第66話 本物
第65話のおさらい
修学旅行1日目の夜。響と同室の女子たちは男の話で盛り上がっていた。
基本的に男の悪口を楽しむ女子たちだが、火の打ち所の無いイケメンとして涼太郎が話題の俎上に上ると、黒髪でおさげの女の子、笹木は話題を逸らす。
笹木は涼太郎のことを本気で狙っており、涼太郎に女子の視線が向くことでライバルが増えるのを防ぐためだった。
密かに涼太郎を獲得する執念に燃える笹木は、涼太郎と仲の良い響に目をつける。
笹木は、鹿の群れと遊んでいる響に、涼太郎との仲を応援して欲しいと持ちかける。
しかし、響はそれをピシャリと断り、笹木を一瞥すらせずに鹿と戯れ続けるのだった。
けんもほろろに涼太郎との仲を応援することを断られ、ケンカを売られたと感じた笹木はその夜、響の着替えを隠すという陰湿なイジメ行為を行う。
響は即座に、ニヤニヤしている笹木が犯人だと断定して顔面に蹴りを食らわせて、戸惑う周りの女の子など何のお構いもなしに何度も打撃を浴びせる。
男性教師に呼び出されて事情を聞かれる響と笹木だったが、響が、着替えの在り処を言わないと教師の目が離れたらまた蹴り倒すと笹木を脅し、笹木は屈服する。
10月。文化祭。外で客寄せのための看板を持つ係をこなしながら本を読んでいる響に笹木が話しかける。
笹木は正直に、響の力が必要だと言い、なぜ涼太郎が好きになったのかを話し始めるが、興味がないと響に一刀両断される。
心の中で響に毒づきながらその場を去る笹木。
花井と津久井はホテルのロビーで相対していた。
ドキュメンタリー番組の収録が11月25日で、ぜひ花井にも参加して欲しいと言う津久井に、花井は響が番組を潰すと言っているなら番組は潰れる、と警告する。
津久井は強気に俺がやると言ったらやる、と不敵に宣言するのだった。
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第66話
荒れたセットを背景に、ロングヘアーの女優が熱演している。
そのそばで、ショートヘアの女優はその演技に呑まれてその場に立ち尽くしている。
カットの声がかかり、ロングヘアーの女優が持っていた本を叩きつける。
「南條さんすいません! 私またセリフ飛んで…」
謝るショートヘアの女優。
「もういい! 喋んな!」
南條は監督とプロデューサーを呼びつける。
監督は南條の演技を褒め、ショートカットの女優、るみかがミスしたことを指摘。
すいません、と頭を下げるるみかを見ようともせずに南條は、もういい! と言って親指で背後のるみかを指差す。
「この映画私を降ろすかこのアホを降ろすか、今決めて!」
監督は、いや……、と言って南條の勢い圧倒され、るみかに、ミスが多いから、と軽く注意する。
すいません! と今度は監督に頭を下げるるみか。
るみかは映画が初めてで緊張している、と庇う監督。
主演がアカデミー賞受賞の南條だから、と南條を上げるプロデューサー。
南條はそれは言い訳ならない、とピシャリと跳ね除ける。
「客は映画を観に来るの。この子の努力を見に来るんじゃない。」
「…その通りです。」
監督はただ圧倒される。
るみかはセリフは覚えてきたがいざとなると飛んでしまって、と言い訳してまた謝る。
「その言い訳も100回聞いた。」
南條は鋭い言葉を投げかける。
「覚えたセリフを言えないならどっちにしろアンタには演じる能力がない。ここにいる資格がない。」
呆然としているるみかに対して南條は、アイドルのお仕事ごっこには付き合えない、と言い、るみかが降りないなら自分が降りると宣言。
本気か、と頭を抱える監督。
プロデューサーの吉高も、さすがに主演に降りられる訳には、と焦る。
5分待つからその間に結論を出してとその場を立ち去ろうとすると、南條の行く手に両手をズボンのポケットに突っ込んで津久井が
立っている。
津久井さん、と南條が一言呟く。
監督とプロデューサーがお疲れさまです、と津久井に近づいてく。
ツクイさん? と頭を捻るるみかに対し、マネージャーらしき人物が超ヤリ手のプロデューサーだと説明が行う。
「吉高 南條さんを外せ。」
津久井の突然の一言に場が凍る。
「急にきて何言ってんですか。」
南條は、津久井は事の経緯も知らなければ、そもそも別部署の人間だと指摘する。
「南條さん。」
津久井は全く動じる事無く続ける。
「自分が駆け出しの頃の事覚えてます?」
南條は肯定し、アホアイドルの100倍は出来た、と答える。
あの頃の南條は他の演者がミスをしても文句ひとつ言わなかった、と津久井。
駆け出しが何も言えるわけがない、と南條はすぐに反論する。
津久井は、ああ、と同意し、新人のくせに演技で語っていた、と続ける。
「『私を見習え』ってな。」
閉口する南條。
津久井は、あの頃の南條は演技で世界を変えたいと言っていたがまだ世界は何も変わってないと淡々と指摘する。
南條は何も言葉を返すこともできずに津久井を見ている。
南條に、いつから新人でもペーペーでもなくなった? と問いかける津久井。
「アカデミーだか何だか知らんが、何か成し遂げた気にでもなってんのか。」
悔しそうに顔を歪ませ、南條は振り返る。
「位置に戻って!」
戸惑いながらも、はい、と返事をするるみか。
吉高は津久井に、呼び出してすみません、と謝ったあと、さすがだと褒める。
黙ったまま、つまらなそうに南條たちを見ている津久井。
霧雨アメ、「ひびき」が響だと知る。
ナリサワファーム。
霧雨と月島がテーブルを挟んで座っている。
「アレが、芥川直木を獲った『響』か……」
霧雨は両膝に両手を乗せて、テーブルに突っ伏すように前傾している。
「『漆黒のヴァンパイア』アニメ化ってのも納得です。」
月島はすいません、と謝り、確定するまで伝えられなかったと続ける。
製作委員会が出来、監督も決まって来年10月からの放送が決まったと言い、霧雨には関連の仕事を頼むと言う月島。
アニメ化と響に関することはまだ内緒だとことわり、12月24日に響のドキュメンタリー放送の際にラノベ発売とアニメ化決定が発表される予定だと霧雨に説明する。
霧雨は顔を上げて、素性を隠しているように見えた響がよくドキュメンタリーに出る気になった、と月島に問いかける。
月島も、自分もびっくりしていると返す。
「その番組、本当に本人の許可とってんですかね。」
霧雨の疑問に月島はそれはさすがにとってるでしょ、とあっけらかんと答える。
ですよね、と霧雨。
「しかし、そっか。あれが『響』か…」
霧雨は再び頭を抱える。
(「僕がイラストを担当すれば名前だけで数が出ます」)
(「君の小説が5万10万売れれば僕もそれなりのリソースを」)
響に対して行った発言が霧雨を苛む。
「あーーーー! だったら最初っから言っとけよ!」
唐突に叫ぶ霧雨に、戸惑いながら、そうですね? と返す月島。
楽しそうな鬼島
「ご無沙汰ぁー。」
鬼島が楽しそうにスマホで電話している。
「一ツ橋テレビと揉めてんだって?」
鬼島は、俺が芥川賞作家だと忘れてないかと言って、響のドキュメンタリー番組のスタジオにゲストコメンテーターで出ることを説明する。
「で、今度は何やらかすんだ?」
「番組潰す? まあ、だろうな。具体的には?」
「大暴れ? くっくっくっ。」
鬼島は、楽しみにしてるよ、と電話を切る。
それで本当にどうするの、とテーブルを挟んで目の前の花井にスマホを渡しながら問いかける。
花井は、さあ? と短く答え、元々はナリサワファームと一ツ橋テレビの企画だと淡々としている。
「私はあの子がやりすぎないよう、見張るだけです。」
鬼島は津久井の事は知っているが、本人の許可なくドキュメンタリーを作ることに呆れた様子で、すげえな、と呟く。
「しかしあの女が潰すって言ってる以上、潰れんだろうな。」
怪我人が出ない事を祈ります、と花井。
V3スタジオ
一ツ橋テレビのV3スタジオ内、番組セットのモニターの前で、津久井が立っている。
吉高が津久井に名を呼びながら近づいていき、昼間は助かった、津久井がいなかったらキャスト入れ替えが起こるところだったと礼を言う。
「だったら良かったんだけどな」
津久井は吉高に振り返ることなく呟く。
は? と不思議そうな吉高に、南條の態度は当たり散らしたかっただけで自分が降りる気も、るみかを降ろす気もなかったと答える。
そうなんですか、と吉高。
「昔の南條雪だったら、俺が何を言おうと、一度降りると口にしたからには死んでも降りてたよ。」
冷静だが、どこか寂しそうな津久井。
「信念をもって生きてた。本物の天才だったんだけどな……」
吉高はそんな津久井にそれ以上何も言えず、このセットが明日の響特番用なんですよね、と話題を変える。
「どうですか津久井さんからみて。響は本物ですか。」
「明日分かる。」
ニヤリと笑いながら吉高に振り返る津久井。
響が収録に来るのか、と吉高。
津久井は、来る、と短く、確信を持って答える。
吉高は七瀬から聞いたと断り、随分と揉めている響に下手に収録に来られたら何をしでかすかわからない、と指摘する。
「そこも含めての収録だ。」
津久井は楽しそうに返す。
収録日
11月25日。
津久井は受付嬢に声をかけ、「津久井を出せ」という女の子が来たら自分に連絡してV3スタジオに案内をして、と頼み、よろしく、と言ってその場を去る。
一ツ橋テレビに花井、鬼島、月島と次々と関係者が集まっていく。
外では、制服を着た響が一ツ橋テレビを見上げている。
「何? アンタの楽しみなイベントってテレビの観覧?」
響に背後から声をかける女の子。
響が振り返ると、そこにいたのは涼太郎との仲をとりもって欲しくて響にしつこく付きまとう笹木だった。
学校を早々と早退していたから響が楽しみだと言っていたイベントなんだと思い後をつけて来たと言う笹木。
今日は響の趣味に付き合うが、その代わりに自分と涼太郎の中をとりもってくれと続ける。
「は……?」
絶句して二の句が継げない響。
感想
いよいよ来週、もしくは再来週にはどうやって響がこの事態を乗り切るかが分かるだろう。
ここまで長かった……。
ひたすら津久井にやられっぱなしで読者としてはいい加減フラストレーション溜まってたし、むしろいっそのこと津久井に感情移入した方が楽しく読めるんじゃないかとすら思えるような状況になっていた。
やっと響の反撃が見られる。
響ドキュメントの収録を止める手立てなんて無く、ほぼ詰みだと思えるこの状況で一体、響は何をするんだろう。
とりあえず何か特殊な凶器を手にしている様子はない。
持っているのは肩にかけた学生バッグだけ。ただ、その中身はわからないからひょっとしたら何か秘密兵器があるのかもしれない。
でも、響のやり方は直接的であり、搦め手のいやらしい方法には頼らない。多分、何も特殊な道具は無いと思って良いのではないか。
この事態を打開する方法は、やはり全く想像がつかない。
だから次が楽しみ。
しかし、ラストの予想外な人物には驚いた。
前回の第65話で出番が無くなるのかと思ったら意外にもこの重要局面において役を得るとは……。
付き合ってやるとか響は全く望んでないだろうに。
本当にありがた迷惑も甚だしい。
おまけに、その代わりに涼太郎との仲をとりもって、って何の交渉にもなってない。
この笹木という女の子は大したタマだと思う。
響の正体を知って驚く役目として配置された? 笹木は学校中に響をバラす役目なのか。
広まるのが嫌なら、と涼太郎との仲をとりもつように脅す展開とかはさすがに無いと思うけど、仮にそんな展開があったとしても屈することなくその場で力づくで跳ね返すのが響だから、楽しみが増えたと思っておけば良いのかな。
とりあえず、番組の放送を食い止めることが出来たとしても、響の前には急遽、新しい情報流出のリスクが目の前に現れたことになるということか。
単純に、響が笹木を無関係だとしてテレビ局内に入れなければよいと思うんだけど、不思議と響は笹木を排除しないような気がしているのはなんでだろう。
響は別に嫌な奴ではなく、陰湿な事は一切しないからなんだろうな。
ただ単に、極めて正直なだけ。堂々としているからやってることは無茶苦茶でも嫌な感じはしない。
果たして本物の天才である響はどんな立ち回りを見せてくれるのか。
「これが響か」と驚く人間の顔がたくさん見られるのも楽しみ。
以上、響 小説家になる方法第66話のネタバレ含む感想と考察でした。
次回、第67話の詳細は以下をクリックしてくださいね。
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