血の轍 最新第60話私の静一ネタバレを含む感想と考察。伯母の家での一件で深まる静子と静一の絆。

第60話 私の静一

第59話のおさらい

しげるは静子を指さしながらかあさんと何度も呟いていた。

何を訴えようとしているのかを把握すべく、伯母はしげるの言葉を促す。

「おば…ちゃんが…おばちゃんが…僕を…」

しげるの言葉に、静子と静一はただただ固まっていた。

「ああ…落とさないで…落とさないで!」

しげるは、静子を指さすのを止めて、自分を守るように静子に手の平を向けていた。
その様子に、伯母はしげるにきちんと何を言いたいのか問い質す。

しかししげるは、うめき声を上げ続けるだけだった。
その間、静子も静一もひと言も発しない。

やがて伯母は、こんなことは考えたくないし言いたくないと前置きしつつ、静子に、茶臼山の崖の上で、本当は何があったのかと問うのだった。

 

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「静子さんがしげるを落としたなんてこと、ないやいね?」

核心を突く伯母の一言に、静一と静子の時間が停まる。

口を開く静子。しかし言葉は出ない。
言葉は出ないのに、口は徐々に大きく開いていく。
まるで悲鳴を上げんばかりの静子。

その時、静一が静子と伯母の間に割って入るように立つと、伯母の胸を右手で思いっきり押しす。
「だまれ!! ママをバカにするな!!」

静一の豹変に言葉を失う伯母。
静一は静子が伯母に毎週付き合うのが苦痛だったこと、カホゴだとバカにされたことに怒りを見せて、しげるが落ちたのは彼自身の落ち度なのだと主張するのだった。

静一からの思わぬ言葉に、伯母は完全に言葉を失っていた。

 

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「お義姉さん…」
静一の背後に立つ静子は、顔を歪ませて涙を浮かべていた。
「あんまりです…」
そして静子は背後から静一を抱きしめて、嗚咽を上げるのだった。

そんな静子に感応するように、静一も涙を浮かべる。

伯母は立ち上がり、静子を慰めようとして、その肩に触れようと右手を伸ばす。

しかし静子はその手を右手でガードして拒否する。
「帰ります。」

その後、間もなく静子は静一の手を取り、足早に伯母の家を出て行くのだった。

静一は玄関に立つ伯母の表情を一瞬見ていた。

神妙な面持ちで静子と静一を見送る伯母。

第59話の詳細は上記リンクをクリックしてくださいね。

 

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第60話 私の静一

伯母の家から帰るバスの車中、静子と静一は並んで座っていた。

二人の他に乗客はいない。

ちらと静子に視線を走らせる静一。
窓際の席に座る静子はそんな静一を無視して、じっと窓の外を見ている。

実は静子は窓に反射する静一の横顔をじっと見つめていた。
「ねえ、」
窓の方を向いたまま静一に声をかける。
「ママね。ゆっちゃおうかと思ったんさ。しげちゃんのことママが突き落としましたーって。」
窓に反射した静一と目を合わせる静子。
「ウソのこと。」

「…でも静ちゃんが…静ちゃんが、お義姉さんにあんなこと言うから。」

静一は目を伏せて反省した様子で呟く。
「……ごめんなさい…」

 

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「どうして謝るん?」
静一の方に向き直る静子。

静一はちらと静子の方を見る。

「パパみたいだなんて、ゆってごめんね。」

「静ちゃんは、パパとはちがう。」

「ゆってくれてありがとう。ママの気持ち。」
静子は笑顔を浮かべていた。
その目からは涙が流れている。
「うれしかった。」

二人は向き合い、身体を寄せて抱きしめ合う。

 

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「静ちゃん。」
静子は静一を抱きしめたまま愛おしそうにその名を呼ぶ。

「うん。」
静一の目からも涙が流れていた。

「静ちゃん。」
静子は目を閉じ、静一にさらに顔を寄せる。

「うん。」
目を閉じる静一。

「私の静一…」

「うん…」

身体を寄せ合ったまま、バスは走る。

 

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二人の世界

車で帰宅した一郎。

玄関のカギを開けて家の中に入る。
「ただいまー。ママー? 帰ってるん?」

返事は無い。
しかし居間からは灯りと楽しげな笑い声が漏れている。

一郎は伯母のところに車で二人を迎えに行ったが、すでに二人が帰ったと伯母から説明されていた。
その伯母の様子がおかしかったことはどういうわけだと静子に向って問いながら居間に向かう。
「何かあったんかい…」
居間の様子を見て一郎の言葉が止まる。

「あーーーん。」
静子は静一に、まるで恋人同士のように食事を食べさせていた。

満足そうに食事を頬張る静一。

そしてまた二人は笑いあう。

 

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「………」
一郎は今の入り口に立ってその光景を見ていた。
「おい。」

静子と静一はそれでようやく一郎の方を向く。
直前までの笑顔は消えていた。

「ああ…」
静子は一郎を見つめながらさらっと言い放つ。
「パパのぶんないから。外に飲みにでも行ったら?」

「え?」
一郎は静子からの思いもよらない一言に愕然としていた。
そして静子のかたわらで自分を見ている静一の、どろんと濁った視線に気づく。
「何なんなん? それ…」

静子と静一は一切表情を変えず、一郎とじっと見つめている。

 

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「もう…やだよ。」
ぽつりと呟いた後、一郎は目を剥いて吐き捨てる。
「オレはもう、やだよこんな家!!」
そしてドタドタと足早に元来た方へ去っていく。

しかし静子と静一は微動だにしていない。

玄関の扉が乱暴に閉まった音がすると、静子が笑いだす。

その様子に同調するように笑う静一。

「何あれ? 出てったよパパ? アハハ」
心底楽しそうな静子。

「ハハハッ 出てったね。」
静一も静子と同じような顔をしながら笑う。

「バッカじゃねぇん? あいつ!」
静子は静一の肩と腕にそっと手をそえる。

散らかった居間で、静一は静子と向かい合って笑い続けていた。

 

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感想

排除された一郎

静一は、静子との強固な絆を得た。

それは、静子が一郎に負ってもらいと思っていた役目を静一が見事に果たしたからだった。

静一が自分の気持ちを代わりに伯母に対してぶつけてくれたことにより、静子の気持ちは満たされたようだ。

散らかり切った部屋の中で、二人だけの世界が広がっている。
これはもはや恋人同士だ。

少なくともここにはもう一郎の居場所はない。

「バッカじゃねぇん? あいつ」と言って息子と二人で笑いあう静子に果てしない闇を感じる。
静子の合わせて、どんどん静一が歪んでいっているのがわかる。

 

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子供の前で父が母を、母が父をバカにするようなことが、子供の健全な成長に寄与するはずがない。

まさに毒親全開といった感じだ。

非常に歪な関係性を見せつけられているのだが、しかし静子の描かれ方が、彼女が精神的に満たされたからか、ここ最近で最も美しいように感じてしまう……。バスの車内で静一に見せた涙混じりの笑顔。あれは美しい。
この物語は静一の視点なので、静一が静子と精神的に繋がった喜びの感情も相まって、静子を美しく見せているのかもしれない。

そして完全に二人から疎外された一郎……。
妻と子の様子は明らかに異常だ。一郎には同情する。

ただ、静子と静一の関係性が歪んでいることは間違いないのだが、色々と複雑な気分になった。

 

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妻が親戚(自分の家族)を嫌う場合、夫としてどうするのが正解なのだろうか。

自分としては、嫌な相手、合わない相手と仲良くすることを強要されるのは絶対に嫌なので、妻が嫌だというなら無理に親戚付き合いをさせる必要はないのかなと思う。
全くそれを無くすことは無理だとしても、妻が親戚と付き合うシーンを最低限にするように配慮くらいはしたい。

一郎はどう考えていたのだろう。

そもそも静子が自分の父、母、姉を嫌っていたことを一郎は全く気付いていなかったんだよな……。
1巻の静子の親戚に対する態度を見れば、彼女がこれまでずっと演技で表面上仲良くしていたことは明らかだ。
内心嫌でも、その感情を親戚はもちろん、一郎に対しても完全な演技でおくびにもださなかった。

だから一郎が気付けなかったのはしょうがないのだが、でも何か引っかかっている。

 

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汚れた部屋

久々に登場した一郎だが、最後に見た時から一気に老けた様子で描かれていたように感じた。

一郎は夏から静子の様子の変化に戸惑い、静子からの剥き出しの感情をぶつけられても意味が分からないと嘆くだけだったが、ここに来て静子に、そして彼女と連動するようにおかしくなっていった静一にも疲れ切ってしまったようだ。

散らかった居間で二人だけの世界に浸る妻と子の様子にもううんざりだと怒りをぶつける一郎だが、その怒りは静子と静一にまるで届いていなかった。

客観的に見れば一郎がまともであり、静子とその支配下にある静一が異常なのは間違いない。

ただ、一郎が居間を掃除しようとしないことが気になっている。
これはあくまで完全に個人的な感想に過ぎないが、いくら静子が専業主婦だからといって、散らかった部屋を一切片付けようとしないというのはおかしいのではないか。

 

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これは、これまで一郎が静子に対してあまり主体的に関わって来なかったことを象徴しているのではないかと感じた。

以前はきれいだった居間が、今では異常なほど汚れ切っていることに違和感を覚えないのか?
一郎の中ではただ単に、最近静子が掃除をさぼり気味だ、くらいの感想にとどまっているのだろうか。

以前も散らかり始めた居間で普通に静一食事をしていたし、食器もテーブルに出しっぱなしだった。
一郎はこの状況をおかしいと感じていないのかな?

 

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居間が散らかり始めて以来、一郎が静子のことをまるで心配する様子が見えなかったのが気になる。

かといって「専業主婦のくせにけしからん!」的な怒りも抱いていない……。

こうなると、無関心とまではいかないが、一郎が彼女に対してまともに向き合っていないような印象を受けてしまう。

静子とまともに向き合うということは静一のように支配下に置かれるということだし、そこまでする必要はないと思うのだが、それでも一郎の様子を見ると、夫としてもう少し静子に対してやれたことがあったのではともやもやする。

これ、あまりにも静子の立場に立ち過ぎた感想なのかな……。
視点が偏っているのだろうか……。

 

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無力

今回、帰りのバスの車中で静子が静一に対して涙ながらに伝えた感謝は、本来彼女が一郎に期待していた役割を静一が見事に果たしたためだ。

それに対して一郎は、そもそも静子が伯母をはじめ、親戚を嫌っていることを見て見ぬフリをするというんじゃなく、そもそも気づいてすらいなかったように見える。
まともに静子のことを見ていなかったんじゃないか? と感じたのはそのためだ。

静子に対してその点を問い質すなり、逆に彼女に歩み寄って、静子にはあまり親戚に関わらせないように配慮するできなかったのか。

いくら静子が親戚と仲良くする演技が上手いとはいえ、一郎があまりにも鈍感で無力過ぎるように見えるのがどうしても気になる。
一郎に無茶なことを要求しているという自覚もあるんだけどな……。

今回、静子によるあまりにも一郎を軽んじる態度を受けて、ついに一郎は静子に愛想が尽きたようだ。

 

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静子がおかしくなった一端が一郎にあるとまでは言わないが……。
なんというか、難しいけど、一緒に住んでいる生涯の伴侶に関心を寄せ切れていないのは何とも寂しいな……。

自分が一郎なら、もっと前に今回のセリフを言って、もうこの家には帰らないだろう。

そのくらい、静子から色々と攻撃されていたように思うんだけどな。
吹石が静一の部屋に来た日も、始業式の日も一郎は静子に言われ放題だった。それに対して一郎は戸惑うのみ。言い返しても静子に響く言葉は一切出ず。

静子は自分の気持ちを隠すのが上手い。親戚と表面上は仲良くしているのに、内心では嫌っているという彼女の気持ちに気づくのは少なくとも自分ならかなり難しいだろうなと想像する。
一郎の立場であれば静子の本当の気持ちを察することなどできないだろう。
だから一郎にそんな無理なことを要求するつもりもないのだが、どうしてももやもやする。

 

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難しい

この物語の当初から、一郎は一貫して無力な存在として描かれてきた。
一郎と静子が結婚した当時はどういう関係性だったのかな……。

結婚に至ったということは、その時は二人とも愛し合っていたのだと思うんだけど、違うのか?

結婚当初は違うと思うが、少なくとも今の一郎には静子を魅了する魅力はないようだ。

繰り返しになるが、静子が異常なのは間違いない。
一郎が前回の静一の様に静子の心を掬い取ってやるべき! などと強弁するつもりはない。

でも夫として何か出来ることはあったのではないかと、散らかった部屋を静子や静一と一緒に放置した一郎に対して思う。

静子のことを庇うつもりはないが、部屋くらい片付けられる気がするんだけどな……と思った。

 

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散らかり切った部屋は静子がその本性を隠そうとしなくなったことと同時に、一郎が家族に対して無力であることを示しているんじゃないか?
そんな一郎が静子を満足させるためには、彼女を親や姉から距離を置く必要があるのだろう。

妻が親戚付き合いを嫌がったら、夫は可能な限りその願いに沿うようにするべきなのだろうか。
別にそれで構わないんじゃないかと思うけど、それって世間ではあまりよくないことだったりするのかな?

親戚付き合いとはほぼゼロだし、話題にもならないから、他の家の事情なんて知らないからよくわからないんだよな……。

自分の知見の狭さを痛感した。

以上、血の轍第60話のネタバレを含む感想と考察でした。

第61話に続きます。

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