第90話 ママから見る
第89話のおさらい
静一の内から生じた静子は、おかしいのは見たいものしか見ていない静一だと指摘する。
そして静一を純真無垢なフリをしているとして、全てを静子にかぶせて、被害者ぶるなと続ける。
「本当はぜぇんぶ、おまえなんじゃねぇん?」
「誰も愛してないのはお前だがね。」
静一は放心状態で静子を見上げ続けていた。
巨大な静子は、自分にかぶせられた皮をはがしていく。
全て剥がし終えて白く眩く輝く静子。
静一は静子から視線を外すことができなかった。
光る輪郭だけの存在となった静子の顔が静一に重なると、次の瞬間、静一は、静子の視点でしげるの事件があった夏の日の山の中に立っていた。
静子は事件が起こった崖に向かって近づいていく。
(ママ…今…僕はママの中にいる…)
(ママの目で…「あのとき」を見てる…)
林が途切れて視界が開けると、その先にしげるが背を向けて立っている。
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静一に怯える静子
ゆっくりと振り向く静一。
静子は静一の生気のない視線を受け、その場に立ち止まる。
(これ…これが…僕…ママから見た…僕。)
静一は静子の視界から自分の姿を見ていた。
そして、静子が自分の視線を受けて怯えていることを感じ取る。
静一は静子を真正面から見据えていた。
その視線は静子に対する憎しみが秘められている。
(おまえの苦しみが、全部僕に入ってくる。)
静一は静子の中で、目の前の静一が静子を強く非難していることを感じていた。
(おまえさえいなければ。僕は幸せだったのに。)
静子は怯えながらも、静一から視線を外すことができずただただ固まっている。
(おまえの子供になんか、なりたくなかった。)
(どうして、僕を産んだん?)
(取り消せ。)
(取り消せ 全部 生まれてから今までの僕を)
静一の赤子の頃からの生育過程が静子の内に甦る。
物心つく前から、静一の目には世の中に対する憎しみが宿っていた。
(償え 僕を産んだことを 償え)
その憎しみは成長と共により強く顕在化していく。
(償え)
巨大化した静一に見下される静子。
静子は怯えたままわずかに口角を上げて静一にか弱い笑みを返すのみだった。
(これが…ママの中の僕………?)
命令
「うぃー」
崖でふざけていたしげるがバランスを崩す。
「あっ」
「しげちゃん!!」
慌ててしげるの元に駆け出す静子。
静子はしげるを抱きしめると、体を離してしげるの目を見ながら諭そうとする。
「……もう…だから言ったでしょ…。」
「うるっせえんなあ!!」
しげるの顔は醜く変化していた。
憎たらしい表情で静子を邪険にする。
「大丈夫だって…」
静子はそんなしげるをじっと見つめる。
(みんな死ね)
呆然とする静子。
静子は背後の静一から強烈に発散される呪詛を感じていた。
(みんな死ね 何もかもみんなみんな 死ね)
(やれよママ 落とせ)
静子のすぐ背後に迫る静一。狂気を湛えた表情で静子に犯行を促す。
(それを殺せよママ)
静子はただただ怯えていた。
一切の反抗の意思も示すことなく、諦めたように静一の命令を受け入れる。
「うん…」
静子はゆっくりと両手をしげるに向ける。
「やるから……許して…静ちゃん…」
感想
これが真相?
まさか、本当にこれが真相なのか……?
こんなの全く予想すらしなかったな……。
この漫画の、静一の視点からのみ描かれており、必ずしも現実を反映していないという手法が最大限に活かされたトリックだと思う。
とにかく静子が異常だと思っていたところに、まさかの静一悪魔説。
静一は静子をひたすら守ろうとしていた素直な良い子どころか、強烈な悪意と憎しみをその身にはち切れんほど宿した悪魔のような子だった?
そして静子は異常者などではなく、そんな息子の暗黙の命令に従わされていた、気弱で、ごく普通の一人の人間に過ぎなかったということらしい。
これまで描写されてきた静子の異常性は、静一が自らの罪を覆い隠すために静子に着せた偽りのキャラクターだった。
あの夏の日、静子がしげるを突き落としたのは、静子が静一を守りたいがためなどではなく
しげるはおろか世の中全体を嫌っていた静一にやらされていたというのが本当ならば恐ろしい話だ。
しげるがまた無茶苦茶頭が悪そうで、ブサイクで憎たらしいガキなんだよな……。これが本当の姿ということ?
静一は折に触れて遊びに来るこの親戚が嫌いで嫌いでしょうがなかった。
もしこのしげるが静一を馬鹿にしていたのであれば、悪魔モードの静一が仕返しを考えないはずがないか……。
(みんな死ね 何もかもみんなみんな 死ね)
しげるや静子どころか、世の中全体に対する静一の巨大な悪意。
静子に丘から投げ落とされたことも、静一がこうなってしまった原因の一つなのかと思ったけど、ここまでのレベルだと生まれながらにこうだったと考える方が自然かもしれない。というか、赤ん坊の頃からの成長過程を描いているところから、十分にそう匂わせる描写だと感じた。
静子が静一を丘から投げ落としたのは、そんな静一を恐れた末のノイローゼが原因だとすれば、静子の行動が理解できないこともない。
普通我が子を投げ落とすなどという凶行は考えられないが、それを決意させるほどの悪のポテンシャルを静子が感じ取っていた。悩み過ぎて、ノイローゼになった末に、衝動的に行動してしまったとしたら、それは動機として考えられるのかもしれない。
静子、しげるの容姿がここまで違うなら、吹石も全く異なる可能性がある。
実際はあんなにかわいくないということなのか? そして、そもそもこの悪魔のような静一のことが本当に好きなのだろうか?
吹石の静一に対する好意は相当なものだった。静一に拒否されても消えなかったほどに強い好意……。実際はこの関係も偽りなのではないか。
静一が一方的に吹石のことが好きで、静一が脅していたりするのかな……。
産んだことを償えって、静一は本当にウとんでもないこと言ってるな……。
おまえの子供になんかなりたくなかったとか、母親としてこんなこと言われたら泣くしかないだろ。
なぜそこまで静子を憎む。なぜこんな悪夢を見ている。
この悪夢から覚めた後、物語がどうなるか気になる。
ただ、救いがあるとしたら、静一がこの一連の悪夢とも妄想ともつかないような何かを見ているのは、静一の中の罪の意識、あるいは良心がそうさせている可能性があるということか。
もしそれらが静一の心の内に存在しないのであれば、これまで通り静子に異常者のレッテルを貼り付けたままで良かったはずであり、今回のように自分の内に秘められた世の中に対する底知れぬ悪意が原因だなどと考えることすらしなかったはず。
今回の話が真実で確定なのか。次の話が気になる。
以上、血の轍第90話のネタバレを含む感想と考察でした。
第91話に続きます。
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