第79話
目次
第78話のおさらい
2月28日の文芸コンクール表彰式当日。
表彰式が行われる会場では設営が行われていた。
作業を途中で抜け出し会議室に向かう会長。
楕円の会議テーブルを囲んで立つ文芸コンクール関係者たち。
雑談の後、最優秀をとった『鮎喰響』が芥川・直木の『響』なのかという質問をきっかけに会議室に緊張が走る。
会長はわからないと言い、特定の生徒だけに偏った対応はしないと続ける。
集まっている人間皆一様に『お伽の庭』を彷彿とさせる奇麗な文章という評価をしていた。
そして、なぜ正体を隠してる芥川・直木作家が高校生のコンクールに出たのか、と会議室に集まった一同は腕を組み考え込むのだった。
会長は加賀美大臣が到着する旨を伝達していた。
マスコミが多くなっているという情報も付け加える。
車で表彰式の会場に向かう加賀美大臣と秘書の北島。
加賀美大臣は総裁選で勝つための方策を必死に考えていた。
妙案が一向に浮かばない中、北島から文部科学大臣賞を受賞者について報告を受ける。
設営が完了した表彰式の会場。
北瀬戸高校以外の出席者は全員が着座している。
会長は、響が来ていないことに焦りを見せる。
藤代琴子はまだ埋まっていない隣の席――遅刻中の大賞受賞者に対して怒りを燃やすのだった。
リカは会場入りする前に花井に報告していた。
その間、猫と遊んでいた響は、指を噛んで逃げ出した猫を追いかける。
そこにちょうど通りかかった報道陣やSPと会場に向かう加賀美大臣。
タイミングよく足元に来た猫を加賀美大臣が蹴ってしまう。
響は加賀美大臣に食って掛かろうとする。
猫を容易く手懐けた加賀美大臣と、その光景に怒りを収めた響が挨拶を交わす。
加賀美大臣は今話した女子高生が芥川直木W受賞の『響』だと察し、自分の総裁選における最後の一押しに使えないかと考えるのだった。
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第79話
加賀美大臣控室にて
控室で加賀美大臣が北島に対して話している。
さきほど外で殴りかかってきた女子高生の振る舞いが芥川直木の記者会見での『響』のイメージと重なることから、文芸コンクール最優秀賞者の鮎喰響は『響』だと結論する。
北島は手元のメモ帳を見ながら、文芸コンクール側もそう感じたが確認はしていないと報告する。
芥川直木を獲りながらなぜ文芸コンクールに参加したのかは謎だという北島に、加賀美大臣はそれこそプライベートでどうでもいいと斬って捨てる。
そして加賀美大臣は北島に世間の『響』への関心度合いについて問いかける。
芥川・直木記者会見後社会現象になったが3カ月には収束。
12月に新作『漆黒のヴァンパイアと眠る月』を発表しこれまで50万部の大ヒット。
週刊誌報道で一ツ橋テレビでの騒動が取りざたされ再び『響』に注目が集まりつつある。
北島からの答えを受け、よし、と加賀美大臣が立ち上がる。
北島は一瞬の間の後、恐れ入りますが、と切り出し、『響』の正体を加賀美大臣が公表したところで、それが本人が望まない形であれば世間から賞賛を得るどころか加賀美自身が非難を浴びると懸念を示す。
「鮎喰響を連れて来てくれ。」
加賀美大臣は北島の懸念をまるで意に介さない。
表彰式が始まる直前のタイミングで? という北島に、5分もかからず済むから構わないと答える加賀美大臣。
「目を見て話す。俺の信条だ。」
そしてこれは読んだから処分してくれ、と加賀美大臣は”『11月誰そ彼』あらすじと感想例”というタイトルの紙を北島に渡す。
北瀬戸高校勢会場入り
受付前にいるリカ、響、典子たちに会長が近付いていく。
5分の遅刻を指摘し、時間を守るようにと会長。
「ごめんなさい、道に迷っちゃって!」
にこやかに謝罪するリカ。
リカの姿を見て、君は確か…、と会長。
典子の後、響が受付に自分の名前を告げる。
会長はその様子じっと見つめる。
「……鮎喰さん!」
会長は、座席表を受け取り会場に向かう響を思わず呼び止める。
響からの視線を受け、会長は我に返ったようになって、遅刻には気をつけてと告げるのみ。
うん、とだけ言って響は会場に歩いていく。
目立つ北瀬戸勢
自分の席を見つけた典子は、隣に座っているセーラー服の女の子にフレンドリーに話しかける。
「こんにちはっ! 私、北瀬戸のファイナルウェポンこと典子ちゃんです! あなたは?」
「あっ、えっと…城北高校の清野です。」
典子から学年を聞かれ、3年と答える清野。
「マジで!? 超センパイじゃん! あ、きよちゃんってよんでいーい?」
(なんだ…?)
騒がしさに何気なく横を見た藤代と、座席表の紙を持って立っている響の目が合う。
ここか、と言いながら藤代の隣に座ろうとする響を、藤代は睨みつける。
(こいつか……どう見ても、クソ地味な文学オタクメガネ女。)
(大した文才なくても人生で1回くらい奇跡的に傑作ぽい小説が書けることもある。今がこいつのピークでしょ。)
脱いだダッフルコートを畳んでいる響に心の中で毒づく藤代。
(……こんな奴に、私の伝説が……)
典子は清野が化粧をしていないことに気付き、化粧バッチリな自分をアピールする。。
「あ、もしかして普段から化粧しないヒト!?」
うん、したことない、と素直に答える清野。
「マッジで? えー超もったいない! きよちゃん絶対バケるよ!」
そして、今、化粧をしてあげると道具を用意し始める。
その騒がしさに戸惑う他の出席者たち。
響はすっと席を立ち典子の背後に立つ。
「よーし、本気出しちゃうか! 海外セレブみたくしてあげる!」
響は化粧を開始しようとした典子の頭にげんこつを打ち下ろす。
「いたあ!」
典子の悲鳴が会場に響く。
呆気にとられる清野、会長、藤代、そして他の出席者たち。
静かに、と口元で人差し指を立てる響に、典子は意気消沈した様子で謝罪する。
悠然と席に戻っていく響を見つめる藤代。
「こんにちは。」
隣の席で、響は藤代と目を見て挨拶する。
「あ、うん…」
藤代は表情を強張らせて目を伏せる。
藤代が響の圧力にただただ押し黙っていると、そこに北島が響の名を呼びながら現れる。
加賀美大臣が話があるから一緒に来て欲しいと響は北島から丁寧な口調で告げられる。
(……は? 大臣が、話?)
呆気にとられる藤代。
響は、話って何? と問いかける。
「鮎喰さんの小説に少し。2、3分で済みますので。」
響は、はあ、とだけ返事をし、北島と一緒に歩き出す。
リカは響の動向をジッと見つめている。
控室
北島と共に響が加賀美大臣の控室へと入っていく。
お連れしました、と北島が立って響を迎えている加賀美大臣に声をかける。
さきほどはどうも、と言って加賀美は響に着座を促す。
向かい合って座る響と加賀美大臣。
加賀美大臣は『11月誰そ彼』を読んだと話を切り出す。
「感動しました。まさかこんな可愛らしいお嬢さんが書かれてたとは。」
ありがとう、と響。
「たのがれ時…隣に佇む人からつらつらと思い出話を聞く。言ってしまえばそれだけの話なのに、ここまで人の心を打つ文章があるんですね。」
「比喩が上手いのかテンポがいいからなのか、本当に読んでる間気持ちが良かった。」
「読みながら、このまま永遠に文章をなぞっていたい気分でした。」
本当に素晴らしかった、と感想を締める加賀美大臣。
「そして鮎喰さん。あなたは芥川賞、直木賞を受賞した『響』ですか?」
響は加賀美大臣をじっと見つめたまま沈黙している。
加賀美大臣は、これまで文部科学大臣として2年教育の現場を見てきた中で、学生の書く色々な小説も読んできたと前置きしてから『11月誰そ彼』はそれらと比較できるレベルではないと結論する。
「人物が愛しく文章が美しく。感動しかなかった。『お伽の庭』を読んだ時と同じ読後感です。」
響はただ黙って加賀美大臣を見つめる。
「もしあなたが『響』なら、今日、公表しませんか?」
真剣な表情で、響を真正面から据える加賀美大臣。
響は何も答えない。
加賀美大臣は視線を落とし、もちろん無理にとは言わないけど、とトーンダウンさせる。
そして、公表した際に大騒ぎになるが、自分の権限でSP、警察を配備して守ることを約束すると言い、響が何故素性を隠しているのかはわからないが、政治家として公表して欲しいと続ける。
「外交、経済、原発、消費税、目の前の問題は山とありますが、政治家は5年後10年後のみならず50年、100年先の日本も考えないといけない。そして未来を作るのは常に君達若者です。」
「国家の根幹は教育です。君の存在はすべての学生の希望になる。」
「嫌。」
響は加賀美の申し出を即却下する。
加賀美大臣にどうしてと問われ、響は普通の16歳の高校生である自分にはそこまで人の気持ちを背負えないと簡潔に理由を述べる。
「この話は100回繰り返しても答えは変わらない。これ以上用がないならもう戻る。」
響をじっと見つめる加賀美大臣。響は一切目を逸らさない。
残念、と目を伏せると、加賀美大臣は立ち上がる。
「式の前に時間をとらせて申し訳ない。席に戻って頂いて結構です。」
促されるままにドアに向かう響。
それではまた後で、という加賀美の言葉に、じゃあね、と返して響は控室から出て行く。
企み
「そこまで人の気持ちを背負えない。私にとって私は普通の16歳の高校生だから。」
響を見送ったあとの控室にレコーダーで隠し撮りした響の声が響く。
「よし。」
きちんと撮れていることを確認した加賀美大臣は、北島にもう一度音声を確認して自分の発言に問題がなければ出所を隠した上でこのデータをマスコミに流せと指示する。
「少女を世間に晒す汚れ役は週刊誌に任せる。」
「はい。」
北島は加賀美大臣からレコーダーを受け取る。
「今の会話なら俺は何一つ非難を浴びること無く、ただ注目だけを集められる。」
加賀美大臣はソファに腰かける。
「総裁選の決め手になる。」
加賀美大臣控室の外の廊下では、リカが立って中の様子を窺っている。
感想
『漆黒のヴァンパイアと眠る月』の動向
気になってたけど、やはり大ヒットか。
50万部とかとんでもないよなぁ。
ラノベ好きな層だけではなく、本来興味がないはずの層にまで買われているのが想像できる。
この先に控えているアニメもヒットするだろう。
他にも北島は、昨年の響フィーバーが三カ月で一旦収束したことや、12月の一ツ橋テレビの騒動が週刊誌の報道によって世間でピックアップされ再び『響』が注目を浴び始めていることを説明してくれた。
やはり前代未聞のことをやり遂げた『響』の影響力はデカイ。
そしてこれから政治家を相手にもっととんでもないことをやらかしてくれると思うとワクワクする(笑)。
ただ、表立って戦うのは響じゃなくてリカになりそうな雰囲気がある。
それも面白い。
やはり藤代は……
やはり藤代は今回のかませ役なのか……。
でも面白いキャラだと思って注目してる。
(……どう見ても、クソ地味な文学オタクメガネ女。)
この響を見た藤代が最初に抱いた印象があまりにも藤代自身に当てはまり過ぎてて笑った。
ブーメランもいいとこだろ(笑)。
ツッコミ役が不在だから最初は読み飛ばしてたけど、これかなり面白いコマだと思う。
藤代は参宮橋大学の落選を知った日、最優秀賞の響を表彰式の場でいじめてやるといきり立っていた。
しかし、響が典子をぶん殴ってるのを見て、藤代の友人による”内弁慶”という指摘通りいきなり意気消沈してたのにも笑った。
響が北島を通じて加賀美大臣に呼ばれているのを見て驚いているところを見ると、つまり藤代はかませ役なんだなと思った。
どこまでも敵意を燃やし、ライバルを自称して突っかかっていく響と同年代のキャラとして期待していた部分もあるんだけどな……。
かませなのはわかってたけど、でももう一ひねりあって欲しい。
次の話では、加賀美大臣の控室から帰って来た響と会話するだろう。
そこでどんな会話の流れになるかが注目かな。
あと、表彰式を終えたあと文芸コンクール側が用意していた響の『11月誰そ彼』を読むことになり、一気にファンになるか、もしくは挫折するかいずれかの反応が見られるんじゃないかと期待してる。
自由すぎる典子
その自由な振る舞いは表彰式の会場でも異彩を放っている。
隣の席の3年生清野にいきなり”きよちゃん”呼びでフレンドリーに接し、化粧を施そうとするその自由過ぎる振る舞いに笑った。
そしてきよちゃんも典子の押しに負けて化粧を受け入れようとするなよ。典子曰く海外セレブみたいになったきよちゃんを見てみたいけど(笑)。
でもこんな典子だからこそ、咲希を差し置いて入選するような作品が書けたのかな、とも感じた。
典子が入選した小説が『典子日記』というタイトルという点からしても、典子の天真爛漫さが文章から滲み出るような作品だったから他の作品に比べるとさぞ目立ったんだろうな。
嫌らしい敵、加賀美大臣
加賀美大臣、中々良い敵キャラだ。
「君の存在はすべての学生の希望になる。」
ならねぇんだよなぁ(笑)。響の才能が天然だと知れば、むしろ絶望を抱く子の方が多いような……。
一見美しい事を言っているようで、それが単に自分の利益追求の為でしかないところがリアルな政治家っぽいわ。
漫画に出て来る敵キャラとしての政治家は、無能っぽく権力を振りかざす単純さばかりを目立たせることが割と多い。
しかし加賀美大臣はさすがは総裁候補なだけあって老獪で優秀だ。
前回の敵である津久井とは一段階上の嫌らしさ、えげつなさがあって政治家としてのリアルさを感じる。
加賀美大臣は響を控室に呼んだ際も、まずきちんと『11月誰そ彼』の感想を述べていた。
前回予想した通り、もちろんその感想は北島に用意させたものだったが、そこは北瀬戸高校の校長と違いだ。
要するに相手を説得・懐柔する為に押さえるべき点は当たり前のようにきちんと押さえているってこと。
録音してそのデータを週刊誌に渡すってクズだよなぁ。
確かに『響』の正体が割れて、その舞台が加賀美大臣の出席している表彰式の場だと知られれば再び大注目を浴びることになる『響』の影響力のおこぼれに預かることが期待出来る。
世間が求めてやまなかった『響』の正体が露見したその場に居合わせたというのは強運の証とみる人間も出て来るかも……。
政治家や経営者は運気を大事にしてる人が結構いるイメージがある。
加賀美大臣にとっては、拮抗した総裁選の状況を打破するには格好の一手だ。
現状、響にとって旗色は良くないと言える。
加賀美大臣に控室での会話を録音されていることなどそもそも全く知らないので対策の打ちようがないのだ。
週刊誌に出ようものならもう正体を隠すことは難しい。響の平穏は奪われる。
前に週刊誌記者につけ狙われた時も一対一ですぐに対応出来たから事なきを得られた。
今回はそんな展開はとても期待出来ない。
頼りはリカ
しかし加賀美大臣の企みをリカだけが嗅ぎ付けた。
大臣の控室の前にいるということは、ここまで響と北島を尾行してきたということ。
北島に話しかけられて移動する響の様子をきちんと見て、二人の尾行を決断したリカはさすがだと思う。
響は小説に特化した天才だけど、リカは何でも人並み以上にそつなくこなせる天才なんだよなー。
ここから加賀美大臣による週刊誌を通じての『響』暴露の企みをどうやって止めるんだろう……。
レコーダーを奪うような直接的なやり方は無い。
加賀美大臣の弱みを握る方向で動くんじゃないかな。
加賀美大臣は、他の候補と拮抗している総裁選で一歩抜け出そうと『響』利用を思いつき実行に移している。
ということは逆に些細な弱みであってもそれが世間に露見するようなことがあれば、総裁選を戦う上では致命的な傷となって他の候補に敗れるということでもある。
そこを付くしかないと思うんだけど……。
スマホで控室の声を録音していて、汚い企みを世間に知らされたくなければやめろと加賀美陣営を脅迫する?
何かスマートじゃないな。そもそもそんなこと出来るのだろうか……。
リカは響のような問答無用の荒事は決して起こさないので、何かしら知恵を使ったスマートな解決をしてくれると期待したい。
以上、響 小説家になる方法第79話のネタバレを含む感想と考察でした。
第80話に続きます
響を利用しようとか悪手でしかないですよね。
響がSPのガードをどう破るかが見せ場になるかもしれません。
加賀美大臣の立場になれば、響を利用したくなる気持ちは分からんでもないです(笑)。
要するに国民栄誉賞を授与することで時の政権が支持率を上げるのと同じような効果を響で得ようとしていたわけで……。
ただ、結果的には悪手になるのでしょうね。
加賀美大臣は響がヤベー奴だってことはかなり察しているっぽいですが、結局は女子高生というガワを見て響を舐めてます。
すぐに北島からレコーダーを奪い取らないと週刊誌記者の手に渡ってしまうのでリカが対応するんじゃないかと思ったんですが、リカが急いで響に知らせて取り戻させる展開になるのかなぁ。
早く対応しないとどうしようもなくなってしまうので、どうやってこの状況を切り抜けるのか楽しみです。
あと、加賀美大臣がきちんと汚い大人として描かれていたのが良かったです。
柳本先生が、頭の悪い威張り散らすだけの漫画におけるステレオタイプの政治家は出さないとは思っていましたけどね。
加賀美大臣、響の怒りを買う方向へ進んでいるようにしか見えないですよね。
響を利用しようとしたために総裁選で負けるというのはありがちです。
大穴狙いの予想としては、災い転じて総裁選で勝利するではないでしょうか。
自分の意向を全く無視してその正体を公表しようというのだから、響が烈火の如く怒るのは間違いないでしょう。
しかも卑怯な手を使われてますし……。
確かに、災い転じて、という展開の方が意外性があって面白いですね!
自分もその予想に乗ります(笑)。