第142話 帰宅
第141話のおさらい
静子が階段から落ちたという一報を受けて、病院に駆けつける静一。
静子は病室のベッドに横たわっていた。
警官から静子が歩道橋の階段から足を滑らせたと聞き、静一はそれが静子が伯母やしげるに対して行ってきた行為の報いではないかと一瞬想像する。
医師は静子は脳震盪を起こしているが、特に脳に異常は見られず、明日には退院できるという。
静一が静子にその旨を告げに行くと、静子は虚ろな目を天井に向けたまま、ぶつぶつと何かを呟き続ける。
静子の口元に耳を近づける静一。
『そのままでいいです』
『もうこのままなにもしないで』
静一は静子をじっと見つめる。
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静子の悲惨な老後の生活がリアル過ぎる。
こうなってしまうと、ほんとに哀れとしか言えない。
生きる気力が湧かないのも無理ないよ……。
静子が陥っている状況は、昨今聞くようになった「生きてしまうリスク」そのものだと思う。老後にお金がないと本当にどうにもならないんだな……。正直、これから老いていく身としては恐怖しかない。
静一が見つけた静子の預金通帳の記帳履歴から、今の静子の苦境がありありと伝わって来る。
まず、とっくに年金をもらえる年齢になっているのに、年金の振込みの形跡なし。
そして振込名義として記載されていた「タケヤフーズ」はおそらくスーパーみたいなところだろうか。
おそらくは誰とも交流をせず、思うように動かなくなってきている体でやりたくもないパートとして労働し、わずかな給与を得るだけの毎日なのだろう。
それは静かな絶望の日々と呼んで間違いない。
もし単に年金受給の手続きをしていないだけで、それを行えばいくらかでも年金をもらえるようになったとしても、根本的に人生に絶望している静子の気持ちは変わらないように思う。
白猫と戯れる機会があるのかどうかわからないが、それはもう今の静子の生きる理由にはなっていないようだ。
静一は、退院したその日、静子のアパートから自宅に帰る前に、静子に食料品を買い与えた。そしておそらくはその日の夜勤空けに静子のアパートを訪ねると、食料品は同じ位置にあり、全く手を付けられた形跡がなく、静子もまた同じ位置で横たわっていた。
本当に、もう自分の人生の幕を引きたいのか。それとも、人生に疲れ切ったところに、自分は社会に求められていないという捨て鉢な気持ちも手伝ってのことなのか。
静一が肉まんを食べさせようとすると、ひとまず食べた。そして次の一口も求めているように見える。
ただ、こんな状態になると、静一が静子を生かそうと世話を焼いていることが、かつての自分への行いに対する仕返しみたいになってるとすら思う。
かつて朝食として出された肉まんを与えるのとか、静一は意図していないんだろうけど、復讐っぽく見えてしまった。
静一としては静子を放っておけないだけで、復讐するなんて気はさらさら無いんだろうけど、もう疲れ果ててしまった静子にとっては人生が続くこと自体が拷問になっている。
でも、静一としては、そんな静子の気持ちが分かったとしても、静子の希望通りにするわけにはいかない……。
静一は、おそらくそこまで多くの給与を得る身ではないのに静子の家賃を負担するという形で静子を支援し続けているから偉い。それがなければ早々に静子の生活は破綻し、アパートを追い出されてホームレスになっていただろう。
経済的な面だけを考えると、静一のところに静子を住まわせるのが良いんだろうけど、でも世話するの大変だし、そんな余裕はない。
もし自分が静一なら、平穏な生活を無くしてまで、自分の人生を台無しにした静子を引き取ろうとはしないかな……。やはり今の静一のように、お金を支援することで精一杯だろう。
正直、今回の話はどんな怖い話よりも怖かった。どうにもならない状況に追い込まれて、生を望まなくなってしまうというのは悲惨以外の何物でもない。
そうならないように先を見据えて行動しないといけないなと思った。
これから静子はどうなるのか。というか、静一はどう関わっていくのだろうか。
放っておいたら緩やかに、しかし確実に、死に向かって一直線であろう静子と、どう相対していくのか。
以上、第142話のネタバレを含む感想と考察でした。
第143話に続きます。
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