに対しては強い執着を抱いていたし、それが女王を突き動かしたというならちょっと納得できてしまう。
それに元々自分の欲望に忠実だった。
エマたちの話に耳を傾けるとはとても思えないんだが……。
次号は女王との戦いかな?
それとも死にゆく女王が最期の力を振り絞って襲ったということなのだろうか。
だとすれば、その犠牲は誰になるのか。
治療法が見つかる?
ラムダの実験体にもかかわらず何の処置もなしに発作を起こしていないというアダムの存在はノーマンたちにとって希望の光だった。
GFの子供たちはアダムの身体からその原因を特定出来るのか。
もし原因が特定出来て、それがノーマンたちにも処置が施せるとしたら子供たちがすごすぎ。
アダムとノーマンたちとで最も大きな違いは猟場に送られたかどうかではないだろうか。
もしかしたら猟場に送られる前に鬼から何らかの処置を受けていたのかな……?
色々と妄想が進んでしまう。早いところ答えが知りたい。
とりあえず次号、女王の不意打ちがどうなったか気になって仕方ない。
次号の発売を楽しみに待つことにしよう。
以上、約束のネバーランド第154話のネタバレを含む感想と考察でした。
第155話に続きます。
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