血の轍 最新第45話本当のことネタバレを含む感想と考察。静一の非難の目をかわす静子の鮮やかな”手口”とは。

第45話 本当のこと

第44話のおさらい

静子は食事中の静一に、全部話すと前置きしてから、しげるが落ちた時のことについて切り出す。

 

食事の手を止めて、食い入るように静子を見返しつつ話を聞く静一。

 

静子は、しげるが落ちた時から静一も自分もおかしくなった、と当時のことを振り返り始める。

 

「ママ、もう逃げないから。」

 

静一は静子の覚悟を受け止め、箸をテーブルに置いて静子の話に集中する。

 

静子はしげるがあの時ふざけていた様子を再現するように、手を左右に広げてみせる。
「うぇーい。」

 

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静子はそこから自身としげるの会話を再現していく。

 

(危ないからやめて!)

 

(ばっかじゃねぇん? ほんと過保護だいねぇ!)

 

そして静子は左右に広げていた手を揺らす。

 

あの瞬間、片足立ちになっていたしげるはバランスをくずして、背後の崖下に落ちそうになっていた。

 

しげちゃん! と叫びながらしげるの元に静子が駆け寄る。

 

涙を流してその時のことを語る静子の話を、静一は涙を浮かべて聞いていた。

 

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バランスを大きく崩したしげるを助けようと懸命に崖に向かって走っていく静子。

 

溢れる涙を止めようとせず、静子は続ける。

 

「うん…!」
相槌を打つ静一。

 

「でも、間に合わなかった…」

 

静一はそういった静子の顔をきょとんとした様子で見つめている。

 

「あとちょっとのとこで…手が…届かなくて……しげちゃん…は……」

 

「ごめんね…ママがもう少し…もう少し早く…しげちゃんを、つかまえてあげられてれば…」

 

静一は愕然とした表情で固まっていた。
その頬を涙が伝っていく。
そして思わず、がばっ、とテーブルに身を乗り出していた。

 

静子はそんな静一の自身を非難するような態度を前にしても、何の反応も見せない。

 

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「……」
静一は震え、そして涙を流していた。
「……マ…」
その表情は歪んでいる。

 

「ママが、しげちゃんを突き飛ばしたって、静ちゃんは思ってるん?」

 

静子は以前、家の廊下で静一から、ママがしげるを突き飛ばしたと指摘したことに触れる。

 

(どうして…しげちゃんを突き飛ばしたん!? 逃げないで!!)

 

静子は静一に近寄ると、その肩と腕に手を置く。
「ごめんね。ママ受けとめてやれなくて。不安…だったんだいね。苦しかったんだいね。」

 

「ぜんぶ、ママのせいにしたかったん?」

 

静一は何も言えない。
ただ目の前の静子の顔を見つめるのみ。

 

「大丈夫。」

「静ちゃんもママも悪くない。しげちゃんは自分で落ちたの。」

 

第44話の詳細は上記リンクをクリックしてくださいね。

 

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第45話 本当のこと

静一の追及

しげるが自ら落ちたと主張する静子。

静一は涙を流しながら静子と目をじっと合わせていた。
左手で静子の二の腕をぎゅっと掴む。

暫くの沈黙の後、静一は挑みかかるような目つきで静子に呼びかけていた。
「マァッ マッ マッ…」

静一の脳裏には、あの夏の日に自分が確かに目撃した光景が流れていた。

しげるを崖から思いっきり突き落とし、ぎあッ、という悲鳴が崖下から鈍い落下音と共に聞こえてくる。

ゆっくりと自分の方に振り返る静子。その表情はいつか見たのと同じ、穏やかな表情だった。

静一は歯を食いしばり、静子に非難するような視線を向ける。

静子は静一が視線に込めた意味を理解していた。
「…ママが、嘘ついてるっていうん?」
静一の二の腕を掴む手に力を入れると、さめざめと泣き始める。
「ママは…嘘なんかついてない…」

 

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静子の主張

哀れを誘う泣き顔で、しげるを突き飛ばすなんて、そんなことはしない、と主張する静子。

そんな母の姿を目の当たりにして、静一の目から非難の色が一瞬で引いていく。

「…ママ、わかるよ。静ちゃんの心。」
静子の手が静一の二の腕から離れ、ゆっくりと顔に伸びていく。
「ママが突き飛ばしたって、思い込んで。」
静一の頬にそっと両手を添える。
「ママを悪者に、したかったんだいね。」

そして静子はそのまま静一の目を下から覗き込む。
「自分を責めてたんだいね。しげちゃんがあんなことになっちゃったんは僕のせいだって。」

「優しいもんね。静ちゃんは。」

静一は静子の言葉に一切口を挟まず、静子の目を見つめていた。

静一が持ち前の優しさから、自分を責めていたことで頭の中がぐちゃぐちゃになり、喋れなくなってしまった、と続ける静子。
かわいそうに、と言いながら静一の目から流れる涙を人差し指でそっとすくい上げる。

喋れなくなって、おかしくなってしまって、ママのせいにした。
おかしいのはママであり、自分は悪くない。

静子は静一の心を見透かすようなセリフを重ねた末に、かわいそうに、と静一を憐れむ。

 

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新しい記憶

「吹石さんみたいな、あんなはしたない子に、すがるなんて。」

「ぜんぶわかる。」

「ママもおんなじ。静ちゃんとおんなじ。ママもつらかったん…!」

自分の気持ちも、静一にだけにはわかってほしい、と静子。

そして、あの時の、本当のことを思い出してほしい、という静子の言葉をきっかけに、静一の脳裏に映像が流れる。

「しげちゃん!」
崖の渕でバランスを崩し、体が傾いているしげるに静子が駆けていく。

静子は必死でしげるに向かって手を伸ばす。

しかし静子がしげるの元に辿り着く前に、しげるは崖から落ちていた。

「…え?」
静一が声を上げる。

「思い、出した?」
ゆっくりと静一に呼びかける静子。

「…え?」
静一の表情にうっすらと安堵の色が浮かぶ。

 

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感想

記憶の改ざん

静子さん、妖術使ってますね。
これまで妖怪じみた姿を散々読者に見せてきたので、ついにそんな術を駆使するようになったとしてもおかしくない(笑)。

というのは冗談で、これはやはり静子と静一の関係性が生んだ事象なのかなと感じた。

静子の、静一の記憶が間違っている、という呼びかけがきっかけになって、静一が自ら記憶を改ざんしたのではないか?

静一は、静子がしげるを突き落としたことや、自分がその犯罪の隠ぺいに関わったことで自分が重い十字架を背負ってしまったと痛いほど自覚していた。

誰かからそのことで責められたことは一度もない。
知っているのは自分と静子だけ。

それでも静一は自らを強く責め苛み、その強烈なストレスから間もなく吃音を発症するに至った。

自分は何か失敗してしまった時に、失敗する前に戻れたら、とか、実はそんな失敗してなかったら……、などと不毛なことを考えたりする。

 

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静一の頭の中にも、そういう、自分にとって”都合の良いシナリオ”を自分で記憶の底に作っていた可能性はあると思う

静子がしげるを突き落としたわけではない。
静子も自分も悪くない。

辛い現実から目を背けて、そんな理想の現実を望んだこともあったはずだ。

現場には静子と静一としかいなかった。
だから真相を知る者は他にはいない。

静一もそれを理解して、犯罪を隠し通すことを決めたであろう静子と、何食わぬ顔をして足並みを合わせることだってできた。

しかし静一は静子のように自分を納得させることが出来なかった。
常に、母を守りたいという優しさと、母を守る為に真相を隠蔽し続けることを良しと出来ない道徳心が静一の心の中でぶつかりあっている。

 

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賢い静一は、現実に起こった静子による犯罪を事実として受け入れることで苦しんでいた。

夏のあの山登りの日のことを思い起こし、苦しくなる度に、逃げるように別の思考を行ったのではないか。

(もししげちゃんが崖から落ちたのが自分の不注意のせいで、ママはあくまでそれを助けられなかったのであれば、しげちゃんには悪いけど、自分やママがどれほど救われるか。)

(実はしげちゃんは自分の不注意で落ちた。自分とママは悪くない。)

実際は静一が苦しみ続けてきている通り、そんな”都合の良いシナリオ”はすぐに静一自身の持つ”正しい認識”によって握り潰されてきた。
しかし、自分や静子にとってあまりにも魅力的な”都合の良いシナリオ”は消え去ったのではなく、心の奥底に堆積していったのではないだろうか。

 

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静子にとって静一は……

今回静子が静一の記憶を書き換えたというのは、静子が幻術を用いたからではない。
おそらく、静子の必死の呼びかけが、静一の内に眠っていた自分たちにとって”都合の良いシナリオ”を呼び覚ましたのではないだろうか。

別に静子はそれを狙ってやっていたわけではないと思う。

静一はあくまで自分の子供だから、所有物だから、絶対にわかってくれる、説き伏せられるという絶対の自信があったというのが静子の胸の内に近いのではないか。

だから目撃者である静一に対してここまで堂々と、恥ずかしげもなく嘘がつけるのかなと思う。

結局のところ、静子にとってはまだ静一は幼いまま変わらないのだろう。

静一には何も出来ないと思っている。だから過保護になる。
高を括っているとまでは言わないが、静一を無力な存在だと思っている。

 

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そして静一に対する認識がまだ幼い頃のままで、自分の所有物だと思っているから、そんな可愛い息子の静一を誑かす吹石を強烈に敵視している。

静一が自分の所有物であると考える静子。

そして、たとえ犯罪を犯したとしても、そんな静子のことを最後まで信じて見捨てることはしたくない静一。

この歪な関係性だからこそ、記憶が書き換わったのかな、と思う。

静一の記憶が今回の話を機に”静子が犯罪者ではない”と書き換わったとすれば、静一にとってストレスは相当軽減されるだろう。

単に、しげるを救えなかったという事実を背負うだけなら以前よりは相当ラクだ。

今回の記憶の切り替えがこの一時のものではなく、今後もずっと続くものになっていくのだろうか。

静一は事実を曲げて、あの夏の日に羽化した静子という名のモンスターを受け入れてしまうのだろうか。

 

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静子と静一しか現場にいなかった以上、しげるには可哀想だけどそれで丸く収まってしまうということになる。

自ら落ちていくしげるを助けようと静子が駆け寄っていくというシーンが漫画できちんと描写されていると、実はそれが現実である可能性もあるのかな、と一瞬思ってしまった。
実は間違っていたのは静一の記憶だったのか、みたいな。
映画だと結構そういう衝撃的などんでん返しの内容があったりする。

でも、しげるが静子に突き落とされたのは間違いないでしょう。さすがに……。
山登りの日に、なぜ静一が、静子がしげるを突き落とすという勘違いをしなければならなかったのかという疑問が真っ先に浮かぶ。

愛してやまない母をわざわざ嫌うような勘違いはしないと思う。

 

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どうやら静子は、静一を説き伏せることに成功したようだ。
この効果がずっと続くものかどうかはまだわからないが、少なくとも静一にとっては状況が悪化したんじゃないかな……。

静子の嘘に騙され続ける方が楽だろうけど、やはりそれが嘘だと何かのきっかけではっきりと自覚したなら、その時の衝撃はいかほどのものか想像がつかない。

この世界で唯一、静子と静一の歪んだ関係性に気づいていて、尚且つ静一の味方であるはずの吹石との距離も遠くなってしまった。

果たして静一はここからどうなってしまうのか。

いやー、今更だけど、改めて「気持ち悪い話だな」と思った……(笑)。

以上、血の轍 第45話のネタバレを含む感想と考察でした。

第46話に続きます。

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