第137話 思い出して
第136話のおさらい
静子は静一が生まれた後、静一に愛情を注いでいた。
その愛に応えるて、愛らしく成長していく静一。
ある日、静子は突然、ふと、静子にとって”あの場所”である高台に行こうと思い立ち、静一の手を引いて高台を登る。
町を見下ろす高台で、静子は静一の小さな体をもちあげる。
そこから曖昧になっていく静子の記憶だったが、それまでじっと静子の話を聞いていた静一は、静子に現在の状況の報告を求める。
それを受けて、静子は静一に問いかける。
「わたしは、あなたをころした?」
幼い静一は、うん、と答える。
「あなたは、ころした。」
第137話 思い出して
ずっと静子の過去の話を聞いてきて、一体どうなるのかと思ったけど、これはまさかの親子関係の改善ではないのか。お互いの立場や気持ちの理解が進んだ……!
静一は静子の過去を知り、なぜ静子が自分やしげるに対して凶行を行ったのかについて、ひとつの理解を示した。
そして静子もまた、自分が静一たちに何をしてきたのかについて振り返り、自覚する機会を得たことで、静一に謝罪するに至った。
実に20年以上の時を経て、互いの関係はようやく一歩進んだのか……。
公衆の面前で子供を捨て、その後の人生を寂しく送った静子。
静子を憎み、怯えながら、いつか来る自らの死を待つだけの、静かな絶望の日々を送る静一。
もはやわかりあうことなどあり得ない状況だったはずの二人の人生が、ひょんなことから交わり、そして今、互いに一つの理解に至ったというのは奇跡的なことと言って良いと思う。
ここまでこじれた関係になったら、お互い一生会わないままそれぞれの人生を終えるのが自然だろう。しかし今回、互いに雪解けとも言える状況に至った。
この奇跡の理由はなんなのか。
考えてみたけど、やはり結局は時間の成せる業なのかなと思った。距離を置いた時間が長くなるほど、人を冷静になれるということなのかな。
この二人が今回のような互いに立場の理解に至るための素地が整うまでには、完全に隔絶され、時間をおかなければならなかった。
結果論になるが、静子は静一を捨てて一人で人生を生きてきたことで、かつて自分が望んで捨てたはずの静一を、再会後しばらくは静一のことを静一と認識できなくなる程度に老いた。それに加えて、これはおそらくではあるが、一人で生きてきた間も、捨てたはずの静一のことを思い出し、恋しく思う夜を何度も越えてきたのではないか。
静一もまた、自分を捨て、人生を台無しにされたと言って良い静子のことを憎みつつも、しかしかつてのように静子との甘い時間を期待する気持ちが心の隅に確かに脈づいていた。それがあったから静子に再会したその日の内に、静子の家賃の肩代わりするという決断を行ったのだろう。
普通は自分に対して酷い扱いをしてきた親など見捨てて当然のはずだし、そこまで高給取りではないはずの立場で、全くの他人、いや、自分を苦しめてきた敵とさえ認識してきたはずの静子の生活を支援するのは、やはり愛がないと無理だ。
最終ページの見開きで、二人は並んで、同じ方向を見ている。もっと早くこうなれたら良かったんだけど、でも互いに完全に隔絶された状態での20年を経なければこの状況はなかった。
時間は人間関係の特効薬になり得るという希望を再認識させてくれたと思う。
微妙な感じで関係が切れてしまった知人と連絡をとってみようか(笑)。
以上、血の轍第137話のネタバレを含む感想と考察でした。
第138話に続きます。
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