血の轍(押見修造の漫画)の最新第40話罪悪の感想(ネタバレ含む)と考察。静子の様子に涙を流す静一。そしてついに吹石父に……。

第40話 罪悪

第39話のおさらい

静子は静一の行方を求めて、吹石家を訪問していた。

 

静子は玄関先に出てきた吹石と吹石父の前で唐突に自身の身の上話を始める。

 

その様子を静一は二階からじっと窺っていた。

 

いい年して恥ずかしいです、と言いつつ、しかし静子は自分は他の人達みたいにはできないと続ける。
「どうしても…どうしても受け入れられない。」

 

静子は涙を流しながら、吹石に向かって、静一をたぶらししていると考えただけで頭がおかしくなりそう、と呟く。

 

何を言われたのかイマイチ分からない吹石父は、え? と声を上げるのみ。

 

やがて静子は顔を伏せて、ごめんなさい、と繰り返す。

 

聞き分けが良い静一に、いとこが来た際に友達との約束を断らせていた自分のせいで、いつもにつらい思いさせてきたかもしれない、と静子。

 

 

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静子はやがて顔を両手で覆い、体を折り曲げていく。
「私…私は…いらない子だから…愛して…もらえなかったから…」

 

静一には愛されなかった自分の分までたくさん愛してあげたかったが、その姿勢を親戚たちに過保護だとバカにされ、自分の事を見てくれなかったと恨みを込めて続ける。

 

静子のただならぬ様子に困惑する吹石父。

 

一郎も親戚の味方で何もしてくれなかった、と静子はヒートアップしていく。
とうとう静子は膝から崩れ落ちてしまう。
「それでも私は…静ちゃんのために…静ちゃんがいてくれたから…生きて来れたの…」

「他に生きてる理由なんて無い…」

「…でも…でも…それが…静ちゃんを苦しめてるなら…」

「私の生きてる意味は…何…?」

 

両手を玄関先のタイルに置き、土下座のような姿勢で静子は叫ぶ。

「静ちゃん…静ちゃあああん」

 

静子が悲痛な叫びを繰り返すのを、静一がじっと聞いている。

 

前日、中指の爪を噛み割っていたため、静子が地面に突き立てていた中指の先から地面に血が流れ出す。

 

血が出ているのを指摘され、静子はようやく、ゆっくりと、上半身を起こしていく。
その光景から静一は目が離せなかった。

 

静子が顔を上げる。
その横顔を見た静一は、頬を上気させており、両目からは涙を流していた。

「ママ…」

 

思わず静一が呟く。

第39話の詳細は上記リンクをクリックしてくださいね。

 

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第40話 罪悪

立ち去る

吹石の父は静子の指から血が流れているのを心配して手当を申し出る。
しかし静子は静一を捜すから、と吹石父からの手当を断る。

 

その光景を静一は流れる涙を拭おうともせずに見つめていた。

 

吹石父は静子の様子から、昨夜からずっと静一のことを捜していたのかと訊ねる。

 

はい、と静かに答える静子。

 

吹石父は警察への届け出を提案し、自分が電話をすると買って出る。

 

それを静子は丁重に断り、もう少し捜してみますと答える。

 

でも、と食い下がる吹石父の言葉を、静子はごめんなさい、と静かに遮って頭を深々と下げる。
「本当に…申し訳ありません。お騒がせしてしまって…」
頭を下げたまま、今度は吹石に謝罪する。
「…由衣子さん。ごめんね。」

 

 

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静一の位置からは、玄関の擦りガラス越しに吹石の横顔らしき輪郭が見えるのみ。その表情はわからない。

 

失礼します、と静子は雨の中を傘もささず、背を丸めてとぼとぼと立ち去るのだった。

 

傘を勧める吹石父の言葉が聞こえていないかのように、静子は歩いていく。

 

そんな静子の姿が見えなくなるまで、静一は涙を流して見送っていた。

 

母がいなくなり、静一は壁に背を預けてしゃがみこむ。
そしてたった今目撃したやりとりにショックを受けた様子で、呆然と足元を見つめる。

 

 

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守ってあげる

吹石の部屋の内側から扉の開く。

 

「大丈夫。行ったよ!」
しゃがみこんでいる静一に吹石が呼びかける。
吹石は伸ばした手を静一に握らせて引き起こすと、そのままの勢いで静一の首に両手を回す。

 

吹石に抱き締められる静一。

 

静一は心ここにあらずという表情でただ吹石からの抱擁を受け入れていた。

 

「こわかったあ!」
静一に抱き着いたまま素直な感想を漏らす吹石。
「ほんとにこわいよ。あのお母さん。」

 

そんな吹石の言葉を静一はただ黙って聞いていた。

 

「かわいそう長部…」
首に手を回したまま体を離すと、吹石は静一に妖しく笑いかける。
「私が、守ってあげるからね。」

 

静一は何も答えず、ただ呆然と吹石を見つめている。

 

その時、ガチャ、と扉の開く音が響く。

 

 

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逆ギレ

吹石の部屋のドアを開けたのは吹石父だった。

 

見知らぬ男の子と、彼を抱き締める吹石を見て吹石父の表情が怒りに染まる。
吹石父は強い口調で吹石に状況の説明を求める。

 

しかし吹石は静一のことを友達だと言うのみで、部屋に勝手に入ってきた父親を、関係ない、と責めたてる。

 

父親は、この見慣れない男の子こそが静一だろうと指摘し、こそこそ何やってた、この部屋にいつからいた、と吹石を問い質す。

 

「うるっさいんなあ!!」
質問には答えず、私が何をしようと勝手、と強い口調で反撃する吹石。
「父親ヅラしないで!! クズのくせにっ!!」

 

静一は吹石と父のあまりに激しい口喧嘩を前に言葉を失う。

 

バカヤローッ! と吹石にキレる父。
「親に向かって!!! こんな…男連れ込んで…! 母親と一緒だいなあ!!!」

 

吹石は沈黙したかと思うと、素早くしゃがみこんでラジカセを両手で持ち上げると父親に向けて勢いよく放る。

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宙を舞ったラジカセは鈍い音をたてて父の額にヒットする。

 

「…いってえ…」
両手で額を押さえ、その場に蹲る父。
「由衣子…」

 

吹石は何も言わずにただオロオロしている静一の手を取って振り向く。
「長部! 逃げよ!!」

 

雨の中、静一の手を引いてベランダのドアから吹石が駆け出していく。

 

吹石の手に引っぱられる勢いで部屋を後にする静一。

 

「由衣子…」
静一の耳に、背後で蹲る吹石父の呻きが聞こえる。

 

 

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感想

憔悴する静子

今回の話だけ見ると、静子は息子思いの母親でしかない。

 

一晩中探し回るとか、子供を想っていないととてもできない。実際に子供が突然いなくなってしまった親御さんというのはこういう思いをされているのだろう。とても大変なことだ。

 

今の静子は体力的にも精神的にも相当消耗し切っていることだろう。

 

吹石父との会話から、今のところ、警察には届けていないことがわかった。

 

そうなってくると、父の一郎が、帰ってこない息子の為に一体何をしているのか気になる。
さすがに一郎はこっそり警察に届けてたりするのかもしれない。

 

しかし、憎き吹石に深々と頭を下げて、雨の中を傘もささずに立ち去る静子の背中が何と弱々しいことか。

 

 

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溺愛している中学生の息子が消息不明となれば、親としては気が気じゃないというのは分かる。

 

これまでに見たことのないほど憔悴している静子の背中に、静子に苦しめられていたはずの静一もそりゃ思わず涙するわな。

 

静子はいつまでも探し続けるだろう。

 

今は静一への心配で頭も心もいっぱいだろうけど、静一を見つけたらその心が次にどこにフォーカスするのかが気になる。

 

静一が吹石の部屋に一晩泊まったことを知ったら、静子はどうなっちゃうんだろう。

 

怖くもあり、楽しみでもある。

 

 

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静一と吹石の静子を巡る心の乖離

事態急転。これ、この先どうなっちゃうんだろう。

 

こんな雨の中、時間はもう夕方くらいだったはずだ。

 

吹石は着の身着のままでの家を飛び出した。
これは完全に後先考えてない衝動的な行動だわ。無茶にもほどがある。

 

一方、静一はと言えば、吹石家を訪ねて来た静子の言葉や態度にだいぶ心を動かされていたように見える。
それをもって、静一をマザコンとバカにはできないと思う。
やはりこれまでの人生で静子から愛情を注がれてきていたわけだし、そもそもまだ静一は中学生なんだから、物理的にも精神的にも母親と袂を分かつことなどできるはずがない。

 

昨夜は吹石を守るために母親と対立したけど、今はその時ほどの反発心は静一の心の中にはないだろう。

 

 

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静一は、静子を敵視し自分を守ってくれるという吹石の言葉を彼女に抱かれながら呆然として聞いていた。
吹石に抱き締められているにも関わらず、静一の心は上の空だ。静子に心が持ってかれているのが分かる。
あと、雨の中、傘もささずに憔悴して立ち去っていく哀れな母親を、静一の前で何の遠慮もなく嫌ってみせる吹石に戸惑っているのかもしれない。

 

吹石は静子に本能的とも言える嫌悪感を抱いている。
そして、吹石は自身が父親に苦しめられていると感じており、静一もまた自分と同様に母親に苦しめられているかと思っている?

 

そんなふうに自分と重なるところがあるのも、吹石が静一に想いを寄せた原因の一つなんじゃないかな……。

 

吹石が父親及び静子を嫌っているほどには、静一は静子を嫌っていない?
もしそうなら吹石と静一の心の温度差は二人の仲を引き裂くことになるのかもしれない。

 

それ以上に怖いと思ったのは、吹石が一晩中静一と過ごしていたのを静子が知ったならどうなってしまうのかということだ。

 

 

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これ、何が怖いかって、吹石自身は静子の反応をそこまで恐れてないっぽいのが怖いんだよなぁ……。
そもそも父親に対する態度も恐れ知らずだし、静子との草叢でのやりとりの際も吹石は終始強気の姿勢を崩さなかった。
気が強く、これまで大人と対峙してそこまで痛い目にあったことがないから、怖いものなしなのかなと思う。
そして、そんな吹石だからこそ静子を限界まで追いつめることになるのではないか。

 

状況が許せば親戚の子供を崖から突き落とすのが静子の紛れもない一側面なわけで、明確に静一を自分から奪おうとしている吹石に静子が何もしないと考えようとする方が無理がある。
吹石が作中によく出てくるようになった12話くらいから、来るか来るかと思っていた女VS女の展開がいよいよ現実化しようとしているのを感じる。

 

この後の展開で、静子と吹石の間で何も起こらないはずがない。

 

41話は冒頭からどうなるか気になる。

 

まさか静一が長部家に吹石を連れ帰るなんてことはないだろうな。
でもそれも選択肢にあるんじゃないかな……。
そのくらい、まだ中学生の静一と吹石には選択肢がないわけで……。

 

 

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吹石家の親子事情

今回初顔出しの吹石父と吹石の激しいやりとりから、母親がどうしていないのか、どうして父親と吹石が折り合いが悪いのかが窺えた。

 

父親の言葉をそのまま受け取ると、母親は他の男を家に連れ込んで浮気していた?

 

それが原因となって別れたのだろうか。
もしくは、ただ単に男と一緒に逃げたのかも?

 

しかし吹石にも彼女なりの言い分はあるっぽい。

 

「父親ヅラしないで!! クズのくせにっ!!」

 

吹石が父親に投げかけた最も強い罵声だ。

 

吹石がベンチで静一に告白したのは父が酒を飲むと暴れるということだった。つまりそれがこの罵声の根本原因なるのかな。

 

 

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ひょっとしたら母が浮気に至った原因は、吹石がクズと言い切った父の側にこそあった可能性もある。
酒乱による暴力に疲れ果てた末に、妻は他の男に拠り所を求めたとか?
まぁ仮にそれでも浮気は正当化できないけど。

 

少なくとも吹石自身は、母が出て行った原因を父の酒乱、あるいはもっと別の悪しき生活態度だと感じているのかもしれない。

 

それに加えて吹石はただでさえ反抗期。
一般的に娘が父親を忌み嫌いがちな年頃ということもあり、父親をクズ呼ばわりすることで反発してみせているのかな、と思った。

 

クズという罵倒は随分と強い言葉だけど、果たして父親が本当によほどダメなのか、それとも思春期真っ盛りだからこそ、理不尽なまでに父を忌み嫌っているだけなのか、正直、現時点では自分には判別がつけられなかった。

 

というのも、第38話でのトイレの前での吹石と父親のやりとりからは、そこまで父と子の中が険悪という印象は受けなかったからだ。

 

 

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トイレにやってきた父が、何故かトイレの前で陣取っている娘に特に理由なく追っ払われる
父はそんな娘に対して強く文句を言うことなく、すごすごと引き下がっていった。

 

そこだけ見ると、ただ単に反抗期の中学生の娘に手を焼いている父親、という構図に見えた。

 

今回父親と吹石は激しく喧嘩したけど、どっちが悪いかと言えば、これは吹石じゃないかな……。

 

中学生の息子を一晩中捜し回り、それでも見つけられず憔悴し切っている母親に、吹石は息子がここにいると正直に告げなかった。
それに加えて、そもそもまだ中学生なのに、男を自室に親に無断で泊めるというのは、父親なら怒って当然だと思う。

 

果たしてこの事態はどう収拾がついていくのだろうか。
次回も冒頭から見逃せない。

 

以上、血の轍第40話のネタバレを含む感想と考察でした。

第41話に続きます。

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