血の轍 最新第101話なんなんネタバレを含む感想と考察。検事から聞いた静子の主張が静一を絶望に叩き落とす。

血の轍 8巻

第101話 なんなん

第100話のおさらい

静一は、枕元に座って自分を覗き込む静子の夢を見ていた。

ひとごろしちゃん呼ばわりされ、目を覚ました静一は大量の脂汗をかいていた。

調査官の宮下と接見する静一。
宮下は静一がこれまで書き続けてきたノートを見て、静一にとってお母さんは本当に大きい存在どころか、すべてであると指摘する。さらに、静子に支配され、精神的に殺されたから静一には自分が無く、静子に決められた自分しかないのだと続ける。
母が捕まり、いなくなってしまった。結果、自分がどこにもなくなってしまったから自分を取り戻そうとして、静子と同じようにしげるを突き落とそうとした、と宮下。

全くピンと来ていない様子で、はぁ、とだけ答える静一。

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宮下は、静一には自覚が必要であり、その上で自分で決めた自分になることが大切と静一を諭す。

僕は僕のものかという静一の質問を、宮下は肯定する。

しかし静一はそれをはっきりと否定する。

(それでまた、ママのこと考えてるん?)
夢の中の静子の言葉を思い出す。
「僕は…なんなんだ。」

宮下との接見後、静一は別の男性二人からしげるについて取り調べを受け、続けざまに弁護士の江角と接見していた。

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房に戻って来た静一を職員が静一を別室へ連れ出す。

その部屋で静一を待ち構えていたのは、静子の事件を担当している検察だった。

検察は、精神鑑定の末に責任能力に問題なしと判断された静子を取り調べていた。
しかし静子はこれまでは素直にしげる突き落とし殺人未遂についての認めていたのに、本当はやってないと主張を始めたのだと言う。

それを知った静一は固まっていた。

第100話の詳細は上記リンクをクリックしてくださいね。

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第101話 なんなん

静子の新しい主張

検事は、静子が本当は自分がしげるを突き落としてなどおらず、実際はしげるが自分で落ちてしまったと主張していることを静一に伝える。
その上で検事は、静子がしげるを突き落とすところを本当に見たのかと質問するのだった。

放心状態になる静一。
「…は…い…」

かろうじて返事をした静一に、検事は、ハッキリと見たのかと問いかける。

検事をじっと見つめたまま、沈黙したあと、静一は呟く。
「ハッキリ………?」
静一の脳裏に、あの夏の日、崖の上に立つ静子としげるが見える。
「ハッキリ………と……見たか……どうか……」
しげるが静子に何かを言った後、静子がしげるの胸元を両手で突き落とす。

そう、見えた、と呟く静一。
しかしその後、でも、と続ける。
「僕はあのとき……あのとき…心の中で思ってたんかも………」

「…いや…思ってたんです…ママ! 突き落とせ! って……」

「だから…だから…ママが…突き落としたように…見えたのかも……」

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検事は静一のことを真っ直ぐ見つめて話を聞いていた。

「ぜんぶ……僕の……さっかく……だったのかも…?」

二人の検事は互いに視線を交わす。
そして検事は静一に、静子が警察に連行される前、自宅に伯父と伯母がいたこと、そして静子曰く、その際に伯父は一郎を殴った後、静子の髪を掴んで土下座させたというのは間違いないかと確認する。

静子が髪を掴まれて土下座させられた時の光景を思い出した静一は検事の問いかけに対して、はい、と肯定する。

「お母さんは、それが怖くて認めてしまったんだと言っている。『私が悪者になればいい』…と思ったと。」

検事の言葉に呆然とする静一。

「『静一にこんな姿を見せたくない』と。」

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静一は涙を流して背後に立つ静子の気配を感じていた。

そして検事はしげる突き落とし事件について、もう一度最初から順に話すよう静一に求めるのだった。

静一の視界は色を失い、もはや検事の表情は見えていなかった。
「…じゃあ……じゃあ…僕は…なんなん?」

「もしママが…やってないなら……僕の……今までは…なんなん?」

静一はそう呟いた後、立ち上がって「なんなん!?」と連呼し始める。

検事は制止しようとするが、静一は叫ぶことを止めようとしない。

「十四室!!」
異様な雰囲気を感じ取った職員が入室し、叫び続ける静一の身体を取り押さえる。
それでも静一は「なんなん!?」と叫び続けていた。

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気付けば、静一は自分の房に戻って来ていた。

壁に背をもたれてぼうっとしている。

静一の脳裏には死体で発見されたしげるの虚ろな表情が思い浮かんでいた。
しげるの死体が、ねえ、静ちゃん、と問いかける。
雪塗れのしげるは静一の顔を正面から見据える。
「僕はなんのためにしんだの」

「ねえおしえて 僕はただ…なんの意味もなくしんだの」

「静ちゃん…」

闇の中で足を広げて座り、暗闇をぼうっと見つめる静一。

中空に浮かぶ蝶がひらひらと舞っていくと、蝶の居た場所が光を放ち始める。
その光の中に浮かんだのは、微笑を浮かべた静子の顔だった。

「…ママ。」
静一は縋るような目で静子に向かって手を伸ばす。

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感想

絶望の淵に叩き落とされた静一

静一が不憫で仕方ないわ……。
静子がこれまで認めていたしげるを突き落とした罪を一転、完全に翻したのは、しげるを殺害した罪で囚われた静一を引き換えに自分だけ助かろうという魂胆にしか思えない。
まさか静一の罪が少しでも軽くなるように、伯父から受けた暴力に屈してやってもいない罪を認めたなどと主張するわけがない。

まさか、前回自分が想像したような、静子は静一の望みが自分を守ることだときちんと把握して、しげるを殺めたのもそのためだと考えた? そしてその静一の望みに沿うように動いたということなのか?
もしそうなら、子供を身代わりにして自分だけ助かろうとか、マジであり得ん。

まぁ、今回の話のラストで、静一がおそらくは無意識レベルしげるの死を意味がある、ないで捉えているようなのは、やはり静一はかなりイカれてしまっているということなんだなと実感できたけど……。

思えば、あの夏の日以降、静一はただただ必死で静子を守ろうとしていたと思う。
病院で刑事から事情聴取を受けた際には、静子はやっていないと嘘をつき、それがきっかけで精神的に大きなストレスった結果、ひどい吃音になってしまった。

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学校に居場所がなくなったのはそれがきっかけであり、だった。それから静子の様子はおかしくなり、静一を完全に支配するようになった。しかし静一はじっと耐え続けた。

静子が自ら罪を認めて捕まった後、一度は静子のことを完全に吹っ切ったはずなのに、夜中に訪問してきたしげるを突き落とすに至ったのも、自分の代わりにしげるを突き落としてくれた静子への罪悪感のため……。

これまで静一が負ってきた苦しみのすべては、ただ静子のためだったはずなのに……。

しかし静子は静一のこれまでの苦しみに報いるどころか、完全に裏切った形になる。

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これまで静一が抱えてきた想いなんて静子には一切伝わっていなかった。静一はきちんと伝えてこなかったし、静子は当然のように聞こうとはしなかった。これまでの静一の静子への想いが悲しい独り相撲となってしまったことは、この際、仕方がない。
だが静一がしげるを殺めてしまったことを利用して、自分の罪を全て静一におっ被せて自分だけ逃れようというのはあまりにもひどい……。

静一が「なんなん」と連呼して我を失ってしまうのも無理はないと思う。

静子には自分を想う気持ちが一切ないと判明してもなお、ラストページにあるように、静一の気持ちが静子に向いている……というか、静子に縋りつかずにはいられない様子に見えるのが悲しい。そうしないと本当に精神が崩壊するからなのか……。

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静一は静子に何を望んでいたのか?

そもそもしげるを殺めて収監されて以降、静一が静子に対して望んでいたことは何だったのだろうか。

静一はどうにか自分の罪が軽くしようと思うどころか、その後自分がどうなるかにさえ、頓着している様子は見せなかった。自暴自棄というよりは、ただ静子のことだけで頭がいっぱいになっていた。

それを前提に考えを組み立ててみると、多分だけど、静子と互いの罪を庇い合うことが出来ていたらそれで良かったのかもしれない。
静一は自分の代わりに静子がしげるを突き落としてくれたのだと主張し、静子は自分のために静一がしげるを突き落としたのだと主張する。

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実際、静一からすれば、しげるを突き落としたのは、全ては静子のためだったように思う。

静一はしげるの命を奪ったことで、自分の代わりにしげるを突き落としてくれた(と思い込んだ末に抱えた)静子への罪悪感を払拭して、静子からの愛情を受けようとしていたように見える。

しかし今回、しげるを殺めた静一に自分の罪を全力で被せていくかのような静子の主張によって、静一の目論見は完全に裏切られたことになるわけだ。

静子が捕まる直前、静一は静子との歪んだ愛情に耽溺していたが、静子からしたらそれは静一を支配下に置くためのままごとに過ぎなかったのか。あくまで想像に過ぎないのだが、考えれば考えるほど静一と静子の気持ちのギャップの大きさに静一への同情を禁じ得ない。

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しかし静子に全ての罪を被せられて、一人、房の中で放心状態の静一が絶望の底で見た希望の光が静子だったというのが悲し過ぎる。
静一の心の中では静子は聖母のようなんだよな……。そうあって欲しいという強い願望の表れなのか。
静子に裏切られ、見捨てられたと自覚したはずなのに、それでも静子に縋ろうとしてしまう。そんな静一が本当に哀れだ。

今後静一はどうなってしまうのだろう。もし静子の、伯父に振るわれた暴力によってやってもいない罪を認めたという主張が通ってしまい、無罪で釈放されることなど有るのだろうか。
今回、静一から事情を聞きに来た二人の検事の様子から、それは決してあり得ない措置ではないように思えるが……。

以上、血の轍第101話のネタバレを含む感想と考察でした。

第102話に続きます。

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