第69話
第68話のおさらい
警備員の制止を振り切ってオフィスに侵入した響と笹木。
エレベーター内で社長の元に行くと言う響に笹木は戸惑うばかり。
響は津久井の居所を知るために社長がいると踏んだ最上階16階へと向かう。
16階でエレベーターを降り、地図から社長室の位置を確認。響は笹木を引き連れ、秘書の制止にも全く足を止めずに社長室へと堂々と入っていく。
響は部屋の奥にいる社長の前にズカズカと進み出て、津久井が自分のドキュメントを勝手に作ろうとしているから案内しろと告げる。
社長は響の言葉から暫し考えを巡らせ、話を聞かせて欲しいと響を見据える。
響は、わかった、と言い、これから収録を止めるための人質となってもらうと肩にかけているバッグの中からペンを取り出す。
スタジオでは収録が進んでいた。
響を映したVTRが流れ、共演者たちは、これが響か、と驚いている。
その様子を見つめる津久井の隣に編成局局長がやってくる。
局長はこれがお前のしかたったことなのかと津久井に問いかける。
問われた津久井は、9時10時のゴールデンタイムにアニメ枠を作るという野望を話し始める。
その話を聞きながらそれは無理だと内心で思う七瀬。
しかし津久井はアニメが面白いコンテンツだから広く世に出したいと一切動じることなく局長に説明する。
七瀬は二人の会話を聞きながら、ドラマとアニメは作り方が全く違うからそれは無理だと考える。
しかし津久井は理屈はあとからどうにでもなる、大切なのは本物かどうかだけだと言い放つ。
その時、津久井の後頭部に響のドロップキックが炸裂する。
うつ伏せに倒れた津久井が起き上がると、そこには笹木にペンを突きつけられた社長の姿があった。
騒然とするスタジオ一同。
花井は、やってしまった、と言う風に顔に手を当てている。
ペンを突きつけられながらも泰然自若とした様子で社長は津久井に響からドキュメント制作の許可をとっていないのかと確認する。
許可はとっていると返事をする津久井。
真相を知る七瀬に、何も言うな、と言わんばかりに睨みを利かせる。
社長は響に許可した覚えはないのかと問いかけるが、響は人質は勝手に喋るなと睨みつけ、笹木に社長の喉にボールペンを当てさせ、動くか喋るかしたらすかさずペンを刺せと指示。
その迫力に押し黙る社長、そして笹木。
響は社長の小指を握り上げ、これから5から0へのカウントダウンをし、0になったらその度に社長の指を折ると津久井に宣言する。
収録を止めるか折る指がなくなるまでやると言う響は、早速「5」とカウントダウンを開始する。
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第69話
一ツ橋テレビ局内には、響と笹木の侵入を知らせる放送が鳴り響いている。
社長を人質にしている女子高生――響に気付いたひな壇の芸能人達が席から立ち上がって響達に注目している。
司会者はようやく、響に人質にとられているのが社長だと気づく。
「嘘でしょ…社長人質に……」
呆然と呟く七瀬。
台本に熱心に目を通していた月島はスタジオ内がざわついているのに気付き顔を上げる。
こうきたか、とだけ呟く鬼島。
花井は絶句して響を見ている。
響は社長の小指を握りながら、収録中止か指が全て折れるまで、5秒カウントダウンして0になる度に指の骨を折っていく、と津久井に告げる。
津久井はあまりに突然の、突拍子もない響の行動に呆気にとられ、笑いさえ浮かべている。
(いや社長、逃げられるでしょう。)
黙って事態の推移を見守る編成局局長。
「手を払えば…」
廣川は社長を人質にとっているもう一人の女子高生――笹木が本気ではないことを見抜いている。
響に命じられるままに、意味も分からず社長の喉元にペンを突きつけている笹木。
社長は傍らの笹木を一瞥し、響に自分の小指を握られたまま一度目を閉じ、津久井に視線を向ける。
「津久井、お前に任せる。」
「4」
響のカウントダウンが進む。
「大丈夫です」
津久井は確信をもって、響が社長に危害を加えられる奴ではないと続ける。
「3」
津久井は現在の状況が自分と響のケンカであると言い、自分の指なら折るが関係が無い人間に迷惑をかけても危害を与える奴ではないと先ほどの主張に重ねる。
響は社長の指を握ったまま、津久井からは見えないように社長の背中に手をまわす。
「2」
骨
「似合わない駆け引きしてんじゃねぇ。」
津久井は堂々と言い放つ。
「響、お前は本物だ。」
七瀬があわてふためきながら、止めなくていいんですか? と廣川に問いかける。
そして、自分がこれまで響から受けて来た仕打ちから響が本気でやる気だと指摘する。
「本気なのは見ればわかる。」
廣川は響たちから目を逸らさずに答える。
「社長が津久井に任せるって言ってんだ、外野は黙ってろ。」
響たちにスタジオのカメラを向けているカメラマンの顔にも緊張が現れている。
「1」
響は表情を変える事無くカウントを行う。
他人の指を折るならただの狂人だ、と凄む津久井。
「お前は、折れない。」
ひな壇の芸能人達は指を折る折らないのやり取りをにわかには信じられないといった様子で見つめるのみ。
男性司会者は女性アシスタントに、この状況はトラブルなのかサプライズなのかと問いかける。
女性アシスタントは、むしろ男性司会者こそ聞いていないのかと問い返す。
「花井……」
鬼島が傍らの花井を不安そうに見る。
花井は黙ったまま、響たちを見つめる。
「0」
ボキ
スタジオ内に鳴り響く骨が折れる不快音。
「っ……!!」
社長の顔が歪む。
津久井は言葉を失う。
津久井だけではなく、スタジオに居る全員がその場から動くことも一言も発することが出来ない。
「………」
響の凶行にも花井は息を呑んでじっと事態を見守っている。
「……」
社長は絶句し、響を見つめる。
響は社長の視線に対して鋭く睨み返す。
何かを言いたそうな様子だった社長は口を噤み、無言を守る。
「5」
一切顔色を変える事無く響がカウントを再開する。
決着
「カメラ止めろ!」
叫ぶ津久井。
スタジオのカメラマン達はお互いに顔を見合わせたあと、すぐに津久井の指示に従いカメラの電源を切る。
「もういい、収録は中止だ。」
津久井は視線を落として呟く。
事態の急展開に呆気にとられるスタジオの面々。
「響、お前は、本物だと思ってたんだけどな…」
津久井はどこか寂しそうな表情で呟く。
「もうお前に興味はない。さっさと消えろ。」
響はその津久井の言葉を受けて、口元に僅かに笑みを浮かべる。
そして、津久井が自分に対して何を求めているのかは分からないと前置きしつつ、津久井が言った「本物」という話に一定の理解を示す。
「世の中、本物のフリしてるだけの人とか、本気ごっこしてる人とか、ばっかだもんね。」
津久井は冷め切った表情で、お前もな、と短く返す。
「私は響よ。」
響は津久井を真正面から見返す。
「……『私は私だから本物がどうとか関係ない』ってか?」
何の感情も込めず、あっそう、と心底興味が無いという様子の津久井。
じゃなくて、と響が津久井の理解を修正する。
あなたが私の事をすごいと思ったならその感覚を信じれば良かった、と笑う響。
「そうすれば指なんて両手で10本しかないんだから、黙ってれば1分後には私が折れるしかなかったのに。」
口元に笑顔を浮かべているが、顔にはうっすらと汗が浮かんでいる。
響の言葉を黙って聞きながら、津久井は一抹の違和感を覚える。
「あなたの言う通り、関係ない人の指折るなんて、私がする訳ないじゃない。」
響は汗を浮かべながら薄く笑う。
響は津久井に向かって、小指の折れた左手を掲げて見せる。
「最後まで自分を信じられなかった、あなたの負け。」
津久井は再び言葉を失う。
いつの間にかいた人物
「……っ。」
花井が響に駆け寄る。
「………!」
涼太郎も駆け寄る。
「……っ、このバカ!」
左手を押さえてふらつく響の体を支える。
無茶しすぎよ! と駆け寄る花井。
涼太郎が手元からペンを取り出す。
花井は自分のハンカチを使い、涼太郎のペンで添え木をする。
とにかく病院に! と慌てる涼太郎。
響は左手を右手で押さえて、いたい…、とだけ漏らす。
花井は、当たり前でしょう! とやはり慌てた様子で突っ込みを入れる。
「え……?」
笹木が涼太郎に気付き、何故ここに、と問いかける。
涼太郎は笹木の問いかけに対してむしろ何故響と一緒にいるんだと問い返す。
「なんでって……」
笹木は答えることが出来ず、涙を浮かべる。
用事も済んだし指も痛いからもう行く、と花井に告げる響。
どこに? という花井の問いかけに響は脂汗を浮かべながら答える。
「侵入者なんだから、脱出しなきゃ。」
笹木は目元の涙を拭う。
響は去り際、社長に対して、巻き込んで悪かった、と告げた後、芸能人達を一瞥する。
「えーと、」
何かを言おうとして、まあいいか、と言葉を止めて歩き始める。
「ちょっと待った!」
廣川が響を引き留めようと声をかける。
「待たない。じゃーね。」
響は左手を掲げ、その場を去る。
笹木と涼太郎が響に続いてスタジオを後にしていく。
脱出
スタジオ内の芸能人、スタッフたちは一言も発さず、その場から動けずにいる。
「津久井さん それじゃ私も失礼します。」
去り際、花井が、一言だけ、と津久井に声をかける。
「ほらね。」
じゃあ俺も、と鬼島も花井に続く。
その様子を、やはり芸能人やスタッフたちはその場に立ち尽くして呆然と見つめている。
津久井は床に腰を下ろし、肩を落として床を見つめている。
「あれが響か。」
廣川が津久井の傍らに立ち、出入口を見たまま呟く。
「ああ。」
微動だにせず返事をする津久井。
津久井、と局長が津久井の背中にのしかかる。
「減給謹慎は覚悟しとけ。」
どの程度になるかはここからの諦め次第だと続ける。
「………っス。」
局長を横目で見ながら返事をする津久井。
「ちなみにこれから収録再開ってのは。」
いい根性してんな、と呆れる局長。
涼太郎を先頭に、響、笹木が局内を走る。
「いた!」
先導する涼太郎が誘導した方向に警備員が待ち構えている。
涼太郎は行く手を遮ろうとする警備員の両腕を自身のそれぞれの手で制し、響に外に出ろと指示する。
うん、と特に慌てずに答える響。
涼太郎は響に対して、外に出たらタクシーに乗って絶対に病院に行くんだ! と警備員を必死でおしとどめながら続ける。
「あ そういえばこの女がアンタに用があるって。」
響は思い出したように笹木を指さす。
「……後にしてくれないか。」
涼太郎は警備員を必死に抑えながら背後の響に答える。
もーいーわよっ! と突っ込む笹木。
感想
ようやく長かった津久井との戦いも終結。
しかし、何か他の物を折るとしても、精々隠し持っていたペン、もしくは鉛筆とかだと思ったらまさかの自分の小指を折るとは……。
響は、この収録中止作戦を事前にどこまで考えていたのか。
多分そこまで緻密には考えていないんじゃないか。
精々、津久井よりも立場が上の人間に会うってところまでくらい?
まあ、現実だったらスタジオの面々が隙を見て響と笹木を制圧するよね。
作戦と言う作戦は無かった。
でも行き当たりばったり、思いつきで何とかなってしまった、と言う感じ。
響は天才なんだけど、それ以前に「本物」なんだな。
1話でもタカヤの指を躊躇なく折ったし、何ならペンで目を突こうとしてたけど、その時の行動そのまま。
やると言ったらやる。脅すんじゃなく、本当にやる。
あれは響とタカヤのケンカだったわけで、響はタカヤの骨は折ったし、きっと目だって本気でペンで突いただろう。
しかし、津久井は一人だけ、社長の指を折らない、と確信していた。
響の事をかなり理解していたように思う。
最後まで信じ切るまでには至らなかったが、少なくとも七瀬よりは理解していた。
七瀬は廣川に、響はやると言ったらやる女だと泣きつくが、津久井は響が関係ない人間に危害を加える事はない、と確信していた。
最後の最後でその確信を翻してしまったのは何故だろう。
津久井と響との違いはなんだったのか。
津久井は最後まで自分を信じる事が出来なかった。
それに対して、響は最悪指10本折る事を覚悟していた。
つまり、二人の決定的な違いとして、決して揺るがない覚悟の有無はあると思う。
自分の正しいと思う基準で自信をもって決定して、それに本気で身を委ねてるって感じ?
まぁ、かっこいいわな。
同じ女子からかっこいいと言われるのは分かる。
結局、津久井は会社に残るみたいだし、比較的そこまで双方遺恨なく事を終えたことで、今後また何か津久井が響に対して持ちかけるかもしれないと思った。
逆に必要であれば響が津久井に協力を要請することもできるんじゃないか。
津久井とのケンカ、響ドキュメントを巡る攻防は終わった。
ラスト、印象的だった廣川が響を必死に引き留めてたシーン。
廣川は響が芸能界で活躍できる本物だと判断し、プロデュースしたいと思ったからだろう。
今後、廣川が響にアプローチしたら面白いんだけど、さすがにテレビ局関連を長くやりすぎか。
津久井みたいな覇道ではなく、廣川が真正面から堂々とスカウトするとか面白そうなんだけど、でもそれこそ無理なんだよな。
そもそも響にその意思が無いから津久井は無断でドキュメンタリーを制作しようとしていたわけで……。
テレビ局関連はもう終わりかな。
だとしたら次からは何が始まるのか。
ラノベ「漆黒のヴァンパイアと~」が発売されたらまた何か他の展開が出てくるんだろうか。
響の「漆黒」が世に出た時の反応は楽しみにしてる。
『お伽の庭』の作者だと喝破する読者が現れるのか?
次回は冒頭でいきなり「漆黒」が売れまくり、というところから始まるかもしれない。
以上、響 小説家になる方法第69話のネタバレを含む感想と考察でした。
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