第113話 追憶
第112話のおさらい
6月。
いつものようにパン工場の深夜勤務に従事する静一。
一郎と呑んだ夜の、別れ際のことを思い出し、そこから静子のことを連想してしまい、半ば心ここにあらずの状態だった。
夜勤を終えた静一は、病院からの留守番電話を聞き、病院に急ぐ。
一郎はICUで呼吸器を口元にあてられて眠っていた。
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一郎の状態
ICUのベッドで虚ろな視線を中空に向ける一郎。
別室に移る静一。
静一はその部屋で、医者の話を聞いていた。
一郎の家族かと確認された後、医師は一郎の容態について話し始める。
昨夜一郎自身の119で病院に運び込まれ、腸穿孔と判明。
静一は医師から、開腹手術を行ったが、万が一の時の覚悟を求められる。
静一は受付で、渡された入院申込書の設問を見つめる。
細かい字で、指定の期日に本人を引き取ります、と書いてある一文に目が留まる。
静一は救護院に入った自分に元に訪ねてきてくれたことや、救護院を出た後、自分を育ててくれたことを思いだす。
しかし自分は父に笑いかけることなく、父の職場で働くという話を反故にして、独り立ちしていたのだった。
夜になり、雨はすっかり上がっていた。
静一は看護師に、何かあったら連絡をくださいと告げ、病院を後にするのだった。
感想
一郎は救護院に入った静一にきちんと面会に行って、出所した後も保護者としての責任を果たしていたんだな……。
静一の犯した罪のせいで、相当肩身の狭い思いをしただろう。でも静一にそんなやりきれない思いをぶつけるどころか全く表に出すことなく、笑顔も愛想もなく、素っ気ない態度を貫く静一の世話を、結局、静一が独り立ちするまで継続した、そして、出ていった後も放置することなく、気にかけ続ける。
これが親の愛なのか。いや、もし自分が親になっても、一郎と同じ状況に陥った時に、果たしてここまでやれるか? 実際に子供を持てば、やれると即答できるのかもしれないが、少なくともそうではない今は、正直、自信がない。
静一が捕まって以降の、静一の為に行動している様子や、ストレスで急激に老けていく経過を見ると、どれだけのストレスと向き合う破目になったのかと戦慄する。自分が一郎の立場だったら尻尾巻いて逃げてるかもしれない。
第1巻から数巻先までの一郎の人物評は、悪い人ではないけど、親戚を苦手とする静子の味方になってやれない頼りない夫であり、愛に飢えている静子を狂わせた要因の一つみたいな認識だった。
実際、物語の最初の方で、自分は一郎のことを親戚の嘲笑から静子を守るどころか、薄笑いを浮かべていただけの弱々しい人間といった、一郎を腐すような感想を書いている。しかしそれはその瞬間を見て判断しただけの、極めて浅い見方だったわけだ。静一が捕まってからここ数話までの話を読むと、一郎は息子想いで穏やかで優しいという評価に変わった。そして、その優しさは静子にも向けられていたのかもしれないと思うようになった。
駅での一郎の話しぶりを見るに、静子が出ていった後も、一郎は静子と連絡をとる機会があった可能性はある。
それが救護院を出た後の静一と一緒に住んでいた頃からか、静一が独り立ちした後かはわからないが、もし駅で静一が静子に会いたいと答えたなら、再会の場をセッティングできたのではないか。
静子の様子が気になる……。
今、静子は何をしているのか。静一と一郎を捨てて以降の人生に何があったのだろう。
今後、そのあたりの話にも期待したい。
以上、血の轍第113話のネタバレを含む感想と考察でした、
第114話に続きます、
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