血の轍 最新第56話その後ネタバレを含む感想と考察。荒れ果てた家。静一と静子は伯母の元へ向かう。

第56話 その後

第55話のおさらい

吹石を拒絶し、帰宅した静一。

居間に静子がいないのを確認して、静子の部屋に向かう。

静子は静一が登校する前と同じように、自分の寝床で体を横たえていた。

静一は静子のそばに立ち、彼女が目を閉じているのをじっと見下ろしていた。

やがて静一は膝をつき、静子に自分が約束を守ったことを報告する。

そして静一は、静子の腹にゆっくりと右耳を下ろしていく。
恍惚とした表情で静子の腹部から聞こえる音に耳を澄ませるのだった。

トクントクン、と静子の鼓動を感じながら、静一は自分が赤ん坊として静子に抱かれていた頃を想像していた。

赤ん坊の頃の自分が、静子と一緒になって布団に横になっている。
自分を胸に抱き、子守唄を歌う静子。

 

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そうして目を閉じ、うっとりとしていた静一だったが、静子から、なにをしているのかと声をかけられて目を開く。

静子は、静一を強引に払いのけることはしなかったものの、その表情や言葉には拒否の意思を込めていた。
「どいて。」

静一は慌てて頭を上げると、ぎこちない笑みを貼り付けて静子に自分がやくそく通り、吹石を拒否してきたことを報告する。

しかし静子は、静一に無表情の顔を向ける。
「近づくなって言ったんべに。」
そう言って、静子は体で静一を拒絶する意思を示すかのように背を向けて、体をエビのように折り曲げる。
「あっちいって。ママねむいから。」

静一は何か言おうと口を開く。
しかし言葉は出て来ず、ゆっくり立ち上がって扉に向かう。
そして部屋を出る際、静一は意気消沈した様子でぽつりと呟く。
「ごめんなさい…」

第55話の詳細は上記リンクをクリックしてくださいね。

 

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第56話 その後

無視

12月。

理科室に向かう廊下を、ぼんやりと窓の外を見つめながら歩く静一。

突然、小倉が、はどうほう! と言いながら静一の背中を両手で押す。
「おーさーべー! 何見てるん?」
ニヤつきながら、まだ手を構えたままの小倉。

「…や…」
小倉の方に振り向き、何か答えようとした静一。

「はどうほう!」
その背を比留間が押す。

「……ちょ…」
嫌そうな顔をする静一。

 

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「はどうほう!」

「はどうほう!」

「はどうほう!」
比留間の一発をきっかけに、小倉と比留間の間で連続で突き飛ばされる静一。

しかし静一は怒ることも、笑うこともできない。
「あ… たっ……やめろって…」
無表情で微かにやめるよう懇願するのみ。

その虚ろな視線が、近くを通りかかった吹石を捉える。

吹石は冷たい視線で静一を一瞥すると、すぐに目を伏せ、小倉と比留間に突き飛ばされ続けている静一の横を素通りしていく。

「ちょ…ハハッ。やめろって!」
静一は、まるで吹石に無視されたことを吹っ切るかのように、楽しそうな小倉たちに同調するのだった。

 

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荒れ果てた家

辺りはすっかり暗くなっていた。

山から強い風が吹き下ろす中、帰りの道を行く静一。

辿り着いた自宅の庭には、鉢や買い物のカートなどが散在している。

玄関のドアを開くと、見えるところ全てが散らかっていた。

まず、靴が全く揃っていない。
そして玄関を上がってすぐのところにタオルのかかった扇風機や、プランター、ヒーターなどが無秩序に、無造作に置かれている。
開いたドアにかけられたハンガーにTシャツが干してある。

「ただいま。」
玄関を上がり、居間の座椅子に座っている静子に帰ったことを知らせる静一。

食器やティッシュの空箱、トイレットペーパー、缶や衣類などがぐちゃぐちゃに散らかった居間の中で、静子はぼうっと中空を見つめていた。

「お義姉さんから、電話あったんさ。」
静子は静一に視線を向けることなく話し始める。
「しげちゃんち行くよ。また。」

 

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バス

静一と静子はバスに乗っていた。

二人黙って、並んで座っている。

窓の外を見ながら、深いため息を一つつく静子。
「ああやだ。どうして私達がわざわざ行かなきゃなんないん?」

「こっちだってやることあるんに。私達のこと、しげちゃんのリハビリ道具としか思ってないんさ。」

「退院してもこんなん… 結局何にも変わらないやいね。」

声を出す準備をするかのように、静一は一つ、大きく口を開く。
「…ぼ…」
ぎゅっと右手で拳を握る。
「ほんとだね。やだいね。」
窓の外に視線を向けたままの静子の横顔に声をかける静一。

静子は、窓の外を見ながら、実は窓に反射した静一の様子をじっと観察していた。

 

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静子の様子に横目を走らせ、静一は右手で静子の手を握ろうとゆっくり手を伸ばす。
しかし手を引っ込めて、頬を紅く染める。
「…ママ…僕にできること…ある?」

黙って窓の外を見続けていた静子がゆっくりと静一の方を振り向く。

どんな言葉が返ってくるか期待しているかのような表情の静一に、見下すような視線を向けて、静子はピシャリと答える。
「できること? 静ちゃんに何ができるん? パパみたいな顔して。」

愕然とした表情で静子を見つめる静一。

静子はそう言ってすぐに、プイ、と窓の方に視線を向ける。

次に『県営住宅前』に停車するというアナウンスがバス内に響く。

静一は静子の横顔をじっと見つめていたが、俯いて、何度も同じことをブツブツと呟いていた。
「パパみたい…じゃ……ない…パパみたいじゃ……」

「パパみたいじゃない……」

 

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感想

吹石との関係

静一が最低の一言で吹石を拒絶して以来、二人の関係性はすっかり冷え込んでしまった。

さすがの吹石も堪えたらしい。
それでも静一に対してあからさまな敵意をぶつけようとしないだけ、吹石の心にはまだ静一が残っているのかな……? いや、無視の方が事態は深刻か。
吹石が静一にあからさまな怒りを向ける方がまだ二人の繋がりが戻る可能性がある?

静一から謝れば全く以前と同じ恋人同士に、とまでは言わないけど、普通の知り合いくらいまではリカバリーできるのかな……。
何とか仲良くなってほしいんだけど、しかしそのきっかけも、今の静一の生活状況を見る限りでは絶望的かな。
これまでは吹石が積極的に関わってきてくれた。でも吹石は完全に打ちのめされてしまっている以上、これは静一から動かないといけないフェーズだろう……。

 

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しかし今の静一は母の関心を自分に向けようと必死で、吹石を拒絶し続けるのは間違いない。

そして、もし吹石に助けを求めようとしても、きっと吹石が動かないと、静一も動けない。

比留間たちに良い様に揶揄われても、それを毅然と断ることができない静一の様子から、自分には、彼のそんな無力さ加減が、どことなく一郎の姿と重なって見えた。

もう事態が好転することはないのかな……、と思う。

しかし、吹石が静一から離れた以上、自分がかねてから心配していた、静子逆上してが吹石を直接害するような事態にはならなそうだ。

今後、静一と吹石の関係性が復活したらわからないが、少なくとも現状を見る限りでは、二人は当分離れたままだろう。

そこだけはちょっと安心かもしれない。

 

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静一の心に傷が……

パパみたいな顔して、と言われて子供が傷つくのか……。

静一は、特に一郎に何かされたわけじゃない。
第1話からの静一と一郎を見ていても、静一は決して一郎のことを嫌ってなどいない。
二人の関係性は、ごく普通の父と子の関係だと言って間違いない。

しかし今回、静一はパパのようであると表した静子の言葉を拒否した。

静一が一郎に暴力を振るわれていたりして、嫌っているならともかく、ただ母が一郎のことを忌み嫌っているという理由だけで、静一も嫌うように努めるようになるとか……。

どう考えても思春期の子供の健全な成長を阻害する要因でしかない……。

静子に絶対服従を誓ったがために、静一はこんな思いをするようになってしまった。

しかし、静一がこうしてどれだけ自分の心を静子に差し出しても、静子から静一が望むものが返ってくるわけではない。

笑顔すら向けてくれない静子に対して、静一はますます静子への歪な愛を増幅させているような気がする。

これマジで静一に限らず、静子も、一郎も、どうなってしまうんだろう……。

 

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伯母

どうやら静子と静一はしょちゅう伯母のところに行っているようだ。

おそらく伯母はもちろんしげるの為というのが第一だけど、よかれと思って二人を呼んでいる節もあると思われる。

静一にはしげると楽しく遊んでもらって、あわよくばしげるを一刻も早く元の状態に戻したい。

静子は……しげるを救えなかった罪悪感を軽くしてあげるためとか?

あとは伯母自身が、そのことを気にしていないというアピール?

当初は、一郎が車で一緒に行っていたのかな。

バスで行くのはこれが初めてなのか? もし既に何回かバスで行き来していたとしたら、伯母は不思議に思うんじゃないかと思うんだが……。

次回、静子が伯母に対してどのような態度で接するのかが一つの鍵かな。

 

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荒れていく家

家の中は完全に荒れ放題。
特に居間の荒れ方リアルだな……。毎日少しずつ少しずつ積み重ねた荒れ方だと感じた。

それに、12月なのに扇風機が玄関先にあるなど、その荒れ方の中にも異様さが目立つ。

家の外に鉢が転がっていたのは風が強いためなのかなと思ったけど、どうやら家の中が荒れているのと同じだったようだ。なぜ買い物のカートがある?

とにかく、全く整理整頓が出来ていない。
元々そうだったならまだしも、明らかに以前とは違う。
あの夜を境に、静子の中で何かが切れてしまった。

まるで静子の心の荒廃ぶりがそのまま家の散らかり具合として表現されているかのようだ。

これまで家の中は綺麗だったけど、それは静子一人によって保たれていたんだな。
静子は、自分にとって唯一の味方であった静一に裏切られたと感じて以来、糸が切れたかのように無気力になってしまった。

その影響が、家の中が荒れるという形でわかりやすく出ている。

 

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離婚した?

あれ? 一郎の姿がどこにも見当たらない……。

家の外に車が無い。伯母さんのところへ行くのにバスを使ってるし……。

ひょっとしてこれ、離婚? もしくは別居したのかな?

まだ伯母の呼び出しに応じるということは、長部家との繋がりは断っていないということ。
だとしたら別居か。

もしくは単純に、静子から逃げ出したか。

静子が整理整頓をしないなら一郎がやったらいいのでは、と思ったんだけど、前回、静一と一郎が一緒に朝食をとった際の食器が学校から帰ってきてもそのまま居間に残されていたのを考えると、一郎はあまり家事には介入しないと思われる。

一郎が食器を台所に運ぶ程度の一瞬で出来ることすらしないのであれば、家事において大した戦力にならないであろうことは想像に難くない。

当初は動かない静子の代わりに家事を代わりにこなすこともあったかもしれない。でも継続することがバカらしくなったとか?

一郎の言い分を想像するなら、自分は外で一生懸命仕事をしているのだから、家の中のことは専業主婦である静子に任せている、という感じか。

 

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仕事から帰ってきて、なぜ自分が静子の代わりに家の中を片付けなければならないのかとフラストレーションが溜まっていったのかな。

そして、そういうところが、静子の心が一郎から離れていった理由なのかもしれないな、と思った。

一郎は静子を支える気があまりないように感じてしまうんだよな……。
事なかれ主義というか、存在感が無いというか……。
暴力を振るったりしないし、割とどこにでもいる普通の親父だとも思うんだけど……。

静子にとって頼れる夫ではなかったということなのか。
それとも静子の求めるものが大き過ぎるあまり、一郎ではその要求に応えきれなかった?

ただ一郎は、静子が明らかに夫である自分に対する興味を失っているのと、その心の奥底で忌み嫌っているのを感じるようになったのだろう。
家に寄り付かなくなった、いや、寄り付けなくなったのかもしれない。

自分のことを忌み嫌う姿勢を隠さなくなったであろう静子と、同じ家で顔を合わせて生活するなんて、もう耐えられなかったのか。

静子と話し合う機会を持ったのかどうかは知らない。
もちろん、一郎が全くそんな機会を持つ努力すらしかった可能性もある。

 

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二人の心はすでに通じていない。

しかし自分にはもはやわからない……。
一体なんでこうなってしまったのか、そしてどっちが悪いのか……。

確かに静子は闇を抱えていて異様だけど、果たしてそれだけが原因なのか?
深読みし過ぎててかえってわからなくなっている感じがする……。

静子がこうなってしまった以上、一郎がきちんとカバーして欲しいところだと思ったけど、それに限界があることもわかるんだよなぁ。

病気で一時的に家事ができないから手伝う、というならいずれ回復することが分かっているから出来る。

でも静子のこの状態に終わりが来るのか? いつか回復するのか? と考えると絶望的な気分になってもおかしくない。

これまでは静子が無理をして一郎についていっていたから、そのエネルギーが切れたということなのか。

一郎が静子のことにあまりにも関心を持たなかったためなのか。

 

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同じ轍を踏む

ひょっとしたら、静子が忌み嫌うようになった一郎の態度は、静子が作り上げたのかもしれない、とふと思った。

一郎は一家の家長としてイニシアチブをとっていた。
しかしイマイチ無力な印象が拭えなかったのは、静子がそう仕立て上げていたところもあるのではないか、と思った。

今回のラストで静子は静一に対して、何ができる、一郎のような顔をして、と突き放す。
これは静子が一郎に対して意識的、無意識的にとっていた態度と同じなのではないか。

そして静子は、静一を自分が忌み嫌う一郎のようにしたのは、実は自分であると気づいていない?

自分の知らず知らずの態度や考え方が、自分の忌み嫌う環境を作りだすということは実は良くあることだと思う。

周りの人が自分をバカにしていると思っている人は、実は自分自身が周りの人をバカにしていたりする。

誰にも自分の話が通じないと思っている人は、誰の話も聞いていない。

客観的に観察すればそれに気付いたりできるけど、当事者は中々気付けないのが恐ろしいところなんだよなぁ。

そう考えていたら、多分、実際は違うのだろうけど、『血の轍』というタイトルの意味が自分の中でちょっとだけ形を成したような気がした。

以上、血の轍第56話のネタバレを含む感想と考察でした。

第57話に続きます。

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