第111話 父の来る日
第110話のおさらい
仕事場であるパン工場に着くと、作業着に着替えて、持ち場へ向かう静一。
小さな丸いパンを容器に詰めたり、いちごのヘタをとったりと、休憩を挟みながら着実に仕事をこなしていく。
しかしそんな静一の脳裏には、奇怪な妄想が蠢いていた。
この日の業務が終わり、着替えて退勤する静一。
通勤ラッシュの乗客に交じって電車に乗り、帰宅した静一は、途中で買ったビールとつまみに手をつけて一息ついていた。
そして何気なくスマホを確認すると、着信履歴に昨日4回、父から電話があったことに気付く。
スマホを伏せ一時は見ないふりをしようとするが、折り返す静一。
父は一言二言静一と簡単な会話をした後、今度上京する際に静一の家に寄ろうと思っていると本題を切り出すのだった。
静一は父に訪れる予定日時を聞いて、電話を切る。
ふう、とため息をつく静一。
第110話の詳細は上記リンクをクリックしてくださいね。第111話 父の来る日
再会
チャイムに起こされる静一。
扉の前に立っていたのはスーツ姿でビニール袋を手に提げた父だった。
テーブルに置かれたビニール袋。その中にはインスタント食品が詰まっていた。
静一は、ここは散らかってるから、と外に出ることを提案するのだった。
良い天気の中を歩いていた二人は、公園を通りかかる。
向かいから若い夫婦と子供が歩いて来る。
静一は一郎の隣を歩きながら、親子を見つめていた。
商店街の一軒の居酒屋に入る二人。
テーブルを挟み、向かい合って座る。
静一はどこか浮かれた様子の一郎をじっと見つめていた。
上機嫌で大将に話しかける一郎。
楽しそうに会話をする一郎だが、静一が、のような人間が誰かといられるわけないと答えたことで、黙ってテーブルを見つめるのだった。
外はすっかり暗くなり、居酒屋を出た二人は駅に到着していた。
自動改札に向かった一郎は、思い出したように足を止めて静一に振り返る。
そして一郎は静一に、静子と一生会わなくてもよいのかと訊ねる。
静一から、どうでもいいと返事され、一郎はその答えをすんなり受け入れるのだった。
そして一郎は静一に背を向け、改札に向かっていく。
一郎を見送って、アパートに戻る静一。
夜道を歩いていると、背後に気配を感じる。
それはしげるだった。
静一は、自分はもうじきそっちに行くと呟く。
そして、自分の中身は死んでおり、外身も死ぬまで生きてるだけと続けるのだった。
帰ろう、と振り返る静一。
しげると手を繋いで歩き始める。
感想
二人の会話から、時の流れを感じた。
父と子の、大人同士の会話だ。この何ともリアルな感じ。
久々に父子で顔を合わせたということらしい。
どのくらい期間が空いたのかはわからないが、顔を合わせる機会は1年ぶりというレベルではないようだ。
居酒屋に入って以降の一郎の浮かれた様子を見ると、初めて父子で居酒屋で飲めることがよほどうれしいんだろうなと思った。
静一は、過去に取り返しのつかない罪を犯してしまった自分を許していない。今後の人生で人並みの幸せを掴もうとも、また、掴めるとも考えていない。ラストのしげるへの言葉から、色々と諦めることを受け入れている。
しかしそんな荒んだ心境にありながらも、これまで決して自分を見捨てなかった父対する感謝の気持ちは持っていることがわかった。公園で自分と同じくらいの年の男性が妻と子と一緒に歩いているのを見て、自分が父にそういった姿を見せられないことを気にしているようにも見える。
そして一郎は楽しそうだった。気持ちよく酔っているからということもあるかもしれないが、少なくとも静一の少年時代では、ここまで楽しそうにしている一郎を見たことがなかい。静一がきちんと更生し、自分で生計を立てていることが嬉しいのだろう。
父として当たり前のことなのかもしれないけど、一郎の様子から、静一の幸せを願っていることを感じた。かと言って、押しつけがましくするわけでもない。20年以上を経ても尚、自分自身を”こんな人間”呼ばわりしてしまう静一を窘めるわけでもなく、辛そうな表情で静一の言葉を受け入れているのが見ていて切なかった。
今回、一郎が静一に会いに来たのは、もちろん出張のついでに久々に顔を合わせたかったという理由が大きいだろう。しかし、一郎が一番話したかったのは、おそらく改札での別れ際に切り出した、静子についてのことだろう。一郎は63歳だというから、静子も一郎と同じ60代前半か、もしくは少し下の世代となる50代になるのだろうか。
このまま一生静子に会わなくても良いのか、という一郎の質問は、つまり少なくとも一郎はあの裁判以来、現在も静子と会う機会があるということなのか?
静子はあの裁判中に静一を捨てて、新しい人生を生きると宣言した。それは同時に夫であり、静一の父でもある一郎を捨てたということでもあるとばかり思っていたんだけど、ひょっとして一郎と静子は離婚していなかったのか?
静一はあれ以来本当に静子に会っていないようだが、一郎は会っているように見える。
一時は長部家を出たけど、その後戻って来たということなのか。
一体、長部家はどういう状況にあるのだろう……。
そういえばこれは前回気付くべきだったんだけど、静一は名前を一切変えていなかったんだな。
少年犯罪でセンセーショナルに報じられたはずだから、ひょっとしたら当時の週刊誌で名前が出たかもしれない。
今後、静子が出て来るとしたら、どういう状況なんだろう?
多分どこかで出て来るはずなんだけど、今回の静一の様子だと、少なくとも静一からは会いに行くことはないように思える。
次回以降の展開がまたわからなくなった。果たして静一はどうなるのか。
以上、血の轍第111話のネタバレを含む感想と考察でした。
第112話に続きます。
あわせてよみたい
押見修造先生のおすすめ作品や経歴をなるべく詳細にまとめました。
血の轍第5集の詳細は以下をクリック。
血の轍第4集の詳細は以下をクリック。
血の轍第3集の詳細は以下をクリック。
血の轍第2集の詳細は以下をクリック。
血の轍第1集の詳細は以下をクリック。
[blogcard url=”https://creative-seeker.com/chi-no-wadachi-book-1-2
コメントを残す