第108話 結末
第107話のおさらい
『お伽の庭』コミカライズ連載まで1カ月少しと迫っていた。
喫茶店でのネーム作業の帰り、鏑木は幾田からの電話で『お伽の庭』第1話の原稿が紛失していると報告を受ける。
電話を続けながら、自宅に辿り着いていた鏑木は違和感に気づく。
仕事場の中で、響と花井が椅子に座り何かを読んでいた。
彼女たちは窓が割って、仕事場に侵入していたのだった。
「漫画の原稿って初めて見たけどすごく手間がかかってるのね。」
響は、漫画をほとんど読んだことはないと前置きして、この作品は面白い、と鏑木が『お伽の庭』を漫画に従った理由に理解を示す。
響は椅子から立ち上がり、ここに来た理由を告げる。
「喧嘩でケリをつけましょう。」
響は鏑木が勝てば原稿は返却し、連載も自由。その代わり、自分が勝てば原稿は灰にすると条件を持ちかけるのだった。
響は竹刀で鏑木の胸を突いたり、机の上にあるトレース台を鏑木に叩きつける。
さらに鏑木の左わき腹に右フックを入れるが、効いた様子はない。
鏑木は放った打ち下ろしの右ストレートで響は床に倒れてしまう。
「ガタイが違うっつったろ。」
響は響の上に乗り、首に右手をかける。
「不意をつかれなきゃお前の細腕なんざいくらでも耐えられる。」
マウントポジションからなんとか逃げ出そうと試みる響。
しかし何をやっても鏑木には効かない。
「無理だ。図書館の時とは状況が違う。」
「負けを認めるか、オチるかするまでシメ続ける。」
鏑木は勝利を確信し、降伏を勧告する。
「あきらめろ。」
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第108話 結末
勝敗
週刊少年スキップコミック編集部。
幾田の机から消えた漫画『お伽の庭』第1話原稿を、同僚が協力して社内のあちこちを捜していた。
鏑木からの幾田のスマホにかかってきた、自宅で原稿を見つけたという電話により社内に安堵が広がる。
幾田は原稿を受け取りに向かう。
響と鏑木の喧嘩は、マウントポジションで響の首に手をかける鏑木が優勢だった。
響にギブアップを勧める鏑木。
その様子を庭から花井と七瀬が見つめる。
首を絞められ苦しそうな響。
着ているパーカーのポケットに手を入れる。
鏑木は一向に負けを認めようとしない響に、最初から負けることがわかって来たのではないかと問いかける。
世の中にもてはやされることはもちろん、相手も手段も、勝ち負けすらも関係なく、本気で何かにぶつかりたいのだろうと響の行動の動機を言い当てようとする鏑木。
そして、自分もまた同じ、世の中に認められたいのではなくケンカを売りたいのだと続ける。
「モノ作るってのはそういうことだ。」
薄く笑う響。
鏑木の言葉を聞いていた花井は、響のこれまでの姿を思い出し、鏑木の言葉に同意していた。
しかし響は負けを認めたのかと問おうとする七瀬に、花井は被せ気味に、ただ一つだけ、と答える。
「あの子は勝ち負けにもこだわる。」
響がパーカーのポケットから出した右手にはスタンガンが握られていた。
それを鏑木の左脇腹に押し当てるとスイッチを入れる。
強力な電気ショックを食らい、思わず響の首を絞めていた右手を話す鏑木。
響は鏑木にスタンガンを当て続ける。
それは鏑木の仕事場に仕事の資料用としてあったものだった。
しかし鏑木は電気を食らいながらも、マウントポジションを保ち続けていた。
再び響の首に右手で喉輪をかます。
鏑木が食らっていた電気ショックが響にも伝わる。
響はそれでもスタンガンを流し続ける。
やがて鏑木は響に向って倒れこむ。
響は鏑木が力尽きたところでようやくスタンガンを手放す。
花井と七瀬は絶句していた。
覆いかぶさっていた鏑木の体をどかし、響は立ち上がる。
鏑木はうつ伏せに倒れたままだった。
「……私の勝ち。」
履行
幾田はなぜ原稿が鏑木の自宅にあるのか違和感を覚えつつも、そこへと向かっていた。
自宅のチャイムを鳴らすと、庭から来てくれという鏑木の声が聞こえる。
声が聞こえてきた方に向かい、幾田が見たのは封筒の入った一斗缶を鏑木、響、花井、七瀬が囲んでいる光景だった。
「勝ったと思った時が一番油断するのよ。」
マッチと油を手にして一斗缶のそばに近寄っていく響。
「私がポケットに手を入れた時、抑えればよかったのに。」
格闘漫画で何度も見たセリフなのにな、と鏑木。
そして、もしこの仕事場でスタンガンを見つけられなかったら、どうするつもりだったのかと響に問いかける。
その時考える、と響。
「そりゃそうか。」
鏑木は悔しそうに呟く。
「クソ……」
そして響は原稿に火を点ける準備をしながら、ケンカ中に鏑木から問われたことに答える。
「私は私、読んでほしいお話を書くだけ。」
どうしてここに響がいるのか、と状況がイマイチ掴めていない幾田が問う。
「本当に燃やしちゃうの?」
七瀬は、そこまでせずとも掲載しないという約束だけすればいい、と続ける。
しかし響は蓋を開けたパラフィンオイルを傾けようとしていた。
「……ごめんね。」
「気にすんな。勝負の結果だ。」
鏑木の言葉に、あなたではなく原稿に言ったんだと響。
鏑木もまた、原稿の気持ちを代弁したのだと答える。
原稿にオイルがかけられる。
目を閉じる花井。
そして響は、迷いなく火を点けたマッチを一斗缶に放る。
一斗缶の中で燃え上がる漫画『お伽の庭』の原稿をその場にいる全員が一言も発することなく見つめていた。
感想
絶対に引かない響
スタンガンって滅茶苦茶痛いらしい。
そんなものを、響はおそらく数10秒は鏑木に食らわせていた。
途中から鏑木の手を通じて自分も電気を食らっていた。
鏑木の体を通る過程でいくらか減衰しているであろうとはいえ、自分が食らっても鏑木が音を上げるまで電気を流し続けた響が恐ろしい。
こんなことやってたらその内マジで死にかねないと思う。
とにかく口にしたことはきっちりやり遂げるというのはともかく、絶対に引かないというのは非常に危うい。
相手が持っている物理的な力も、社会的な力も全然計算に入れずに戦いを挑むから、相手が悪かったら死ぬんじゃないか。
これまでの敵はみんな、言ってみれば物分かりが良かったと思う。
いくらその時その時で響に理があったとしても、世の中にはそんなの関係なくねじ伏せようとしてくる悪人はたくさんいるだろう。
たとえばヤクザとか半グレなんかと揉めたら滅茶苦茶ヤバイと思う。
これまでそういうタチの悪い輩にぶつからなかったのは、知り合う機会がなかった、つまり運が良かったからではないか。
マジな話、引くことを覚えないといつか本当に痛い目に遭うだろう。
ただ、相手によって自分の意見を引っ込めることを覚えた時というのは、同時に響の天才性の衰えでもあるのかもしれない。
少なくともいくから魅力が減じることは否めないかな……。
やはり自分が正しいと思ったらどこまでも引かないところが一つの魅力だから、
連載は?
しかし、まさか本当に原稿を燃やすことになるとは……。
響は口に出したことは引っ込めない。
でも鏑木もまた、響と同様に天才だ。果たしてこのままで終わるかな?
たとえば、ケンカをする直前に響が鏑木に言ったことはこうだ。
「あなたが勝ったらこの原稿は返すし連載もお好きにどうぞ。私が勝ったらこれはこの場で灰にする。」
つまり、響が勝った場合原稿を灰にするだけで、連載を認めないとは言っていない。
文脈から言えば、連載も止めるということなんだけど、鏑木がそんなに簡単に諦めたら面白くないな……。
鏑木がその点を突いて、原稿を猛スピードで書き直し、しれっと連載開始に間に合わせたりしたら最高。
むしろ響もそのためにわざと「連載も止めること」と明言しなかったのかもしれない。
響も漫画版『お伽の庭』を読んで感心していたし、連載が始まった方が面白いと思うんだけど……。
次号の展開に期待したい。
以上、響 小説家になる方法 第108話のネタバレを含む感想と考察でした。
第109話に続きます。
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