血の轍 最新第50話再会ネタバレを含む感想と考察。ついに静子としげるが再会する。

血の轍 第5集

第50話 再会

第49話のおさらい

静一は静子の手を両手で持ち、彼女を見上げていた。

静子は無表情で静一を見下ろしている。
「おいで。」

静一は両手を小刻みに震わせていた。

ドアが閉じるのと同時に、静子に抱きしめられる静一。

静子はさきほどとはうって変わって、静一に向って微笑みを見せる。

静一もまた静子に同調するかのように微笑む。

むに、と静一の頬を人差し指でつつく静子。
静一といちゃいちゃし始める。

すると静子の笑顔に徐々に熱が戻っていく。

 

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ふふ、と楽し気に笑う静子に同調して、へへっ、と笑う静一。

互いに笑い合い、幸せな時間を過ごしている時、雨の中を駆けてきた一郎が玄関ドアを勢いよく開く。

一郎はなぜ二人が玄関に座り込んで互いに向き合っているのかわからず、一瞬戸惑う。

しかしすぐに報告すべきことを思い出していた。
一郎は安堵の笑顔を浮かべて二人にしげるの意識が戻ったことを報告する。

伯母からの連絡で、しげるがきちんと反応したのだと言って一郎は喜んでいた。
「良かったいなあ!」

静一は、そんな一郎のことをぼけっとした様子で見つめていた。
ゆっくりと静子の方に振り返っていく。

静子の呆然とした表情からは何の感情も読み取ることができなかった。

しかし静子はすぐに歯を剥いて、目を細め、作ったような笑顔を一郎に対して見せる。

 

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静一も、静子の表情に倣うように笑顔を浮かべる。

「本当に良かった…」
一郎は心底ほっとした様子で呟いていた。
「あれから…あの山登りんときから、おかしくなっちゃったいな…みんな。」

そして翌日、家族全員でしげるの見舞いに行くことを提案する。

一郎の提案を受けて、静一は笑顔を浮かべて静子の反応をじっと待っていた。

「…うん。」
静子は微笑を浮かべていた。
「行きましょ。」

 

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「ね。静ちゃん。」

静一は静子の表情から微妙な変化を感じ取っていた。
「…うん。」
静一の顔からはさきほどまでの笑顔がほぼ消えかけている。

一郎が静一のの背後からそっと両手を伸ばしていく。
静一を間に挟んで、静子の背中にそっと手を添える。
「ハハ…良かった…」

静子は、自然な笑みを浮かべていた。

「ハハハ…」

玄関には一郎の笑い声だけが響いている。

第49話の詳細は上記リンクをクリックしてくださいね。

 

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第50話 再会

朝。

静一の部屋のドアをノックすることもなく静子が入ると、静一が寝ているベッドに腰を下ろす。

そして静一の顔にそっと手を置いて優しく呼びかける。
「静ちゃん。起きて。もう8時よ。」

静一は壁を向いて横臥している。

「パパがね。9時過ぎには出発しようって。しげちゃんとこに。」

静子の方に視線を向けることなく、横臥したまま静子の言葉の続きを聞いていた。

「朝はん。肉まんとあんまんどっちがいいん?」

「……」
静一は静子に顔を向けて答える。
「どっちでもいい。」

穏やかな笑みを湛えて、静子は静一を見つめる。
「……じゃあ、あんまんでいい?」

「うん。」

 

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移動

後部座席に座っている静一は、車窓からぼんやりと太陽を見つめていた。

晴れてよかった、と一郎が助手席の静子に向けて話を切り出す。

そうね、いい天気ね、と同意する静子。

「……大丈夫だから。姉ちゃんたちは何も気にしてないから。」
一郎は前方から視線を動かすことなく、静子に語りかける。
「静子が来てくれたら、嬉しいって言ってたから。」

「…そう。」

静一は、やりとりする二人の様子を後ろからじっと見つめていた。

「私もうれしい。やっと…行げて。」

 

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対面

一郎を先頭に、静子、静一の順番で病棟の廊下を歩く。

しげるの病室の前で、ここだ、と一郎が足を止める。

引き戸を開けて、三人は右奥のカーテンが閉まっているベッドに向かう。

その途中、静一はちらと隣の静子の表情を窺う。

静子が穏やかな笑みを浮かべているのを見て、静一もまた同じように笑う。

三人でカーテンの前に立つと、一郎が伯母に声をかける。
「姉ちゃん。来たよ――。」

「あ。どうぞォ!」

一郎がカーテンを開ける。

静子と静一は、その背後で笑みを湛えていた。

しげるはベッドの上に仰向けになっている。

目は薄く開いており、掛布団の上に出した右手をベッドの傍らの椅子に座っている伯母が左手で握っている。

 

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伯母の隣には伯父も座っていた。
二人に言葉はなく、嬉しそうに微笑んだその表情で一郎たちを歓迎していた。

ぼうっとした表情だが、以前の目の焦点が全く定まっていなかった頃と違い、しげるの薄く開いた目には意識が宿っていた。

しげるの様子を嬉しそうに見つめる静一。

伯母は見舞いに来てくれた一郎たちが皆、穏やかに笑っているのを満足そうな表情で見つめたあと、しげるの方を向いて呼びかける。
「しげる! 静ちゃんたち来てくれたん! わかる?」

しげるの視線が見舞いに来た三人を捉えると、その目がわずかに大きく開く。

 

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しげるの表情の変化を受け、静一は隣の静子の表情をチラ見する。

「…しげちゃん。」
静子は病室に入った時の笑顔に、さらに温かさを加えた表情でしげるを見つめていた。
「よかった……気がついて。」

静子の言葉を受けて、しげるはゆっくりと目を閉じていく。
その眉間にわずかにしわが寄る。

しげるの反応を、静子以外のその場の一同が笑顔から真顔に戻って、固唾を飲んで待っていた。

変わらず笑顔を浮かべているのは静子のみ。

「あ…」
しげるの目が左上に泳ぐ。
「ちょうちょ…」

 

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感想

静子は何を考えているのか?

(どういう神経してんだ……?)

というのが最初に浮かんだ感想。

もし自分が静子だったら、前の夜に一郎がしげるが気がついたという知らせをもらった時点でガクガク震えてる。

何しろ自分がしげるを突き落として入院させる羽目になった犯人なわけだから、それがバレたら自分の生活が根底からひっくり返ってしまう。

しげるに対する罪悪感もあるし、何もかも失うという恐怖でいてもたっても居られないだろう。

しかし何なのだろう……。この落ち着きぶり……。

今回の話を通して、静子から何の動揺も見られない。

だって突き落としたしげる本人だけじゃなくて、その両親にも同時に会うわけでしょ。

しげるが静子に突き落とされたことを告発したら、両親からどんな反応をもらうか想像できないなんてあり得ない。

自分の罪を認めて、その後捕まるのを受け入れて、達観している風にも見えない。

前の夜に静一の記憶を書き換えてしまうくらいなんだから、自首なんて殊勝なことをするわけがない。

夏の山でしげるをつき落とした直後の静子の反応は、決して「やってやったぜ」って感じじゃなくて「やっちゃった」だったと自分は受け取っている。過去記事で何度も、魔が差した、と表現していると思う。

 

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ただその後、しげるの様子を見に崖下に下りていく静子に、既にその素の反応の痕跡は消えていた。

あれは一人の親戚としてしげるのことを心配しているという演技だったのだろうか。

気持ちの切り替えが早いというより、現実を受け止めきれなくて別の現実を作り出してそこに逃げ込んだという方が正しいような気がする……。

まともな神経を保ったままであれば、どうしても受け答えだけじゃなくて全体の雰囲気自体が挙動不審になるんじゃないかな。

当然、警察はその態度を怪しんで、追及を強めるだろう。

しかし結果としては、病院で警察からの事情聴取を受けた時、静子は全く犯人である素振りすら見せなかった。

母を守るという使命感に駆られていた静一が静子の犯行を黙っていたこともあり、見事に警察の目を欺いたわけだ。

もしかして静子は、静一の記憶を書き換えたように、誤って転落していくしげるを救えなかったとマジで思い込んでいるのかな?

それも、あの夏の日、しげるを崖に突き落とした直後から。

 

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でも仮に心の底からそういう認識に書き換わっていたとしたら、救えなかった対象であるしげるが意識を取り戻しているのを前にしたらやはり取り乱さないかな?
泣いて喜ぶなり、救えなかったという罪悪感でまず泣きながらしげるや両親に向けて謝罪しそうなもんだけど。

今回、静子が見せた反応は極めて平静だった。
というか、やはりこれは演じているのかな。

しげるの反応を待つ一瞬の間。

その際、静子以外は笑顔から真顔に戻っていた。
完全に素になっていたのだと思う。いわば隙だらけの状態とでもいうのか。

しかし静子だけは笑っていた。ここから自分は、まるで隙を見せていないという印象を受けた。

別の現実の中に完全に逃避しているのか。それとも完璧に演じているのか。

前話を読んでから、静子が病室に行ったらどんな反応をするのか考えていた。
その中に当然、終始平静さを保つというパターンもあったけど、まさかそれを実際に絵として見ると、ここまで異様とは……。

心にさざ波すら立ってない。これが明鏡止水の境地なのか。

静子が病室で「…しげちゃん。」って呼ぶ時の表情が、何の作為も読み取れない自然な温かみがある。

この人はマジで何を考えているんだろう……。

この物語は静一の視点で描かれている。
よって、下手したらこの物語が終わっても、最後まで静子の心境がわからない可能性がある。

 

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意思を失った静一

朝から静子と静一の日常が再開した。

平穏な一日の始まりだと思ったけど、早速恒例のにくまんとあんまんのやりとりから違和感を覚えた。

静一が「どっちでもいい」と、もはや選択肢すら静子に委ねてる。

この静一の返答から、一時は壊れかけていたはずだったが、前夜の一種の儀式によって以前よりもさらに強固になった二人の『絆』が垣間見えた。

以前だったら、少なくともにくまんかあんまんかどちらか選ぶ自分の意思があったんだけどなぁ……。

もはやそれすら無くしてしまった今のこの関係性が、静子の心に安定を齎しているのか。

静子に取り込まれたことで静一は自分を失い、静子は静一を取り込んだことで精神の安定を図った?

静一も心が安定しているように見えるけど、自分の意思や考えを持たず、以前よりも静子の反応に敏感になっただけではないだろうか。

安定した様子の静子を見て、自分も安定する。

きっと静子が取り乱したら、静一もまた取り乱すのだろう。

 

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あの夏の日、しげるをつき落とした直後に静子がしげるを救いに行こうとするのを見て、おかしくなってしまった母を守らなくてはという、自分の意思で静子に同行した。

あれはある種、静一の男としての成長を感じられるシーンでもあったと思う。

しかし今は、仮に静一が同じ事態に直面したなら、しげるが誤って落ちてしまったのを助けに行く母に何の疑問もなく着いていくだけなのではないだろうか。

そこに、母がおかしくなったという認識や、母を助けなければという意思はない。

ただ、母に見捨てられないことだけを考えて行動するとするなら、静一に出来ることは静子に追従していく。ただそれだけだ。

奪われた意思は容易には戻らない。

「あなたはどうしたい?」

と聞かれたら、まず静子はどう感じるだろう、というフィルターを通して、なるべく静子が喜ぶような、あるいは悲しまないような答えを出す。

 

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そこに静一の本来の意思が直で反映されることはない。

自分の意思を通すことより他の人の顔を窺うことが当たり前になってしまうと、自分の意思が何なのか分からなくなってしまう。

実はこういう関係性ってそこら中に溢れている気がする。

ただそれが親子間で行われていると、自分の意思を失った方はそれを取り戻すのが困難なんだろうな。

静一と静子の関係性を見ていると特にそう思う。

静一は一体どうなってしまうのだろう。

この調子だとしげるをつき落としたのは静子だと告発することはないだろうし、自分を慕ってくれている吹石のことも遠ざけてしまうだろう。

より深みにはまっていくという、暗い未来しか見えない。

 

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いつまでも母子が仲良しというのは結構なことだけど、親が子離れできないのはともかく、子が親離れできないのはまずい。

今後、静一が健全に親離れできるように成長していく目はあるのか。

次回はしげるがどういう反応を示すかに注目したい。

果たしてしげるに静子に突き落とされた記憶があるのか。

静子を見て「ちょうちょ」を連想したということは、そこからさらに自分がどういう経緯で崖下に落下したのか、芋づる式に記憶を呼び覚ますことになるのか。
次回の話で今後の話全体の流れがどこにいくのかが決まるんじゃないかな。

すごく楽しみ。

以上、血の轍 第50話のネタバレを含む感想と考察でした。

第51話に続きます。

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