第105話 大人
第104話のおさらい
響は花井に、面白い話ができそうなので、締め切りまでに小説を完成させるのでそれまで連絡をしない
花井は社長たちから響の執筆状況について報告を求められると、それを読んでいないのに『お伽の庭』を超える大傑作になりそうだと答えていた。
読みたいとい言われても校正が済んだ完璧な状態で読んでもらいたいとなんとかごまかす。
『雛菊』編集部に戻ってた花井は、坪井からの報告により、響以外の作家の作品の原稿が上がったことを知る。
9月に創刊を控えているにも関わらず、もう8月なのにどこまで進んでいるか、内容すら定かではないという異常な状況に、坪井は今すぐに響に連絡して小説の確認をするよう花井に迫るのだった。
しかし花井は沈黙するのみ。
そこに海老原が慌てた様子で駆け込んでくる。
なんと、会議室で週刊スキップと営業とで、響と花井がすでに却下していたはずの『お伽の庭』コミカライズの打ち合わせが行われていたのだった。
渋谷、新宿などで使われる大きい広告用のポスター絵の出来に盛り上がる一同。
花井がその会議に乗り込んで『お伽の庭』コミカライズに関して許可を出していないと主張するが、鏑木は響との直接交渉で話がついていると突っぱねる。
花井はこの企画は響からの許可をとっていないので、早いうちに中止するように、と忠告だけして会議室を後にするのだった。
しかし鏑木も、安達も不安がる営業に向けて、『お伽の庭』コミカライズにはなんの問題もないと説明を続けていた。
一方坪井は、なぜそこまで意地を張って響に連絡しないのか、と花井に迫っていた。
それに対し花井は、締め切りは守るからほっておいてほしいと響に頼まれたからだと答える。
今は事情が違う、と食い下がる坪井に、面白い話が書けそうだから、と花井。
花井は響が自分で自分の作品を面白い話だと言ったことがなかったので、響の言葉の意味を重く見ていた。
だから、なにがなんでも邪魔したくない、と花井は自分の正直な心の内を坪井に吐き出す。
その主張を受けて、本当に信頼があるなら、ウザがられても連絡しろと言う坪井に、花井は、その通りです、と答える。
「相手が響じゃなければ。」
夏休み。響は学校の図書館でひたすら原稿用紙を埋めていた。
その隣で加代子が夏合宿を行うと自作のパンフレットを片手に楽しそうにしている。
しかし響はそんな加代子を一瞥すらしない。
響は執筆に集中していた。
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第105話 大人
ファックス
小論社。
ファックスが大量に送られてくる様子を海老原がじっと見つめている。
この日は響の連載小説の最終締め切りだった。
大坪が、響が編集部に直接やってくるのか、それを今すぐ電話で確認するようにと花井に迫る。
締め切りは本日いっぱいだと暗にその要求を断る花井。
「いい加減にしろ!」
大坪の怒気を含んだ一喝がフロアに響く。
50年ぶりの純文の創刊誌の看板であり、代理原稿はないという大坪の言葉を、その通りだと花井が肯定する。
大坪は響が全く執筆を進めていなかったならどうするのか、創刊前に休刊するのか、と言って、現状確認を強く迫る。
「原稿がファックスですっごく届いてるんですけど……」
海老原が、紙束を二人に向けて差し出す。
地元民との小競り合い
海水浴場。
大勢の人でにぎわっている。
男女のカップルがイベントのチラシをコピーする為に近くのコンビニに入っていく。
コピー機の前では響が原稿を送信する作業をしていた。
わりーんだけど一瞬代わってもらえる? と女性が声をかけるが、響は彼女の方を一瞥すらせずに、嫌、とだけ答える。
その態度が気に食わない女性は、地元の人間が優先なんだと響の頭を紙でぺしぺし叩いたあと、強引にコピー機の前から響をどかそうとする。
振り向きざまに女性に蹴りを食らわす響。
女性は派手に床に倒れる。
女性の彼氏らしき男性の、なにすンだコラあ!! という因縁を、響の隣に立つ涼太郎は諦めた様子で聞いていた。
そんな中、響は花井に電話でファックスが届いたかどうかを確認する。
「そっちに持って行こうと思ってたんだけどなぜか私昨日から海に来てて。」
その間にもコンビニ店員が警察に電話をしていた。
読み終わったら電話して、とあくまでマイペースな響に、警察を呼ばれて慌てた涼太郎が、逃げるぞ、と声をかける。
床には彼氏が転がっている。
ケンカ
響と涼太郎は海岸で遊んでいる文芸部部員たちの元に戻っていた。
花代子は響に、せっかく海に来たのに昨日からずっと机に向って、と言って響に一緒に遊ぶように促す。
なぜ花代子は勉強ができないのにこんなに余裕があるんだろう、と望唯。
その疑問に、できないから、尊敬レベルのアホ、と典子とかなえが答える。
疲れた、とビニールシートに座り込む響を花代子が遊びに誘う。
そこに先ほど響と涼太郎がコンビニで出くわした男女カップルとその仲間が現れる。
「とりあえずワビいれろ。どうすっかそれから考える。」
戸惑う花代子をよそに、響は静かに答える。
「つまり、ケンカうってんのよね。」
「あ?」
訊き返す男性に、素早く向かって行く響。
響の羽織っているパーカーのフードを掴んで、その攻撃を止めたのはタカヤだった。
「変わんねーなお前は……」
タカヤは花代子がこの合宿に誘っており、先ほどまで買い出しに行っていたのだった。
タカヤの容貌にビビル男たち。
それでも数で勝るため、やンのかコラ、と男性がタカヤを威嚇する。
「こいつが悪かった。」
タカヤは響の頭を彼らに向けて下げさせる。
「謝るからひいてくれ。」
そして先ほど買ってきたばかりの食事を彼らに渡す。
彼らは戸惑いながらもそれを受け取り、そして謝るなら、と言って矛を収めるのだった。
タカヤは響に、彼らは本気でケンカに来たのではなく、あくまで拳の落としどころを探しに来ただけだと忠告する。
「今どき本気で殴り合いのケンカしようなんて奴いねーんだよ。適当に流してりゃそれで済むんだ。」
そして、来年は響も卒業なんだからいい加減大人になれ、と説教を締める。
「わかったか?」
「わかったと思う?」
その返答を受けて、沈黙するタカヤと涼太郎。
「今どきがどうとか卒業とは大人になるとか何も関係ない。」
響は真っ直ぐタカヤを見据えて続ける。
「私は私、やられたらやり返す。」
そしてタカヤと初対面の時の互いのやり取りを話していると、地元の若者の内の一人が、本気でケンカしにきているのだとタカヤのさきほどの言葉に反発し始める。
睨み合うタカヤと若者。
タカヤは、さっさとこいや、と言って若者の元に歩み寄ると、胸倉を掴んですごむ。
「いや……もういい…」
その勢いに圧倒された若者は、そう答えるしかなかった。
「なっ 本気じゃねーんだよ。」
タカヤの言葉に、今のは話が違う気がする、と響。
超脅してるし、と典子。
その後、文芸部部員たちは思い思いに海水浴を楽しんでいた。
響は海原に浮かべた大きな浮き輪に仰向けに寝て、文庫本を読んでいる。
「疲れた……」
睡魔に襲われ、浮き輪の穴から海に沈んでいく。
合宿終了
夜。
文系部部員たちで花火を楽しんでいる最中、花代子が次期部長を咲希に任命する。
えー、と不満そうな典子とかなえ。
花代子は典子とかなえに、ダメです、とぴしゃりと答える。
「部長はバカな子はなれません。」
「はー!?」
「か・が・み! か・が・み!」
花代子は全く納得いっていない典子とかなえを無視して、咲希に部長就任記念の花火の打ち上げを呼びかける。
(そっか、あと半年もしたら、響さんいなくなるのか。)
咲希は感慨に耽っていた。
響の携帯電話が鳴る。
それは花井からの、小説を読んだ報告の電話だった。
「そう、よかった。なに? 泣いてるの?」
翌日も日中は文芸部部員たちは大いに遊び、夜は勉強をしていた。
響は一人、ソファに寝転がって眠っている。
翌日。電車に揺られて帰路につく文芸部部員たち。
部員たちが寝ている中、響は一人起きて東京方面に行く電車に乗り換えるため、一旦電車を降りる。
そして花井に電話をする。
「ヤボ用済ませたらふみの所にも行くからそれまでに調べてほしいことがあるの。」
何しに、と花井に問われた響が答える。
「やられた分やり返しに。」
感想
ついに反撃開始
受験勉強と、小説執筆という二つの重要なタスクに追われていたのもあって、ここ数話は理不尽に対して響らしくない反応が続いていた。
これまでの響なら即反撃することが多かったし、その場で反撃しなくても着々とそのための考えを巡らしているシーンがあったから反撃への期待が持てた。
でも最近は理不尽に対して全く無反応だったと言っても良い。これまでにない響の姿で、見ていてちょっとフラストレーションが溜まった。
響自身には全く悪気はないが、その愛想の悪さから、響は何かと突っかかられることが少なくない。
相手からしたら響にバカにされたと思って攻撃するのだが、響にとっては何もしていないのに理不尽に攻撃されるわけだから反撃しないわけにはいかない。
まずは琴子にお返しかな?
津久井曰く彼女は野心の塊らしい。
偶然を装って響に会いに行き、『お伽の庭』の主人公の声優に使って欲しいと直談判するあたり、津久井の評価は正確だと言ってよいだろう。
しかし頼むだけならともかく、響に断られて(知らないと言われて)暴力で返すというのはいくら野心が強いと言っても何の理由にもならない。
響がまずやり返す相手は琴子。
そして本丸は鏑木紫ということになる。
元はといえば、琴子が響の元に行ったのは、鏑木紫による『お伽の庭』コミカライズの独断専行に端を発している。
琴子は結構簡単に勝てそうな感じがするけど、鏑木はそうはいかないと思う。
鏑木の編集である幾田曰く、響と鏑木は似ているらしい。
確かに揺るがぬ自信によってことを進めていく辺りは良く似ている。
互いに譲れない想いを抱えた同士がぶつかり合うことで、一体どんな修羅場が展開されるのか楽しみだ。
以上、響 小説家になる方法 第105話のネタバレを含む感想と考察でした。
第106話に続きます。
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