第56話 取り引き①
第55話のおさらい
夜が明け、朝になる。
朝日の中を鳥がちゅんちゅん鳴きながら飛ぶ。
目を覚ましたシェルターの”先輩”はテーブルに拘束されている自分の姿に気づき悪態をつく。
一方、子供達は7日ぶりのふとんでの目覚めに感謝していた。
風呂に入った子供達は、お湯を浴び、浸かれることを喜ぶ子供達。
シェルターに備蓄されていた服にうきうきとした気分で着替える。
同時に、これまで着ていた服を洗濯出来る喜びに沸くアンナとジェミマ。
その後、食堂で皆揃って和気藹々とした食事をする。
レイは既にシェルターの施設に関して調べていた。
その結果、風呂、トイレ、キッチン、畑もあり、生きていく分には問題がない最高の隠れ家だと結論する。
全員生き残って安全な場所まで辿り着けたことを心底喜び、ホッとするエマ。
ナットのピアノに皆が聞き惚れる。
ここからだ、と希望に胸を膨らませるエマの脳裏には、ハウスに置いてきた4歳以下の子供達を含めた全員が”人間の世界”で暮らしている光景が浮かんでいた。
エマは改めて全員で”人間の世界”に脱出することを誓う。
資料室の資料と”先輩”がミネルヴァに会うためのカギだと考えるエマ。
その頃”先輩”は手持ちのナイフで、自ら拘束から脱出していた。
安全なシェルターで安心している子供達に”先輩”の影が迫る。
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クソッ、と悪態をつき、金的に直撃を受けた悔しさから握り拳を固める”先輩”。
クッキーが空になっていることを嘆き、さらには内開きのドアも廊下を挟んで対面のドアとロープで結び付けられており閉じ込められている事に気づく。
”先輩”は焦った様子もなく刃物を握り冷徹な表情を浮かべる。
これからの事
食事や片づけを終えた子供達は椅子で車座になっていた。
アリシアやクリスティなど小さな子供は部屋の中を駆けまわっている。
レイは、生活拠点を手にした次はこの先の計画、と車座になっている子供たちに真剣な表情で切り出す。
目的である「救出」と「脱出」、つまりGF農園に残してきたフィルたちをどうやって救うか、そして人間の世界にどうやって逃げるか、と議題を提示するレイ。
険しい表情で、考えなくちゃ、とエマ。
サッパリだもんな、とナット。
話を聞くはずのミネルヴァがいなかった、とギルダ。
資料を読み漁っていたレイに対して、何がわかったのかと言う質問が出る。
レイは一言、色々、と答えて、全てを見たわけではないが、と前置きしつつも資料から分かった知識を説明し始める。
農園の大別及び大まかな場所の情報だと言うレイの、農園ごとの管理マーク、という言葉にナットが、あ、と反応する。
レイは、自分たちの身の上がバレたのはGFが首に数字が刻印され、GBは腹に文字列が入っているなど、農園ごとに管理のマークが異なることを解説する。
見りゃわかるってそういうこと、とナットの表情が強張る。
番号で個体識別が可能なのは4つの高級農園だけだとレイが付け加える。
本の図を指さし、量産農園の刻印は図案であり農園ごとに決まった紋章が決まった位置にあるのだと続ける。
ギルダは、食用児はどの農園出身かが刻印の判別が可能な人間には判るのだとまとめる。
知能のある鬼とかにはすぐに、と続けるエマ。
情報収集の方法
レイは、他にも”約束”の事、”人間世界”の事、”鬼の集落”などについて資料があったと報告する。
エマも資料を掲げ、”鬼の世界の植物図鑑”の他に小説や絵本などの”普通の本”もあったとレイに続いて報告し、”鬼について”書いてありそうな本も見つけたけど、と言葉を止める。
けど? とアンナが先を促す。
「どれも古い」
レイが積み上げられた本の内、一番上の本を取る。
B06-32の本はハウスの本と同じで2015年以前の出版であり、”約束”や”鬼”などについて触れられていた本は古文書レベルで古い本だったと子供達に報告する。
ドンは両手で掴んだ本の表紙を眺めている。
ギルダは、2015年以前というのはどういうことなのか、と考えていた。
ミネルヴァは13年はおろか、30年現れていないのか、とその思考は続く。
(でもハウスに物は輸送されている……)
(そうよ シスターが見た”「外」の人間”だって……)
そこまで考えて、あれ、と違和感を覚えるギルダ。
ドンが開いた本を見て、ラニオンとトーマがボロボロだと騒ぎ、古い情報しか手に入らないってこと? と疑問を口にする。
それを聞いたドンは、違う、と疑問の声を上げる。
ドンの指摘に正解と言うレイ。
”先輩”は自分達の人数はおろか、脱走の日付も知っていた。
つまりリアルタイムで外の様子を知る方法もあると指摘し、それは恐らく”先輩”の居た部屋の無数のモニターだと結論する。
あ、と思い出すドン、ラニオン、トーマ。
エマは、シェルターにいながらにして、どの程度かは分からないが外の様子が分かる方法があるならば、フィルたちを救う上で使えるかもしれないと考える。
アンナは”世界を渡る方法”について質問する。
それについてはお手上げ状態だと言うだけで、エマは、ミネルヴァを探そうと思うと答える。
ミネルヴァについて何かわかったのかというギルダの指摘にエマは、うん、と顔を輝かせる。
ミネルヴァの手紙
これだ、とレイが差し出したのは手紙。
古文書に挟んであったのだと言いながらギルダに手渡す。
ギルダは手紙の内容を真剣な面持ちで読み上げ始める。
息を飲む子供たち。
到着おめでとう
直接祝うことが出来なくてすまない
このシェルターは君たちに
しかしもし”この先”この”安住の先”を目指すのならペンを持ってこの場所へ
A08-63 W・ミネルヴァ
真剣な表情の子供達。
これ……、とナットが切り出す。
筆跡はペンのメッセージと同じだった、とエマが答える。
”その先”、そして”安住の先”とは人間の世界の事なのかと言うギルダにレイは恐らく、と短く答える。
A08-63にミネルヴァがいるということなのかというドンからの質問に、レイは、わからない、と答える。
そしてレイは、何年目の手紙かも不確かだが、一通り資料室の資料を読んだら自分とエマとでA08-63に行ってみようと思うと子供達に宣言する。
私達は? と言うギルダの言葉に、シェルターであの子達を見てて欲しい、とエマは真剣な表情で、はしゃいでいる子供達を手で示す。
それだけじゃない、頼みがある、というレイの言葉に、ギルダは疑問の表情を浮かべる。
でも、と食い下がろうとするドンに、レイは、全員で動くべきじゃない、わかるだろ? と理解を促す。
アンナが何かに気付き、そして真剣な表情で指摘する。
「密猟者ね。」
レイは肯定する。
13年”先輩”が住み続け、鬼に荒らされた痕跡も無い事から、このシェルター”は”安全だと続ける。
険しい表情のエマがレイの後を継ぐ。
「でもオジサンの仲間は全滅した」
内紛でもない限りは、全滅をの原因とは、”奴ら”、或いは”密漁者”とはシェルター外で蠢く何かなのだろうとエマは考察する。
レイは、”先輩”自身、ミネルヴァ探しを辞めた=かつては探していたと指摘する。
「この旅はそれだけ危険なんだ」
「全員で生き残るために今回は全員で動くべきじゃない」
楽しく遊んでいる子供達の声が部屋に響く。
ドンは立ち上がり、でも、だったらエマとレイの二人だって、と口に出し、その後を言い淀む。
(そりゃエマとレイなら頭も切れるし誰よりも動けるけど……)
「勿論俺達だって危ないし死ぬつもりもない」
堂々と言い放ったレイを、腕組をして疑いの目で見るトーマとラニオン。
本当だって、とトーマとラニオンの無言の問いに答えるレイ。
そして、別に二人だけで向かうわけではないとレイは続ける。
「俺達は『ド素人のザコ』だからな」
「経験者である”先輩”の力を借りる」
”先輩”の言葉を引用しながらレイは自分の考えを披露する。
え、まさか、と固まるドンとアンナ。
食堂に向けて、廊下を闊歩する”先輩”。
レイはドンやギルダに説明している。
嘘だろ、と驚愕の表情を浮かべるドン。
その時、食堂の扉が大きく開く。
現れたのは”先輩”。
出入り口に近いところに立っていたクリスティが”先輩”を見上げる。
突然の”先輩”の登場に逃げ惑うアリシア、クリスティ、ロッシー。
ジェミマはギルダに抱き着く。
「よォ」
”先輩”の目は座っている。
ドンは無言で”先輩”を見つめる。
経験者である”先輩”の力を借りる、というレイの言葉がドンの脳裏に浮かぶ。
(本気か? ……できるのか?)
ドンの心臓が大きく脈打つ。
エマとレイは”先輩”を静かな目で見つめている。
”先輩”は何も言わず、左手に隠したナイフを取り出すタイミングを窺っている。
「待ってたよ」
エマが笑顔で”先輩”の前に進み出る。
「おはようオジサン」
そしてエマは、取引しよう、と”先輩”に交渉を持ちかける。
感想
今回も色々な事がわかった。
農園の識別の仕方は高級と量産とでは異なる。
高級農園ではよりコストをかけて、番号を振って個体まで識別できるようにしている。
量産農園では農園ごとに異なる図案が刻印されるのみ。
今後、量産農園の食用児が仲間になったりするのだろうか。
管理方法が徹底されていて、そもそも知識なんて全く与えられないわけだから脱走するという発想さえ思いつかない時点で無理っぽいけど、キャラ付けという意味ではいた方が面白い。
もし出るとしたら突然変異のような飛びっきりサバイバル能力に長けたキャラになりそう。
まぁ、多分でないだろうけど(笑)。
今回、エマたちは他にも色々、鬼の世界で生きていくために重要な情報が得られたようだ。
まだ資料室の全てを閲覧したわけではないようだから、もっと新発見があることを期待したい。
で、今回、結局またミネルヴァ探しという原点に戻ることになった。
次の地点はA08-63。
どのくらいの距離かは分からないが、少なくともBの隣のアルファベットがふられた座標である以上、そこまで遠いわけではないのかもしれない。
シェルターから移動するのは、距離的には決して不可能ではないんじゃないか。
ただ、今回の旅はソンジュとムジカの地下通路のような安全なショートカットは利かない。
同行を頼もうとしている人間である”先輩”も、未知数ではあるものの戦闘能力にはそこまで期待出来ないだろう。
今回の旅はとびっきり危険な気がする。
いくら資料室に”鬼の集落”に関する情報があって、それらを避けるルートを辿れたとしてもGF農場の追手の事もある。
彼らの高級食材であるエマ達への執念はナメてはいけない。
そもそも、まだ情報収集の方法がモニターからだと確定したわけではないが、追手だって”先輩”のようにモニターのような技術で監視しているのかもしれない。
そうなった場合、あまりにも危険だ。
今度は追手たちは以前より容赦なく向かってくる。
追手はソンジュによって全滅となったが、だからこそ今度はもっと強敵を差し向けてくるかもしれない。
果たして無事にミネルヴァの示した第二の座標へたどり着くことが出来るのか?
そもそも”密猟者”とは? 残されるギルダたちは無事でいられるのか?
希望と不安が綯い交ぜになって話は次に進む。楽しみだ。
以上、約束のネバーランド第56話の感想(ネタバレ含む)と考察でした。
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