血の轍 最新第63話釈明ネタバレを含む感想と考察。「吹石のせい!」静一の事情説明を補足する静子。

第63話 釈明

第62話のおさらい

男子トイレで静一は小倉たちに絡まれ無理やり髪をセットされていた。

セットが終わり、小倉は静一に鏡を見せて、髪型の感想を求める。

静一は鏡をじっと見つめていた。
自分の背後にいる小倉の姿がブレて霞んでしまっている。

その姿のまま、静一に感想を迫る小倉。

振り返った静一の視界に収まった比留間と酒井の姿も小倉と同じようにブレて霞んでいた。

比留間と酒井も、静一に感想を言わせようする。

静一の様子に違和感を覚えつつも、小倉たちは静一に髪の感想を促す

小倉の自分を呼ぶ声に反応して、静一は右拳を小倉の顔の中心に叩きこむ。

 

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顔を抑えて屈む小倉。

静一の表情には怒りも怖れもない。
きょとんとした顔で拳を掲げている。

比留間と酒井は、目元を抑えて苦しむ小倉の様子を前に、呆気にとられていた。

静一は取り乱すことなく小倉を観察するように見つめていた。
次の瞬間、小倉の顔を目がけて膝蹴りを食らわす。

悲鳴を上げ、後ろに倒れる小倉。

比留間と酒井はようやく静一の行動を止めようとする。
しかし静一はそれを振り払い、小倉の腹に馬乗りになって右の拳を小倉の顔面に何度も何度も打ち下ろすのだった。

小倉は打たれるたびに短く呻き声を上げ続ける。

「どいつもこいつも…どいつも…こいつも…」
小倉を見下ろし殴打を続けながら、うわごとのように呟く静一。

その様子に比留間と酒井は教師を呼ぼうとトイレを後にする。

 

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「死んでるくせに…みんな死んでるくせに……」
静一は何度も殴り続けながら、母がしげるを突き落とした日に見た山の光景を思い出していた。

比留間と酒井が連れてきた担任教師に声をかけられ、静一はようやく殴るのを止めるのだった。

小倉は泣いていた。何度も殴られた顔は腫れ始めており、鼻からは出血している。

静一は校内の一室でパイプ椅子に座って、窓の外を眺めていた。

視線を落とし、自分の傷ついた右拳を見る。
ぼーっと拳を見つめていると、部屋の戸が開く。

担任教師は静一に近づき、小倉はもう少しで眼鏡の破片が眼球に刺さって失明するところだったと説明する。

 

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静一は教師に視線を向けず、正面を見つめていた。

静一に厳しい視線を向けたまま、返答を待つ教師。

「…先生。僕は…どうしてなぐっちゃったんですかね?」
静一の表情には全く悪気がなく、あくまでぼーっとした表情で教師に訊ねるのだった。

一瞬の驚愕の後、怒りに顔を歪める教師。
「…何言ってるん!? 自分のしたことだんべ!?」
そして教師は静一の対面に座ると、これから小倉と小倉の母、そして静子がここにやって来ると告げる。

静一の表情には反省の色はおろか、一切の感情がない。

静子は教師に呼ばれて学校に到着していた。
学校の廊下をパタパタとスリッパの音を立てて歩いていく。

 

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第63話 釈明

小倉母子到着

学校。

静一と教師の待つ一室に小倉と彼の母親が到着する。

どうもー、と穏やかな表情で教師と静一に挨拶する小倉の母親。

右目に眼帯をした小倉は、母親の後ろで俯いている。

心配そうに小倉に大丈夫かと声をかける教師に小倉の母親が答える。
「ええ…なんとか~~。」
そして背後の小倉に、ねえ和也? と同意を求める。

教師に促され、静一と向き合う形で席に座る小倉とその母親。

「長部。」
教師は静一に神妙な顔で話しかける。
「小倉君に、言うこと無いん?」

部屋に流れる沈黙の時間。

ほら長部、と教師が答えを促され、黙って俯いたままだった静一が口を開く。
「…お母さんが来るまで、何も言えないです。」

「…え? どうして?」
教師は怒るわけでもなく、静一に心配そうな視線を向けている。
「小倉君をケガさせちゃったのは、それは謝らなきゃ…ほら。」

それでも黙っている静一に教師は、長部、と答えを促す。

「できません。」
表情を変えることなくピシャリと答える静一。

一瞬の沈黙のあと、小倉の母親が切り出す。
「……長部君。おばちゃんね、あの大人しい長部君がこんなことするなんて信じられなくて。」

「和也は…みんなで遊んでたら急に長部君が怒って殴ってきたって。」

小倉の母親からの、自分を心配する態度を受けてもなお静一の表情は一切変わらない。

教師、小倉、母親の視線が静一に集中する。

 

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土下座

部屋の引き戸が開く。

到着した静子は教師や小倉、その母親を見るなり即座にその場に崩れ落ちる。
「…もうしわけっ…! ありませんんん…!」

教師と小倉の母親は立ち上がり、呆気にとられた様子で静子を見つめていた。
静一は座ったまま後ろを振り返り、静子を見ている。

「……なんて…おわびしたらいいか……」
正座して俯いたまま謝罪する静子。
「ごめんなさい…私のせいです……ごめんなさい…!」

ケガは大したことなかったですから、と小倉の母親は静子に声をかける。

しかし静子は立ち上がろうとせず、謝罪を続ける。
「ちゃんと治療費はお支払いします。…眼鏡代も。もちろん…それは。」

 

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そしてもう一度静子が、ごめんなさい、と頭を下げて謝罪するのを、静一は俯いて聞いていた。

静子に席に座るように促す教師。

しかし静子は、このままでいいです、とその申し出を断る。
「私はここでいいです。このままでいいです……」

話ができないので座って下さいと教師に言われ、ようやく立ち上がる静子。
すいません、と微かに呟き、静一の隣の椅子に座る。

隣の静子に視線を送る静一。
静子は静一と無言で視線を合わせる。

そして教師は改めて静一に、何があってこんなことなったの? と事情の説明を命じる。

 

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事情説明

静子を見る静一。

静子は静一と目を合わせ、一つ頷く。

それでようやく静一は話し始める。
「…一人で……トイレにいたら…小倉と…蛭間と酒田が…入ってきて。」

黙って静一の話を聞いている一同。

「髪の毛…セットしてやるって…三人に…髪の毛グシャグシャにされて…水でぬらされて……」

「だから…だから…僕は……」
食いしばった歯を剥き出しにする静一。
「死んでるくせに。みんな…全部…死んでるくせにって…思って…」

 

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静子は静一の方を向いて、その告白をじっと聞いていた。

「だからどうだっていい。どうせまぼろしだから。ごみだから。」
静一はまるで笑うように口元を歪ませる。
「だから、なぐった。」

静子は目を細めて静一を見つめる。

「…は?」
静一の話の内容に、思わず聞き返す教師。
「長部…何…言ってるん…?」

小倉も彼の母親も呆気にとられたような表情で静一を見つめていた。

 

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吹石のせい

「先生。」
静子が口を開く。
「吹石由衣子ちゃんのせいです。」
その表情はさきほどとはうって変わって平静を取り戻していた。

静子に視線を向ける静一。

「先生は御存知無かったんですか? あの子が静ちゃんをたぶらかしてたのを。」
教師は呆然と静子の主張を聞いていた。
「ふたりで毎日放課後ほっつき歩いて。しまいには家にひっぱりこまれて。

小倉とその母も黙って静子に視線を向けている。
「変な…変なことして。静ちゃんを。きたない…きたなくされちゃって。」

「だからそのストレスなんです。心はだいぶ戻ったけど…まだ全部はキレイになってなくて。」
静一に視線を向けて問いかける静子。
「そうだいね? 静ちゃん。」

「はい。」
穏やかだが、どこか覇気の無い笑顔を浮かべる静一。

小倉の母親はそんな静一を言葉もなく呆然と見つめていた。

 

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感想

予想外過ぎる告発

あまりの展開に思わず吹き出してしまった。

静一のそれ、全然釈明になってない。
その上さらに静子によるあまりに唐突な吹石告発……。

笑ってしまうでしょ。こんなの……。
そして同時にドン引きした。

学校と言うオフィシャルな場で、教師や怪我を負わせた生徒、その親を前にしてこれ。

ついにこの母子の異常性が世間にバレてしまったか。

静一は事情説明を求める教師に対して、静子が来ないと話せないとはっきりと答えた。

 

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その表情には一切怖れも焦りもない。
浮かない表情ながらも、静子を待つことがさも当たり前であるかのような佇まいを見せている。

読者にはわかる、この静子への依存極まる態度。

その後静子がやってきて、静一はようやく事情の説明を開始するが、それがまたとんでもない内容なんだよな~。

静一は小倉を殴った理由を、嫌なことをされたから反撃したとでも言っておけばいいのに、自分の妄想をそのままド正直に告白して教師や小倉の親にドン引きされてるし、そこにさらにヤバイ静子による吹石が悪い発言が追い打ちをかけている。

なんで静一と小倉、比留間、酒井(蛭間、酒田になってる?)の四人の間で起きたことなのに、何の関係もない吹石のせいなんだ。

 

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静一による事情説明には一切吹石は出て来ない。
その上で吹石が悪いと告発する……。異常です。

……ついに静子と静一の狂いっぷりが身内、親戚以外にも知れ渡ってしまった。

正確には吹石も静子のヤバさを体験しているし、吹石父もちょっとだけそれに触れていると言えるかもしれないが、今回はそれらのケースとはわけが違う。

息子が友達を傷つけ、学校というオフィシャルな場に呼び出されての、その事件に何の関係もない「吹石が悪い」発言……!

しかも静一も小倉を殴ったことに関して、小倉たちが死んでいるからという、自分の妄想をありのままに理由として語り、さらにその後の吹石が悪いという母の言い分を何の躊躇も見せずに認めている。

 

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先生も小倉の母も小倉もみんなポカーンとしてる……。当たり前だ。
俺もポカーンとしたし、っていうか読者全員開いた口が塞がらないだろう。

これをきっかけにいよいよクラスから静一の排除が進んでいくのかな……。
静一自身これ以上突き進んだら、もう容易には戻れないところに来ていると思う。

静子もこの一件で一気に注意人物になりそうだ。
ひょっとしたら地域一帯に「長部家がヤバイ」と噂が立つ事態に発展するかもしれない。

これまでかろうじて外に漏れ出なかった長部家の狂気が、この学校の一室で世間に開放されたと言える。

これを機にこの母子がまともな方向に向かう……なんてことは期待できない。
だって静子も静一も、何も悪いと思っていないから。

希望が一切ないから、長部家をパンドラの箱に例えることはできない。

 

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最初から吹石の悪事を訴えるつもりだった?

静一の小倉を殴った理由を聞いた後に静子が吹石が悪いと告発したことをはじめとした、部屋に到着後の静子に関して振り返りつつ、もう少し掘り下げたい。

まず部屋に到着して真っ先に土下座。

これはまだ理解できる。

その後の静子の発言を思えば、その前振りとしてはかなりおかしいと感じるんだけど、真っ先に謝罪する行動はまともかと思う。

息子が人様の子を傷つけたことに対するお詫びの方法としては間違ってはいない。
そもそも危うく失明させるところだったし、息子が小倉を殴るに至った理由を聞くことなく開口一番で謝罪が正解の場面だと思う。

ただ問題はその後だった。
その後の静子の発言があるから、むしろこの土下座による謝罪さえも異常に見えてしまう……。

 

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その後、静子が席に座って、教師が静一に小倉を殴った理由を話すように促すシーン。

静一は最初は三人に髪の毛をぐしゃぐしゃにされたとありのままの流れを語るが、そこから自分の妄想が入る。
小倉たちが死んでいる、まぼろしでありごみだからどうでもよかった、と答えて、だからなぐった、と静一はその異常な動機を特に悪びれることもなく告白した。

それに対して静子は再び謝罪するのかと思いきや、先ほど憔悴した様子で土下座していたのが嘘のような堂々とした態度で「吹石のせいだ」と今回の件に全く関係ない人物を告発する。

――この異常性。

 

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客観的に聞けば支離滅裂でしかない告発が理解され、認められると信じて疑っていない静子の態度がとにかくおかしい。

おそらく静子は静一がこの場で何を言おうが、そもそも彼がどういう問題を引き起こしたのかとか関係なく、教師に吹石を告発しようとしていたのではないだろうか。

今回呼び出されたことを、むしろ吹石による息子への悪事を訴えるチャンスだとポジティブに捉えているのかもしれない。

今回改めて静子が静一を吹石に汚されたことをものすごく深く根に持っていることを思い知った。
そして静一が完全に静子の異常性に取り込まれてしまったことも……。

静子にキレられたあの夜、本当に静一は静子を第一に生きることを決心したんだな……。

この母子のぶっ飛んだ思考は、ごく普通の人からみたら異様でしかない。

 

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小倉の母親は何を考えているのか

ラストのコマで静子と静一を見つめている小倉の母親が何を言うか気になっている。
ただ単に呆気にとられているだけなのかもしれないけど、でも小倉の母親の静一達を見つめる視線からは嫌悪感ではなく、むしろ心配しているような雰囲気を感じるんだよな……。

次回で、話の流れで小倉の母親がキレる可能性もある。
でも小倉の母親は息子のけがは大したことがなかったからとこの場で一切怒る素振りすら見せていないどころか、加害者である静一の話をきちんと聞く姿勢を見せていた。かなり懐の深い人物ではないかと感じる。

 

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かつてしげるを見舞いに行った静一が叔母の優しい言葉に涙した経験があるように、小倉の母親の言葉が静一の心を溶かす……なんて展開はないかな。

まぁ、すでに出来上がっちゃった感がある今の静一にはどんな言葉も響かないという見立ての方が遥かに現実味があるのだが……。

そして教師も静一や静子にどう対処するのかな。
まさかこの場で、ここまではっきりと加害者家族の異常性を見せつけられるとは思ってなかったことだろう。

いよいよ世間に発信された長部家の異常性は、果たしてどのような形で受け止められるのか。

以上、血の轍第63話のネタバレを含む感想と考察でした。

第64話に続きます。

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