第131話 あのおうち
第130話のおさらい
静子のアパートで静子に食事と酒でもてなされ、ほろ酔いの静一。
台風の中で帰るのは危ないからと、静子は静一に泊まっていくよう告げる。
静子に勧められるままに風呂に入り、ふと、自分が何をしているのか冷静になる静一。
大雨と強風の音を聞きながら、静一と静子は並んで寝床につく。
静一はふと、隣で寝ている静子に、これまで何をしてきたのか、何を考え、どうやって、なんで生きてきたのかと問いかける。
静子は、ひとりで外に出て、スーパー、清掃、工場など、色々な職場で働いたと答える。
そしてつい先日まで働いていた飲食店での仕事の帰り、静子は夕焼けに目を奪われ、ふとこの夕焼けを以前も見ていたのだと静子は続ける。
それは、忘れていたわけではなく、記憶に蓋をしていただけなのだと言って、静子は起き上がるとアルバムを持って静一のそばに座る。
静一に向けて開いたページには、産まれて間もない静一の写真が載せられていた。
第131話
静子が見せたアルバムの中にあった写真の内の一つが1巻の表紙だった。
静一の成長を記録したアルバムなので、この写真があったとしても別に不思議なことは何もない。だけど、あまりにも見せ方が上手くて思わず、おおっ、と声が出た。
1巻の表紙は幸せそうな母子のごく普通の写真なんだけど、もし毒親というわかりやすい部分のみを象徴するのであれば、もっとおどろおどろしさがある絵でも良かったんじゃないか。
でもそうしなかったのは、今思えば、この作品は静子という毒親の奇行を描くだけのつもりはないという宣言だったのかな、と思う。
1巻の表紙の静子は、実は静一を愛そうと必死に戦っていた頃の静子だと思う。
血の轍というタイトルから、静子が親から愛を受けられずに幼少期から傷つき歪んでしまった人格、そしてそこからくる生き辛さが静一にも継承されてしまうという悲劇の連鎖。これが毒親以上にこの作品の大事なテーマなのかなと自分は思っている。
今回の話で、ついに静子が幼少期を明かした。
両親からいらない子呼ばわりされた結果、愛を感じらなくなってしまった。そして自分の存在意義を失い、その後の人生は世の家族というものに対する行き場の無い怒りや、”生き辛さ”を抱えることになってしまった。
両親から愛されなかったという経験こそが、静一を捨ててしまうという行動をとれてしまう静子の土台を作っていたことが改めて判明したわけだ。
そして静子の愛を受けられなかった経験に由来する”生き辛さ”が、静一に愛を注ごうと一生懸命だったはずだったのに、結局は静一との関係に受け継がれてしまった。これはまさに血の轍と言えると思う。
ただ、自分としては、静子が静一に過去の話をした今回の話以降、静一と静子の関係性の再構築が始まり、母と子として再生していく、というような展開があると救われるなーと思った。
そんな前向きな話になっていくとはほとんど期待していないが、でも個人的に、やはりどこかに救いはあって欲しいんだよな……。最終話で微かに匂わせるだけで良いから……。最終回は、これからも静子と静一が寄り添って生きていくことを感じさせるような終わり方だったらなと思う。
でも実際、ここ数話の二人の関係は20年前よりは普通というか、良い関係だと思う。
もし静一が静子のことを本当に心の底から嫌っているのであれば、静子の家を訪ねることはないし、雨の中の猫探しに付き合ったりしない。出されたご飯を食べないし、泊まる何でもってのほか。そもそもそこまで高給取りではないであろう静一が、静子の家賃など負担しないだろう。
高齢者となり、静子の境遇は静一を捨てた時とは大きく変わっている。
20年以上の月日を経て再会した静子は、若干ではあるが軽度の痴呆の傾向が見受けられる。静一のことも、果たして本当に静一のことと確実に認識できているか少し怪しい部分もある。しかしその影響もあってか、あくまで他人との距離感に近いが、静一を溺愛するわけでもない。少なくとも静一を捨てる前よりはお互い良い距離感で接しているように見える。
静一が望むなら、静子と二人で寄り添って生きていく未来も割とあり得るのではないかと思えてくる。
果たしてこれから二人はどうなっていくのか。毎度のことながら予想がつかないから楽しみだ。
以上、第131話のネタバレを含む感想と考察でした。
第132話に続きます。
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