血の轍(押見修造の漫画)の最新第31話芳香の感想(ネタバレ含む)と考察。吹石の家庭事情を知る静一。その流れで良い雰囲気になるが……。

第31話 芳香

第30話のおさらい

静一に手を振り払われ、静子は顔を悲し気に歪める。

 

静子は、中学生が遅くまで帰らないことが心配だと前置きし、どこに行ってたのかと静一に問いかける。

 

静一は吃音に苦しみながら、家に帰りたくないから学校にいたと何とか答える。

 

それを受けて、静子はずっと一人でいたのかと問う。

 

その静子の何気ない質問に、静一はギクリとした様子を見せていた。
しかし次の瞬間には、こくん、と無言で頷く。

 

静一のその様子を、静子は何か言いたげな様子で見つめる。

 

静子は一瞬口元を歪めてから穏やかな表情に戻り、説教を締める。

 

素直に、こく、と頷いた静一に、どことなく寂し気な笑顔を浮かべて食事を促す静子。

 

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その夜。

 

深夜2時を回っても静一はベッドの中で寝付ない。

 

その脳裏では別れ際の吹石の言葉を思い出していた。

 

開けたまま、時間が過ぎるのを待っていると、突然部屋のドアが開く。

 

ドアを開けた静子は静かに静一の元に向かう。

 

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寝ているフリをしている静一をしばらく無言で見つめる静子。
やがて静一の頭にそっと手を置く。

 

少しの間、その状態が続いた後、静子は突然泣き出す。

 

「ごめんね…ごめんね…静ちゃん。こんなママで…ごめんね…」

 

それだけ言って、静子は静かに部屋を出ていく。

 

静子が部屋を出て行った後、静一は目を開き悲しそうに眉を歪めていた。

 

翌朝、静一は自分の席に座ると、その前に静子が足取りも軽く無言でサンドイッチの乗った皿を置く。

 

静一は、いつも食卓に乗るのは肉まんやらあんまんなのに、今日はサンドイッチという珍しさに若干驚いた様子を見せる。

 

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静子は微笑を浮かべて、ぼうっとサンドイッチを見ている静一に話しかける。
「今日、早起きしてサンドイッチ作ってみたんさ。」
食べて、と静一に食事を促す。

 

一郎は笑顔で、サンドイッチがうまそうだと呟く。

 

それを受け、パパにも作ろうか? とにこやかな静子。

 

静子は笑顔でサンドイッチを食べるように促す。

 

静一は静子が作るものとしては珍しいサンドイッチを暫し凝視してから、それを食べ始める。

 

咀嚼している静一に静子が笑顔で話しかける。
「今日は、早く帰ってきてね。」

 

軽く念を押すような言葉を受け、静一はサンドイッチを咀嚼する動きを鈍らせる。

第30話の詳細は上記リンクをクリックしてくださいね。

 

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第31話 芳香

日課

朝、静子が笑顔で玄関から静一を送り出す。

 

静子は穏やかな笑顔を浮かべたまま、早く帰ってくるのよ、と静一に念を押すのだった。

 

下校時間になり、静一は昨日と同じように吹石と裏門で待ち合わせていた。

 

笑顔で落ち合った二人は、いつものベンチに並んで座って会話をする。

 

あっという間に日が落ち、辺りは暗くなり始める。

 

他愛ない会話で楽しそうに笑う二人。

 

好きな食べ物の話で盛り上がりながらも、静一は昨夜の静子の言葉を思い出していた。

 

 

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思い出す

ベッドに横になっているのに眠れず、それでも目を閉じているところに突然入室してきた静子。
ごめんねこんなママで、と言いながら静一の頭を撫でる。

 

そして今朝、家を出る時に静子が笑顔で自分に言った言葉。
(今日は早く、帰ってくるのよ。)

 

「ね、長部は何が好き?」

 

吹石に問われ、静一はほんの少し間を置く。
「…あ、あのさ吹石。今日…は…」

 

静子との事を気にかけて帰宅を提案しようとする静一。

 

「ん?」
吹石が静一を見返す。
「なに?」

 

 

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吹石の家庭事情

静一は吹石の顔をじっと見つめたかと思うと、そっと切り出す。
「…吹石、どうしたん?」

 

吹石は静一をはっとした表情で見つめる。

 

「何か…元気ない? 何かあったん…?」
静一が吹石の目を真っ直ぐ見据えて問いかける。

 

その質問を受けて吹石は本当にうれしそうな表情を浮かべて静一を見つめる。
そして少し気落ちした様子で顔を伏せる。
「ん…ちょっと、お父さんとケンカしちゃって。」

 

「え…何で…? 大丈夫…?」
吹石の横顔を見つめたまま、静一は静かに問いかける。

 

 

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吹石は静一の視線を横顔に受けたまま力なく笑う。
「毎日どこほっつき歩いてんだーとか言って、いきなりキレてきたからさ。私もうるさい黙れって言ったんんさ。」
何かを投げるような恰好をして見せる吹石。
「そしたらもうこんな。物バンバン投げまくっちゃったい。」

 

「……え…」
一瞬言葉を失った後、静一は吹石に、大丈夫? と問いかける。

 

大丈夫大丈夫、いつものことだし、と笑顔を浮かべて答える吹石。
そして父親が酔うすぐにキレるのだと続ける。

 

お母さんは止めてくれないのか、という静一の質問に、吹石はどこか悟ったような表情を浮かべる。
「うち、お母さんいないんさ。リコンしてるから。」

 

 

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「…あ…」
静一は吹石から目を逸らすよに地面に視線を移す。
「そう…なんだ。」

 

吹石は伏し目がちになりながら、お父さんとおばあちゃんの三人暮らしだと答える。

 

「じゃあ…早く帰らないと。」
静一は吹石を横目で見つめる。
「またお父さん怒るんじゃねぇん?」

 

じっと地面を見つめる吹石。

 

少しの間の後。
「…やだ。帰りたくない。ずーっと長部と、ここにいたい。」

 

静一はきょとんとした表情で吹石をじっと見つめる。

 

 

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「…なんてね。ごめんごめん。」
吹石は静一に視線を移して少しだけ笑ってみせると、また伏し目がちになって寂しそうに呟く。
「…今日はもう帰ろっか。」

 

「…僕も。僕も…ずっとここにいたい…」
静一は吹石を真っ直ぐ見つめる。

 

その視線に吹石も静一に視線を返す。

 

一陣の風が吹いた後、吹石が切り出す。
「…ね。ひとつお願いしてもいい?」

 

「え?」
吹石をじっと見つめたまま静一が声を出す。

 

 

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「撫でて」

吹石は伏し目のまま頬を染めてぽつりと呟く。
「あたま、なでて。」

 

「…え?」

 

「あたま。なでてほしい。」
再びお願いすると、吹石は静一に向けて頭を差し出す。
「ん。」

 

頬を染める静一。
「あ…え…」
吹石の頭をじっと見つめながら暫し戸惑うが、心を決める。
「うん…」
静一は吹石の頭に手の伸ばしていく。

 

 

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サラ…

 

吹石の髪にゆっくりと触れる静一。吹石の顔がさらに紅潮していく。

 

静一は吹石を撫でながら立ち上ってくる香りに魅了されていた。

 

静一に撫でられるままだった吹石は、静一の肩に身体を寄せる。

 

吹石の頭を至近に感じ、静一は驚いた表情で吹石を見つめる。

 

 

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吹石は静一にもたれかかったまま、陶然とした表情を浮かべている。
「あったかい。」
笑顔で呟く。

 

静一もまたうっとりとした表情で、吹石の為すがままになっていた。

 

「見たわよ!」

 

幸せな空気を切り裂く一声が響く。
土手に自転車に跨った静子のシルエットがあった。

 

 

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感想

修羅場

ラストページの構図のインパクト!!!
ついに来た~!!!

 

静子の顔が見えないのが想像力を掻き立てる。

 

次号から修羅場開始です!

 

今回も吹石と良い雰囲気だったから、ここからその夢心地の気分が真っ逆さまに落ちるという展開は、物語としてはある意味テンプレ的だと思う。

 

でも何故か予想外だった。ラストのページをめくって背筋がゾワッとした。

 

 

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まだ中学生くらいなら、母親は息子の、父親は娘の恋愛に口出ししたくなって無理もないと思う。
まだまだ子供だと思っていて当然だし、そりゃ心配だろう。
たとえ静子が静一を過保護に扱っているとしても、この行動自体を一方的に咎める気にはならないんだけどさ……。

 

でも『見たわよ!』はね~……(笑)。
もう辺りも暗くなっている中、静一と吹石を発見して自転車から降りて近づくのではなく、その場で自転車に跨ったまま声をかけているあたり、相当頭にきてるっぽい。

 

多分、普通はこのラストと同じような状況になっても、発見した親が二人に近づいてから声をかけると思う。

 

 

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たとえ心中穏やかではなくとも、もう少し大人としての余裕を装いたいと思わないのかな……。
もうそんな外面を取り繕うような思考時間はすっとばすほどに怒り心頭なのだろう。

 

現実では、静子のようにここまで息子の恋人らしき人物に対してあからさまに敵意を剥き出しには中々出来ないんじゃないかな……。
自分は男である以上、想像するしかないんだけど……。

 

そういえば静子は、夏休みに長部家へやってきた吹石の静一へのラブレターを静一と一緒になって破ったことで、静一が吹石とのことを諦めたと思っていたんだっけ。

 

 

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そして前回、静一は静子に対して帰りが遅くなった理由を学校に一人でいた為だと答えた。
今回でそれが嘘であるとバレたわけだ。

 

となると、この逢瀬の現場を発見した際の静子の胸中はさぞ怒りに満ちているのは間違いない。

 

でも、静子は静一と吹石が繋がっているというこの状況を薄々気付いていたのだろう。

 

前回の記事のコメントでアヤメさんが”静一を泳がせているのでは”と書いてくれたけど、それが正解だね。

 

 

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静子からすれば、言わば静一に譲歩する形で一時は穏やかに静一の言い分を受け入れた。
でもこの逢瀬の現場を発見した以上はもう遠慮は一切いらないという感じ?

 

次回は静子の溜まりに溜まった鬱憤が怒りや悲しみなどの感情と共に噴き出る瞬間を目撃することになりそうだ。

 

登場人物たちには本当に悪いけどマジで楽しみ。
ごめん静一(笑)。

 

 

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吹石の境遇

吹石の家族構成が判明した。

 

そういえば前々回くらいに吹石が父親との関係を少し話してたっけ。
吹石は、ちょっと仲が悪いとか言ってたけど、実査はそんな生易しいものじゃなかったようだ。

 

離婚した母親は、酒を飲んでは暴れる父親から逃げたのかな?

 

おばあちゃんが一緒でよかったわ。
もし親父と二人だと逃げ場がないから相当キツイと思う。

 

おそらく吹石がグレることなく良い子に育ったのはおばあちゃんのおかげかな。

 

 

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でも吹石は親父から一方的に被害を受けているわけではなく、きちんと親父に応戦しているようだ。ただ受け身になって鬱屈としたストレスを抱えるようなことはなく、健全な強さがあるように読み取れた。

 

ただそれでも、おばあちゃんがいても、酒乱の親父がいる家なんて帰りたくないだろう。
帰りたくないから静一とベンチで語らうとか、吹石が求めてるものがあまりにささやかで、そして純粋で、ちょっと泣けてくるわ。

 

どうやら静一も吹石も同じく家族で悩みを抱えている者同士だったようだ。
惹かれ合うことにある種の必然性を感じた。

 

 

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あと、吹石が静一に振られても全く動じなかったシーン思い出した。

 

吹石はこの時点で静一の吃音が静子によるものだと勘付いていた。

 

これは自身が父親との関係において辛い経験をしていることと無関係ではないと思う。
きっと吹石の強さは、痛みを知っているが故だったのだろう。

 

読者の中には、吹石の置かれた境遇と自分の境遇を重ねる人もいるんだろうな。
そういう人にとって救いとなるような描かれ方になるといいんだけど……。

 

 

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別に吹石が幸せになるような表現が欲しいとかじゃなくて、むしろそういう家庭のリアルを詳細に描かれる事を期待している。
きっとそれで救われる想いがあると思う。

 

しかし吹石の表情から元気が無い事を察してすかさず、何かあった? と問いかけた静一。
……やりやがるな!

 

 

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静一が質問した後に見せた吹石の嬉しそうな表情を見ると、どうやら静一は中学二年生で既に俺より恋愛スキルが高いっぽい(泣)。

 

まぁ実際はそんなスキル云々じゃなくて、静一が本当に吹石のことをよく見て、感じていたということだろう。

 

この二人の相性はとても良いと思う。静子が自分のエゴで引き裂くのは間違ってると改めて感じた。

 

 

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今回静子に見つかったことで、吹石の命に危険が迫り始めていると思う。

 

それに静子は静一の首を絞めた事もある。それを考えると今後の展開によっては静一も始末の対象になりねない……。
また”事件”の気配が漂ってきた。

 

次を読めるのが三週間後なのが辛い……。

 
以上、血の轍第31話のネタバレを含む感想と考察でした。
 
第32話に続きます。

 

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