第125話 お茶
第124話のおさらい
パトカーに乗り、静子と共に静一は静子の住んでいたアパートに向かう。
半年も家賃を滞納していた静子を受け入れることに難色を示す大家から、静子を引き取るように提案された静一は、彼女をアパートの元の部屋に受け入れてもらうために、自分が保証人となり、滞納分の家賃の支払いに加えて、可能な限り先払いも行うと大家を説得する。
大家の了解を得て、元の部屋に戻れることになった静子は、静一を自室に招くのだった。、
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静子の部屋に招かれ、お茶でもてなされた静一。
静子は、ふと、目の前にいる自分を助けてくれた男性が静一だと気付き、久しぶりと挨拶をする。その瞬間、静一は激怒。まだ淹れたばかりのお茶を静子の顔にかけ、怒りに任せて殴ろうと腕を振りかぶる。
前回までは、20数年ぶりに再会した静子が自分のことを覚えておらず、静一はどういう感情を持って静子と対峙したらいいか終始戸惑っているように見えた。
最も静一から感じられたのは、自分のことを覚えていない静子への拒否感、冷淡さ、あるいは憐み、あるいはイラつきだったが、しかしそんな負の感情だけなら静子の家賃を肩代わりなどしない。
もちろん、一緒に住むことはできないのかと警官に淡々と詰められた後だったため、そうなることを回避しようとした結果として、家賃の肩代わりを申し出たという側面はあるだろう。しかしそんな静一の心の根底には、警察からの電話を切った直後に恍惚とした表情を浮かべていたことからわかるように、再び静子からの愛を得られるという期待、得たいという想いがあったように思う。
でも今回、前回までの静一の心の内に渦巻いていた静子への複雑な想いが一瞬で、完全に押し流された。今回見せた静一の怒りはそれほど大きく、激しいものだ。静子への愛が今も静一の心の底に息づいているのは間違いないと思う。でも一時的にそれを完全に塗り潰すほどの、容易に殺意に発展しかねない激昂っぷりだ。
静一は、かつて静子から溺愛と同時に完全に支配され、理不尽な扱いを受けた挙句、裁判の場という極めて公的な場で静子に捨てられた過酷な経験を持っている。その後も鬱屈とした生活を続けてきた静一の内に、一体どれほどの静子への怒りを始めとした負の感情が蓄積されていたのか。その途方もない量が感じられる。
また、静一が一気に怒りの頂点に達する直前の、猫の死体がカッと目を開き、牙を剥く表現の異質さが印象的だ。第1話の冒頭に猫の死体が登場して以来、何度も事あるごとに猫の死体は登場してきた。しかし猫はあくまで死体として目を閉じて脱力していただけだった。今回のように、息を吹き返した表現は今回が初となる。
果たして静一はこのまま静子に暴力を振るってしまうのか? それとも静子を殴る手を、その直前で止められるほどの理性が残っているのか?
静一の目には、静子は若い頃の美しい姿に見えている。しかし実際、彼女は60歳を過ぎているか弱い初老の女性に過ぎない。30代半ばの、まだ若い力に満ちた静一が怒りに任せて思いっきり暴力を振るった場合、最悪の事態もあり得る。もし静子を傷つける、あるいは最悪命を奪うような事態になってしまったら、今度こそ静一の人生は終わる。かつてしげるを殺め、時を経て今度は母を、となった場合、死刑もあり得るんじゃないだろうか。ニュースでは相当センセーショナルに取り上げられるのかな……。とりあえずアナウンサーが読む原稿に書かれる犯人の動機部分は、カッとなってやった、で決まりか。
しかし先にも書いたが、静一自身、静子に抱く想いは非常に複雑だと思う。静子を殴りつけようとするその瞬間、思いとどまる可能性もかなり高いのではないか。要は、結局は警察からの電話を切った直後に静一が恍惚とした表情に代表されるように、静一の静子を求める心・愛が勝つような気がする。そのくらい、静子が静一にかけた歪んだ愛は、強固な呪いになっているんじゃないかな……。
次回は冒頭からどんな展開になるのか楽しみ。
以上、血の轍第125話のネタバレを含む感想と考察でした。
126話に続きます。
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