第140話 巡る
第139話のおさらい
目を覚ます静一。隣では静子が穏やかに寝息を立てていた。
窓から外を見ると台風は去っていた。
台風行っちゃったん? と静一に訊ねる静子。
そうみたいだね、と答えた静一に、静子は微笑みながら、そう、よかった、と呟く。
トイレから戻った静一に、静子が、朝はん、なんか食べる? と聞く。
その申し出に、駅前で食べると返す静一。
仕事があるのかと静子に聞かれて、夕方からと答えた静一は、一旦家に帰ると続ける。
静子は穏やかに、そう、と返す。
リュックを背負い、じゃあ、と出ていこうとする静一。
「静一。」
静子は呼び止め、続ける。
「ありがとう…ありがとうございます……」
玄関で靴を履いた静一。
「じゃあ…また。」
「うん。」
微笑みながら見送る静子。
「元気で。」
そう言った静一に静子は、うん、静一も、と返す。
静一がドアを開けると、静一よりも先に猫が外に出る。
猫は堂々とアパートの敷地から出ていき、町を歩いていく。
第139話の詳細は上記リンクをクリックしてくださいね。第140話
静一が生活を立て直しに成功した……!
それも、急激にではなく、徐々に変わっていったというのが良いよなぁ。
理想は毎日、継続的に少しずつ、しかし着実に変わっていくことだと思う。何事においても、急激に変わると、急激に元に戻ってしまいがちだ。
静一は「これから自分は変わるんだ!」などと特に無理に意気込むようなこともなく、ごく自然に以前の荒んだ生活からスッと立ち直った。これには非常に価値がある。もし自分を変えたいなら、こういう流れで実現することが理想だと思う。
静子の家で過ごした一夜の後、静一はしばらくは以前の様にパン工場で働き、帰っては寝てを繰り返す日々だったようだ。
しかし、その内、静一はあれだけゴミを溜めていた部屋をきれいに片づけて、酒も飲まなくなり、図書館で本を読むという落ち着いた日々を過ごせるようになった。
これはもう、過去からずっと続いていた悪夢を完全に克服したと言えるだろう。
部屋がひどく散らかってしまうような荒れた生活から脱することができたのは、ゴミ・汚さに目がいくようになり、それを片づけようという健全な意思が静一の心に灯ったということ。心が安定し、余裕ができたからこそ、部屋の汚さに目が行くようになった。
じゃあ、静子の家に泊まって以来、彼女と頻繁に交流しているからなのかと思いきや、前話以来、お互いに連絡すらとっていないのだという……。
あの夜、静子の過去の話を聞いて、静子のことをいくらか理解できたことが、それほどまでに静一の心を救ったということなのだろう。
てっきり毎週のように会って、親子の絆を徐々に取り戻していったのかなと思っていたのでかなり意外だった。
そう考えると、やはりあの夜の出来事は靜一にとってターニングポイントだったんだな……。
そして、静一を自殺に誘導していたしげるの幻に生きることを許されただけではなく、静一を憎んでいるはずのしげるの母までも、静一に笑いかけた。これについてはあくまでも静一の心が生み出した幻に過ぎないが、静一の罪悪感に囚われていた心が救われていたということだと思う。
時々発作の様に静一を苛んでいたあの悪夢も、すっかり見なくなったようだし、これから静一の人生は上向いていきそうだ。
その矢先に、静子が転倒したという知らせ……。
老人にとって転倒事故は、その後の生活に大いに支障をきたす可能性がある。
なかなか回復せず、治療が長引く間に筋肉が落ちてしまう。そして、刺激が少なくなり、認知症が急激に進むリスクがある。
病院から静一の元にかかってきた電話は、果たして何を伝えようとしているのか。
以上、血の轍第140話のネタバレと考察を含む感想でした。
第141話に続きます。
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