第130話 ふたりの夜
第129話のおさらい
静一は静子が可愛がっていた白猫を静子と一緒に探し回り、白猫を発見する。
その後、静子に促されるままに静子の家に戻る。
静一は静子が本当は息子である自分のことを分かっているのではないかという疑念を静子にぶつけるが、静子はそれには答えない。静一に家賃を支払ってくれた礼を述べて、食事を作り始める。
静一は呆気にとられつつも、食事ができるまでの間、静子が食事の準備をするのを待つのだった。
ちゃぶ台に食事が並べられる。静一は静子に酒を求め、出てきた日本酒を飲み、食事を始める。
「私も。いただきます」
静子も食事を始める。
第130話
静子から、静一と一郎を捨てた後の静子の生活……いや、人生を窺い知れるような話が出た。
本当に、色んな仕事を転々としてきたんだな……。
一郎と出会って結婚するまで、静子が働いていたのかどうかはわからない。
でも、何か専門知識やキャリアがあったなら、その業界で職を得ているはずだ。
パートナーもなく、子供もなく、友人・知人との関りもなく、ただただ毎日アルバイト情報誌に載っているような仕事をして生きてきたとすれば、おそらく、淡々とした人生だったのではないか。
静一を捨てると宣言した時は、これまでとは違う自由で楽しい生活を送る算段があるのかなと思ったんだけど、ただ生活から逃げたかっただけだったのか……。今の仕事が嫌で嫌で、次の仕事が見つかっていないのに辞めてしまった経験がある自分からすると、静子のことをとても笑えない。確かにストレスの元から逃げ去ると解放感はあるんだけど、特に生活を支える仕事については次の算段がないと結局すぐに行き詰まるんだよ……。静子の話ぶりから、その後の人生が楽しいものとはとても感じられなかった。
残念ながら、静子はその後の人生を謳歌できてはいなかったようだ。
この話を読む前に、静子の離婚後の人生の歩みがどうだったのか、色々と想像していた。実は再婚していて、それなりに人生を謳歌した上で、離婚、もしくは死別で現在に至るのかななんて妄想していたこともあったんだけど、そんな楽しい時間は無かったわけか……。もちろん、実はそういう楽しい時間があって、それをまだ静一に話していないだけの可能性もある。でも静子が仕事を点々としてきたという話一つだけで、もう、何となく大変だったんだろうなと察してしまう。
よく考えてみれば、夫がいて、子供がいて、母としての役割をこなして、という生活にうんざりして彼らを捨てたわけだから、再びそういう生活を得ようとは思わないよな……。
結婚はしなくても、一緒に生きるパートナーを得るというのも、静子には煩わしかったのか。
しかし今回の話の最後に静子が見せたのは、静子が切り捨てたはずの静一が載っているアルバム。
どうやら家を出る際に、一つだけ持ち出したものらしい。
静子はかつての生活で得たもの全てを捨てられていたわけではなかったわけだ。
このアルバム、赤子の静一の写真が最初のページだから、おそらく静一の成長を追ったものなのかな?
だとすれば、静子にとって静一との思い出は持ち出す価値はあったのか……。
日々の生活の中で、捨てた我が子を懐かしく思いながらこのアルバムを開いていたのかと思うと何とも言えない感情が湧いて来る。
静一を大切に思う気持ちはあった。でも母として生きることは出来なかった。悲しいな……。
以上、血の轍第130話のネタバレを含む感想と考察でした。
第131話に続きます。
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