第129話 猫
第128話のおさらい
静子との再会から二か月、静一は以前と変わらず、仕事をこなし、生活を続けていた。
台風が近づいてきたある日、静一はしげるの幻に導かれるようにして家を出る。
その行先は静子のアパートだった。
道中、静一は、雨が降る中、何故自分が静子に会いに行くのか、会ってどうするのかと自問自答していた。
そして今度は本当に殴って殺してしまうかもしれないが、そうなれば自分も死ねるのではないかと捨て鉢な気持ちで静子の元に向かう。
静子は、静一の目には、また以前の黒髪の若く美しい姿で縁側に座っていた。
静一は静子に頼まれ、一緒に猫を探しに向かう。
静子が何事もなかったように接してくることから、静一は、静子が自分の家賃を静一が負担していることすら忘れてしまっているのではないかと一抹の不安に駆られる。
中々猫が見つからず、外にいたら死んじゃう、私が守ってあげなきゃ、と静子が不安と焦りに襲われている様子を静一は眺めていた。
静子が、静ちゃん、どこ、と呟いたのを聞いた瞬間、静一の目に映る静子は白髪の老婆となっていた。
その時、二人の目の前に探していた白猫が姿を現す。
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いや、すごいな……。(^-^;)
客観的には20年ぶりに再会した青年とその老いた母が猫を探し歩いて、家に帰って一緒に飯を食うというただそれだけの話なんだけど、この先が全く読めん……。
ここまでの話を全て読んでいると、いつ静一が不意にキレて凶行に及んでしまうのかとか、静子がふと気を取り戻し、静一を猛烈に拒絶し始めて、やはり静一が暴力を振るい始める……なんて不穏な展開を心配せずにはいられない。
本当は静子が自分が息子だと分かっていて、ボケたフリをしているのではないかと疑う静一。そんな静一の疑念をまるで意に介さず、静一に手料理を振舞う静子。うーん。これって、駆け引きなのか?(笑) 今のところ、静子の、問答無用で静一を徐々に取り込む力が静一の静子を拒絶しようとする力に勝っているという印象を受けた。
特に静一が酒を所望し、それを飲み始めたあたりから、徐々に静子に心を許し始めているように見える。
この話の終わりでは、なんだか、この二人の間の空気がまずまず良い雰囲気になりつつあるように感じるんだけど、ひょっとしてこのまま一緒に暮らすことになるのか……? 経済的な観点から言えば同居した方が良いとは思うが、静一がまだそこまで静子を受け入れてはいないし、受け入れられないだろう。何より、静一はかつて自分の心を踏みにじり、散々な目に遭わせ、挙句の果てに自分を堂々と捨て去った静子を許せるのだろうか。
しかし静一は本当に静子をどうしたいのだろう……? それが定まっていない、いや、静一自身、きちんと定めようとしていないところが、直近の数話から漂う不安定感の根本原因としてあるのではないか。明らかに迷ってるし、戸惑っているんだよなぁ……。自分がここから静子とどう関わっていったらいいのかが本当にわからないのだと思う。
静子はただ単に、純粋に、自分を助けてくれている静一に礼をしたいだけに見えるんだけどな……。この静一と静子の非対称性が静子が優位に見えてしまっている理由だろう。
ここ数話、静子と再会して以来、静一の視界の静子がかつての若い姿、そして白髪の現在の姿と、何度も変わっている。
しかし、今回の話では特にその切り替わりの頻度が最も高い。
これは静子への拒絶と静子への愛情の狭間で揺れる静一の心を表現しているのかな……。
冷静に、静子を拒否しようという視線を静子に向けた時に白髪の現在の姿と認識できているんじゃないだろうか。
静一の視界の静一は、若い頃の姿の割合が高い。これはやはり、静一の心の奥底に息づいている静子への愛情が勝っているということなのではないだろうか。
そもそもその愛情がなければ、警察署に静子を迎えに行かないよな……。
白猫を見つけた時も、白猫の顔が静一に変わっている。白猫を抱きしめる静子は白髪の老婆ということは、静子は静一に注ぐべき愛情を白猫に注いでいることに冷めた視線を向けているということ。
静子が必死に探して保護した白猫の顔が静一の膝の上に座る。
その白猫の顔が少年時代の自分の嬉し泣きしているような顔に変わる表現もまた、つまりは静子に可愛がられている白猫の姿を、かつての自分に重ねているのではないか。
やはり静一の心の底にある静子への想いの根っこにあるのは愛情で間違いない。
静子から拒絶されたことにより受けた心の傷が現在に至るまで静一の精神を荒ませているが、果たして今後、静子との交流によってそれが癒えていくということなのか。
今後どういう展開になるのか楽しみ。
以上、血の轍第129話のネタバレを含む感想と考察でした。
第130話に続きます。
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