第6話
第5話のおさらい
山の中、広場でシートを敷いて弁当を広げる一同。
静一と静子以外が車座になっている。外れたところで二人静かに弁当を食べる静一と静子。
そこへ、しげるがトイレに行こう、と静一を誘う。
しぶしぶついて行く静一。
トイレを済ませるとしげるが静一を、冒険だ、と言って林の奥へと誘い出す。
先行していくしげるに促されて距離を空けて渋々しげるについて行く静一。
しげるが崖のふちに立って、こちらにこい、と静一を誘う。
さきほど体を押されて危うく落ちそうになった静一は拒否し、その場から動かない。
静一がへそを曲げていることに気づき、謝るしげる。
黙っている静一にしげるはムキになって詰め寄る。
静一が何も言い返すことができずに立ちすくんでいると、背後から静子が現れる。
なぜ来る、と静子に問うしげる。
全然戻ってこないから、と言う静子。
そこに立っていたら危ない、と注意する静子に反発するように片足でバランスを取り始めるしげる。
バランスを崩して崖に落ちかねないしげるの様子に焦る静子。
しげるは静子と静一を、自分の母が笑ったように、過保護だ、とあざ笑う。
上体を崩すしげる。静子が駆け寄ってしげるを抱きすくめる。
危うく落ちかけるも、助かったしげるは静子に悪態をつく。
静子の顔を見たしげるはその異様に目を見張る。
しげるを抱き留めたまま、静子はただ沈黙している。
第6話
凶行
崖の縁でふざけて片足立ちになり、崖に落ちそうになったしげるに駆け寄り、助けた静子。
その場に立ったまま、静子は両腕でしげるの腕を抱えて、じっとしげるを見ている。
その光景を立ち尽くしたまま見つめている静一。
「おばちゃん…?」
静子の顔を見ながらぽつりと尋ねるしげる。
静一はじっと二人を見ている。
静子は沈黙したまま思い切り両腕を突き出し、しげるの身体を崖に投げ出す。
しげるが掴めるものは何もなく、驚愕の表情でただゆっくりと体が崖に投げ出されていく。
飛び交う無数の蝶。
ただ、呆然と見つめていることしかできない静一。
崖の上には静子だけが立っている。
夏の入道雲。舞い踊る無数の蝶
ぎあッ、という悲鳴とともに体が打ち付けられた音が静子の立つ崖の下から聞こえて来る。
崖の上で、風景を見たまま動かない静子。
静一はその場から一切動けない。
ただ、今見た光景の衝撃によって目が見開いている。
ゆっくりと静一に振り返り始めた静子。
静一は目を見開いたまま静子を凝視する。
静子の横顔。流し目。
舞う蝶。
静子が静一に振り返る。
満たされたような、穏やかな笑顔。
今起こった凶行とまるで真逆の静子の表情は、静一がいつか見た思い出の中の母のそれだった。
静一は静子から目を逸らしていた。
目の前で起こった出来事、母の場違いな笑顔。
その場に立っているだけなのに汗が吹き出る。
声が出ない。手が震える。
「きゃああああ~っ!」
静子が悲鳴を上げる。
事故を目撃したかのように装う
「ああ…」
静一が崖の縁を見ると、静子が両膝をついて四つん這いになっている。
「静ちゃん…しげちゃん…が…しげ…」
恐怖を貼り付けたような表情の静子。上着が肩から外れている。
「呼んできて…! みんな…呼んできて…!」
「静ちゃん…」
静一は、静子から目を逸らすことが出来ず、彼女の言葉を、ただ茫然と聞いている。
「はやくっ…!」
静一は、もはや静子の目を見ることができない。
ようやく足を動かし、脱兎の如く元来た道を駆ける静一。
崖の縁に四つん這いのまま取り残された静子。
静一は、草を踏みしめ森の中を駆けていく。
(ママ、)
はっ、はっ、と息を切らして走る間、思い出すいつかの母の顔。
(ママ)
思い出すいつかの母の表情。その口元の微笑。
静一はみんなのいる場所まで戻る途中で、様子を見に来ていた一郎、おばさん、おじさんと鉢合わせる。
「…静一!?」
静一の表情、息遣いからただならぬものを感じ取った一郎。
「どうした!? 悲鳴が聞こえたけど…」
「はっ はあっ」
乱れる静一の呼吸。
「はっあ…」
「はっ」
一郎は、ただ黙って静一を見つめて、静一の言葉をじっと待つ。
「えっと…」
「…し、しげちゃんが…崖から落ちた…」
少し遅れて到着するおじいさんとおばあさん。
静一の言葉に固まるおばさんとおじさん。
「うそ…」
おばさんはぽつりと言って、静一の隣を駆け抜けていく。
「しげる!!」
懸命に走るおばさんの後ろ姿を見送る静一。
感想
いや~、本当に2週間が長かった。
第5話終わりの引きから気になって気になってしょうがなかったけど、ついに物語が大きく動いた!
前回の感想記事で予想してたけど、やはり突き落としちゃったか~。
1.憤怒を下敷きにした冷徹な表情。
前回、必死になって静一を助けたことを親族に馬鹿にされても一切怒ることの無かった静子が、背後に静一しかいないこの状況下でしげるに対する怒りを発散させる、というよりは、今後、静一を危険な目に合わせない方法を思いついてしまった。本気で救おうとしてしげるを助けることに成功したけど、その前に静一の肩を押して誤って転落しかけた状況を思い出して、しげるをこの場で押して転落事故のようにみせかけて殺そうとしている?
まぁ、正直これしかなかった。
細かく言うと、実際にしげるに対して「憤怒を下敷きにした冷徹な表情」をしていたかは分からない。
だが、少なくとも静一に向けた笑顔はしていなかっただろう。
その静一に向けたあの穏やかな、でもどこか不穏な、矛盾を孕んだ笑顔がここで出て来るとは予想できなかった。
まさか第1話冒頭見開きのあの印象的な笑顔が出て来るとは思わなかったな。
何をしてでもあなたのことを守る、というそんな覚悟を秘めているように感じる。
しかしやべぇ~。何この感じ。
怖い。でも美しい。母性本能を感じる。穏やか。ぞわっとする。
何だこの自分の内にぞわぞわと湧くアンビバレンツな感情は。
マジで混乱する。静子さん超ヤバいよ。
動機は分かる。静一に対する脅威を取り除こうとしたってことは良く分かる。
正直、読者としてもウェイ系のしげるはいい加減うざかったし、ふざけんなと思ってたところだった。
しかしいざ静子が突き落とす段になると、これほどまでに恐ろしいとは……。
静子の異様なまでの「過保護」が牙を剥いた。
恐ろしいのは、静子がしげるに駆け寄ってすぐに突き落とすんじゃなく、一度はしげるを救い、その場で少し考えたような間の後に思いっきり突き落としたこと。
ということは、これが衝動からではなく、理性で犯した犯罪だということにならないか。
静一に向けた静子の笑顔には何の後悔も、良心の呵責も見られない。
そこにあるのはただ「悪い子はやっつけたよ。安心よ。」とでも言わんばかりの無垢な表情のみ。
突き落としたあと静子は悲鳴を上げて、まるでしげるが自分から落ちた事故にあったように装った。
恐ろしい話だ。
静一のためにやった静子はいいかもしれない。
しかし、静一の反応を見る限り、その精神的ダメージは大きいように見える。
そしてそれはどんどん大きくなるだろう。
静子に殺人を犯させたのは、そもそも、しげるに成す術なくからかわれ続けた自分の不始末が遠因だったのでは? と考え、さらに、自分さえしっかりしていればこんな風にはならなかったという結論に至るのではないか?
静一は恐らく、母が「自分(静一)の為にやった」ことが分かっている。
そして静一は賢く、きっと、自分は関係ないと居直れるほどの図太い神経もしていない。
後から後から、激しい罪の意識が奔流となって彼を襲うだろう。
そして重大な秘密を共有し合った静一と静子だから、二人の結びつきは以前にも増して強固になり、その末に何か過ちが起こるかもしれない。吹石? 誰それ? 状態という展開がありそう。
なんか今後の展開が予想つかない。どういう路線になっていくんだろう。
案外、この犯罪はあっさりと事故として処理されてしまい、日常は淡々と過ぎていくのだろうか。
怖いよ。
出て来る人間が現実にいそうでリアル過ぎて、文学性を感じてしまう。
俄然、血の轍という作品から目が離せなくなった。次回が楽しみ。
以上、血の轍の6話ネタバレ感想と考察でした。
第7話の詳細は上記リンクをクリックしてくださいね。あわせてよみたい
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