血の轍 最新第127話蓋ネタバレを含む感想と考察。公園のベンチで静子の妄想に苛まれる静一。

血の轍 8巻

第127話 蓋

第126話のおさらい

静一は噴き出した怒りの勢いのままに静子を殴ろうとする。

しかし、泣くばかりの静子の姿を目の当たりにして、冷静になり、振り下ろそうとしていた拳を止める。

泣いている静子に、なぜ自分が未だに苦しまなければならないのかと、悲痛な問いかけを行う静一。

しかし静子は泣きながら謝るだけだった。
静一の目には静子はもはや無力な少女の姿に見えていた。
その姿に、静一の怒りは一気に静まっていく。
しかし静子から、私を殺して、と言われ、静一は、死ぬなら自分で死ねと噴き出してきた怒りを言葉にして静子にぶつけるのだった。

少女の静子は、怯えて静一を見上げるのみ。
そんな母の哀れな姿を目の当たりにして、静一の怒気は完全に静まるのだった。

そして静一は、約束通り家賃は払うこと、そして二度と会わないと言って、静子の部屋を後にしようと玄関に向かう。
部屋を出る直前、静一が静子の方を見ると、そこには子供ではなく、現実の静子の姿である、白髪の老婆がさめざめと泣いていた。
静子に対する怒りだけではなく、興味さえも失った静一は、部屋を出るのだった。

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第127話 蓋

今回は、静子のアパートを後にして、夜の公園のベンチに座り、しげるや静子の妄想とやりとりをするという話だった。

本当に静一は可哀想だな……。こんな精神状態でまともな日常生活が送れるはずがない。この状態から回復するには、絶対に自分一人では無理だ。カウンセリングというのかな? とにかく精神の病として扱ってもらい、きちんと話を聞いてもらわないと決して良い方向には向かわないだろう。今のまま、孤独でいたら深みに嵌まっていくだけなのは想像に易い。

しげるも静子も、所詮は静一が生み出した妄想に過ぎない。この二人の言葉は静一が思っていることを代弁しているだけだ。静子と再会してしまうまでは、妄想は落ち着いていたようだが、この日、ついに静一が言っていた「蓋」が外れ、その中から湧き出して来た妄想が、中学の頃以上の凶悪さを携えて、今、静一を襲っていると言うことなのだろう。

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大人になった今になってもまだ母親に囚われてしまっているのを、自分のせいだと断ずる自分と戦っている。これがもう完全な負け戦で、読んでて辛い……。
妄想の中で静子から「自分は人を殺していない。人殺しは静一だけ」と客観的に明らかな、決定的な弱みを突かれて精神のバランスを欠いてしまい、一人、公園のベンチで喚き散らししまう。それは、中学生の頃に苛まれていた妄想よりもさらに強力になっていると言って良いと思う。

しかし静一を人殺しと蔑む妄想の静子も、幼い静一を高台から投げ落として殺しかけている。静一はその記憶を叔母に刺激されるまで封印していたが、思い出してしまい、確実に精神に支障をきたした。静子は確実に今日の静一の苦しみの一端を作っているのに、冷静さを欠いている静一にはそんな自己弁護で自分を取り繕うことができていない。
適当な理由でも良いから、自分が悪くないと自己を納得させることができれば良いのに、そんな余裕は一切なく、妄想が繰りだして来る精神攻撃を全部まともに食らっている。完全に、自分を責める内なる声にやられてしまっているんだよな……。これ、本当に辛いと思う。静一の人生は、結局、自分自身が自分に対する一番の批判者となってしまっている状態から抜け出せていない。

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静一が妄想と戦い、一人、公園で喚き散らしている様子を通行人に目撃されて、怖がられているけど、たまに、本当にこの静一のような人が公園や電車の中にいたりするなと思った。あの人たちもこんな感じの妄想と戦っていたのだろうか。

しかしベンチから立ち上がり、歩き始めた静一に話しかけるしげるの「きっとすぐ静子に会いに行く」という不吉な言葉に、静一がただ絶望していただけには見えなかった。
夜空を見上げたその表情は、今後の自分の行く末を案じているように見える。ただ、そもそも静一はこの日、人生を終わらせるはずだったのだと思うと、それを無自覚に忘れて、明日も生きると自然と決意しているようにも感じた。
そもそも静一は静子に会うまでは、一郎の死の後始末をしたことで自分の現世の務めは終えたとし、自ら命を絶つつもりだった。もし静一に死ぬ気があるなら今からでも実行できるはずだ。でもそれをしない。

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ひょっとして静一は、静子のアパートの家賃の肩代わりの約束を律儀に果たそうとしているのか? いや、そんな約束も、静子のことも放っておいて、死で全てを解決すれば良い。でも静一はそれをしないし、ラストの静一の様子からは、もう死ぬ気が完全に失せているように見える。とぼとぼと、しかし、おそらくは自分の家に向かっているであろう静一にひとまず安心した(いや、まさか夜の街を彷徨い続けるのか?)。

静一を追い詰めて、人生を終わらせることを決意させた遠因が静子なら、そんな静一を生かしたのも静子だった。静一はどこまでも静子に人生を左右され続けていく。
果たしてこれから静一はどんな出来事に遭遇し、どう気持ちが変化していくのか。これからの静子との関係で何を得るのだろうか。何より、静一の人生に平穏が訪れることがあるのだろうか。

引き続き、見届けていきたい。

以上、血の轍第127話のネタバレを含む感想と考察でした。

第128話に続きます。

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