血の轍 最新第85話山ネタバレを含む感想と考察。しげるが静一を誘導した先は、静一にとってのトラウマの場所だった。

血の轍 8巻

第85話 山

第84話のおさらい

深夜3時半前。ベッドで目を覚ました静一は、何気なく見た窓の外の雪景色に気分を良くし、庭に出る。

積もった雪の上を歩く感触を楽んだり、降ってくる雪を手のひらに受けて自然を楽しんでいると、何かを引きずるような妙な音に気付く。

ズ、ズズ、と何かを引きずるような音は、長部家を訪ねてきたしげるの足音だった。
しげるは足を引きずって長部家の前の道を通り、庭で遊ぶ静一の前に姿を現す。

庭にいる静一としげるの目が合う。
「せい…ちゃん…」

静一はしげるの深夜の訪問にただただ驚いていた。

 

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雪の降る中、朝4時に長部家にやってくる。その異常な行動を起こしたしげるを前にして、驚きのあまり静一の口から言葉が出ない。

しげるは鼻水を出したまま、小刻みに震えていた。
頭に雪が積もっている。

「…………なん……なん…で……」
静一はしげるにそう訊ねる。

しげるは問いに答えず、笑う。
「せーいーちゃん。あーそーぼ。」

静一はしげるの異常性に気圧されつつも、夜中の四時に一人で訪ねてきてどうしたのかと問いかける。

 

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しげるは小刻みに震えながら答える。
「静ちゃんとこ……行かなきゃ……って……思ったんさ…」

「…おねがい…あそびいご……」

静一は寒さで震えるしげるに家の中に入って温まるよう勧める。

しかししげるは頭を左右に振るばかり。

しげるは黙って俯いていたが、やがて、静一に、お願い、と切り出しす。
「あの山行ご。」
しげるは静一を真っ直ぐ見つめる。
「来て。静ちゃん。」
そう言うと、しげるは振り向き、左足を引き引きずってまた元の道を戻り始める。

静一は、自分に構わず離れていくしげるの背中を呆然と見つめていた。
しかし、すぐに声をかける。
「……し……しげちゃん!! 待って!!」
静一はしげるを追いかける。
「しげちゃん!!」

第84話の詳細は上記リンクをクリックしてくださいね。

 

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第85話 山

しげるが向かった山

大雪が降る早朝、静一は足を引きずるようにして山に向かうしげるを追いかける。

「山……こっち…だよ……」
静一が必死に呼び止めたしげるは、うわ言の様に呟く。
「二人で……登るんべ。」

無理だと言って、帰宅をすすめる静一。

しかししげるは帰る気配がない。
山に登りたいと再び呟き、道に積もった雪に身体を投げ出すようにして倒れる。

大丈夫かと声をかけようとした静一は、しげるが倒れたまま笑顔を浮かべている事に気付く。

「しげちゃん……!」
静一はしげるの体を抱え起こす。
「たっ……立てる?」

しげるに肩を貸し、家まで送っていくと声をかけた静一。

 

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「あっちだよ。山……」
しげるは指を指して、あっちに行くんべ、と静一を誘導し続けていた。

静一は、ごめん、わかったからと困ったように言って、しげるに帰宅を促す。

「山…すぐそこだがん。」
しげるが静一に呼びかける。
「しげちゃん。」

「……え!?」
しげるにしげちゃんと呼ばれ、静一は混乱していた。

突然静一を振り切ってしげるが歩き出す。
「こっちだよ!! せいちゃん!!」
笑いながら小走りに静一の先を行くしげる。

静一は息を切らしてしげるを追いかけるが、中々追いつかない。

やがてしげるは立ち止まって上を見上げる。
しげるが見ていたのは、高台に続く道だった。
「ここだ…ここが山だ……」

ただただ戸惑っている静一を置き去りにして、しげるは高台へ続く道を登り始める。

 

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もう一人の静一

「ダメだよ…! そっちは……!!」
しげるを呼び止めようとする静一。しかし、しげるはどんどん先に行ってしまう。

静一は仕方なくしげるを追いかけて高台への道を進むのだった。

(なんで……だって……ここ……)

しげるは高台の柵の前で足を止める。
眼下には住宅街が広がっている。

静一はしげると距離を置いて立っていた。

「たかいんねえ。」
しげるは笑顔を浮かべながら静一に振り返る。
「またここに…これたんねえ。」

「ほら。もっとこっち来てみ。」
しげるは笑顔を浮かべたままだった。しかし静一には、その目は笑っていないように見えた。
「しげちゃん。」

 

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静一は、なんで自分の名前を言うん? と当然の疑問をしげるにぶつける。
「僕は……静一だよ……」

しげるの顔から笑顔が消える。
「しげ…ちゃん…」
何かを思い出すように、確認するように呟くしげる。
「せい…ちゃん…」
小首を傾げて静一を見つめる。
「ママ…」

絶句する静一。

「僕は、静一だ……よ…」
しげるはあどけない表情で静一に呼びかける。

 

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感想

違和感がすごい

これは本当に現実に起きている事なのだろうか。違和感がヤバイ。

現在静一が直面しているのは果たして現実なのだろうか。

そう考えたら、色々な解釈が出来ると思った。

一つは、しげるが高台から静子が静一を落としたことを母から聞いていた説。

伯母は静一が高台から落ちたことを知っていた。
以前は、幼い静一が誤って落ちてしまった事故だと認識していただろう。
当時は静子の不注意が親族によって責められたかもしれないが、それでも、まさか静子が投げ落としたとは夢にも思わなかったはずだ。

 

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しかし、しげるが静子に突き落とされたのを知ったこと伯母の脳裏で、静一もまた静子に落とされたのだという確信に近い閃きが走ったのではないか。

その考えを伯母が何度もしげるに語り掛けることで、しげるが覚えた。

事故でまだ完全には脳の機能が戻っていないしげるは、自分が静子から受けた被害に酷似した状況を経験したであろう静一と自分と重ね合わせて、高台で静一を前にして自分は静一だと主張するに至った?

わざわざ高台に来て、何の脈絡も無く「ママ」と静一が静子を呼ぶ際の呼称を口にしているし、やはりしげるは高台で静子が静一を投げ落としたことを知っているとしか思えないキーワードをピンポイントで言い過ぎなんだよな……。

しげるは山で静子に突き落とされた。
静一は高台で静子に投げ落とされた。

しげるはこの二つの事件が近似していることに気付いた上で、静一を高台に誘導したように思える。

 

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夢オチ?

ただ、静子と静一がバスで行き来するような距離にある伯母夫婦の家から、まだ全回復しているとは言い難い様子のしげるが真夜中に静一の家まで徒歩でやってくること自体、かなり異常だ。

静一がしげるを家まで送ると言っているあたり、徒歩で行けない距離ではないのだろう。しかしこの状態のしげるが歩くには危険だろうな。

そこで考えたもう一つの解釈は、そもそも今、静一の目の前にしげるは存在していない説。
つまり静一が今見ているしげるは幻覚か、もしくは静一はまだ目覚めておらず、夢の中の出来事を体験しているのではないか?

この漫画は完全に静一の視点から描かれており、感覚も再現されている。必ずしも見えているものがそのままの形で存在しているわけではない。
例えば静子の犯行が世間にバレる前、吹石の元で一夜を明かしたことがバレた静一は静子に完全に屈服し、静子の信頼を回復するために、吹石を拒絶しなくてはならなくなった。
その後、手酷く振った吹石が他の男に奪われる現場を目撃した静一の世界は、下校時に完全に色を失う。

それは当然のことながら世界がどうにかなってしまったわけではない。
あの禍々しい世界は自分の人生に絶望し切った静一の心象風景であり、実際には存在しない。しかしそれは静一にとっては紛れもなく真実そのものだった。

 

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前述した通り、しげるが降雪が続く真冬の朝四時という、人が活動するのに適していない環境、時間帯に、徒歩で本来は車やバスで行き来するような距離を歩けること自体異常であることを考えると、そもそもそんなしげるは存在しておらず、静一が見た幻という考えも有りに思える。

瀕死の重傷を負い、まだ回復し切っていない身体での、ぎこちなさが残る歩行……。
完全に身体が冷え切っている様子から、長時間外に出ていたことが分かる。

静一の家と伯母夫婦の家がどのくらい離れているのかわからないが、伯母はしげるの不在に気づかないだろうか?
仮にしげるが家を出たのは前日の夜だったとしたら、おそらく気付いて慌てて探しているだろう。

ただ、伯母が寝静まった深夜にしげるが家を出ていたとしたら早朝4時に静一の家に着くのは結構リアルな感じもする。1、2キロ程度の距離であれば歩行に障害が残っているしげるが辿り着いても無理はないのかな……。

 

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しげるを家まで送るのではなく、自宅に避難させた方が距離としては短いのではないか。なのに静一がそれを選択しなかった。そしてしげるに導かれるようにして向かうのは静一のトラウマの現場である高台……。ちょっと出来過ぎの展開かな。

しげるが自宅から静一の家まで歩いてきたとは素直に信じがたい一方、静一がしげるの幻や夢を見ても不思議ではないと思う。

夏からの静一の精神的な負荷は、およそ普通の中学生が耐えられるものではない。守るべきと思っていた静子に終始肉体的、精神的に苦しめられ、吃音を発症したり、同級生にキレるなど、明らかに静一の精神状態は常に不安定になっていた。

静子が拘置され、さらに吹石との仲が回復したことにより静一は精神的に安定したものの、実際はまだダメージが残っていても全くおかしくない。
静子とは物理的に隔絶されたが、当然ながら静子が静一の母であるという事実は変わらない。

これまでの静一に見られなかった、早朝に目覚めて、外に出るという特殊な行動も幻の一環……というより夢の中ということはあり得るように思う。

 

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ここまで静一が見ている幻、あるいは夢ではないかという説を展開してきたが、しかし幻や夢にしてはしげるが実体を持ち過ぎている……。

もしこれが幻覚やリアルな夢ではなく、紛れもない実体を持ったしげるが静一の前に存在して、高台に静一を誘導して会話しているのだとしたら、ただただ恐ろしい……。
高台に来て「僕は静一だよ」……。マジでホラーだ。
ラストページのしげるは、表情が本当に静一のように感じられる。違和感がすごいわ。

次回が楽しみ過ぎる。幻や夢落ちではない方がいいな。

以上、血の轍第85話のネタバレを含む感想と考察でした。

第86話に続きます。

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