血の轍(押見修造の漫画)の最新第34話捨てるの感想(ネタバレ含む)と考察。静子が去った後、どうするか途方に暮れる静一を吹石が自宅に誘う。

血の轍 第33話 静子

第34話 捨てる

第33話のおさらい

ついに静子に見つかった静一と吹石。
しかし吹石は静一の両耳を手で塞いだまま、静子を無視していた。

 

静子は悲しみに暮れた表情で二人に向けて語気を強める。
「離れなさい!」

 

しかし吹石は、手紙破いたってどういうことですか? と静子に詰問する。

 

依然として静子を見ずに、静一と見つめ合う吹石。
手紙を破くなど、どうしてそんなことしたのか、と続ける。

 

そして吹石は核心を突く。

 

「静一君に、何したんですか!?」

 

その間も吹石は静一と視線を合わせ続ける。

 

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静子は手を握りしめて吹石に問いかける。
「何がわかるん。あなたみたいな子に。」

 

しかし吹石は全く動じることなく、ついにそれまで静一に向けていた静子に視線を移す。

 

「離しなさい。手を。」
威圧的に命令する静子。

 

それでも吹石は静一の耳から手を離さない。

 

静一は怯えた表情で静子を見上げる。

 

業を煮やしたように、静子が二人に向けて歩きだす。
「早く、離しなさい! 早く!」
怒りと悲しみが綯い交ぜになった必死の形相で、静子は吹石に向けて右手を伸ばす。
「ほら!!」

 

静子の手が吹石の顔にかかろうとしたその瞬間、弾かれたように静一が動き、吹石を背にして静子の前に立ちふさがる。

 

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その行動に驚く静子。

 

静一は静子に向けて怒鳴る。
「マッ…おまえなんか!!」

 

「おまえなんかいらない!!」

 

呆然とした様子の静子はやがて生気の失われたような表情になると、自分の口元に右手の中指を運んでそれを前歯で噛む。

 

「いらない…」
静子が静一から言われた言葉を反芻するようにぼそっと呟く。
「いらない…いらない子…」

 

さきほどまでの意気が消沈し、怯え始める静一。
「私…」
中指の爪を噛む歯に力が込められていく。
「いああ…い…お…」

 

パキッ

 

中指の爪を割る音が響く。

 

自らの血が滴り落ちていく様子を、無気力な表情で見つめたあと、静子は場違いな微笑を浮かべる。

 

静一はその表情を目の当たりにして目を見張る。

 

「こわい。」
立ち尽くしていた静一の耳元で吹石が呟く。

 

吹石は敵意に満ちた表情を浮かべて静子が去った方向を見つめていた。

 

「こわい。あのお母さん。」
真剣な表情で吹石が続ける。
「逃げなきゃ。」

 

吹石は静子からの逃亡を静一に提案するのだった。

 

 

第33話の詳細は上記リンクをクリックしてくださいね。

 

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第34話 捨てる

わからない

草を掻き分けてベンチのある方向に戻っていく静一と吹石。

 

広場に出て静一は周囲を見回すが、そこには静子の姿はない。

 

「お母さん、いない?」
ベンチに置いていたリュックを背負った吹石が問いかける。

 

「…うん。」
同じくリュックを背負った静一は土手を見つめる。
「帰ったみたい。」

 

「あのお母さん、こわい。」

 

静一は自分を真っ直ぐ見ながら静子への恐怖をストレートに訴えて来た吹石を横目で見つめ返す。

 

「あのお母さんといたら、長部がおかしくなっちゃう。」
吹石は、だから逃げなきゃ、と続ける。

 

静一は吹石を見つめて一瞬の間を置いて訊ねる。
「逃げる…って…どう…やって?」

 
 

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吹石は少し目を伏せた後、静一を真剣な目で見つめて静かに、しかし畳みかけるように問いかける。
「あのお母さん、何なん? 何があったん? 前からずっとああなん?」

 

あまりにも直球の質問に静一は一瞬言葉を失う。
それでも吹石から視線を外さず、ぽつりぽつりと答え始める。
「前…前…は…前は違ったんさ…」

 

静一の脳裏にこれまで自分が接してきた優しい母親の表情が次々に浮かんでいく。

 

最後に浮かんだのは、静子が猫の死体を前にした時、しげるを突き落とした後、そして先程浮かべたあの微笑だった。

 

その穏やかな、しかし異様な迫力を感じさせる静子の目が静一の心を捉える。

 

「…いや…前から…同じだったんかも…」

 

地面に視線を向けて独り言の様に呟く静一を、吹石は黙ってじっと見つめている。

 

「…わからない…」
静一は顔に左手を当て、眉根を寄せた苦しそうな表情で、わからない、ともう一度繰り返す。

 
 

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誘い

一瞬の静寂の後、吹石が口を開く。
「わからなくたって、いいよ。」

 

静一は顔に手をあてたまま吹石に視線を送る。

 

「お母さんがいなくたって、生きていけるよ。」
吹石は心を凍らせたような表情で静一を見つめる。
「私はお母さん捨てたから。頭ん中で。」

 

静一は吹石のかつてない表情、言動に驚いたように目を見開く。

 

「行ご。」
吹石は静一の目をみつめたまま、彼の右肩と右胸に両手をそっと置く。

 

「…」
呆然と吹石を見つめる静一。
「え…?」

 

「私んち。」
吹石は、大丈夫! と笑顔を浮かべて静一を自宅に誘う。
「私の部屋 外から入れるんさ。お父さんとおばあちゃんは部屋 入って来ないから。」

 

「泊めてあげる。」

 

「え…? …でも…」
吹石を見つめたまま戸惑いを見せる静一。

 

しかし吹石は笑顔を浮かべたまま、家になんか帰らなくていいよ、と優しく静一に呼びかける。

 

「あんなお母さんのいる家。」
吹石は静一の手をそっと握る。
「行ご。」

 

「あ…」
手を引かれるまま静一は吹石の後を歩いていく。

 
 

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部屋の中

夜の街を歩く二人。

 

吹石は一軒の家の前で足を止める。

 

静一は吹石の後ろで、彼女の自宅らしき一軒家をじっとみつめる。

 

「こっち来て。」

 

静一は吹石に顔を見つめられながら、家の裏の細い道を奥へ奥へと手を引かれていく。

 

「あそこ。」
吹石が上を指さす。
「私の部屋。」

 

吹石の誘導に従い、静一は視線を上に向けると、そこには家の二階の部屋に通じる扉があり、そこまで上がる為の立派な外階段がある。

 

「私が中に入って呼ぶから、ここで待ってて。」

 

吹石の言葉に不安げな表情を浮かべつつも素直に頷く静一。

 

そんな静一を見て吹石は笑みを浮かべると、さっき来た道を戻って玄関の扉を開けて家の中に入っていく。

 
 

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吹石を見送った後、静一はその場にお尻をつけないように腰を下ろす。

 

そして地面に視線を向けたまま、物思いに耽る。

 

浮かぶのは静子の後姿。

 

(あっちいけ! おまえなんかいらない!!)

 

自分の言葉に続いて、吹石の言った言葉が響く。

 

(私はお母さん 捨てたから。)

 

「…捨てる…」
呆然とした表情で、ぽつりと呟く静一。

 

長部! と声がかかり、静一は気を取り戻す。

 

階段の上、二階の扉の前で吹石が手招きをしている。

 

静一はそれに従って静かに階段を上がっていく。

 

扉を開いたまま、吹石は笑顔で自室に静一を招き入れる。

 

吹石の部屋に入るとすぐに吹石の匂いが静一の鼻腔をくすぐる。

 

吹石は静一に背を向けて立っている。
「今日は、ずっと一緒にいられるね。」
静一に振り向いた吹石の顔は紅く染まり、照れたような笑顔を浮かべている。

 

吹石の匂いに包まれ、静一も頬を染めて吹石を見つめる。

 
 

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感想

逃亡生活はすぐに破綻する?

14歳が母から逃げるとなると選択肢はそう無いだろうとは思っていた。

 

でもやはり、避難先は吹石の部屋だったか~。

 

吹石の部屋には父も祖母も入ってこないし、玄関を通らなくても直接行けるのだという。それならてっきり離れにでもなっているのかと思えば、二階の部屋に外階段で行ける作りなのか……。中々珍しく感じた。
こういう作りの家はあまりは見たことがない。

 

何しろ静一は自分の荷物はほとんど持ってないし、それ以前に未成年がずっと両親に無断で実家を離れて誰かの部屋に滞在し続けることも、滞在させ続けることも出来るわけがない。だからおそらく吹石の父か祖母、もしくは警察に捜索を頼んだ一郎がやってきて、静一が連れ戻されて破綻するんじゃないかな。

 

でも今のところ、静一が羨ましい。
ラストのコマ、吹石の部屋に充満する彼女の匂いに包まれて恍惚となっている静一の表情があまりにも幸せそうで笑ってしまった。
人生でこんな表情したことないわ(笑)。

 

特に何もなければ、後から振り返ればこれも青春の一ページと懐かしく振り返る事が出来るだろう。

 

そう、何もなければ……。

 

静子がこのまま沈黙し続けて、吹石と静一を放っておくわけがないんだよなあ。

 

この束の間の幸せの裏で着々と二人に忍び寄っているであろう静子の反撃の時が怖い……。

 
 

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母を「捨てる」とは

母を頭の中で捨てたと静一に告白する吹石。

 

それは吹石の見せた強さなのか、それとも闇なのか。

 

少なくとも吹石も親で苦労していることはここ数話で分かった事だ。

 

父親とは激しい喧嘩をするとのことだが、むしろ母親に対する思いの方がキツイ印象を受ける。
あれ? 母親はどうしたって言ってたっけ……。逃げたんだっけか。あとで読み直さねば………。

 

吹石が頭の中でその存在を「捨てる」程、母にはガッカリさせられたことは間違いない。

 

やはりこの年頃だと女の子の方が精神年齢は高いなあ。
(というかどの年齢でもそうなのかもしれないけど(笑)。)

 

吹石があの夏の始業式の帰り、一目散に教室から逃げた静一を追いかけて、その吃音が母親に何かされたせいなのかと的確に見抜いたのは、吹石自身が母親に傷つけられたという過去があったからなのかもしれない。

 

今のところ、14歳には似つかわしくない闇も見受けられるものの、吹石は静一の理解者としてかなり心強い存在だと言って良いと思う。

 
 

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吹石は完全に母を吹っ切った様子だけど、静一はまだまだだなと感じた。

 

静子への”いらない”は勢いで言ってしまった面も確実にある。
そして脳裏に再生される静子の優しい表情が、静一の静子への思慕の念をギリギリで繋ぎ止めている。

 

ただ、”前から同じだったんかも”と呟いたのは、同時にこれまでの静子の優しさが果たして純粋に自分を想ってのものだったのかという疑念も生じている為だと思う。

 

つい先ほど見せた静子の異常な一面は、実は静子の裏の顔などではなく、いつもの優しい静子の延長線上にあるものだと静一は理解しただろうか。

 

”わからない”と繰り返し、懊悩する静一がとにかく気の毒だわ。
しげるの一件も静子の為と誰にも言わずに心の内に閉じ込めているし、静一の心労は14歳が感じていい範疇をとっくに超えてると思う。

 
 

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静一が静子と折り合いをつけて生きていくには、吹石の言うように頭の中で母を「捨てる」必要があるのかなと思った。

 

「捨てる」とはつまり過剰に想いを寄せないことだろう。”吹っ切る”と言っても良いかな。

 

静子はまともな母ではないことに静一は気付き始めたのではないか。
これまで潜在的に思っていたことが、顕在化した感じ。

 

これはもう治るようなものじゃない。恐らく静子が過去に抱えた何かが徹底的に彼女の考え方も心も歪めてしまった。

 

実の息子の静一は、そんな彼女と距離をとって折り合いをつけるしかないのだと思う。

 

果たして静一は母を「捨てる」事が出来るのか。

 
 

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長部家は今どうなってるのか

今頃きっと静子は静一から言われた、いらない、の一言を反芻しながら、自身の内から止めどなく漏れ出る黒い感情を持て余しているのではないか。

 

ずっとあのどろりとした目で中空を見つめながら椅子に座ってそう。

 

およそまともな状態で家に辿り着いたとは思えない。

 

多分、負のオーラをこれ以上ないくらいにまとった静子と一対一になるであろう一郎が気の毒でならない。

 

静子がおかしくなったのを目撃するのは一郎からしたら夏の始業式の日以来じゃないかな。今頃、おかしくなってしまった静子を相手に静一がどこに行ったのか、一体何があったのかを必死に問い質しているのかもしれない。

 

でも静子はほとんど正気を失い、何も答えない。
そして静一とは土手で別れたきりだから現在の静一の所在なんて分からない。
でも吹石と一緒だという予想は出来るかな? ただ、それを一郎に言うかどうかは微妙だ。
そうなると一郎からしたら何が起こったのか分からないし、静一の事が心配でしょうがないのではないか。

 

もし静子が静一が吹石と一緒にいたことを言わなかったとしたら、一郎はきっと街中を探し回るだろうし、最終的には警察に頼るしかないかも……。

 
 

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逆に静一が同級生の女の子と一緒にいると知ったら、どんな反応をするのか。
一郎は息子が同級生の女の子と一緒にいる聞いて、あいつやるなぁ、なんて余裕たっぷりで言えるようなキャラではないと思う。

 

ここまでこの話を追って来て、一郎には事なかれ主義っぽい所も見受けられるけど、静一の事を大切に思っているというのは間違いない。

 

まともな親なら静一を怒るだろう。

 

静子から吹石と一緒だったことを聞き出せていたなら、一郎は比較的スムーズに吹石家を訪ねることが出来る。

 

でもあの状態になった静子がまともに一郎の質問に答えられるとは思えないんだよな~。

 

果たして静子は今、何を考えているのだろう。

 

静子の吹石への反撃の時が本当に来てしまうのだろうか。

 

そういえば触れないようにしていたけど、次の話は青春時代にぱっとしなかった人間にとっては読んでて消えたくなるような展開がありそう。

 

14歳で彼女の部屋に一晩泊まるって静一お前……(笑)。

 

とりあえずこの一夜をどう過ごすのかも楽しみにしたい。

 

以上、血の轍 第34話のネタバレを含む感想と考察でした。

 

第35話に続きます。

 

あわせてよみたい
押見修造先生のおすすめ作品や経歴をなるべく詳細にまとめました。

血の轍第3集の詳細は以下をクリック。

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2 件のコメント

  • 凄いですね!予想されていた通りの展開ですね。
    吹石さん本当に頼もしい。
    このままでいられるはずがないのはわかっているのですが、吹石さんに期待してしまいます。
    が、静子の心を想像すると恐怖です。

    • コメントありがとうございます!
      返信が遅れてしまいすみません。

      予想というか妄想でしたが(笑)、まさか本当に自宅の自室に連れて行くとは……。
      父や祖母に内緒ってところからそこはかとない妖しさが漂って参りました(笑)。

      Mさんがおっしゃる通り、吹石は頼もしいですよね。
      静子に一歩も退かなかった。
      ひょっとしたら、自分や父、祖母を捨てて出て行った母と言う存在そのものに潜在的にある種の敵愾心を抱いているのかもしれませんね。

      あと、吹石にも実は闇が……なんて展開もあったりするかもです。登場人物は皆、何かしら闇を抱えているのが押見作品だと思うので……。
      吹石の静一に対する一心な愛情も、実は見ていてちょっとだけ怖くなるところもあります。
      静一も若干引いていたような表情を見せたことがあったような……。

      基本的に吹石は静一の味方なのには変わりないですが、この関係性に何か一捻りあるとより面白いかもなぁなんて思います。

      >吹石さんに期待してしまいます。が、静子の心を想像すると恐怖です。

      意外とあっさり引いたのがかえって怖いですね。嵐の前の静けさだと思います。
      静子の不吉な表情を見ると背筋が凍ります。もうただひたすら吹石の無事を祈るのみです……。

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