血の轍(押見修造の漫画)の最新第32話草叢の声の感想(ネタバレ含む)と考察。吹石との逢瀬が静子にバレて逃げる静一。草叢に隠れた二人は静子の異様を目撃する。

第32話 草叢の声

※前話”31話”のあらすじのみ。第32話はスペリオール発売後に後日追記予定。

第31話のおさらい

朝。静子は玄関から笑顔で静一を送り出していた。

 

早く帰ってくるのよ、と念を押しして静一を学校に送り出す。

 

学校が終わり、静一はまた吹石と裏門で待ち合わせていた。

 

二人はいつもの広場のいつものベンチに並んで座り、他愛ない会話を楽しむのだった。

 

二人の楽しい時間はあっという間に過ぎ、いつしか日が落ちて暗くなり始める。

 

スポンサーリンク




静一は吹石との会話を楽しみながらも、昨夜ベッドに横になっている自分に対して、ごめんねこんなママで、と言いながら頭を撫でてきた静子のことを思い出していた。

 

それに加えて、今朝、家を出る時に早く帰ってこいと念押しされていたことも思い出し、静一は、吹石に帰宅を提案するタイミングを計っていた。

 

その問いかけにをはっとした表情を返す吹石。
うれしそうな表情になって静一を見つめ、父とケンカした、と理由を話し始める。

 

話す過程で自分の家族構成が父、おばあちゃん、自分の三人であり、母は離婚して不在と説明する吹石。
そして父は酔うと自分に対して怒り、しょっちゅう言い合いをしているのだと告白する。

スポンサーリンク



 

そんな家庭事情を知った静一は、お父さんが怒るよと吹石に帰りを促す。

 

しかし、吹石はそれを拒む。
「…やだ。帰りたくない。ずーっと長部と、ここにいたい。」

 

寂しそうな吹石に、静一は答える。
「…僕も。僕も…ずっとここにいたい…」

 

それを受けて吹石は静一にお願いがあると切り出す。
あたまをなでてほしいと静一に頭を差し出すのだった。

 

静一はそのお願いに暫し戸惑いを見せるが、心を決めてそれを了承し、吹石の頭に手の伸ばしていく。

 

 

スポンサーリンク



 

吹石の頭を撫でる静一は、吹石の頭から立ち昇る香りに魅了されていた。

 

静一に撫でられていた吹石は、静一の肩に身体を寄せる。

 

静一と吹石は二人寄り添い、恍惚とした気分に酔っていた。

 

「見たわよ!」

 

そこに静子の一声が響く。
静一たちから離れた土手には、自転車に跨った静子がいる。

第31話の詳細は上記リンクをクリックしてくださいね。

 

スポンサーリンク



 

第32話 草叢の声

逃走

「見たわよ!」

 

静一は、土手の上に自転車に跨る静子のシルエットを見つけていた。

 

自転車を降りた静子は、自転車のスタンドを立てずに静一に向かって歩き出していた。

 

静子は背後で自転車が倒れるのを全く意に介することなく、肩をいからせながら足早に土手を降りていく。

 

静一は近付いてくる静子を見て、吹石の手を握って弾かれたように逃げ出すのだった。

 

「どこ行くん!?」

 

スポンサーリンク




静子の声を背中越しに聞きながら、静一は恐怖に顔を引き攣らせて静子とは反対方向へと逃げていく。
静一に手を引かれるまま一緒に走る吹石。

 

「どこ行くん!?」

 

静子が追ってくる。
静一は息を弾ませながら草叢に走っていく。

 

草叢を掻き分け、吹石の手を引いて静子から逃げる静一。

 

「静ちゃん!」

 

追ってくる静子の声が聞こえる。

 

スポンサーリンク



 

発作

逃げ続けていた静一だったが、急に静子から隠れるように吹石と一緒にしゃがみこみ、荒くなっていた呼吸を必死に整える。

 

じっと隠れて息を潜める静一。
その耳にガサガサという静子の足音が聞こえる。

 

「静ちゃん! どこ!?」

 

「どこにいるん!? ねえ!!」

 

顔を強張らせている静一の横顔を吹石がじっと見つめている。

 

「見たわよ!」

 

静一の目が見開く。

 

スポンサーリンク




「吹石さんでしょ!? ママ見たわよ!」
静子は立ち止まり、静一に呼びかけ続ける。
「吹石さんといたんでしょ!?」

 

恐怖に追い詰められた静一は恐怖を浮かべた表情のまま固まっている。

 

「何あれ!? 何してたん!? くっついて何してたん!?」

 

必死に呼吸を整える静一。

 

「…ママに嘘ついてたんね! 裏切ったんね!!」

 

「一緒に、吹石さんの手紙 破ったのに!!」

 

静一は地面を見つめる。
傍らの吹石に視線を送ることが出来ない。

 

「何たぶらかされてるん!? 女の子に! まだ中学生なのよ…!?」

 

静一は右手で胸を押さえる。そして徐々に表情が苦しみに歪んでいく。
「うっ…ううっ」
呻きながら、胸にあてていた手でジャージを掴む。

 

スポンサーリンク




「どうして…? どうして? どうして静ちゃんそんなんなっちゃったん…!?」

 

静子の呼びかけを聞いている内に、静一の顔色はどんどん悪くなっていく。
顔には玉の汗が浮かびあがり、両手でジャージの胸のあたりを握りしめる。

 

「首しめちゃったのが…そんなにやだったん!? 黙ってちゃわかんないよ…!」

 

恐怖と苦しみに静一の表情が歪む。

 

「静ちゃん出てきて 戻ってきて ママ謝るから せいちゃん せいちゃん間違ってる 目を覚まして」

 

静子の呪文のような言葉を聞く内、静一は喉に手をあてていた。
餌を求める魚のようにぽっかりと口を開ける。

 

「せいちゃん せいちゃん せいちゃん せいちゃん」

 

壊れたレコードよろしく、静子は静一の名前を繰り返すのみ。

 

それを聞きながら、静一はどんどん精神の均衡を失っていく。
苦しそうに喉を押さえ、必死に呼吸を求める。

 

スポンサーリンク



 

発見

吹石にジャージの袖を掴まれた静一。
顔を上げて吹石に視線を移す。

 

吹石は、まるで何かを決意したかような表情を浮かべてじっと静一を見つめていた。
そして両掌をゆっくりと静一の左右それぞれの耳にあて、顔を覗き込むようにする。

 

互いに見つめ合う二人。

 

「聞いちゃダメ。」
吹石は静一の目を見つめ、言い聞かせるように口にする。

 

そんな吹石の目を静一はじっと見つめ返していた。

 

お互いの目をじっと見つめ合う。

 

すると、ガサッ、という音が二人の至近距離で響く。

 

ついに、しゃがみこんで見つめ合う二人を静子が発見するのだった。

 

「せいちゃん…」
静子は涙、鼻水に塗れた表情で二人を見下ろしている。

 

スポンサーリンク



 

感想

静子の必死さ

今回のラストページも、前回に引き続き衝撃的だった。

 

涙と鼻水……、あとこれ涎も出てない? 実にひでぇ表情だ。
しかしそれでもキレイとか卑怯だろ。

 

このなりふり構わない剥き出しの必死さ加減は非常に怖い。
何というか、嵐の前の静けさを感じる……。
この後、何やってもおかしくない感じ。

 

中学生くらいの息子がいるお母さんは、ここまでじゃなくても、少しは静子の気持ちが分かるものだったりするのだろうか……。
自分に娘がいたとして、同年代の男子とこんなことしてたら静子のリアクションっぽくなりそうな気がする(笑)。

 

スポンサーリンク




自転車を倒し、土手を下っていく静子が表情が全く見えないシルエットなのもあって、まるで妖怪の類に見えた。
シルエットがかなりセクシーなんだけど、だからこそ怖い。リアルなんだけどどこか現実離れした光景だわ。

 

静子が静一たちにずんずん近付いていく様子から、怒りを滲ませているのが丸わかり。これは静一も逃げるわな。

 

今回の話は、とにかく静子があまりにも必死過ぎる。
非常にみっともない。見苦しい。そして怖い。でも何だかとても悲しい。
なんでこんなになっちゃったかなぁ。

 

静一が吹石と一緒にいることが分かっているのに、自分が静一と一緒に吹石の手紙を破ったことや、静一の首を絞めたことをベラベラ喋るとかあり得ないでしょ。もう彼女の世界には自分と静一しかいないのかな。吹石に聞かれたらマズイ情報だろうに、そういった恥や外聞を気にする余裕が全くないのが分かる。

 

スポンサーリンク




……いや、わざとだよね?
正気を失っているようで、でもきちんと吹石が聞いたらダメージを受けるようなセリフを選んでいるのかも。
ここには自分と静一、吹石の三人しかいないから大丈夫だと判断しているとか。

 

とにかく静一に執着している。分かっていたことだけど、今回それが分かりやすく表面化した。
静一への執着がいき過ぎて、もはや彼女にとっては自分と静一以外のものが無価値になっているような感じ。
まるで駄々をこねる幼子のようだ。
仮に静子がおかしくなったのが長部家との関わりによるものではなく、彼女の成長過程におけるトラウマに起因しているとしたら、幼少期に何かあったのかも知れないな、と思った。

 

そんな事妄想してたら、なんだか恐怖だけじゃなく心も痛くなってきた。

早いとこ彼女の生い立ちを知りたいところ。気になる。

 

スポンサーリンク



 

恐怖に飲み込まれた静一

静一が一気に追い詰められてる。
前回のラストページ前までは相当幸せだったのに急転直下とはまさにこのこと。

 

近付いてきた静子から一目散に逃げる静一の様子から、静子への愛より恐怖が完全に勝っているのは明らかだ。

 

普通に考えれば一時的に逃げても全く意味がないんだけど、そんなことに全く考えが及んでいない、まさにパニック状態なのがよく分かる。

 

とにかく本能で動いている感じが吹石の手を引いて逃げる静一の追い詰められた表情から窺える。

 

じゃあ静一は静子に対して恐怖しか抱いていないかと言えば、そんな事はないと思う。

 

スポンサーリンク




寝室に入って来て自分に対して泣きながら謝罪する静子に、静一は確かに悲しみを覚えていた。
静子に対して恐怖心しかないのならそんな反応はしない。静一の内にはまだ静子に対する愛情がきちんと残っていると判断して良いと思う。

 

それでも吹石と一緒にいるところを目撃されたならただ逃げるしかない。
なぜなら静子を裏切っているということを静一自身がきちんと理解しているから。

 

吹石が訪ねて来た夏休みの日、静一は吹石からもらったラブレターを一緒に破り、吹石ではなく静子を選んだ。
その後の静一の様子から、一時はそれで納得、というか諦めていたように思う。

 

静子の犯行を目の当たりにし、気が触れてしまったようなその様子に母を守らなければと決意した静一の気持ちに偽りは無く、静一には静子を悲しませる気など一切ない。

 

母を守らなくてはという使命感と、その母が、自分が好きな吹石との付き合いを嫌がっているということが静一を苦しめている。
でも既に1話から分かっていることだけど、明らかに静一は吹石に気があった。
だから吹石と付き合うことは彼女に望まれたということと同じか、もしくはそれ以上に彼が望んだ結果だと思う。

 

しかし吹石と付き合うという事は、明確に静子を裏切ることだ。
静子を裏切っているという罪悪感と恐怖が、静一に本能的に逃走を選ばせたという感じがする。

 
 

スポンサーリンク



際立つ吹石の強さ

静子に対して全く怯むことなく、静一を勇気づけようとする吹石はただただ強いな。

 

吹石の耳に、一緒に手紙を破った、という静子の言葉が聞こえていなかったということはないと思う。
その後の、たぶらかされてる、とか、首しめちゃった、とか、かなり衝撃的なセリフを立て続けに聞いても、吹石は全く取り乱さず、両掌で静一の両耳を塞いだ。
その際見せた吹石の、言ってみれば静一を守る為に静子と戦う決意を固めたような力強い表情に正直惚れた。

 

実際、中学生くらいなら女の子の方がしっかりしてると思う。
少なくとも自分の時はそうだったのを思い出す。

 

そもそも日常的に父と言い争いをしている彼女にとっては、この程度のことはもはや修羅場ではないのかもしれない。
彼女曰く、父親に言い返したり、モノを投げたりして抵抗しているようなので闘争心はある。
静一より強いかもしれない。

 

こうなってくると、静子と吹石の衝突は避けられないんだろうな……。

 

吹石からしたら、相手が女であれば、いつも相対している父親よりは力で劣るから抵抗しやすいと考えているかもしれない。

 

実際、父親にきちんと抵抗できているなら静子相手にも口でも手でも十分戦えると思う。

 

でも、相手は静子なんだよなぁ……。普通の女ではないのよ……(笑)。
何をやるか分からないヤバさがある分、相手にするには相当にタチが悪いと思う。
関わらないのが吉だわ。

 

スポンサーリンク




しげるがどんな末路を辿ったかを考えると、吹石のこの強さは仇になる気がしてならない。
正気を失った静子が一線を越えてしまう人間であることは、しげるの時に判明している……。

 

吹石の静一を好きという気持ちは止められない。彼女は決して引くことなく、静一と、彼と自分との関係を守ろうと静子に対して必死で抵抗するだろう。

静子がヤバいと思うのは、一度あんな事をやって、しかもバレていない、つまり成功してしまったということ。静子に茂に対して明確な殺意はなかったと思う。でも最悪死んでも構わないくらいには思っていたのではないか。そして静子の試みは禍々しい形で吉と出た。

 

正直、この成功体験は非常に怖いと思うんだよね……。
なぜなら、次にそれを行おうとした場合、前回よりも確信を以って行えるということだから。

 

何と言っても、静子からしたら吹石は静一を誑かそうとしている憎き女でしかない。彼女にとって吹石が中学生であることは全く関係ない。自分から静一を奪おうとしている存在は静子にとっては平等に排除の対象になる。山でふざけて静一を崖から落としそうになったしげるもつまりはそういうことだったのだろう。
さらに吹石は女であり、静子は静一を巡って、彼女に対してある種のライバル意識を持っている可能性がある。

 

スポンサーリンク




となると、静子による二人目の凶行は、もっと容易く行われるかも……。

 

一体何をやらかすかわからないけど、静子は吹石に必ず何かを仕掛けるだろう。
この場には三人しかいないっぽいから、しげるを突き落としたシチュエーションに近いと言える。

 

もしかしたら次号でその仕掛けがすぐに分かるかもしれない。
正直この先が怖い。
以上、血の轍第32話のネタバレを含む感想と考察でした。

次回第33話に続きます。

あわせてよみたい
押見修造先生のおすすめ作品や経歴をなるべく詳細にまとめました。

血の轍第3集の詳細は以下をクリック。

血の轍第2集の詳細は以下をクリック。

血の轍第1集の詳細は以下をクリック。

スポンサードリンク

8 件のコメント

    • コメントありがとうございます!

      楽しみにしていただいているとか嬉しいです。ありがとうございます!
      実はスペリオールが次の発行までに三週間隔が空くタイミングだったもので、まだ次の話が出てないんですよ……。
      隔週ではなく、第二、第四金曜発行の罠ですね。三週の時に次号まで待つのが物凄く辛いという……(笑)。

      でも13日にようやく次の号が出るのでその際は更新したいと思ってます。
      更新したらぜひ読んでやってくださいね。

  • まるでこの漫画を読んだかのような満足感。
    特に感想が楽しみです。
    次回も心待ちにしています。

    • ありがとうございます!
      文章そんな上手くないので、漫画の展開がとにかくヤバいということです。
      文章では漫画の魅力の100分の1もないでしょう。絵の力は本当に偉大です。
      押見先生の表現力、描写力は漫画じゃないと丸ごと味わえません。
      このサイトはストーリーの確認とかリアルタイムでの感想チェックの為に覗いてもらえたら嬉しいです。

  • いつも更新楽しみにしています
    細やかなストーリーの解説で読んでいて漫画そのものを読んでいるような感覚になります

    • ありがとうございます!
      文章そんな自信があるわけでもないですし、実際そんな上手いとも思っていないので、結局原作漫画が素晴らしいんです。

      漫画をリアルタイムで追う喜びに、共に打ち震えましょう(笑)!

  • 毎回更新を本当に楽しみにしてます!スペリオールで読んだあとこちらを見るのですが、読みが深い!です。そうか、そういう見方があったかーなど、気づかされることが多いです。
    漫画もおもしろいですけど、こちらのレビューがまた深くて深くて…おもしろさが倍増してます。
    今回のラストページは本当に凄かったですよね。おっしゃるように、涙?汗?鼻水?涎?の混ざった?あの感じ…ものすごく、迫ったものがあって、「つづく」、で助かったというか(^_^;)あのあと、さらにページが続いてたら読者として精神的に耐えられたかどうか…なんて。スペリオールの発売日が隔週で助かったというか(^_^;)とはいえ、金曜日が来ると、うわあ!来ちゃった!!という感じにもなってしまい…読むも地獄、読まぬも地獄といいますか、とにかくもう囚われてしまいましたです。完全に。

    • コメントありがとうございます!

      楽しみにして頂いているなんて嬉しいです!
      漫画がさらに面白くなるとか本当にありがたい言葉で涙が出そう……。
      今後も更新していきますので時間がある時に覗いていってくださいね!

      最近は幸せな展開が続いていただけに、そろそろ突き落としに来るか? と思っていましたが……。
      静子の表情はヤバかったですね。
      顔中汁まみれの静子の表情は、内から抑え切れない感情が溢れ出てきていた象徴のように感じました。

      次どうなっちゃうんでしょうね。
      今回の話で静子から静一への感情の発露は見られましたが、吹石に対してどう対応するのか不安で不安で……。

      吹石は多分引かないと思うんですよね。
      静一が静子に苦しめられているのを察しているし、好きな静一のことを守りたい。
      そもそも吹石は父親と衝突出来る強さを持っていますし。

      だからこそ心配です。
      決して引かない吹石に対して静子が逆上して……なんて展開になったら、しげるが突き落とされた時と同等か、それ以上の衝撃でしょう。

      次の話まであと一週間を切ったので、今から精神力をチャージしたいと思います(笑)。

  • ほしこ へ返信する コメントをキャンセル

    メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

    CAPTCHA