第107話 喧嘩
第106話のおさらい
響は津久井から電話で、公園で自分をコケにした琴子の居場所を聞いていた。
一ツ橋テレビで収録中だと聞き、響は真っ直ぐスタジオに向かう。
収録中の檸檬畑の番組に堂々と乗り込んだ響はつかつかとひな壇最前列の琴子の前に行くと、親し気に近づいてきた琴子を問答無用で殴り倒すのだった。
津久井は怒りに燃える琴子に対し、響との公園でのやり取りをビデオに収めていると言って、その上で警察沙汰にするなり、好きにこの場を収めたらいいと告げるのだった。
スタジオを去っていた響に追いついた津久井は、鏑木紫は本物であり、コミカライズ決して損がない話だと忠告する。
しかし、それは私に関係ない、と一蹴する響。
津久井はそんな響の態度を受け、今度は個人的に言わせてもらうと津久井は笑みを浮かべる。
「あのオバサンは強いぞ。」
「それも私に関係ない。」
去っていく響を津久井から指示を受け、ビデオカメラを構えた七瀬が追う。
響は小論社に到着した後、花井が出てくるまで文庫本を読んで時間を潰していた。
響の前に現れた花井は、まず響を抱きしめる。
そしてそのまま、新作『青の城』を絶賛するのだった。
それが一通り終わるのを待って、響は花井に、鏑木紫の住所がわかったのかと問う。
以前コミックの営業をしていた海老原が鏑木紫の住所を知っているのを聞いた響は別の質問をする。
「もう一つの方は?」
それに対して、タイミング良く社内にあるようだ、と海老原。
海老原の案内で向かった先は週刊少年スキップコミック編集部だった。
普段から人の出入りが激しい編集部なので、海老原と響は特に呼び止められることもなく目的の場所である鏑木紫担当編集の幾田の机に向かう。
響が引き出しの中から封筒を発見すると、海老原に促され二人はすぐに花井の元に戻るのだった。
響が持ち出した封筒は『お伽の庭』漫画原稿だった。
その原稿を見つめる響に、海老原は真剣な表情で、丁重に取り扱うよう釘を刺す。
そして、そもそもその原稿を何に使うつもりなのかを訊ねる。
しかし響は質問にまともに答えない。
「じゃあ、行ってくる。」
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第107話 喧嘩
1話原稿の紛失に気づく鏑木と幾田
『お伽の庭』コミカライズ連載まで1カ月少しと迫っていた。
喫茶店でのネーム作業の合間、『お伽の庭』に目を通す鏑木紫。
『お伽の庭』にはびっしりとポストイットが貼られている。
鏑木は純文学は他のジャンルと比較してテクニックや理屈を排除した才能勝負であると感じていた。
そして『お伽の庭』がどうして面白いのか、15歳の女の子がどうして世界観や表現力を持てたのか、鏑木には一切わからない。
(天才か……)
喫茶店からの帰り。
鏑木は響が自分の連載計画を止めることを諦めたのかと考えながら帰宅していた。
響が世間を騒がせるようになったこの2年、鏑木は響のことを才能の塊だと感動する傍ら、10代の今だけの感性だろうと予感していた。
成長するにつれて周りのことや損得勘定など、作品作りに本質的に関係ないことを気にし始める。
それはそれまでのように自由には書けないことを意味しており、次第に過去の自分の代表作の粗いコピーを書き続けるようになることを意味していた。
(『お伽の庭』を私が――鏑木紫が描けば話題も金も入るしな…)
鏑木はもはや響のことなどどうでも良く、漫画『お伽の庭』を誰も見たことのない傑作にすることに集中し始めていた。
スマホが鳴る。
電話の相手は幾田だった。
3話目のネームが出来たことを報告する鏑木に、幾田が言いづらそうに切り出したのは、『お伽の庭』1話の原稿が編集部から消えたということだった。
印刷所にないのかと言う鏑木に、確認したがない、と幾田。
紛失したのかと鏑木に問われ、幾田は自分がいない間に小柄な女性が机をあさっていたという話を周りの人間から聞いてたことを報告する。
不法侵入
鏑木は電話で話しながら、自宅に辿り着いていた。
庭から仕事場の窓を見ると、響と花井が椅子に座って何かを読んでいる。
状況から、窓が割られ、そこから鍵を開けて不法侵入していたのは明らかだった。
「おかえり。あなたの描いた『お伽の庭』の漫画読ませてもらった。」
響は堂々とした態度で鏑木を迎える。
「原稿は見つけた。取りに来い。」
幾田に指示して電話を切る鏑木。
花井は悠然と立ち上がり、窓に向かう。
「案内したのは私。後はお二人でお好きにどうぞ。」
すれ違いざま、鏑木に言って庭に出て行く。
花井が歩いていく先にはビデオカメラを構えた七瀬がいる。
響と鏑木を二人にしていいのかという七瀬に、響が話をつけると言っているから、と花井。
花井はそれより七瀬の撮っている映像の方が問題で、無断使用したら訴えると警告する。
対決
「漫画の原稿って初めて見たけどすごく手間がかかってるのね。」
響は座ったまま、鏑木に話しかける。
「これってどこまであなたが描いたの? そういえばあなたの名前なんだっけ?」
それらに答えず、用件を問う鏑木。
響は漫画をほとんど読んだことはないと前置きしつつ、この作品は面白い、と鏑木が『お伽の庭』を漫画に従った理由に理解を示す。
「それはさておき、あなたに売られた喧嘩を買いにきた。」
椅子から立ち上がる響。
「喧嘩でケリをつけましょう。」
そして響は、鏑木が勝てば原稿は返却し、連載も自由にすれば良いが、もし自分が勝てば原稿は灰にすると条件を持ちかける。
花井は黙って二人を庭から見守っていた。隣では七瀬が呆気にとられている。
先に動いたのは鏑木だった。
鏑木は近くの椅子を持ち上げて響に向って投げつける。
椅子をかわした響に駆け寄る鏑木。
響は鏑木の右ストレートをかわし、竹刀で胸のあたりを突く。
「漫画家の職場って色んなものがあるのね。」
鏑木は一瞬苦しむもすぐに立ち直り、竹刀を腕で防いで左足で響の下腹部に蹴りを食らわす。
鏑木は蹴った足に、生身とは別の手応えを感じていた。
「腹に何かいれてんな。」
腹の下に仕込んでいた本を見せる響。
「勝手に仕事場漁りやがって。まあいい、次はツラを狙う。」
鏑木は響と自分ではフィジカルが違うと指摘する。
「竹刀でも本でも好きに使っていいが、お前じゃ喧嘩にもならない。」
その通りだと七瀬。
七瀬は170センチ以上の鏑木に対し、響は160センチもなく、体重も20キロは違うだろうと見積もっていた。
鏑木は響が報道されていた時と変わらずに嬉しいと言いつつも、それは後にしようと続ける。
「原稿がかかってる。」
響は机の上にあるトレース台を鏑木に叩きつける。
それを腕で防ぐ鏑木。
その隙に響は鏑木の左わき腹に右フックを入れる。
しかし効いた様子のない鏑木。
打ち下ろしの右ストレートを食らった響は床に倒れる。
「ガタイが違うっつったろ。」
鏑木は仰向けに倒れた響の上に圧し掛かり、首に右手をかける。
「不意をつかれなきゃお前の細腕なんざいくらでも耐えられる。」
鏑木の右手をどかそうとしたり、鏑木の股間を蹴ったりして抵抗する響だが、鏑木には一切効いていない。
「無理だ。図書館の時とは状況が違う。」
「負けを認めるか、オチるかするまでシメ続ける。」
勝利を確信して、降伏を勧告する鏑木。
「あきらめろ。」
感想
肉弾戦
リターンマッチ来たー!
肉弾戦!!
えーと、この漫画、ジャンル何だっけ?(笑)
響が肉弾戦を仕掛けるのは、もはや当たり前の展開になりつつあるなー。
言葉じゃわからない輩は体でわからせるしかないわな。
漫画なんだからこんな感じで現実ではあり得ないことをどんどん見たいと思う。
しかしフィジカル差により響が劣勢になっている。
響が負けるというのは、かなり珍しい展開だと思う。
とはいえ、ここで響が負けて、漫画が出版されても響に全然損は無いと思うんだけどな……。
ひょっとして今回はそんな感じで収まるのかな?
響が負けという形で終わるのは何だか後味悪い感じはあるけど……。
果たして、次号でどう決着をつけるのか。
楽しみ。
以上、響 小説家になる方法第107話のネタバレを含む感想と考察でした。
第108話に続きます。
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