第134話 祝福
第133話のおさらい
上京後、憧れていた劇団の門を叩けないまま、静子は専門学校を卒業して広告会社に就職していた。
しかし静子は劇団の公演は観に行っていた。
そしてある日、その公演の場で、友達と一緒に来ていた一郎と再会する。
その夜、飲み屋で静子は一郎の友人から劇団では新人女優は脱がされるが大丈夫かと聞かれ、一気に冷静になってしまう。
その夜を機に一郎と距離を縮めていった静子は、いつしか静子が新しく借りた広い部屋で一緒に暮らすようになっていた。
静子は忙しく働き、一郎は勉強もアルバイトもろくにせず、ひたすら詩を書き続けて、静子は24歳、一郎は27歳になっていた。
その頃になると静子は劇団に足を運ばなくなっていた。
そして、8年かけて大学を卒業した一郎は、実家の会計事務所を継ぐことを決め、静子は一郎に求められるがまま結婚。実家についていくことになるのだった。
そして一郎の実家で一郎の両親に挨拶中、静子は一郎の姉、静一の伯母と顔を合わせるのだった。
第133話の詳細は上記リンクをクリックしてくださいね。第134話
静子のこれまでの人生の回想も3回目か……。
このペースだと次で終わりかな?
今回は静子の結婚から静一が生まれるまでの話だった。
少なくとも結婚しても静子の心は全く救われておらず、これまでの人生で味わってきた寂しさは相変わらず継続していた。
一郎だったら、静子のこの心情の吐露をどんな思いで聞くのかな……。そんな静子の気持ちに気付いてあげられなかったことを悔いるのか、それとも、なぜ自分と結婚したのかと、哀しみとわずかな怒りを覚えるのか。
一郎との結婚生活は、静子の心に劇的な変化をもたらすものではなかった。それ自体はこれまでの話を読んで来ているから良くわかる。
しかし静子が自身の結婚式の日、一郎にきれいだよと言われた時のの自分の感情を、嬉しかった”と思う”と曖昧さを残しながら振り返ったのはさみしいなと思った。その時の静子の感情に全く鮮烈な印象を与えていなかったわけだから……。
そして、親族からの祝福の言葉も静子の心には全く響かず。これについては幼少期の両親との関係が発端っぽいから当然と言えば当然なのか。
結婚自体は、両者の間に燃え上がるような思いが無くとも成立・持続が可能なものだと思う。そもそも二人は結婚前から同棲していたし、結婚式の後の生活もその延長に近いものがあったのかもしれない。ある意味安定した生活だったのかなと思う。
やはり静子の人生を揺さぶったのは、初対面ですでに一定の苦手意識を感じていた一郎の姉だった。
結婚式の翌年に義姉の元にしげるが生まれた際、静子は彼女から子供ができると変わると一郎との子作りをすすめられる。
その時、どう変わるかと言う静子の問いかけに対して、義姉は、子供は自分より大切な存在だから自分のことなどどうでも良くなると答えて、静子も楽になるんじゃないかと付け加えた。
この言葉をきっかけに静子は自分が子供を持つことについて真剣に考えるようになる。
しかしこれまでの自身の人生を振り返って、どうしても生まれてきた意義がわからず、静子は生まれて来ない方が幸せだったのではという結論にいきついてしまった。
そんな、いわゆる反出生主義的な観念を抱いた静子に、一郎は、生まれてきて良かったと思えるよう、愛してあげればいいと語り掛ける。ただ、それが何とも軽い感じがして読んでいてムカついた。
できると思うよ、静子なら、と言い放つ一郎に、静子に丸投げで自分はそうしないのかよ? と突っ込んでしまった。もし励ますなら、自分と静子ならできるよ、一緒にたくさん愛してあげようよ、じゃないのかよ。
静子から相談を受けたはいいけど、静子の抱える悩みの深刻さをまるで理解しないまま答えているんだろうな……。これもまた静子が結婚後、いや、同棲中にも拭えなかったさみしさの原因の一つだったのだろう。
でも静子はそれに対して反発することなく、素直に受け取り、静一を宿すことになるわけだ。もしここで、一郎に対してその時静子が感じていたかもしれないネガティブな怒りや悲しみを躊躇わずに表現できるようなら、その後、静子の家庭及び人生は崩壊には至らなかったのかもしれない。
静子は、自分が子供が生まれる前からきちんと愛することで、自分のようにさみしくならずに済むのではないかという考えを抱く。ただ、それは生まれて来る子供のためというよりは、かつて自分が得られなかったものを全てあげるように子供を育てることで、自分のかわりに人生を最初からやり直せるという、あくまで自分主体の動機からだった。
子供を通じて自分の人生を救おうというモチベーションこそが過保護の根源だったのか……。
自分を静一に投影しようすることに必死で、静一自身をきちんと見るということを考えすらしなかったということなんだろうな。
静子がそれくらい必死にもがいていたという証だと考えると、さすがに静子のことを哀れに感じざるを得ない。
徐々に静一が育つにつれて自我が芽生え、静子の思い描いていた理想から外れる言動が出て来る。それが静子を絶望させ、凶行を起こす原動力となったのか……。
少年審判の場で意気揚々と静一を捨てると宣言したが、それはつまり、静子は静一が失敗作と言ったのと同じなんだな……、
静子のこれまでの人生の回想を聞いて、色々と繋がってきたのを感じる。
次回で静子が幼い静一をどういう気持ちで育てていたか、知ることができるだろう。
それによって、静子の気持ちや行動原理をより正確に理解できるようになると期待したい。
以上、血の轍第134話のネタバレを含む感想と考察でした。
第135話に続きます。
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