第63話
第62話のおさらい
一ツ橋テレビ、坂口プロデューサーは自分の担当番組が1クールで終了すると編成の人間から通告を受ける。
坂口は落ち込み、先輩の吉高に相談する。
直前に坂口が教えを請おうとした廣川は天才であり、自分と同じ凡人には理解不能だと説明する吉高。
その頃、津久井は天才プロデューサーの廣川に向けて響の隠し撮り画像をスマホで見せていた。
廣川は、小さな画像だけでは何とも言えないとしつつも、響の目を見て100万人に1人と評価し、アイドルにするなら自分に会わせろと津久井に向けて真剣な表情を見せる。
津久井は、アイドル発掘及び演出の天才である廣川のお墨付きを得てますます自分の作るドキュメンタリーの手ごたえを感じる。
七瀬はそんな津久井に不安を覚え、響からの許可を得ていないが大丈夫かと指摘する。
津久井は、七瀬から何故テレビ局が被写体の許可を得なくてはいけないかと質問をし、七瀬から肖像権とプライバシーという言葉を引き出す。
そして、許可が獲れていない場合、訴えられたら負けると解説し、その上で、響はテレビで無断で流されてもその性格上訴えることはないだろうから大丈夫だと七瀬を簡単に説き伏せる。
響は日の暮れかけた学校のプールに浮かべた浮き輪の上に仰向けになり文庫本を読んでいた。
一ツ橋テレビの嵯峨野はその姿を隠れて撮っていた。
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第63話
北瀬戸公園。
スコップを片手に制服姿の響が辺りを見回している。
1本の木に向かって歩いていき、根元をざくざくとスコップで掘っていく。
学校。
教壇に立つ教師が夏休み明けの挨拶をしている。
3年までにどこの大学を目指すか決めるように、とクラス中に呼びかけ、これからの半年が人生の岐路だと思えと続ける。
クラスメートたちがざわつく中、涼太郎は響に、家を早く出たと響の母から聞いたが何をしていたのかと問いかける。
ワナ仕掛けてた、と端的に答える響。
「罠?」
涼太郎は、カブト虫でも捕まえるのか? と問いかける。
「そんな上等なモノじゃない。」
響は即答する。
編成会議
一ツ橋テレビの会議室。
津久井がエンドに座り、両脇には机の上でパソコンを開いたりしている参加者たち。
七瀬は参加者たちにコーヒーを配って回っている。
コービーを配りながら七瀬は参加者一人一人の顔をおそるおそる確認していく。
(制作部部長……)
(編成の人たちに、その上。編成部部長……)
(更に、その上。編成局局長……)
番組の継続や終了、曜日や時間帯を割り振る部署であり、テレビ局の心臓部と言われる編成局のトップが集まっている。
(一ツ橋テレビは民放視聴率トップ。)
七瀬は部長と局長を見る。
(編成トップのこの二人は、全メディアの頂点。)
番組をひとつ作るのにわざわざ企画会議に来るのか、と内心驚く七瀬。
「以上が『響ドキュメント(仮)』の大雑把な企画概要です。」
自信満々に津久井が進行していく。
「素材は御覧の通りほぼ取り終えています。」
編成局部長は芥川直木ダブル受賞の響が気になり伝手を辿ったがダメだったと言い、どうやって積極出来たのかを津久井に問う。
津久井は運が良かっただけだと口角を上げたまま答え、ラノベのアニメ企画の新人賞に「響」の応募があったと正直に話す。
編成局の社員二人が芥川作家がラノベ? と不思議がっている。
(ここまでは本当、問題はこの先…)
固唾を飲んで会議の推移を見守る七瀬。
「で?」
編成局局長が短く、威圧するかのように問い質す。
七瀬は、ヤクザかよ、と内心呟く。
(この「で?」ってのはつまり、マスコミNGの「響」をどうやってドキュメント番組に出すのを了承させたか……)
堂々と嘘を積み重ねていく津久井
「誠意をもって企画の話をしまして、了承頂きました。」
局長の言葉の意をくみ取っていた津久井はスラスラと嘘を答える。
「こちらが出演承諾書です。」
”映像出演の同意書”と書かれた紙を部長に差し出す。
部長が受け取り目を通している紙を見て七瀬が気づく。
回想。
うーんとペンを片手に悩んでいる津久井。
七瀬に”鮎喰響”って漢字で書けるか? と七瀬に問いかける。
はあ~? と返す七瀬。
「馬鹿にしないで下さいよ。これでも国立出てますから。」
ちょっとこの紙に書いてみろ、とペンを七瀬に渡す津久井。
「鮎に喰うですよね変な名前。」
七瀬は津久井に言われた通り、紙に”鮎喰響”と書いてみせる。
おー、と感心した様子を見せる津久井。
「いいな、女子高生っぽい字だ。」
えー女子高生? マジでー、と七瀬は後頭部に手をあてながら照れている。
七瀬による”鮎喰響”の文字が、”映像出演の同意書”の名前をサインする欄を埋めた。
回想終了。
(……おっさん………)
ハメられていたことに気付いた七瀬は、局長の背後から津久井を非難の色を滲ませた目で見る。
「放映日が12月24日7時から1時間特番。」
「確かに現行番組の特別コーナーに入れるのは勿体ないですね。」
「素材はもうかなりあるから、製作費は安くすみますね。宣伝にお金回してもらえれば。」
スムーズに進行していく会議。
その様子を目の当たりにして、すごいトントン拍子、と七瀬は内心で驚く。
(やっぱこの企画ってすごいんだ。)
「津久井。お前何がしたいんだ?」
局長がじっと津久井を睨むようにして見据える。
その光景をじっと見ている七瀬。
編成の上層二人に喧嘩を売る津久井
津久井は去年アニメ部に異動希望したが、それで何するかと思えばドキュメンタリー、と部長。
「君は一体何がしたいの? と局長は言ってます。私も同感。」
部長が局長の考えを代弁しつつ自分の疑問も津久井にぶつける。
「この企画はアニメの延長ですよ、」
津久井は全く動じることなく答える。
「『響』のライトノベルのアニメ企画との連動です。」
「いつまでも遊んでんじゃねぇよ。」
局長は威圧的な表情のまま津久井に凄む。
部長は、知ってるかもしれないけど、と前置きし、津久井を編成に異動させる動きがあったと再び局長の言葉を代弁及び説明し始める。
津久井がアニメに異動希望したのはアニメで大きな仕掛けがあると思っていたが、結局やっていることが同じなら大人しく編成に来い、というのは私も同感、と一気に話す。
そこまで話してから部長は、つーかおっさんちゃんと自分で喋んなさいよ、と局長に水を向ける。
「…………」
無言の局長。
「もうしばらく現場にいさせて下さい。やりたい事が山ほどある。」
津久井は胸の前で手を組む。
「その後は俺を社長にするなりご自由に。」
何調子ン乗ってんの? と真顔の部長。
潰すゾコラ、とすごむ局長。
津久井と編成の上層二人がバチバチにやり合っている様子を小さくなってただ黙って聞いている七瀬。
一体感のある制作会議
編成との企画会議を終えた後、津久井と七瀬は別室で行っている制作の会議に出席していた。
「じゃあスタジオ作って『響』の映像を演者さんに見てもらうって形で。」
「出演者どうするかな、文化人に寄せるかタレント使うか。」
「作家さん何人もいても仕方ないし、鬼島仁あたりが一人いればいいんじゃない?」
会議は活気を持ったまま進んでいく。
編成との会議に出たんだって? と問われた七瀬は、そーなんす楓子さんと食いつく。
上の人間ばかりでお茶くみなのに緊張したと勢いよく続ける。
「津久井さん上の人に気に入られてっからねぇ。」
楓子の言葉に、何でそんな人がアニメなんて島流し部署に、と内心疑問に思う七瀬。
(って言ったら怒られそうだから言わないけど。)
今日から学校が始まるから密着の頻度を減らしてもいいのでは、という議題が出る。
素材は集まり、全体の構成も考えなくてはならないから平日はもういい、と、減らす方向に意見が集約されていく。
そんな中、津久井はビデオ映像の中の、服を着たままプールに浮かべた浮き輪に仰向けに寝て文庫本を読む響の姿を見ていた。
(……気づいてんな。)
「このプールの映像はいつ撮ったんだ?」
昨日、8月31日だと答える嵯峨野。
「服着たままプールで読書してそのまま帰りましたよ。 やっぱその子面白いわ。」
津久井は、そうか……、とだけ返事する。
楓子が、「響」への密着取材は今後は「土日」のみで、と津久井に確認する。
「今日から一日二人で行ってくれ。」
津久井の一言に室内の人間全てが沈黙し、津久井を見つめる。
「もー津久井さん聞いてました? 学生は今日から学校ですってば!」
七瀬が津久井を窘めるように続ける。
「今日これから何人で行っても下校のシーンしか撮れないですよ。」
七瀬の言葉を無視して、了解、とだけ言う楓子。
いつまでですか? と津久井の意向に従う嵯峨野。
え? と戸惑う七瀬。
(……だから、なんなのこの統率力……)
七瀬は呆然としている。
「そんなに長くはない。恐らくは2、3日程度。」
津久井は確信をもって断言する。
「早けりゃ今日にも仕掛けてくる。」
対面
北瀬戸公園。
響がベンチに腰かけ、一人、文庫本を広げている。
公園内には響以外には誰もいない。
「きゃあ!」
バス、という音とともに悲鳴が上がる。
響はゆっくりと立ち上がり、悲鳴の上がった方向に進んでいく。
「? ?」
七瀬が、木の根元に掘られた落とし穴に尻から落ちている。
「落とし穴……?」
その右手には撮影のための画面を開いた状態のハンディカムがある。
木の根元に近づいていく響の影が七瀬の胸元から顔にかけた部分にかかる。
「!」
七瀬は穴にはまったまま響を見上げる。
「またアンタか。」
響は木に立てかけられていたスコップを持ち、七瀬を見下ろす。
「なんの用?」
響に近づく革靴。
津久井がポケットに手を突っ込みながら響に近づいていく。
響は近づいてくる津久井を見る。
響と目が合い、津久井は口元に不敵な笑みを浮かべる。
「久しぶり。」
今まさに津久井と響の会話が始まろうとしている光景を、離れた藪の中から楓子がハンディカムで撮影していた。
感想
「響ドキュメント」の企画は着々と進んでいく。
とりあえず今話で、響は自分を無断撮影している七瀬を落とし穴にはめることに成功した。
しかし響が何かを仕掛けて反撃してくることを見越して、カメラマンを増やしていた津久井の方が一枚上手のように見えてしまう。
今のところ、響はやられっ放しと言って良い状況だと思う。
前回、七瀬のハンディカムを踏んづけて壊したけど、響を世間の白日の下に晒す企画は何の支障もなく進んでいる。
津久井の指揮の元、非常に良く統率がとれている制作班には「響ドキュメント」制作にかけるやる気が充満しているのがわかる。
編成も概ね響ドキュメント特番に関して前向きな姿勢を示しているし、今のところ企画がストップする気配が全くない。
少なくとも、本当は得ていない響の承諾を得たという嘘が制作班や編成に知られていない現状では津久井の動きを止めることは出来ない。
津久井が一ツ橋テレビの社長の座を狙う野心家の面をはっきりと見せた。
この野心こそがウ承諾を得たという危険なウソをついてまで「響ドキュメント」を作ろうとする原動力の一つなんだろう。
確かに津久井はムカつく奴で、自分はおろか会社すら危険に晒す禁忌を犯している。
けど、響がその性格上訴えるわけがないとリスクを冷静に測り、自分で自分にOKを出して、どうしても達成したい目標に突き進んでいく姿にはちょっとだけ憧れたりする。
とにかく津久井は、承諾を得ていないのが仲間にバレたら完全にアウトだから響はここを利用して津久井に何かを仕掛けるんじゃないか。
というか、むしろそれ以外で「響ドキュメント」企画を止める方法があるのか? と思うんだけどどうなんだろう。
きっと斜め上のとんでもない解決を図ってくれることを期待したい。
あと七瀬が良いキャラクターしてると思った(笑)。
そもそも再登場するとは思ってなかったから、登場する機会が多くて意外だった。
出てきた当初はどうしようもないクズさで、それはもうネット界隈が軽くざわついた程だった。
七瀬が初登場+無礼を働いた為に、津久井から精神的にボコボコにされるスッキリ回(笑)。
きっと柳本先生は七瀬を楽しんで描いているに違いない。
これ、かわいいよね?(笑)
今話で見せたかわいい面を今後さらに広げてくれることを期待したい。
あと、落とし穴に落ちた七瀬も好きだな。
以上、響 小説家になる方法第63話会議のネタバレ感想と考察でした。
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