血の轍 最新第139話嵐が過ぎてネタバレを含む感想と考察。静一と静子に訪れた穏やかな朝。

血の轍 8巻

第139話 嵐が過ぎて

第138話のおさらい

静一は幼い静子と手をつなぎ、町を歩いている。

目を合わせる二人。微笑む静子。じっと見つめ返す静一。

静子が前方を指さした先には、猫がぐったりとした様子で道路に寝そべっていた。

静子は猫のそばにしゃがみ、胴にそっと触れる。

つめたい、と呟く静子に続き、静一も静子と同じように猫に手を置くと、つめたいねと静子に同調する。

暫く猫に手を置いたまま、やがて静一は、かわいそうだね、とつぶやく。

うん、かわいそう、と静一に同調した静子は、あったかくなあれ、と続ける。

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静一も同じようにつぶやき、二人で声を合わせる。
「もういちど……」

猫の身体の上に置いていた二人の手が重なる。

その瞬間、目を覚まし、鳴き始める猫。
猫は静子の顔を覗き込むと、静子の頬に頭を擦り付ける。

笑う静子。

その様子を見ていた静一は、眉をしかめて、しかし、僅かに口元を綻ばせるのだった。
猫が静一の方に伸びあがっていく。静一はそれを受け入れ、猫に頬を寄せていた静子と一緒に目を閉じて猫の温かさを感じていた。

第138話の詳細は上記リンクをクリックしてくださいね。

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第139話 嵐が過ぎて

正直、これで終わりでもいいくらいの1話だと思った。

静一は憑き物が落ちたような雰囲気になった。さらに痴呆気味に見えた静子も、目の前の若者が静一だときちんと認識した上で感謝を述べている。

二人の関係は互いに理解が一歩進んだ今、新しい境地を迎えた。少なくとも以前の、静子が静一を支配していた頃の雰囲気とは全く違う。
台風一過の朝の爽やかさは、まさに二人の今の気持ちを表している。

静一が、また元気で、と静子のアパートを後にしようと扉を開けて、そこから猫が悠々と外に出ていったのも、静一が暗い牢獄に囚われていたかのような静子への憎しみの感情から解放されたことを表しているのかなと思う。
これを境に静一は、静子に支配されていた記憶に苦しめられる機会は減るだろう。

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しかし、静一が出ていく時の、また元気で、というセリフと、それを言った際の表情がちょっと気になった。セリフと相まって、なんだか、まるでこれを最後に二度と会えないような、そんな雰囲気が若干漂っているように感じてしまう。

もしかして、この上でまだ、静一はしげるの後を追うつもりがあるのだろうか。
静子との仲が改善しようが、しげるが静子に命を奪われた事実は変わらない。そして、静子の支配から解放されたとして、人生に希望を持って、前向きに生きていけるかどうかはわからない。パン工場で働く日々を耐えてこれたのは、遠くない内に自分の手で自分の人生を終わらせるつもりだったからというのはあるんじゃないだろうか。そして、その気持ちは、静子と互いの理解が進んでも、根本的に解消されるものではないと思う。

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まぁ、これは単なる悲観的観測による深読みに過ぎないと思うが、静一がこれから何を目的にとして生きていくのかというのは重要だろう。死ぬつもりだったのが、静子の生活を支える立場になった。これは静一の生きる意味が出来たとも言えるが、一方で経済的には確実に重石でもあるため、今後の人生の不安要素が増えたということでもある。日々の暮らしに楽しみなどほぼ無いような状態だった静一に、果たして静子の生活を支えることを新たな義務の一つとして生きていくことなどできるだろうか。

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自分だったらどうかな……。台風一過の朝、爽やかな気分の内はまだ大丈夫だろうけど、仕事が始まり、翌日も、その翌日も仕事と日々が続いていく内に、徐々にだけど気持ちが擦り切れていきそうな気がする……。
楽しみが無い。友人・知人がいない。恋人がいない。自分のことを機に欠けてくれて、頼れる人だった一郎ももういない。何より、これまでの人生で、特に出所後は楽しい記憶がロクに無いであろう現実を自覚した瞬間が多分相当キツい。少なくとも自分なら。

復縁した静子との関係がこれからの静一を救うのか。それとも追い詰めるのか。

次回からの展開に注目したい。

以上、血の轍第139話のネタバレを含む感想と考察でした。

第140話に続きます。

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