血の轍 最新第52話うどんネタバレを含む感想と考察。病院からの帰りに寄ったうどん屋で静子が呟いた衝撃の言葉。

第52話 うどん

第51話のおさらい

ちょうちょ、というしげるの言葉を聞き、伯母はしげるが意識回復後、初めて喋ることができたと喜んでいた。

静子は、しげるの回復を喜んでいる。

ちょうちょという言葉の意味を一郎が質問して探ろうとするが、しげるは呆けたまま答えない。

静子はしげるのベッドに両手で体重をかけながら、しげるに呼びかける。
「静子おばさんよ。しげちゃん。わかる?」

しげるは静子を認識し、じっと見返していたがやがてその目を細めていく。

静子は振り向き、静一にしげるに呼びかけるように促す。

静一は笑顔で呼びかける。
「しげちゃん…静一だよ…」
そこに吃音など一切ない。

静一の表情は言葉と同様、ごく自然だった。

 

スポンサーリンク



 

しげるは、ようやく静一に言葉を返す。
「だれ…?」

その返答に一瞬その場の時間が止まる。

静ちゃんだよ、と伯母が優しく呼びかけるが、しげるは、まるで拒否の意思を示すかのように首を左右に振る。

その様子を見ていた静子はしげるの方に身を乗り出して呼びかける。
「ほら。過保護の静子おばさんだよ。」

暴走気味になりつつあった静子を一郎が手で制する。
「まだしげちゃん…目ぇ覚めたばっかりなんだで!?」

静子はじっとしげるを観察していた。

そのやりとりを静一と、そして伯母やしげるの父もまた黙って見つめていた。

 

スポンサーリンク



 

静子はしげるの顔から視線を離すことなく、謝罪する。

しげるはもう、目を閉じていた。

その様子に伯母は全員に外に出るよう促す。

外に出た一同は、椅子に座ってテーブルを囲んで会話していた。

しげるの回復に安堵する一郎に、しげるの父が母がつきっきりで、世話をしたからだと答える。

その言葉に伯母は、しげるが頑張ったんだと訂正する。

あの、と話を切り出したのは静子だった。
お見舞いに来なかったことを伯母夫婦に謝罪する。

 

スポンサーリンク



 

伯母は静子の腕に手を置き、静子のことを悪く思ってなどいない、と励ますように言葉をかける。

それを受けて静子は、しげるが元気になって自分や静一のことを思い出してくれますよね、と伯母に問いかける。

「私にできることがあれば言ってください。何でもしますから。」

そう言った静子と、伯母が見つめ合う。

ありがとう、と静子に感謝の気持ちを述べる伯母。

その反応に静子も目を細める。

第51話の詳細は上記リンクをクリックしてくださいね。

 

スポンサーリンク



 

第52話 うどん

久々の外食

病院。

帰宅しようとする長部一家を伯母とその夫が見送っている。

「じゃあね。ありがとうね。静子さん。」

伯母からの言葉に、とんでもないです、と静子。

伯母は静一にも満面の笑みで感謝を伝える。

またしげるに会いに来て、と伯母に言われ静一は素直に、はい、と答える。

静子はそんな静一を横目でジロリと観察するように見つめていた。

病院を出た、その車中で一郎が昼食を久しぶりに外で食べようと静子と静一に提案する。

どこ行くの? と助手席の静子が問う。

「いかだ屋はどうだ!? うどん!」
どこかワクワクした様子で答える一郎。
その勢いで静一にもうどんで良いか質問する。

「……あ…うん…」

「よし! じゃあうどんな!」

 

スポンサーリンク



 

いかだ屋

いかだ屋はお客で賑わっている。

一郎たちはテーブル席ではなく、座敷席に座っていた。

一郎は静一にメニューを見せて、何を食べるか問いかける。

「………」
しばらくぼーっとメニューを見つめてから静一が答える。
「うどん。」

「冷たいの? 天ぷらも食うんべ?」
笑顔の一郎。
「天ざるうどんにするかい? なあ?」

「…あ……うん…」
静一は一郎とは対照的な低いテンションだった。

「ママは?」
一郎は静一の隣に座っている静子に笑顔を向ける。

「…私は、なんでもいい。」

静一は静子の疲れたような表情に視線を向ける。

ママも天ざるうどんでいいかい? と一郎は笑顔を崩さずに問いかける。

「そんなには食べらんない。ざるうどんでいい…」

てんぷらを勧めようとする一郎に、静子は少し語気を強めて拒否する。
「いいってば!」

そんな静子の冷たい反応をまるで気にすることもなく、一郎は、自分は天ざるそばにすると言って注文のために店員を呼ぶのだった。

 

スポンサーリンク



 

静子のため息

注文した品が揃い、黙々と食事を始める一郎たち。

静子の箸は全く進んでいない。
「はぁーーーー……」

静子が深いため息をついたのを気にして、一郎がどうしたのかと問いかける。
「なんか…怒ってるん? 何かしたかいオレ?」

静子は少し間をおいて、何もしてない、と答える。
「あなたは、何にもしてない。」

「…良かったんべに? しげちゃんも…目さまして…」
一郎は真剣な目を静子に向ける。
「なんかひっかかってることあるんなら、言ってくれよ。」

「『誰?』」

「だって。」
静子は笑顔を浮かべて続ける。
「しげちゃん。私達のこと。何にも覚えてないん。私達の存在すら覚えてないん。」

「何が良かったっていうん?」

 

スポンサーリンク



 

静一はずっと横目で静子を見つめていた。

「…でも…だって…」
一郎が戸惑った様子で答える。
「良かったんべに。」

「意識は…取り戻してくれたんだから、段々思い出してくれるよ…」

「本当に?」
静子の口調が強さを増していく。
「本当に思い出すん? 適当なこと言わないでよ!」
その表情は、まるで一郎に対して呆れたと言わんばかりの薄い笑みが貼り付いていた。
「適当に…ヘラヘラして…何にもわかってないくせに…!」

「……ヘラヘラ? ヘラヘラなんかしてねんべに!」
一郎は静子の言い様に明らかにイラついていた。
しかしすぐにそれは鳴りを潜めて、神妙な面持ちになる。
「オレは…本当に良かったって思って…」

 

スポンサーリンク



 

頭を抱える一郎

「ママだってずっと…心配してたんだんべ? 気に病んでたんじゃねぇん?」

「しげちゃんが…良くなってくれたんだから…ママも嬉しいんじゃねんかい…」

一瞬の沈黙。

いらっしゃいませー、という店員の挨拶が聞こえる。

ハハッ、と笑ったのは静子だった。
「…しげ……ちゃんが……思い出してくれないんだったら……わたし…わた……し………」

「私……どうやったら出ていけるん?」

「やっと……出ていけるって……思ったのに…」

ずっと静子を見つめていた静一の目が大きくなる。

 

スポンサーリンク



 

「…………えぇ?」
静子の言葉の意味がわからない様子の一郎。
右手で眼鏡をおでこに上げて、目元を押さえる。
「なんだよそれ…? なんで…しげちゃんが思い出したら…出て行くんだよ…?」

「なんでだよ…?」

静一は一郎から再び静子に視線を戻す。

「わかんない…」
窓の外に視線を向けて、静子は小さな声で、まるでうわごとのように呟く。
「ぜんぶ…こわれてほしい…」

「…………」
一郎は静子の言葉の意味が全くわからず、頭を抱えるばかりだった。
「……はあ……?」

窓の外を見続ける静子の横顔を、静一はじっと見上げていた。

 

スポンサーリンク



 

感想

静子の闇

今回はなんてことない話で終わるかと思った。

でも静子の闇の深さを感じる終わり方となった……。

「あなたは、何にもしてない。」

これは一郎からの、何かしたか、という質問に対する静子の答えだ。
しかしその意味以上に、これまで妻である自分に対して何もしてくれていない、期待に応えてくれていないという意味の方が大きいことは明らかだろう。

やはり一郎に対して我慢できないくらいの不満があるということなのか。

いや、一郎との関係にとどまらず、今の自分の置かれている状況全てが嫌になってしまったのか。

 

スポンサーリンク



 

まず一郎のことを振り返ると、個人的には、一郎はそこまで致命的にダメな父親とは思わなくなった。
以前、過去の記事の中で一郎に対して、親戚と比べてもう少し静子の味方になれよと非難めいたことを書いたことがあった。夫として妻の味方になってあげないとダメだろう、と。
当初は静子や静一に比較的冷たくて、でもその割に伯母や祖父母に肩入れするのかなと思っていた。

でもその後、話が進んで静一との関係や家の中での振る舞いを見ていると、一郎にそこまでおかしい点はないと思うようになった。
一郎は、どこにでもいる普通の父親ではないのか。

となると、静子が一郎に対して過ぎた要求をしている可能性がある。
過ぎた要求が満たされず、勝手に一郎に対して不満を貯めているとしたら一郎が不憫だろう。

静子が吹石家を訪ねた際、彼女には親から愛されなかったという自覚があることが判明した。
だから静子の内には、強い愛情へ渇望があった。静一を溺愛するのもその反動の一つだろう。

 

スポンサーリンク



 

しかし一郎は、静子の愛情に対する強い飢餓感を満たせなかった。
愛情を求めている静子がおそらく一番期待していたのは夫からの愛だったりするのではないか。
でも普通の夫でしかなかった。
期待外れだから静子に見限られた、ということなのかな……。

静子は一郎に対して自分の内にある願望を一切告げることがなかったのだろう。
もし過去に静子が一郎に話していれば、静子のとげのある態度を見た一郎がピンと来ていてもおかしくない。
過去も、そして今回も一郎は静子が何を考えているのか全く察することが出来ていない。

ただ、自分の想いを察してもらったうえで、さらにそれに沿うような行動してほしいと静子が思っているとすれば、それは無理なことだ。
一郎に限らず、大概の男にはそんなエスパーみたいな芸当は無理なんだよ……。言ってくれないと……。

 

スポンサーリンク



 

一郎が一向に静子の想いを察することが出来ないこと、そして親戚との関係も続くことに静子は絶望していた?
だから1話以前から、もう既に静子が一郎に対して事態の改善を望んでいた時期は過ぎており、とっくに諦めの境地にあったのではないか。

ひょっとしたら静子が一郎にやんわり伝えようとしたことがあったのかな?
でも一郎はそれを笑い飛ばしたり、まともに取り合わなかった?

もしそんな感じで静子の気持ちに寄り添わなかったとしたら、それは一郎が悪いと思うんだけど……。

真相はどうなんだろう。まだ、どこまでもこの拙い想像を先行させるしかないのがもどかしい。

とりあえず、今のところ自分が想像するのは、一郎は静子の気持ちを察することが出来ず、静子は一郎に対して多くを求めすぎていたというシナリオということになる。

もし、このすれ違いの状況がずっと変わらず続いて、やがて静子が諦めてしまったという想像が本当のことだとすれば、こんなに寂しいことはない。

静子が一郎に腹を割って話してみることで何かが変わるかもしれないのに……。

 

スポンサーリンク



 

受動的

次に一郎との関係と同じく、静子が壊したいと思っているであろう環境の構成要素である伯母をはじめとした親戚に触れる。

山登りの回で、彼女たちは実に嫌な感じに描かれていた。

だから少なくともしげるをつき落とす前までは、静子はひたすら親戚からのいびられ、そんな妻を救うはずの一郎は笑って見ているだけで何の役にも立たないという胸糞の悪い状況が普段から常態化しているのだと思って、静子に心から同情していた。

今思えば、その頃の心境が懐かしい……。

でもこれもまた、話が進んでいく内に見方が変わってくる。
伯母は静一に対してどこまでも優しかった。一郎に対しても気丈な姉であり続けている。
そしてしげるを救える立場にいながら、しげるを救えなかった静子に対しても一切責め立てることなく、融和的な態度をとり続けている。

ひょっとしたらしげるが植物状態になってしまったことで伯母の心境に変化があった可能性もある。しかし2話で初登場した時の伯母さんは今読むと別にそこまで嫌な感じもしない……。
静子が受け入れるのをいいことに、ちょっとぐいぐい行っている感じもあるんだけど……。

 

スポンサーリンク



 

でも伯母と話している静子が終始笑顔であることは、当時から何か含みがあるなぁとは感じていた。

少なくとも静子はこの伯母に良い印象を抱いてはいないだろう、と。

やはり前項で静子が一郎に対して察して欲しいと思っていたのではないかと書いたのと同様に、親戚にもそれを求めていたのかもしれない。

静子は一郎に親戚から自分を守って欲しかった?

伯母さんをはじめとした親戚にその時、悪意があったのか、なかったのかはともかくとして、少なくとも静子は彼らに傷つけられたと感じていた。
つまり静子は、常にある種の被害者意識を持っていた?

1巻くらいの時は静子が一方的な被害者だと思っていた。

でも巻数を重ねて静子の新たな顔が明らかになっていくにつれて、静子がおかしいと思うようになった。

 

スポンサーリンク



 

きっと、静子が今抱えている想いは山登りの前からずっとずっと抱えていたんだろうな。
かといって、自ら今の生活を終わりにするような、何か思い切った行動を起こす度胸もなかった。

だから夏のあの日、しげるをつい突き落としてしまったのは魔が差してしまった結果で、静子にとっては本来突き落とすつもりはなかったけど、でもやってしまったからには、それが自分の生活を破壊して、解放してくれる自決装置だとある意味前向きに捉えるようになったのかな。

女性読者であれば、静子の想いが手に取るようにわかるのかな?

自分は、女性が口にしない、でも掬い取って欲しいと思っている想いに対して鈍感だと思うから正直いくら考えてもわからない。
今のところ、静子は何も言わないくせに、しかし周囲に対して勝手に期待して、それを裏切られたことに怒りを覚えて現状の破壊を望んでいるという説が自分の中で存在感を示している。

しげるが自分を告発してくれれば、この生活に終止符が打たれる。
だから前話でしげるに会いに行った時あの笑顔だったのか。それとも、罪の意識からの解放を期待していた?

 

スポンサーリンク



 

でもしげるが覚えていないことに静子は絶望していた。

「しげちゃんが思い出してくれなかったら、私、どうやって出ていけるん?」

「やっと出てけるって思ったのに…」

こんなことを妻に面と向かって言われたらショックだろうな。

静子はこの面会が、現在の生活を壊せるチャンスだと期待していた。

しげるが覚えていないなら、自首すればいいのにとも思うが、その度胸はない、と。
それが出来るなら病院で警察に事情聴取された時に言ってるよな……。

 

スポンサーリンク



 

自分で生活を破壊するのではなく、外部から破壊されたい?
そこにどういう違いがあるというのか。告発された方が罪はより重くなると思うけど、それを望んでるってこと?

わからなくなってきた。静子の本当の気持ちはどこにある。

ずっと諦めた状態で、静一を支えに生活を続けてきた。
そんな生活に疲れたということなのか。

静子は今の生活を全部壊すことを望んでいるということなのか。

そして今回の話でほとんど目立たなかった静一によるラストのコマ、静子を見上げながら何を考えているのかが気になる。なんか静一怖いよ。

この前夜に静子にあれほど固く忠誠を誓っただけに、今後静子のために何かとんでもないことをやらかしそうな、嫌な予感がした。

以上、血の轍 第52話のネタバレを含む感想と考察でした。

第53話に続きます。

あわせてよみたい
押見修造先生のおすすめ作品や経歴をなるべく詳細にまとめました。

血の轍第5集の詳細は以下をクリック。

血の轍第4集の詳細は以下をクリック。

血の轍第3集の詳細は以下をクリック。

血の轍第2集の詳細は以下をクリック。

血の轍第1集の詳細は以下をクリック。

スポンサードリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA