血の轍 最新第113話追憶ネタバレを含む感想と考察。静一の脳裏に出所後からの一郎との思い出が去来する。

血の轍 第44話 静子

第113話 追憶

第112話のおさらい

6月。
いつものようにパン工場の深夜勤務に従事する静一。

静一はパンがたくさん入った容器を台車に積んで運ぶ仕事の最中、一郎と呑んだ夜の、別れ際のことを思い出していた。
連想するように静子のことを考えてしまい、半ば心ここにあらずの状態だった。

軽い下り坂で、パンの容器を積んだ台車が静一の手を離れて加速していく。

台車が前方の壁にぶつかり、床に散乱するパン。

静一は上長らしき男に謝罪していた。

「っとに……どうしようもねえな。」

男の軽蔑を含んだ呆れた様子を受けて、静一は無言で男を見つめ続ける。

静一の視線から敵意を感じた男は、不愉快さを隠そうとしない。
「なんだよその目は。反省してんの?」

すみません、と謝罪する静一。

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夜勤を終えた静一は、傘をさして工場から出ようとする。
スマホに6件、同じ番号で入っていた着信が入っていることに気付いた静一は、留守番電話を再生して、それが病院からの電話であることを確認して、折り返す。
「あ……あの…おっ…長部と申しますが…えーと……ご連絡を頂いて……あっはい。」

「はい…そうです はい……一郎…は父です…はい…」

「…え?」

電話を終え、静一は病院に向けて急ぐ。

受付で聞いた一郎がいる場所はICUだった。
渡されたマスクと透明のキャップ、透明のコートを装着し、部屋の中に入る。

一郎は呼吸器を口元にあてられて眠っていた。

第112話の詳細は上記リンクをクリックしてくださいね。

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第113話 追憶

一郎の状態

ICUのベッドで一郎は薄目を開け、虚ろな視線を中空に向けていた。
ベッドのそばで、静一は一郎が寝ている様子を見つめる。

別室に移る静一。
静一はその部屋で、医者の話を聞いていた。

一郎の家族かと確認された後、医師は一郎の容態について話し始める。

昨夜一郎自身から119に連絡し、手配した救急車が辿り着いた頃には意識がなく、この病院に運び込まれて、緊急で開腹手術を行ったと医師は説明を続ける。
「病名としては、腸穿孔になります。」
腸壁に穴が開いてしまった、とペンでレントゲン写真の腹部のあたりを指す。
そして、腸の穴から便が出てしまうのですぐに手術しないと危なかったが、手術は無事に終わったと医師。
しかし意識が混濁していると医師は懸念を示し、敗血症などの合併症を起こす恐れがあると続ける。
「万が一の時の、覚悟もしておいてください。」

静一は呆然として、はい、と答える。

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父との想い出

静一は受付で、渡された入院申込書の設問を見つめる。
細かい字で、指定の期日に本人を引き取ります、と書いてある一文に目が留まる。

すでに書いた自分の名前の隣の「患者との続柄」欄に「子」と書く。

静一は昔のことを思い出していた。

最初に思い出したのは、救護院に一郎が訪ねて来た時のことだった。
救護院の暮らしはどうだ、困ったことは無いかと一郎。
「いやあほんと、自然がいっぱいだいなここは。また面会くるからな。」

静一は救護院の窓辺から、遠ざかっていく一郎の姿をじっと見つめていた。

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一郎は救護院から出た静一を、新しく借りたアパートに招く。
「静一。今日からここでふたりで暮らすんべぇ。」
ここからやり直すんさと静一に笑いかける。

静一は返事をすることすらなく、無反応だった。

また別の日。
同席した保護司から、静一の様子はどうかと問われ、答える。
「高校にもちゃんと行けてますし、大丈夫ですl な。」

一郎は、こたつに入り、酒の入ったグラスを傾けている。
風呂上がりの静一に気付いた一郎は、持っているグラスを静一に差し出す。
「静一も……ひとくち飲むかい?」

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静一は何も答えず隣の部屋に入ってしまう。ふすまを閉める時、静一はその隙間から一郎の後ろ姿を見ていた。

「……出ていく。」
洗い物をしている一郎に声をかける静一。
「高校卒業したら東京行く。」

卒業後はうちの事務所で働くという話だったと言う一郎に、静一は答える。
「ひとりになりたい。」

「今まで僕を見て見ぬふりをしてくれて、ありがとうございました。」

「さようなら」

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呆然と静一の話を聞いていた一郎は、目を伏せて黙るのみだった、

街中。独り立ちした静一の電話が鳴る。留守番電話のメッセージは一郎からのものだった。
「もしもし静一。父だけど。」

「仕事中かな。…元気かい? お金……大丈夫か。」

また電話する、と一郎はメッセージを終える。

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夜になり、雨はすっかり上がっていた。

静一はナースセンターで看護師に話しかける。
「父はまだ…意識が回復しませんか。」

そうですね、と答えた看護師に静一は、仕事があるので帰る、何かあったら連絡をくださいと告げ、病院を後にするのだった。

感想

一郎は救護院に入った静一にきちんと面会に行って、出所した後も保護者としての責任を果たしていたんだな……。

静一の犯した罪のせいで、相当肩身の狭い思いをしただろう。でも静一にそんなやりきれない思いをぶつけるどころか全く表に出すことなく、笑顔も愛想もなく、素っ気ない態度を貫く静一の世話を、結局、静一が独り立ちするまで継続した、そして、出ていった後も放置することなく、気にかけ続ける。
これが親の愛なのか。いや、もし自分が親になっても、一郎と同じ状況に陥った時に、果たしてここまでやれるか? 実際に子供を持てば、やれると即答できるのかもしれないが、少なくともそうではない今は、正直、自信がない。

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静一が捕まって以降の、静一の為に行動している様子や、ストレスで急激に老けていく経過を見ると、どれだけのストレスと向き合う破目になったのかと戦慄する。自分が一郎の立場だったら尻尾巻いて逃げてるかもしれない。

第1巻から数巻先までの一郎の人物評は、悪い人ではないけど、親戚を苦手とする静子の味方になってやれない頼りない夫であり、愛に飢えている静子を狂わせた要因の一つみたいな認識だった。
実際、物語の最初の方で、自分は一郎のことを親戚の嘲笑から静子を守るどころか、薄笑いを浮かべていただけの弱々しい人間といった、一郎を腐すような感想を書いている。しかしそれはその瞬間を見て判断しただけの、極めて浅い見方だったわけだ。静一が捕まってからここ数話までの話を読むと、一郎は息子想いで穏やかで優しいという評価に変わった。そして、その優しさは静子にも向けられていたのかもしれないと思うようになった。

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実際、111話で一郎が静一と酒を呑み、駅で別れる際、一郎は静一に静子の話を振った。去り際のついで話みたいな切り出し方だったが、この質問をすることも静一に会った理由の一つだったのではないかと思う。静子に捨てられても尚、一郎が静子のことを気にかけているとするなら、一郎は一郎なりに静子のことをずっと考えてきたと判断しても良いのではないか。
駅での一郎の話しぶりを見るに、静子が出ていった後も、一郎は静子と連絡をとる機会があった可能性はある。

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それが救護院を出た後の静一と一緒に住んでいた頃からか、静一が独り立ちした後かはわからないが、もし駅で静一が静子に会いたいと答えたなら、再会の場をセッティングできたのではないか。

静子の様子が気になる……。
今、静子は何をしているのか。静一と一郎を捨てて以降の人生に何があったのだろう。

今後、そのあたりの話にも期待したい。

以上、血の轍第113話のネタバレを含む感想と考察でした、

第114話に続きます、

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