血の轍 最新第55話ママの鼓動ネタバレを含む感想と考察。静子に吹石を拒絶したことを嬉しそうに報告する静一。

第55話 ママの鼓動

第54話のおさらい

吹石からの手紙を開封する静一。

その内容は自分のせいで静一に迷惑をかけてしまったことへの謝罪と、静一が靴やジャージを貸してくれたことへの感謝、そして靴とジャージの返却のために裏門で待つというものだった。

給食の時間、給食を受け取るために、配膳当番の吹石の前に立つ静一。

しかし静一は吹石とは一向に視線を合わせようとしない。

学校が終わる。

(やくそくね。)

 

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静子のその一言を思い出しながら、静一は裏門へは向かわずに帰宅の途についていた。

しかし路地で立ち止まると、静一は踵を返して裏門へ向けて走り出す。

裏門には手紙の通り、紙袋を下げた吹石が立っていた。

遠くから駆けてきてくれ静一を吹石は笑顔で迎える。
「長部。手紙…読んでくれた?」

お互い向かい合い、二人は目を合わせる。

ぎこちない空気の中、感謝の言葉とともに手元の紙袋を静一に手渡す吹石。

何も言わずに紙袋を受け取る静一に、吹石はあの夜、帰宅したあとのことを気遣う言葉をかける。

 

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「吹石。」
静一は、そんな吹石からの気遣いを吹っ切るようにその名を呼ぶと、もう吹石には近付かないと約束したことを告げる。

伏し目がちな静一に対し、吹石は静一の目を真っ直ぐ見据えていた。
「約束? 誰と?」

「……………マッ……………………お母さんと。」

「まって!」
元来た方向へと歩き出す静一を吹石が呼び止める。
吹石は、おかあさんとの約束などどうでもいい、と言って、静一に問いかける。
「長部の気持ちは? 長部はどうしたいん?」

 

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吹石に背を向けたまま、僕がいやなんだ、と答える静一。
「もう…好きじゃないから。吹石のこと。」
そしてゆっくりと吹石に振り返る。
「もう飽きた。」

静一からの残酷な一言に吹石は凍り付いていた。

そして静一は吹石に、もう話さない、と言って、自宅への道を歩き出す。

吹石はその場で固まったまま動けず、いつまでも静一を見送っていた。

一方、静一は歩きながら、母とのやくそくを守れたことに満足したかのような薄ら笑いを浮かべていた。
「やくそく…まもった…」

第54話の詳細は上記リンクをクリックしてくださいね。

 

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第55話 ママの鼓動

静子の鼓動

帰宅した静一。

居間は朝食で使用した食器がそのまま置かれ、床は散らかっている。

静子が居間にはいないことを確認した静一は、静子の部屋に向かう。

引き戸を開けると、静子は朝、静一が登校する前に声をかけた時と同じように自分の寝床に横になっていた。

部屋の入口に立っている静一からは、静子の表情は見えない。

意を決して、静かに部屋の中に入っていく静一。

静一は静子のそばに立ち、彼女が穏やかな表情で眠っている様子をじっと見下ろしていた。

やがて静一はゆっくりと膝を折り、床に座ると、静子に、ママ、と呼びかける。
「僕…ちゃんと…やくそく…まもったんさ……」

「やく…そ…く。」

静一は目を閉じている静子の腹に、顔の右側面を下にしてゆっくりと頭を下ろしていく。
そうして、まるで静子の腹部の音を聞くような態勢になった静一。
その表情は恍惚としていた。

 

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トクントクン、と静子の鼓動を感じながら、静一はゆっくりと目を閉じる。

(せいちゃん。)
静一は、かつて赤ん坊として静子に抱かれていた頃のことを想像していた。

(せーいちゃんはー)

(かわいいこー)

(ほんとにいいこー)

(ままのたからものー)

赤ん坊の自分が布団に横になった静子に抱かれ、子守歌を聞いている。

(ずうっとずうっと)

(だぁいすき…)

 

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拒絶

「静ちゃん。」
うっとりとしている静一に、静子が声をかける。
「なにしてるん?」

目を覚ました静子は、腹の上に頭を置いている静一を強引に払いのけることはしない。
しかしその表情や言葉には拒否の意思が籠っていた。

「どいて。」

あっ、と呟いて頭を上げる静一。

「あっ…あっのっ…」
静一はぎこちない笑みを貼り付けた顔で静子に話しかける。
「やくっ…やくっやくっそくっ…ちゃんとまもったんさ!」

「ふっ……吹石にっ……ちゃんとっ…!」

「もういやだって…さいしょからいやだったっていったんさ……!」

静一は嬉しそうに、静子に褒めてもらえることを期待しているかのように報告する。

無表情で静一を見つめる静子。
「近づくなって言ったんべに。」
そう言って、静子は静一に背を向け、体をエビのように折り曲げる。
「あっちいって。ママねむいから。」

何か言おうと口を開く静一。
しかしそれを言葉にすることなく、ゆっくり立ち上がると、とぼとぼと扉に向かう。
部屋を出る際、意気消沈した様子で静一が呟く。
「ごめんなさい…」

 

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感想

静子の拒絶

静一の、静子に甘えようとして拒絶されてがっかりしている様が見ていて悲しい。

1巻の最初の頃は、静子から甘やかされていたのに対して年相応のいくばくかの反抗を静一が行っても、静子にはそれを軽く受け流す心の余裕があったんだが……。

静子にはもう、そんな余裕はないようだ。
もしくは静一に対してそういう気持ちになれないらしい。

静子からしたら、もう静一が赤ん坊の頃のように無垢で、一心に自分を求める存在ではなくなってしまったことがショックなのかな……。

吹石との一夜を経て穢れてしまった事実がある以上、もういくら忠誠を誓われても、甘えられても以前のような愛で返すことができないということ?

静子の静一を求める心が下降線を辿るのと反比例するように、静一の静子へのそれは上昇している。

静一が吹石を拒絶したことを静子に嬉々とした態度で報告し、まるで必死に媚びを売るような態度を見せているのは、静子に見捨てられることが不安な気持ちのが現れが大きいんじゃないかなと感じた。

 

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思えば、しげるの事件が起きた直後、静一が母を守らなくてはならないという意識に変わったのは、一つの精神的な成長にも見えないこともなかった。

その根底には静子の溺愛による静一の重度のマザコンっぷりがあるので、すでに物語の最初、第1話の頃から二人の間にある空気は歪であり、不穏だった。

次の段階として、静一は吹石という同年代の女性に惹かれ、母を忌避するようになる。
これもまた歪んだ形ではあるが、ギリギリのところで思春期における成長過程の一つとして数えることができると思う。

しかし静子と交わした、吹石と距離を置くという約束を破ったのがバレて静子の怒りを買ってから急転直下、静一は静子に媚びるようになってしまった……。

静一を支配したい静子と、静子に見放されたくない静一。

おそらく彼の人生で母から激しい怒りをぶつけられたのは初めてだろう。
だから本能的に見捨てられるという強烈な恐怖に襲われ、吹石を拒絶して母を選んだのかなと思った。

 

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静一の静子への想いは静子が好きというより見捨てられることへの不安が根底にあるような気がする。
静一が静子の腹に耳を当てて、母に抱かれる赤ん坊の頃の自分を想っていたのは、つまりそういうことではないか。
親に見捨てられたくないという思いは子供が必ず持つ本能的な不安だと思うが、溺愛されてきた静一には特に恐怖を覚えるものなのではないか……。

とりあえず、この二人の関係性からは、静一の精神的な成長はないし、静子もまた、静一が徐々に社会に出て行くことで自分の思い通りにはならなくなっていくことに苦しみ続けるような、不毛さを感じる。
静子が拒否しているにもかかわらず静一が変わらず静子を求め続ける。そんな二人の関係性からは、まるでどこにも出口が無くなってしまったかのような閉塞感を覚えてしまう。

ただ今回のように、静子が静一に興味を失い、彼をやんわり拒否し続ければ、やがて静一が静子から精神的に巣立ちできる時が来るのかな……。

以上、血の轍第55話のネタバレを含む感想と考察でした。

第56話に続きます。

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