血の轍(押見修造の漫画)の最新第26話ベンチの感想(ネタバレ含む)と考察。学校帰り、静一は寄り道してベンチに佇む。そこに吹石がやってきて……。

第26話 ベンチ

第25話のおさらい

暗闇から、静ちゃん、という声と共に両手が迫ってくる。

 

静子の腕は静一の首を絞める。

 

そして静子は、こどものくせに、と何度も呟く。

 

顔中に汗をかいて、目を覚ます静一。

 

静子が、静ちゃん、と声をかけながら入口のドアを開ける。
中に入らず、入口に立って薄く笑いながら静一を見つめる。

 

「朝はん。肉まんね。」
静子は薄く笑ったままドアを閉じる。

 

始業式、しげるの見舞い、そして静子に首を絞められたあの一日から一か月が経過していた。

 

静一が学校へ向かって歩き始めると、静子が声をかけてくる。

 

忘れもの、と静子が持ってきた給食袋を受け取る静一。

 

いってらっしゃい、と笑顔の静子。

 

静子を見つめたまま静一は何も答えない。

 

授業中、教師が、10月6日だから出席番号6番、と教科書を音読する生徒を決める。
6番の静一は教科書を持って立ちあがるが一向に言葉が出ない。

 

クラス中の視線が静一に注がれる中、静一は机の上のノートに、

すみません まだのどが
いたくてしゃべれません

と書き、教師に向けて文面を見せる。

 

教師は、静一の次、7番の生徒に順番を回す。

 

静一は着席し、心ここにあらずという表情で黒板に向かっている。

 

掃除の時間が来る。

 

静一は今朝見た悪夢を思い出しながらクラスメイトから離れて教卓の側に立っている。

 

そんな静一に背後からにじり寄って首を掴むいたずらを仕掛ける小倉。
静一が悲鳴を上げて取り乱すのを楽しむ。

 

静一は嫌がって体を縮こませるが、小倉は楽しそうにするだけで一向に止めない。

 

全身の力を使って身体を振るい、小倉の手から逃れる静一。

 

最近喋らないからつまらないと言う小倉。

 

静一は首に手を当て、小倉に背を向けている。

 

静一が小倉、酒井、比留間の3人に絡まれている。
それを廊下から吹石が心配そうに見つめる。

 

比留間と酒井も静一を囲み、小倉と一緒にニヤつきながら静一を眺めている。

 

静一は言われるがまま、やはり何も反応しない。

 

小倉に母と一緒にいた事を揶揄われ、さらにダサイとバカされた事で静一は、突発的に教卓の側面を蹴り上げる。

 

教室中にドゴッという鈍い音が響く。

 

小倉、酒井、比留間は突然の静一の暴力に固まる。

 

教卓の横には穴が空いている。

 

身体を揺らしながら荒く呼吸する静一を、吹石は心配そうに見つめるのだった。

第25話の詳細は上記リンクをクリックしてくださいね。

 

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第26話 ベンチ

説教

職員室。

 

教師たちの刺すような視線が静一に集中する。

 

腰に両手をあて、なぜこんなことをしたのか説明しなさい、という担任の女性教師。

 

静一は項垂れて黙ったまま何も答えない。

 

女性教師は深いため息をつく。
「こんなことするような子じゃないがん長部は」

 

「あのなあ!」
女性教師の後ろで静一を見ていた男性教師も、八つ当たりするにしても教卓は一番ダメだ、と声を上げる。
「教卓を壊すってことは、先生を侮辱するってことだいな! 学校を侮辱するってことだいな! そうだんべぇ!?」

 

涙が床に落ちる。
「ぐ…」
床に視線を落としたまま、さめざめと泣く静一。

 

その様子を見た男性教師は、ったく…、と吐き捨てるように呟く。
「泣くぐれぇなら最初っからやんな!」

 

「まあまあ西村先生」
静一の背後で椅子に座っている眼鏡をかけた男性教師が割って入る。
「長部は今のどが痛くて喋れねぇんだいな。」

「なあ長部? 反省してらいな?」

 

女性教師に、このことは親御さんに連絡するから家できちんと話し合いなさい、と告げられる静一。

 

しかし静一は返事もせず、頬を涙で濡らしたままじっと床を見つめている。

 
 

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寄り道

外は無数のトンボが飛び交っている。

 

校門を出た静一の頭の中では、先ほど職員室で女性教師に言われた言葉がリフレインしていた。

 

(親御さんにも、ちゃんと連絡するから。)

 

(親御さんにも…)

 

静一は、静子の笑顔を思い出す。

 

帰宅する足をぴた、と止めた静一は、家路と反対側の方向へと歩き出す。

 

吹石は物陰に隠れてそんな静一の行動を見つめていた。

 

トンボが飛ぶ中、とぼとぼと街を歩く静一。
土手の階段を登り、だだっ広い広場のようになっている場所を何となく見つめる。

 

階段を降りて広場に向かって歩いていくと、静一はぽつんと設置されているベンチがあることに気付く。

 

ベンチに座り、空を眺める静一。

 
 

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ついてきた吹石

「長部。」

 

静一は声をかけられた方向に視線を送ると、そこには吹石が立っている。

 

吹石は穏やかな目で静一を見つめて問いかける。
「…となり、すわっていい?」

 

静一は視線を地面に投じるのみ。何も答えない。
しかし座っている位置を少し横にずらし、吹石のスペースを確保する。

 

吹石はゆっくりと静一の隣に腰を下ろし、口を開く。
「…ごめんね。」

 

静一は地面を見つめたまま何も答えない。

 

「ついてきちゃった。」

 

二人の座っているベンチの前方には橋梁や山の稜線が見えている。

 

「このベンチ、私よく来るんさ。」

 

静一は吹石の言葉をじっと聞いている。

 
 

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吹石のフォロー、そして静一は……

「家にいたくないとき、ここに来てボーッとするんさ。」
吹石は静一に構わずぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。
「私、お父さんとよくケンカするから。」

 

「私もさ、前すっごいケンカしたとき、ムカついてカベけったら、ボッコリ穴開いちゃったことあるんさ。だから…」

 

静一は吹石を見つめる。

 

「いっしょだいね。」
吹石は静一に微笑みかける。

 

何も言わず、何の表情も浮かべない静一の様子に、吹石は目を伏せる。
「…うれしくないか。いっしょでも…」

 

静一はゆっくり口を開く。
「うれしい。」
ぽつりと、しかしはっきりと呟く。

 

静一を横目で見つめる吹石。

 

「うれし…かった。」
吹石と視線を合わせず、しかしはっきりと言う静一。
「僕は…うれしかった。」

 

吹石は頬を染め、静一をじっと見つめる。

 

「吹石の、手紙…」
静一もまた頬を紅潮させ、今度は吹石の目をしっかりと見つめる。
「本当は、うれしかった…!」

 
 

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感想

職員室の雰囲気

中学・高校くらいの時、何かやらかして説教される雰囲気って、まさにこんな感じだった!
数はそれほど多くないけど、職員室で説教された時のことを鮮明に思い出した。

 

思いっきり説教する教師がいて、それを、まあまあ、と諫める教師がいる。

 

この光景には、マニュアルでもあるのか? ってくらい既視感がある(笑)。

 

実にリアルな描写でいいな~。なんか懐かしくなった。

 

しかし、静一にとってはこの説教は絶望しかない。

 

彼の置かれた状況を想うとただただ可哀想だ。
言い訳しようにも言えない事柄があまりにもデカすぎる。

 

そもそも教卓を蹴って破壊した時は、静一は怒ったというよりも、我慢していたものが噴き出た感じだったから、正気に戻った時には彼の胸中には後悔しか残らなかったんじゃないかな。

 

校門を出た際、静一の脳裏にあったのは”親御さんに言う”という女性教師の言葉だった。

 

このくらいの歳だと、学校で何かやらかした時に親に何て言われるか不安でしょうがないんだよね。

 

教師よりも怒る場合があるから……。自分の体験を思い出すと嫌な汗が出る……(笑)。

 

ましてや、静一の母は静子。

 

夏山での”犯行”や、父の前で豹変した姿を目撃し、挙句の果てには首を締められるという、トラウマの数々を静一に与えてきた静子から、一体どんな説教を受けるのか。

 

静一の立場になると、不安で仕方ないというレベルではない気がする。

 

でも、思い出した静子は良い表情で笑ってるんだよなぁ……。

 

確かに静一は静子の持つ狂気に触れている。
でも、静一の中ではまだ静子に対して優しい母親としてのイメージが根強く残っている。

 

本当は狂気こそが静子の本質なのかもしれないのに、穏やかに微笑む静子を思い出す静一が何か哀しくなった……。

 
 

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青春

静一と吹石、めちゃくちゃ青春してるなぁ!

 

何という良い雰囲気なのか。
ちょっとこの展開は予想外だった……。
てっきりもう少し鬱展開が続くのではないかと思っていた。

 

そこにこれはかなりの不意打ちだったわ。

 

ただ、こういう青春展開には、正直羨ましいという感情ばかりが先行して無駄にダメージを受けるから個人的には苦手なんだけど、静一に関してはそこまででもなかった。

 

むしろ、ラストページの静一の表情は、これまでの静一の苦しみを見てきたいち読者としてほっとしたくらい。

 

静一は、ほぼ四面楚歌といってよいほどに追い込まれていた。
母に手紙を破らされて以来、吹石のことを諦め遠ざけていたと思っていたが、今回、静一は受け入れた(というよりも求めた?)。

 

これはかなり意外に感じたなぁ。
現状を突破するには協力者、理解者が必要で、それが吹石しかないのは何となく予想してた。
でももう少し静一が懊悩する過程があるかと思ってたから、思いの外早く吹石と心で繋がれたのは、静一を心配する身としては嬉しい誤算だな。

 

希望が全く見えなかった静一の前途に、ようやく一条の光が差したといってよいと思う。
前述したが、ラストページの静一の表情を見て欲しい。
地獄の底を彷徨っていたかのような静一のどろんとした目に、で一気に生気が吹き込まれたようではないか……!

 

究極の毒親たる静子によって静一の青春は死滅しかけたが、吹石の適切なアプローチで静一は復活した。

 

吹石との会話では吃音が一切出てないし、静一はいよいよ心の支えを見つける事ができたようだ。

 
 

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暗雲

ただ、この展開に喜んでばかりはいられないんだよなぁ。

 

静子がこの静一と吹石の関係を知ったらと思うと怖くて……。

 

静子は静一に母親と吹石のどちらをとると悪魔の選択を迫り、その結果、静一と一緒に吹石からのラブレターを破いた。

 

静子が息子に近づく異性に対して異常なまでの嫉妬と敵対心を持っていることは明らかだ。

 

おそらく、この二人の関係を知った静子は、吹石を排除する衝動に駆られるだろう。

 

しげるという前例が、その予想を裏付けているといってよいと思う……。

 

なぜ静子がしげるを突き落としたかに関しては、夏山登山で静一を危険な目に遭わせていたのに加え、そもそも静子は長部家自体を毛嫌いしているという排除に至る下地もあったと思う。
そして、自分の味方である静一以外には他に誰も目撃者がいないという格好のチャンスの中に置かれた結果、静子はしげるを半ば衝動に駆られ、しかし殺意を持って突き落とした。

 

しかし、吹石に関しては静子は大した葛藤もなく排除しそうに思える。

 

静一の首を締めた時のような静子の狂気が吹石を襲うのかと思うと、ちょっと罪悪感があるけど、ますますこの物語の行く末が気になる……。

 

以上、血の轍第26話のネタバレを含む感想と考察でした。

 

第27話に続きます。

 

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